魔に祝福を、苦痛を人に
エミリちゃんのお父さんはやっぱり優しい人のようです。
彩萌が土下座する勢いでイズマさんに会いたいとお願いすれば、困りながらも呼んでくれると言ってくれました。
なんだかちょっと誤解されたみたいですけど、まあ別に何も問題は無いでしょう。
というかあんなエミリちゃんの部屋に放置ってどういう事ですか? と聞いてみれば、子供だから目につく事があるかもしれないから、とか言ってた。
メイドさんとか執事さんとかにも同じ事をやらせたことがあるらしい、その時は怖がって何も発見できなかったとか。
子供って何も知らないし怖いもの知らずだから、ってエミリちゃんのお父さんは言ってた。
そんで彩萌は、ふかふかのベッドが素敵なゲストルームとやらで寝ました。
よかった……、彩萌は奴隷じゃない!
ちなみにエミリちゃんの事を外に漏らしてほしくないから、そんなところで人を買ったらしい……。
お金持ちは大変みたいです。
そして彩萌はエミリちゃんのお下がりのパジャマを着て、今日着る服もエミリちゃんのお下がりみたいです。
黒くって、超ふりふりしててリボンついてるんですけど。
彩萌そういうのは見るのは良いけど、ふりふりを着るのは恥ずかしい……。
だってお姫様みたいだから、彩萌はお姫様って感じの子じゃないから、大人だから。
ちなみにそれを選んだのがべるさんだって聞いて、なおさら着たくなくなりました。
彩萌の服は洗ってるから、しょうがなく着たけど。
しーちゃんが似合ってるって言ってくれたのが救いですよ。
恥ずかしいけど、でもやっぱりお姫様みたいで嬉しい。
大きな鏡の前でじーっと自分の姿を見てるわけですけど、うん……お姫様みたい。
えへへ……お姫様みたい、うふふ、ふりふりかわいい。
「えへへ、ふりふりだよぉ……、彩萌いがいとにあってる……」
「自分の世界に浸っているところ悪いんだが……、現実に戻ってこい」
「えー……イズマさんもそう思うでしょ」
うふふ、分かんないけど今の彩萌はたぶん無敵ですよ。
力の話じゃないですよ、精神的な話なのです。
ちなみにイズマさんが来る前からずっと鏡の前に居ましたけど、見てて飽きないよ。
うふふ、ふりふりすごいよぉ。彩萌を元気にしてくれるよ。
エミリちゃんが着たらもっと可愛いんだろうね……、エミリちゃんとお揃い……えへへ。
エミリちゃんが元に戻ったら、エミリちゃんとお揃いのふりふりを着るために彩萌は現実に戻るとします。
嫌がられるかもしれないけど、お姫様ごっこしたい。
迎えに来てくれたイズマさんにも悪いので、サクッと現実に戻って彩萌はイズマさんと共にエミリちゃんのお父さんの所に行くよ。
エミリちゃんについて話すって言ったら、エミリちゃんのお父さんが居る所でならおっけーだって。
長いからエミリパパでいいや、エミリパパの部屋は人払いしてあって、他には誰も居なかったですよ。
椅子に座ったら、エミリパパがお茶出してくれた。
「それで? どうしても俺に会いたい理由はなんだ」
「えーっと……、エミリちゃん病気なんです、なんかそれが魔法の所為だってべるさんが言ってました!」
「魔法の所為? ……体内の魔力に異常でもあるのか」
「えっとー、灰色の魔法の所為なんです?」
それだけしか言ってないのに、イズマさんなんか全て理解しました的な雰囲気でした。
やっぱりイズマさん、理解力が凄いんだなー。
妖精さんのお蔭かなー。
「それは治らない」
「ど、どうして!」
黙って聞いてたエミリパパが焦りながらイズマさんに聞きます。
エミリパパが言っちゃったから、彩萌は言わなかったけどどうしてなんですかイズマさん!
「写真を見たが彼女はだいぶ灰色に特化しているな、人間である限り治らないし制御は無理だ」
「な、なんで人間だと治らないの?」
じゃあ、エミリちゃんが魔物化してるのはべるさんなりの治療なの?
良くなっているのかどうか分かんないけど。
「灰色の力は言うなれば魔物の力と言っても良い、獣人や半人、魔人等に見られる力で、肉体強化の力は無意識によって発動される、意識下で発動できるのは属性付加のみだ」
獣人って、あれかな。
耳とか生えてる人って事だよね? 今のエミリちゃんみたいな感じかな?
「魔人は生まれついて力を扱うセンスがある、人間とは違い何処で使えば適切か、どう使えば良いのか本能に刻まれていると言っても良い。人間にはそれが無い」
「でもそれじゃ、まるで灰色の力を使える人間がいないみたいですよ」
「理論上ムールレーニャ・ミストと契約した人間なら使える、だがムールレーニャ自体が人間を毛嫌いしている、だから存在しない」
……でも、なんかおかしくない?
その力が使える人間がいないって言ってるのに、どうしてエミリちゃんは使えるの?
だってエミリちゃんは人間でしょ? ……なんか変じゃないですか?
そう思っているのが分かったのか、イズマさんは言います。
「写真を見て思ったんだが、彼女は獣人族のクォーターじゃないか?」
イズマさんがそう言ったので、エミリパパを見れば顔をそむけてました。
えっ、何ですかその反応。言っちゃいけない事なの? 触れてはいけない事だったの?
獣人族のクォーターってダメなの?
イズマさんに視線を戻せば、ちょっと呆れた顔してた。
「獣人族は珍しい、何故なら先の戦争により大半が死んだと言われているからだ」
「えっと……、よく分かんないけど……何か問題があるんですか?」
「――……獣人族は知能が低くて野蛮な戦闘民族なんて思われているから、エミリがそんな目で見られたらかわいそうだと思って……」
エミリパパは人間に見えるから、お母さんが獣人族のハーフなのかな……?
いやでも、まだわからんぞっ! 幻想世界は見た目で何も判断できないって彩萌は知ったからね!
もしかしたらエミリパパが獣人族のハーフなのかもしれない。
でもエミリママは見た事ないや、どうしたのかな。
「エミリパパが獣人族のハーフなの? エミリママが獣人族なの?」
びくっとして、また視線をそらしたからもしかしたらエミリパパがハーフなのかもしれない。
そういう酷い事を言われた事があるのかな?
ついでにエミリパパの頭は白色じゃなくてなんか青っぽい灰色です。
「私が……人間に近かったからエミリがそんな事になっちゃったのかな、だからエリーも仕事ばかりで家に帰ってこないのかな」
なんか、ネガティブな感情を刺激しちゃったみたいです。
エミリパパは、優しいけどへたれでなよなよした感じですよね。
つまりエミリちゃんは獣人族の血が流れてるから、灰色に特化しちゃった。
でも人間に近いからその力が制御できない、って事ですか?
だから体が痛くなったりしちゃうって事ですか……、どうすれば良いんだろう?
だって、未来のエミリちゃんは元気そうでした。
だから何か、方法が有るはずなんです。
きっとそれを見付けられるのは、大親友である彩萌の役目ですよね!
エミリちゃん待っててね、彩萌がビシッとかっこよく助けてあげますからね!
「痛がっていたのは知ってたし何とか方法を探してあげていたけど、でもまさかっ……あんな魔物の様な姿になってしまうなんてっ!」
あ、エミリパパは知らないんですね。
あれはあの……その、べるさんの所為なんです。
けっしてエミリパパの所為ではないと思いますよ……?
――アヤメちゃんの魔法日記、三十頁




