黒色少女愛好
嘆くエミリパパに、べるさんの所為なんだよって彩萌は言えませんでした。
そんな彩萌はべるさんの力を借りて、エミリちゃんの部屋の檻の中に侵入したのです。
イズマさん? イズマさんは、とりあえず良い痛み止めでも持って来てやるって言ってエミリパパにお金を要求してました。
商売根性溢れてますね、がめつい。これは褒め言葉ですよ。
今日のエミリちゃんは、やっぱり彩萌にいかくしてるけど昨日よりも近い。
そして今日のべるさんは、彩萌の隣で体育座りしてエミリちゃんを眺めてます。
人影の姿は怖いからヤダ、って言ったら普通に人の姿になってくれました。
恐がらせるのも嫌われるのも嫌いじゃないが、好きな色に嫌われるのは好きじゃないって言ってた。
色で好き嫌いを判断してるなんて、さすが魔法ですね。
でもべるさんは、モノクロなんですよ。色がありません。
写真とかみたいで、なんか変な感じですけどしょうがないですよね。
魔法だもんね、それにエミリちゃんは灰色の力を使うんだもんね。
べるさんは普通にイケメン顔を選択したようです、でも触角とはねの所為でさ、なんかしゅーるってやつですよ?
「どうしてべるさんは、はねと触角生やしたままなんですか?」
「これが無ければ、私ではなくなってしまうだろう?」
そういうものか、そういうものなのか。触角とはねは。
つまりべるさんの本体は触角とはねなんだね。
まあべるさんの観察はどうでも良いんです、エミリちゃんをどうにかしないといけません。というか知らない人が部屋に居て、変なもの(檻)が部屋の中にあったらストレスですよね。
今日はお昼ごろには引き上げよう、エミリちゃんかわいそうだもん。
「痛み止めはやっぱりべるさんが飲ませてあげるんですか?」
「私以外にはできないだろう、――だが安心しろ、エミリ・リデルが私の本体だ。私には自傷癖は無い」
あ、はねと触角が本体じゃなかったんですか。
エミリちゃんが本体か……、なんかこんな変なべるさんがエミリちゃんの分身ってイヤかも。
そんな事を考えていればべるさんの表情は少しだけ怖かった。
真実真実って言ってるから、彩萌の考えが読めるのかな……ごめん。
でもべるさんは変だと思う。これだけはゆずれないです。
「素直なやつだ」
満足そうにうなずきながらべるさんは呟いていました。
しばらくそんな感じでエミリちゃんを観察していましたが、何も思いつきません。
くそぉ、というかべるさんがエミリちゃんを元に戻せばいい話じゃないか……。
でも戻す気はない……、どうすれば良いんだ!
エミリちゃんは檻から離れたところをうろうろしながら、彩萌たちをちらちら見てました。どう見ても髪の毛生えた狼だよ。
魔物化してからエミリちゃんはご飯を食べていないらしいし、どうにかしなきゃ。
ちょっとすると部屋のドアがこんこんってされて、べるさんが対応してました。
メイドさんがイズマさんが持ってきたお薬を持って来てくれたようです。
それにしてもべるさん……、エミリちゃんを踏んで動き止めるのはどうかと思うんですよ。酷いですよ! エミリちゃんは女の子なんですよ!
もっと優しくしないとダメなんですよ!
べるさんは責任取れないでしょ!
まあメイドさんの安全を確保できるのはべるさんだけだけどぉ……うぎぃ。
……そういえば、暇だからヤダって理由で庭で遊んでいるしーちゃんは元気かな。
メイドさんが出て行ったあと、エミリちゃんに薬を飲ませようと何か食べさせようとしてたけど、すごい暴れる暴れる。
昨日の注射なんて暴れてないよってレベルで暴れてますよ。
「い、一時的でも良いからエミリちゃんを元には戻せないんですかっ!?」
「――……私は王だが、所詮エミリ・リデルに作られた魔法でしかない、元には戻せない」
な、なんだってー!?
元に戻せないのにそんな姿にしちゃったの!?
でもでも、何か理由があったのかもしれないからわかんないけど……。
べるさんもプライドが高いですからね、本当の事を言わないです。
エミリちゃんは、べるさんを突き飛ばすとまわし蹴りしたんですよ、さっきまで四足歩行だったのに。
ただそれが動きやすかっただけで、二足歩行できないわけじゃないのかな?
まあそんなまわし蹴りの所為でべるさんは音も無く消えちゃいました。
いがいと弱いね。それともエミリちゃんが強いのかな?
獣人族は戦闘特化してるって、イズマさんもエミリパパも言ってたし。
ちらりとエミリちゃんは彩萌を見てから窓を突き破って外に逃げて……ってここ四階ですよーっ!?
ど、どうしようっ。
そんな事を考えていれば、下の方からきゃーって悲鳴とか、お嬢様が逃げたとか、色々な悲鳴が聞こえた。
どうやら無事だったみたいです……。
慌ただしい足音とかを聞いていれば、しーちゃんが窓からふよふよと入ってきました。
「あやめー、だいぢょーぶ? いたいとこなーい?」
「しーちゃん、……檻壊せる?」
彩萌が聞けば、しーちゃんは檻をなんか小さな足でへし折ってくれました。
すごいね……、エミリちゃんもだけどなんでそんな小さいのにそんな力あるの?
檻から出て、彩萌が部屋を出ようとすれば服のえりのとこを掴まれました。
「階段を上り下りするなんて、時間の無駄だと思わないか」
べるさんはそういうと、彩萌をがっしり抱えたわけです。
やばい……、彩萌ちょっと嫌な予感がするよ。
あのね、彩萌ね、意外とねジェットコースターとか嫌いなんだよ。
だからね、なんていうか……、時間の無駄だと思わないんですよ。
窓をがって開ける音が聞こえて、彩萌はそのままべるさんに抱っこされて風が凄いぃ!
「ぎゃ――――――――ッ!」
「あやめいつもうるさいよ! きんぢょめいわくなんだよ!」
そういわれても怖い、だって四階だよ。
足が折れちゃったらどうするの、着地したのはべるさんだけど。
そのままべるさんは走るのかと思いきや、のんびり歩いてました。
走れよ! 時間の無駄とか言いつつなんで走らないんだよぉ!
「王たるもの、常に悠然でなければならない」
「王じゃないでしょ! 本当はエミリちゃんが作った魔法でしょ! エミリちゃんに何かあったらどうするの!?」
「その時はその時だ、運命だろう」
なんなんだよー!
運命とか言ってんじゃねーよ、走ってエミリちゃんに追いつけよー!
しーちゃんも「はちれよー」って言ってるじゃないですかっ。
「……エミリ・リデルに追い付いたら、貴様を下ろさなければいけなくなるだろう」
お前は何を言っているんだ。
彩萌の理解を超えたよ、最初からわけわかんなかったですけど。
なんなんだよ、こいつ。マジわけわかんないんですけど。
彩萌の口調が悪くなっちゃうくらいに、わけわかんないんですけど。
「このはえ、ろりこんだ! ねーちゃんがいってたろりこん!」
「これがロリコン……!? 山吹君のお兄ちゃんとは違う感じだから気が付かなかったですっ!」
「歳の差なんて関係ない、そもそも私は貴様より一応は年下なんだぞ」
いやだああ、彩萌は山吹君が好きなんだぁああ。
こんな白黒な触角生えてはねも生えた元ハエな自称王様のエミリちゃんの魔法なんていやだあああ。
あ、でもエミリちゃんに告白されたら、彩萌の心はゆらいじゃいますけど。
とにかくべるさんなんていやだぁ、落とされても良いから彩萌は暴れてました。
でもべるさんはそんなのものともしません、エミリちゃんを押さえつけていただけはあるんですね。
ロリコンなんていや……っは!? 山吹君が彩萌をふった気持ちがなんとなく分かったぞ! たしかにロリコンなんて、イヤかも!
べるさんは小さく舌打ちをうって、町中をゆっくりと歩いていました。
なんか、ヨーロッパみたーい……。
――ってそんなこと気にしている場合じゃないよ!
エミリちゃんはどこ行ったぁ!?
――アヤメちゃんの魔法日記、三十一頁




