真実を求めよ
オリーネ先生の問題はどうにかなりましたが、イズマさんの問題はどうにもなっていません。
なんでも今回オークションに出される人間はオリーネ先生しか居ないらしいですよ。
例外を上げるなら彩萌ですけど、彩萌はちょっと……お断りしたいんですけど。
ほら、それに彩萌はすぐに何処かに飛びますし……たぶん。
「ちなみに、その娘ってどういう子なんですか」
「エミリ・リデル・テニアスフィール、どういう人物かは知らないが他人に言える様な状態では無いらしい」
「えっ……、エミリ・リデル?」
リデルって苗字じゃなかったの……!?
まさかのエミリちゃんですか、テニアスフィールって苗字だったんだー……。
というか、他人に言えるような状態では無いってどんな状態?
えっ……、エミリちゃんまさか病気なの?
酷い病気で、大変だからお友達が欲しいって事なの? たぶん奴隷だけど。
「彩萌……、エミリちゃんの奴隷だったら奴隷になっても良いかな……」
「……接触したことがあるのか?」
実はここまでが回想だったりします。
彩萌は今、船に揺られていますよ。残念ながら檻の中です。
彩萌奴隷おっけーだよ! ってしたらそのままイズマさんに落札され、檻の中に入ったまま運ばれています。
エミリちゃんのお父さんに会いましたけど、凄い良い人でしたよ。
ただエミリちゃんについて聞いたら目を逸らされて「スゴイヤサシイコダヨー」と棒読み気味に言われたのが凄い気になりましたけど。
彩萌大丈夫かなー、まあいざとなったらしーちゃんがしーちゃんうぇいぶしてくれるって言ってたから大丈夫だと思いますけど。
何でも明るいのだめな動物を運んでるって設定らしくって檻の上に布被せられてて暗いです。
今彩萌はランドセルを枕にして、イクシノア様に貰ったマントを布団にして横になってます。超暇だし……、硬くて背中痛い。
しーちゃんも寝てるし、彩萌も寝ちゃおうかな。
――……気付いたら、波にゆらゆら揺られている感じじゃなくなってました。
人の手で檻を運ばれている感じがします、もう着いたのかな……? 早くね?
早いって思っただけで、彩萌が爆睡してた可能性がありますけどね。
幻想世界の船は、すごい速いのかもしれませんね。
「危険だから気を付けて、部屋の中の様子はどう? 大丈夫?」
「いまはお薬のお蔭でよく眠っておられるようです、ですがあまり大きな音を立てると起きてしまわれるかもしれません」
「じゃあ檻をすぐに置いて布取って出て来て、危険だから気を付けてくれ」
何この会話、何この会話。
何でそんなに危険さを強調してるの? えっ、なんか危険なの?
えっ、エミリちゃんのお友達で奴隷ですよね、……えっ?
彩萌が起きて不安になっていればちょっぴり乱暴に置かれて、布が取られました。
まぶしいです! すぐに運んでいた人たちが出て行った気配がしました。
まぶしさに目をおさえていると、なんか動物がいるみたいな気配がしたんですよ。
なんとか目を開けば、広い室内が見えました。
広い室内の奥にはカーテンで仕切られた空間がありました、でも今は横にまとめられてて見えます。
そこにはお姫様が使いそうなベッドがありました、あんなベッドで寝てみたい。
そのベッドの周辺は暗いんですけど、何か居るのが分かりました。
たぶんエミリちゃんなんだろうけど、エミリちゃんじゃなかった。
色合いと服装はエミリちゃんだけどね。
なんて言ったらいいのか分からないけど、うん……魔物?
かろうじて人の姿をたもっているような感じなんですけど、獣みたいな耳とか生えてるし、牙すごいし。
なんかすごい彩萌の事いかくしてるし、目が赤くて光ってるし。
……狼男? エミリちゃんの場合、狼少女?
「……たしかに、他人に言える状況では無い……」
「えみり・りでるこわーい、あやめこわーいね!」
ぴたっと彩萌に引っ付いてるしーちゃんはそんな事言ってますけど、なんか面白がってるような声だよ。
えっ、なんか人の言葉が通じ無さそうな雰囲気のエミリちゃんと友達になれって言うんですか? ……ごめんなさい、彩萌にはちょっと難しいかもしれません。
そんな魔物な感じのエミリちゃんは、彩萌を警戒してか近付いてきません。
いかくしながら、ベッドの陰から彩萌を監視しています。
えー……でも、エミリちゃんは魔物じゃなかったよ? どうしてこんなことに?
もしかして、これも魔法の対価ってやつの所為だったりして。
だってエミリちゃんはプライドが高そうだから、こんな姿になったらすごい嫌がりそう。
エミリちゃんが使う魔法ってなんだっけ、なんか黒猫出してたっけ?
「んーっと……べるなんとかさん? べるなんとかさんだよ、エミリちゃんが召喚したの」
「私の名前はべるなんとかさんでは無い、ベルゼビュートだ」
「……あなたは違いますよー、だってべるなんとかさんは猫さんでしたもん」
なんか……、喋る小さいハエが居た。
どっからどうみても、見間違えることが無いくらい小さいハエです。
いや……、ちょっと彩萌の知ってるハエとは形が違いますけど、やっぱりハエだよ。
それにしてもすごいね、幻想世界のハエは喋るんだよ、ゴキブリも喋ったりするのかな?
幻想世界ヤだな……、彩萌ゴキブリは嫌い。
「たしかに、古くから語られるベルゼビュートの中には黒豹の姿を取るものも居るらしいが、私はエミリ・リデルに創造された魔法にしか過ぎない、故に私のこの姿こそが私の真実だ」
「へーそうなんだー、ところでべるさん、どうしてエミリちゃんはあんな姿なんですか? 病気ですか?」
「エミリ・リデルは嘘吐きだからな、私は嘘吐きが嫌いだ。あの様な姿こそが生き物の真実の姿だとは思わんか」
「生き物の真実の姿なんて彩萌にはわかんないですけど、でもエミリちゃんの真実ではないような気がします」
「面白い事を言う小娘だな、だがたとえエミリ・リデルの真実ではないとしても生き物の真実ならばエミリ・リデルの真実だろう? それは真実が二つあっただけのこと、どちらも正しいだけだ。そして私の真実は、嘘が嫌いだという真実のみだ」
うーん……、なんかよく分かんないけどエミリちゃんのこの状態は対価の所為じゃなくて、べるさんの所為なのは分かった。
なんかよく分かんないけど、それって屁理屈ってやつじゃないですかね?
だってべるさんが嘘吐き嫌いって言う理由でエミリちゃんの真実を捻じ曲げただけで、エミリちゃんの真実じゃないと思います。
エミリちゃんが嘘吐きって言う真実を受け入れられてないだけですよね、真実にこだわるくせにエミリちゃんの真実は否定するなんてどうかと思いますよ。
「べるさん、エミリちゃんを元には戻さないんですか?」
「エミリ・リデルが嘘吐きである限り、生き物の真実がそこにある限り、元に戻す事は無い」
「でもあの状態だとエミリちゃんの嘘吐きは直りませんよ」
「どうせ直る事は無いだろう」
「それはべるさんが真実を確かめて来たからですか? 彩萌は知ってますよ、エミリちゃんは未来ではそこまで嘘吐きじゃないって」
「根本的に直ったと、言えるのか? そこまで、と言う事は完全に嘘をつかなくなった訳では無い」
あ、ダメだこの人。説得とか無理な人だ。
人の話聞いてるつもりで、聞いてないタイプの人だよ……。
むむむ……、どうすればエミリちゃんを人間に戻してくれるのかな?
「どうして、どちらも正しいのに片方の真実を捻じ曲げちゃうんですか」
「捻じ曲げた? あるべき姿になっただけの事だ」
「エミリちゃんに嘘吐きが嫌いだから直せってお願いすれば良いだけの話だったのに、どうしてそんな事をするんですか」
「何故私がお願いしなければならないんだ、私は王だぞ」
何でエミリちゃんこんな性格の魔法作ったんだよー。
どう考えてもエミリちゃんと相性悪いじゃんかぁ……。
本当に、どうしてだろう? 何か理由があったのかな?
でも理由も何も聞けないですよね……。エミリちゃん、魔物化しちゃってますし……。
べるさんは、エミリちゃんの真実を聞いてあげたのかな?
エミリちゃんがどうしてべるさんを作ったのかって真実。
その真実を聞いたうえで、エミリちゃんを魔物化しちゃったのかな。
きっとエミリちゃんは、何かの真実を求めたからべるさんを作ったんだと彩萌は思うのです。
――アヤメちゃんの魔法日記、二十八頁




