満たされる感覚は、愛情に似て
絵とか上手く描けない時って、なんかごまかそうと頑張ってしちゃうんだけど最終的にごまかしも出来なくて、ぐしゃぐしゃぐしゃーって感じに塗り潰してしまうのは彩萌だけでは無いはずです!
なんかー、鎧って難しい! ムファトさん(フレンジアさん)のバカやろー!
というか彩萌、気絶する前もろくに何も食べてないし、起きた後も何も食べてないからお腹ぺこぺこ……なのに。
「どーして全部食べちゃったんですかぁー! 彩萌の非常食なんですけどー!」
大量に入っていた干しリイムが無いです! この短時間で全部食べるとは、お前大食いの選手だな!
でもこの袋加工されてて、中に何も入って無いって事は水とかが持ち運べますねっ。って話じゃないんだよ!
まだ彩萌五個くらいしか食べてなかったのに、酷いですこのオレンジ頭!
何処のガキ大将なんですか? 彩萌の物は俺の物、俺の物は俺の物なんですかっ。
彩萌は怒りましたよ、まじですよ。
「売られそうになっている危機なんて非常時だから食べても何の問題も無いよな」
「それは屁理屈ですよ! 彩萌が食べるならまだしも非常時の原因の様なオレンジ頭が食べるのはおかしい!」
「よくそんな口が利けるよな、商品として身の安全が保たれているのは確かでもいつ売るのかどうかを決めるのは誰だっけ?」
このやろー、このやろー……。酷いやつです、ふぁんたじーがメルヘンしてないのはとっても残念だと思いました。
オレンジ頭はちらちらと壁に立て掛けてある時計っぽい物を見てます、なんかちょっと数字とか違うし秒針とかないから自信無いけど。
本当に、しーちゃんどこ行ったのー。こんなオレンジ頭と一緒に居たくないー、しーちゃん迎えに来てー。
彩萌は仕方なく、部屋の隅っこで体育座りしましたたよ。あいしゅうが三割増しですよ!
「……まったくわからん」
「ふぁんたじーの言葉がどうなってるかは知らないけど、日本語は難しいんだもん! ざまあみろー、このやろー」
彩萌の口が悪くなってしまうのは、仕方ない事ですよね。
それから彩萌はうつむいていたのでオレンジ頭の様子は分からなかったですけど、しばらく黙りこんでいました。
「……おまえ、どこから来たの? 魔法使え無さそうだし、ここ絶海の小さな島だぞ」
「げんじつ」
「――理の世界? ふーん……はじめてみた」
気が付けば少年が近付いて来ていたのですけど、彩萌に逃げる場所はない。
身構えていれば、少年は彩萌の手を勝手に掴んだわけですよ。ダメですよー、親しくない人の体に触れたら。
観察しているのか、ぷにぷにして眺めているみたい。
「何にも苦労なんか知らないような手だな、そりゃ平和ボケするか」
「少年も、そんな感じの肌してるじゃないですか」
「それはおれの扱える魔術がそういう系統だからであって、元から綺麗なわけじゃない」
えーっと、肌をきれいにする魔法ってなに? ……回復みたいな?
性格的にもっとねちっこそうなの使いそうなのに……、こんなやつに回復されたくないですよ。
というか、人によって扱える魔法って決まってるの?
不思議そうにしていれば、少年は教えてくれました。意外と優しい所もあるのかもしれません。
「色によって分けられてる、オレンジ色は治癒系統、紫色は不明な点が多いが今は磁気を扱えるのではないかと憶測が立てられている、灰色は自身の肉体強化、及び別個体への属性付加、緑色は空間認識、及び物事の本質の把握、青色は人格支配、及び肉体操作、黄色は森羅万象に影響を齎す力、これは生物平等に大なり小なり持ってる力」
「赤色とか黒は無いんですか?」
「人間や魔物の赤はオレンジ色にカテゴライズされる、ディーテ・カーマインと同じ力を持つ生き物はいないとされている、黒は虚無、何も無い故に無限……らしい」
流石……魔王様、意外とすごい人だったんですね。
ディーテさんどんな魔法使うんだろう?
「へぇ……ものしりですね」
「当然だ、おれはこんな小さな島国で終わりたくない、外に出る為には知識が必要だ」
「じゃあ黄緑色とか、混ざった感じの色はどうなるんですか?」
「どちらかの属性にカテゴライズされるか、もしくは両属性」
なるほど、じゃあーイズマさんが人格支配やってたのに物事の本質が分かっちゃってたのは両方使えるから?
そう言えばディーテさんもやってたかも……、うーん難しいなぁ。エミリちゃんは白だから、灰色?
でもエミリちゃんの魔法は属性付加は出来そう、あれ? でもジェリさんも物に属性を付加する魔法使うよね? でもジェリさんは黒だからきょむなのかな?
えっ、なんかよく分かんない。というか、きょむってなに?
「ちなみに、極めればソレに特化した強力な魔術が扱えるってだけで絶対に他の属性が扱えない訳じゃない、個人の才能の問題だ」
「えーっと……、つまりー甘党だけど辛いのも食べられるよって話ですか?」
「……まあ、それで良いよ」
ごめんなさい、彩萌はお腹が空いているのでそんな例え方してしまいました。
彩萌はもしかしてまた過去に飛んでしまったのかもしれません、だってこのムカつく少年ってなんかイズマさんっぽいんだもん。
お金を欲してるところとか、結構丁寧に教えてくれるところとか、服装とか、食い意地とか。
それに、イズマさんが話してくれた島国はきっとここの事ですよね。
「そういえばここはどうして、滅んでしまったんですか? 魔物の所為?」
「……、魔物……の所為じゃない」
あれっ? でもイズマさん魔物の所為って言ったよね?
違うのかな、本当は。
「おれの所為、かも」
おおっと、何か複雑な事情があったみたいですね。聞かなきゃよかったかもしれない。
でも彩萌としては売る売らないの話から意識を遠ざけて時間稼ぎするしかないのだ、頑張るんだ私。
「明るい色は目立つから、見付かっちゃって」
「うん」
「その近くに、フレアマリーが居るらしい廃墟に逃げ込んだ、たしかにフレアマリーは居て、彼女は凄く……、戦闘狂だった。フレアマリー・バーミリオンは正義と太陽の精霊なんて言われてたけど、あれは正義なんかじゃない、ただの蹂躙だと思う、おれだけ、フレアマリーに助けてもらったんだ、同色の好だって」
「……うん」
「もしかしたら……、おれが見付かったから……滅んだのかも」
なるほど、そっか、うん。なんていうか、自分を責めているのですね。
あと、ちょっとフレアマリーさんが少し嫌いなのかも。怖がってる感じがしたもん。
気の効く台詞が出てこない、こんな時イズマさんだったらなんて言うかな?
彩萌はでも少年じゃないし、少年と同じ立場に立てないから、何言っても無駄なのかな?
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない、でも彩萌は思ったんですよ」
「……なに」
「たしかにオレンジ頭が見つかったから、かもしれないけど、でも結局滅ぼしたのは魔物ですよね?」
とりあえず、同じ立場に立てないので客観的に思った事を言ってみました。
怒られたらどうしよう、売られたくないなぁ。
「オレンジが直接的に国を滅ぼしたんですか? オレンジが魔物に国を滅ぼすように命令したんですか? オレンジ以外に鮮やかな色をした人は居なかったんですか?」
彼は小さく首を振りました。
怒ってはいないみたいです、話も聞いてもらえてます。イイペースだぞ、彩萌!
「じゃあ結局オレンジの言ってることなんてただの被害妄想だと思います、オレンジが見付かったから国が滅んだかなんてわからないし、ただの想像じゃないですか、鮮やかな髪の人がほかにも居たなら遅かれ早かれ魔物に見つかって滅んでしまったのかもしれない、少年はただ、運が良かっただけですよ」
「……運が良かった、だけ」
「そうです、そのあと魔物さんに救われて今の生活があるんでしょ? ほらすごく運が良かっただけじゃないですか、他の人はすごく運が悪かったんです」
「――そういう、考え方もできるな……」
少し落ち着いたのか、少年は小さく息を吐いて呟いてました。
みっしょんクリアです! さすが彩萌、クールな大人のレディだぜ!
あとはどうやって少年にこびを売って、売られないようにするかを考えねばなりません……。
「視野が狭くなっていたらしい、馬鹿にして悪かった」
「謝ってくれるなら許します、あと彩萌はお腹が空いているので何か食べ物をくれると良いなって思います」
そう言うと、少年は茶色い硬い何かをくれた。干し肉だって。
まあ、不味くないけど。彩萌は干しリイムの方が好きだな。
「……あーもう駄目だ、帰って来るまえに戻って来るな……」
たぶん時計を見て、少年はそう呟きました。
時間制限があったんですね……、これは彩萌の勝ちですか!?
ちょっとホッとしているように見えるのは、きっと少年が優しいから酷い事を本当はしたくなかったからだと思いたい。
まあでも、彼がもしイズマさんだったら将来は極悪商人になってしまいますけどね!
少年は溜息を吐くと、椅子に腰掛けて干し肉を食べてました。
どんだけお前食べるんだよ、さっき袋の中の干しリイム全部食べたでしょ!
しばらく彩萌と少年は黙々と干し肉を食べているのでした……。
――アヤメちゃんの魔法日記、二十三頁




