銀色のへたれ半人なんて知りません
私、叶山彩萌、ぴちぴちの小学4年生はやってしまったのです。あのちょっぴりカッコいい、つかいっぱしりのお兄さんを召喚してしまった本を借りてしまったのです。
だって彩萌はリーディアさんの魔法書とやらが気になってしまったのです、私ったら大胆な乙女になってしまったようなのです。
まあ、だけどあのお兄さんが召喚されたらお姉ちゃんを呼べば万事解決なのです。お姉ちゃんはイケメンが好きなのですから。
リーディアさんの魔法書は、一言でいうと分かり辛い本だったのです。彩萌には難解な本でした。
そもそも魔法が分からない彩萌にはまったくもってわけわからんな代物だったのです。
でもちょっぴり面白かった、と思ってしまったのだ。
リーディアさんの魔法書を彩萌は本棚にしまうのです、だって本は本棚にしまうのがマナーなのです。学校の本だけど。
そんな時、彩萌を夕飯へと誘うお母さんの声がしたので私は部屋を後にしたのですよ。
その後テレビなんか見ちゃったりお風呂に入ったりして部屋に戻ってきたのです、彩萌は寝る前に日記を書くのを習慣にしていたのですよ。
椅子に座って、さあ書くぞーなんて思ってたら本棚から本が落ちる音が聞こえたのです。
彩萌は本を整理するのが大好きですから、きっとつかいっぱしりが出てきちゃったに違いありません。
宇宙に帰ってもらわねば、なんて思って彩萌は振り返ったのですよ。
「………………」
「……、――……えと、なんか、分かんないけどごめん、私の事は気にしないでくれて良いよ?」
「……第二の宇宙人が地球に攻め入って来ていたようです」
彩萌は驚きました、だって赤い頭のびっくりな人がいるのかと思ったら違ったのだ。
銀髪の背の高い女の人か男の人か分からない、頼り無さそうな耳がちょっと尖った人が居たのです。
その人はゲームの冒険家みたいな感じのなんかを着ています、剣も持ってます。銃刀法を違反しまくっていました。
ちょっとその人は、お父さんと同じような雰囲気がします。
きっとへたれです、お母さんが良くお父さんに言っているのです。
「私の名前はフレンジア、残念だけど宇宙人では無いんだ」
「じゃあフレンジアさんは赤い頭のびっくりなつかいっぱしりのお兄さんと同じですか?」
「彩萌ちゃんは面白い事を言うんだ、ディーテを赤い頭のびっくりなつかいっぱしりなんて言う女の子初めて見たかも」
「彩萌は山吹君が好きなので他は眼中にないのです、たとえすごいイケメンだったとしてもです」
「それを聞いたら山吹君は喜ぶと思うな」
銀髪のへたれ、フレンジアさんはフレンドリーな雰囲気でニコニコ笑います。
不思議です、赤い頭のあれもですがなんでフレンジアさんも彩萌にフレンドリーなんでしょう?
もしかしたら、お姉ちゃんが言っていたロリコンと言う奴なのかもしれません。末恐ろしいです。
「私はね、リーディアのお友達って所かな、まあつかいっぱしりにはされているかもね」
「赤い頭のあれは魔王だと言ってましたが、フレンジアさんは何ですか?」
「彩萌ちゃんって毒舌の上に胆が据わってるよね、魔王に対して赤い頭のあれって言っちゃうなんて」
フレンジアさんは驚いた表情で私を凝視します。
オレンジ色の眼が何だか作り物のみたいで、綺麗だなぁなんて彩萌はぼんやりと思ったのだ。
髪の毛も長いですし、女性だと良いなって思いたいですけど声が男性なんですよね。残念過ぎるお兄さんです。彩萌はもっと、男らしい男性が好きなんです。
山吹君みたいなクールで強引な男が好きなのです。
ヘタレでなよなよした男なんて最悪です。もしかしたら剣とか持っているので強いのかもしれませんが、性格が最悪なのだ。
「えーっと、なんか嫌われちゃった? 私は傭兵なんだ、副業でトレジャーハンターなんかしてるけど」
「いせきをあらして回ってるんですか?」
「そんな事は無い、と思いたい……、でもお宝は高く売れるし」
「へたれのくせにお金にがめついのか、フレンジアさんは」
「お金にがめついのは正解、でも私はへたれなんかじゃない……」
銀髪のへたれは落ち込んだみたいで、ぶつぶつと何か呟いています。
やっぱりフレンジアさんはへたれだったみたいです、彩萌の勘は当たるのですよ。えへん。
「それで、フレンジアさんはどうしてここに居るんですか?」
「あのね……、なんて言うか、彩萌ちゃんは魔法好き?」
「赤いのもそんなのを聞いてきた気がします」
「同じ目的で来てるからね、うーん、簡単に言うと彩萌ちゃんをこっちの世界に呼びたい……んだよね」
「誘拐ですか、なんか機械をあたまにうめるんですか?」
「だから宇宙人じゃないんだよ、彩萌ちゃんが嫌なら連れて行かないから誘拐では無いと思いたいな」
「じゃあ、フレンジアさんは何人ですか」
「半人なんだ、人間と魔族の合いの子なんだよ」
そう言えば、リーディアさんの魔法書にもそんな人が出て来た気がします。
魔族の人型はイケメンって相場が決まっている様だ、クソが、魔族の血が入っていればイケメンの様だ、クソが、って書いてありました。
リーディアさんの恨みや辛みを感じてしまう一文でした。
それまでリーディアさんは女性だと思っていたけど、それで男性だと分かった彩萌はきっと天才です。
「どうして、彩萌を連れて行きたいんですか?」
「えーっとね……、それは私の口から言うべきではないと思うから……」
「複雑ですね、私のいしで決めていいって言ってるのに変ですね」
「ごめんね?」
「良いんです、彩萌の頭はふぁんたじーじゃないですから、お兄さんたちは宇宙人で危険人物なのです」
「あれっ!? 私達の存在を認めた訳では無かったの!?」
当たり前です、彩萌の頭は現実的なのです。
銀色のへたれも赤いびっくり人間も宇宙人に決まっているのですよ。
だってそっちの方が現実的なのです、彩萌はもう高学年なんですよ。
そんな事を考えていると、彩萌の部屋へとお母さんが歩いてくる音がしました。
銀色のへたれは慌てて彩萌を見ます。
「と、とにかく! 私はへたれでも無ければ宇宙人でも無い!」
そう言うとフレンジアさんは消えてしまいました、赤いのと違ってちょっと音がしました。
フレンジアさんが消えて少し経ったらお母さんが部屋の扉を開けました。
「もう、彩萌早く寝ちゃいなさい、明日起きられなくなるわよー」
「はーい、日記を書いてから寝るの」
「早く寝なさいよねー」とお母さんは言うと扉を閉めて去って行きます。
今日の日記もちょっと愉快な物になりそうです。
現実的な彩萌ですが、ちょっぴり幻想に染まって来てしまっている気がしてならないのです。
――アヤメちゃんの魔法日記、二頁