お姉ちゃんの頭はどりゅりゅりゅりゅ
私、叶山彩萌、とってもあんにゅいな大人のレディ。ぴちぴちの小学四年生。
あんにゅいの意味なんてよく分かりません、でもお姉ちゃんはこんな感じで使っているからたぶんあっていると思うのです。
だって今の彩萌はしょんぼりな気分なのだ。憂鬱という奴なのです。
だってだって彩萌がこの前借りたリーディアさんの魔法書が、借りて無い事になっていたのだ!あんびりーばぼーです、みすてりーなのです。
その所為で彩萌は先生に苦笑いされちゃったのです。
「彩萌ちゃんはよく本を借りるから、お家の本を間違えて持って来ちゃったのかな?」
なんて言われちゃったのです! あの時の彩萌はきっと顔から火が出ちゃってました。
だから彩萌はとってもあんにゅいなんです、山吹君にも笑われちゃったんです!
でも山吹君は優しさもかねそなえたクールガイですから、ちゃんと謝ってくれたのですよ。やっぱり山吹君はイケメン中のイケメンです。顔の話ではありません。
いつもは面白く見れているアニメも、今のあんにゅいな彩萌には面白くないのです。
このやろー、赤いのとへたれめ……次会ったらずーっと無視してやるんだぞ。
いじめなのです。
今日から彩萌は悪い子になるのだ、むきぃ。
そんな事を彩萌が考えていると、お姉ちゃんがニヤニヤした顔で近付いてきたのです。
ちょっと気持ち悪いです、でもいつもの事なので彩萌は気にしないです。彩萌は悪い子ですが優しさもかねそなえた小悪魔なのですから。
「あんさー! 聞いてよー、今日の私は幻想なのよ!」
「頭が?」
「そうね、そうとも言うわ! インスピレーションびんびんなのよ!」
「彩萌はお姉ちゃんの頭がちょっぴりしんぱいなの」
にやけた顔でお姉ちゃんは言います、ちょっと得意げな所がかわいそうなのです。
でもお姉ちゃんの幻想を壊すのはかわいそうです、だから彩萌は何も言わないのだ。
「絶対売れる様な話を考えたのよ、これは爆発だわ!」
「お姉ちゃんの頭がバクハツしちゃったんですか?」
「やっぱり読者を惹きつけるのはエロスよね! サービスが豊富じゃないとダメよね!」
「彩萌は大人のレディですが、まだまだぴちぴちの四年生なのですよ」
「でもただのエロスじゃダメなのよね! 時代はコメディーなのよ!」
「えっちぃコメディーなんていっぱいあると思う、テレビ見れば下ネタいっぱいですよ」
「そして男同士の友情、これが必要ね! 乙女の心を惹きつけるにはね!」
「はなしきけよー」
「男同士の友情と言えば殴り合いと相場が決まっているのよ!」
「げんじつに帰って来てください」
「でも過度の友情は一般受けはしないわ! それを踏まえたうえで私は考えたわ!」
「ででーん!」と効果音をセルフサービスしたお姉ちゃんは、ノートを取り出して見せてくれました。えっちぃ絵が描いてなかったところは彩萌への優しさがかいま見えます。
イケメンな人と美少女の設定画みたいなのが描いてありました。
「こっちのイケメンが佐久間さんね、んでこっちの美少女が乙葉ちゃん!」
「それは彩萌に話しても大丈夫なないようですか?」
「この佐久間ってイケメンが変態なのね! 乙葉ちゃんときゃっきゃうふふするのね! 流石に彩萌には言えないけどね!」
「なら最初からはなさないでほしいです、彩萌はあんにゅいなのです」
「この乙葉ちゃんと佐久間がきゃっきゃっうふふしてるときに執事さんがバトルに巻き込まれるのね!」
「話がとびすぎです、意味がわからんのですが」
「異変に気付いた佐久間と乙葉が出て来た時には、執事はもう助からない……っ!」
「命がかるいです、お姉ちゃん命はかるくないのですよ」
「執事さんの遺言を胸に佐久間は梅干し太郎を倒す旅に出るのね!」
「名前でコメディー臭をだすのはやめてほしいのです、素人のすることですよ」
「私は梅干しが大っ嫌いなんだ! 憎い憎いぞ梅干し! ムキィ、お母さん何で今日のおにぎり梅干し入れたの!?」
「しらねーですよ」
彩萌の話を聞く気は無いようです、まったくはた迷惑なお姉ちゃんです。
でもまだ梅干し太郎とやらを倒してないので話は続くようなのだ。面倒臭いのですよ。
でもちゃんと話を聞かないともっと面倒臭いのです。彩萌は話を聞くしかないのです。
「修行を終えて町に帰って来る佐久間! だがその前に立ちはだかったのは……! なんと乙葉ちゃんだったのだ!」
「倒す旅に出たんじゃなかったの?」
「佐久間が町を空けていた頃、乙葉ちゃんは梅干し太郎の手に落ちたのだ……! なんて卑怯なんだ梅干し! ラップに梅干し入りって書いて欲しいレベル!」
「彩萌はどう突っ込んだらお姉ちゃんがまんぞくするのかわからないよ……」
「戸惑う佐久間に乙葉ちゃんのドリルクローが決まる! ドリュリュリュリュ!」
「どりゅりゅりゅりゅ……」
「だが残念! 佐久間は旅の途中に神様に出会い不死の力を手に入れていたので心臓を貫かれても死なない!」
「そういえばー……ゆうじょうどこ行ったの?」
「そして乙葉ちゃんの心の闇を解き放ち、再び佐久間の仲間となる! てーてーてーてててっててん!」
「これがゆうじょう?」
「遂に梅干し太郎と佐久間の決戦が始まる……! 男と言えば拳で勝負よ!」
「梅干し太郎の絵は剣もってます……」
「梅干しは卑怯だからな、かじったら酸っぱくって吃驚したわ、トイレで吐いちゃったじゃーん……もー」
つまり、お姉ちゃんは梅干しに恨みがあるようです……。
いつもは頼りになるけど、こういう時のお姉ちゃんには大変困っちゃうのです。
でも、乙葉ちゃんはいつドリルクローをおぼえたんですか?
「決戦の果てに、二人には友情が芽生え涙を流す、抱き合う二人は永遠の別れを誓うのであった……」
「おしまいですよね!」
「そう、おしまい! 感動巨編だったね!」
「ジャンルはなんですか?」
「ファンタジーよ! だって幻想は混沌なのだよ彩萌ちゃん!」
最後はなんだか投げやりな感じがしたのだ。
でもそれを指摘するとお姉ちゃんは不機嫌になりそうなので黙ります。
彩萌はやっぱり天才なのです。
彩萌はジュースを取りに行くふりをしてお母さんに相談します。
「お母さん……お姉ちゃんの頭がおかしい」
「いつもの事でしょ」
どうやらしばらくは治らない病気にかかってしまっているみたいなのです……。
お姉ちゃんかわいそう。
この事は日記に書いておきます、あとで山吹君と山吹君のお兄ちゃんに話そうかなって思います。そうしたらきっとお姉ちゃんはちょっとは頭が良くなると思うのです。
「どりゅりゅりゅりゅ……」
お姉ちゃんが早く何時もの頼りになるお姉ちゃんになったらいいなぁと、彩萌は思うのです。お姉ちゃん思いな彩萌は、お姉ちゃんが大好きですがあのお姉ちゃんはちょっぴり苦手なのです。
――アヤメちゃんの現実日記、三頁