げんそうをまもるさんびきのまもの
日が暮れて、落ちてきたころの事です。
きぃっと小さく音を立てて、小さな家の扉は開かれます。
夕陽が射し込み、室内は明るくなります。夕陽がとても、目にまぶしいです。
まず室内に飛び込んできたのは、緑色の優しい光がまぶしく輝く小さな人影です。
「うにゃ、女の子の匂いがする! 女連れとはけしからん!」
「待ってシース、まだ誰も大人になっていないわ! 純潔は守られているわ!」
「――帰って来てソウソウ何言ってんダ……」
その後に続いて、濃い紫色のフリルのいっぱい付いたドレスの女の子と、女の子と同じ色合いのピエロ……? のお人形さんでした。
ピエロメイクがされた、クマの人形……? かもしれません。
オレンジ頭の少年は、本の解読に戻っており反応は有りません。
扉を閉めると、その三人? は彩萌の元へと近寄ってきます。
「えっとぉ……こんばんは?」
「人間の女の子だぷ、きゃーわいいねん? イーちゃんこん子どうにゃん?」
「そうねシース、人間の女の子は可愛いわね! どちらかと言えばこの子は清楚な衣装が似合う感じだと思うわ!」
「せーそな衣装かいにゃ、悪戯がしにくいねん? やっぱ女の子はミニスカを履いて欲しいっぽ、スカートめくりは悪戯の定番だす!」
「白地に可愛い柄の下着だとなお最高ねシース! きっとこの子は泣きだすタイプかあまり気にしないタイプのどちらかに決まっているわ!」
緑色に光る宙に浮いた小人さん、たぶん妖精さんです。
妖精さんとふりふりのドレスの女の子は楽しそうに話しています、スカートめくりについて。
そんな二人を、ピエロのテディベアさんは表情は変わらなかったもののとても呆れた様に見ています。
「お嬢サン、コレはお嬢サンの落とし物? お嬢サンと同じ匂いがするからソウ思ったのダケド」
そう言ってピエロのテディベアさんが差しだしたのは、もふもふした物体です。
しーちゃん! 久しぶりに対面したしーちゃんは、動きません。
寝息が聞こえて来るので、寝ているようです。
お礼を言いながらしーちゃんを受け取れば、ピエロさんはちょっぴりてれくさそうでした。
「クレールが女の子に優しくしてっにゃ! 下心が垣間見えますぞぉ!」
「クレール汚らわしいわ! クレールは死刑よ、死刑! お首を刎ねなさい! 私よりも先に仲良くするの禁止ぃ!」
「じゃあ、さっきノモコモコイーラルが持ってイれば良かったじゃないカ、ワタシに渡すのガ悪い」
「手下をこき使わない悪魔なんていないっ!」
びしっと指を指した女の子、イーラルちゃんを見ながら妖精さんのシースさんは「キリッ」と呟いてました。
さっき会ったばかりですけど、この二人が相当騒がしいのは分かりました。
オレンジ頭の少年が、無視を決め込んでいるのはいじられないようにする為でしょうか?
そう言えばイーラルちゃん、頭に小さい角が生えてます。髪の毛と同じ色です。
ふわふわで長い髪の毛で、ドレスもふわふわふりふりで可愛いですね。
「にぇにぇん、あやっち理の世界の人間しゃんにゃんねん? 」
「えっ、そうなの? あやっち理の世界の女の子なの? レア幼女キタわ」
「あやっちって、彩萌の事ですか? 名前知ってたんですか?」
「ひょっひょっひょっ、妖精しゃんを見くびるで無いぞよ! 妖精はすべてお見通しなのであーる!」
「そうよ、妖精に掛かれば無くした小物もヘソクリも全てお見通しなのであーる!」
「無くシた信用が何処に行ったノカ、どうやって取り戻せるノカは分からないのでアール」
三人で同じポーズを決める所、すごい仲良しなんですね。
彩萌……このテンション苦手かも、どう対処したらいいのか分からないよ……。
彩萌が困っていれば、シースさんはひゅんって感じでオレンジ頭の少年の元に飛んで行ったのですよ。
「にゃんにゃん? ずっちんさっきからなぁに読んでん? リーディア・マクレンシア・ドルガーって誰じゃ」
「ドルガー……? これはあの薬学のドルガー家の者が書いた本なのか?」
「そうねん……、本というかメモっぽいにょー世界を回った時に自分に分かりやすく纏めたメモにゃん?」
「たぶんりってぃんはこっちの言語が苦手だったんね」と、シースさんは言いながら本の上に降り立つとくるくると回り出しました。
なんか、よく分からない踊りを見ながら少年は顰め面を浮かべていました。
「船をつくる魔法なんてあるのか?」
「あるけど、あんまおもろーねーじぇ! 妖精しゃん一五六頁の髪染める魔法薬が良いなん!」
そう言いながらシースさんがくるりと一回転して宙に浮けば、風も吹いていないのに勝手にページが捲れていました。
イーラルちゃんはそわそわとしながらその様子を眺めています、かなり興味があるようです。
「髪染めなんか、興味ない」
「ひょひょーでもこれしゅげーよ、にゃんと魔力の色ごと変えて髪を染めりゅってよ! 自分の好きな属性にチェンジ出来るってよ!」
「えーっ! いいなぁ、私もそれほしーい、魔王様と同じ色にしたーい!」
「これなら、この島にあるものだけでも作れますぞ!」
我慢できなくなった様で、イーラルちゃんは二人に近付きます。と言っても、とても狭いので一歩動いただけなんですけどね。
そして、シースさんはびしっとイーラルちゃんを指さしました。
「ただしっ、なりたい属性の色を持つ生き物の体毛や体液が無いと作れないにゃん!」
「えーっ! それじゃあ、ディーテ様にお願いして毛を貰わないと私はディーテ様と同じ色になれないの!?」
「ディーテ様、御髪を一本いただけますか……? どんなお願いやねーん、恐いじぇ!」
「流石の魔王様も、これには苦笑い!」と魔法書の上でお腹を抱えながらじたばた転げ回っていました、シースさん体力すげー。
あんなに小さいのに、よくあんなにいっぱい動けるなー。
「船をつくる魔法は、迷子が使う魔法にゃん? これを使えば水都グレーキィにすぐ行ける魔法じゃん?」
「迷子が使う魔法?」
「そうそう、大精霊のテスタト様が国に帰りたいって泣いてた子供の為に作った魔法にゃん? 色んなバリエーションがあるでよ!」
暇な彩萌はそんな会話を耳で聞きながら、クレールさんと遊んでいました。
というかクレールさんにお願いして、ノートをだっかんしたんですよ。
ぐねぐねと見た事が無い文字が書いてありましたけど、気にしません。新しいページを使えばいいんですー。
「これは子供しか使えない魔法だじぇ、……ずっちん子供しか使えない魔法は魔物は使えにゃいんだじぇ?」
「っそうなの!? じゃあずっちん独り立ちするの!? 家を出て自立した生活を送る大人になっちゃうの!?」
「子供、止めるノカ?」
「そんなの面白くないじゃない!」とイーラルちゃんが叫びます、どうやらいつの間にかシリアスな雰囲気になっていたようです。
彩萌はお絵かきをしながらその様子を見守ります、なんか部外者は首突っ込まない方が良いと思いましたし。
むきゃーって感じになってるイーラルちゃんをなだめながら、クレールさんは少年を見ます。
「デモ、ずっちんは本当だったラもう子供じゃないカラ、何十年モ閉じ込めたままはカワイソウだ」
此処はツッコミどころですよね。何十年ってどういう事ですか?
少年の話を聞いた限りでは、魔物さんに助けられたのはここ最近の話みたいな感じでしたよ。
そもそも少年の見た目は、彩萌と変わらない感じだから何十年って話が出るのもおかしくないですか。
「でも……、大人になるのは怖い事なのよ! 私達と一緒に居ればずっと幸せで平和なのよ!」
「そう、妖精しゃんと居れば、幸せにゃんだ!」
ちらり、と様子をうかがえば少年も変な顔していました。
理解できていないような表情です。
イーラルちゃんとシースさんは必死です、少年を引きとめておきたくてしょうがない感じです。
「外になんか行かなくて良いの、ずっちんはずっと私達のお友達でしょ? ずっとずっとお友達なのよ」
「外には悪い魔物がいっぱいいるんだよ、ずっちん危ないんだよ。妖精しゃんのとこにいれば安全なんだよ」
シースさんの顔は見えないけど、なんだか二人とも泣きそうな雰囲気でした。
今にもくずれ落ちてしまいそうな、そんな雰囲気でした。
「イーラル、シースみっともナイ……、子供は成長するんダヨ、ワタシ達とは違う」
「忘れ去られて良いだなんて、クレールはドエムの変態なんだ……」
そう呟くとぽふって感じの音が鳴って、イーラルちゃんはちぢんでぽとりと床に落ちてしまいました。
イーラルちゃんが立っていた場所に落ちたのは、イーラルちゃんそっくりのお人形さんでした。
そっくりのお人形は、だいぶぼろぼろで汚れていました。
シースさんはその人形の上に降り立つと、膝を抱えて座り込んでしまいました。
「ずっちんが妖精しゃんの子どもだったら良かったのに、そうしたらずっとずっと子供のままだにゃん」
「妖精の子供ハ、人間の子供と交換したりスル悪戯に使うんダロ? そうしたら生まれてスグにずっちんとお別れカモな」
「世知辛いじぇ……、今まで頑張って意識を外に向けない様にしてたのに……」
流石に彩萌よりも頭が良さそうで、幻想にくわしいずっちんは理解できたのか変な顔をしていませんでした。
どこか納得したような、そんな顔をしていました。
彩萌には、よく分からないですけど。
「ずっちん妖精しゃんの子供になるにゃん、髪の色を変える魔法薬は、要約すればリスクを少なくした契約方法だにぇ」
「それが髪の色を変える薬にこだわっていた理由か」
シースさんはずっちんの言葉にうなずいて、しくしくと泣き始めてしまいました。
泣き続けているシースさんを気に掛けながら、クレールさんは置きざり気味な彩萌に説明してくれました。
イーラルちゃんは“子供の夢の中の悪魔”という魔物らしいです、正式名は無いらしいです。
そして、クレールさんが“夢の中の子供の悪魔”らしいです。
何が違うんだか、彩萌にはよく分からないです。
シースさんは“子供にしか見えない妖精”だそうです。
イーラルちゃんとシースさんは子供にしか会えないそうです、クレールさんは夢があるならどこにでも行けるらしいです。
イーラルちゃんが人形になってしまったのは、ずっちんが大人の階段を上り始めてしまったから、らしい。
そして、なんとしーちゃんが眠ってしまっているのはこの家の中の時が魔法によって捻じれているからだとか。彩萌が影響を受けてない方が、変らしいです。
――アヤメちゃんの魔法日記、二十四頁




