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アヤメちゃんの魔法日記  作者: 深光
幻想スケッチ
19/107

地下迷宮は地下倉庫

 イクシノア様の言う遺跡は、もうしわけていどに生えた草木を頼りに歩いて行った先にありました。

 というか、なんていうか、遺跡って言うと神殿かなーってイメージありましたけど、めっちゃ古い大きな地下倉庫でした。

 入口は風化しちゃって、ぽっかり穴が開いた様な感じで不気味でした。

 中は結構、大丈夫な感じでした。ほど良く寒くないです!

 ここらへんに作られたのは、地盤が良いからだとイクシノア様が語ってましたが彩萌の耳を素通りしていきました。

 地下迷宮みたいなことになっちゃってるから、離れたら迷うこと必須ですって、イクシノア様は当時の地図を持ってました。

 何で持ってるのかって彩萌が聞いたら、王族だからですって、やっぱり偉い人だったんですね。

 そしてさすがは幻想(ふぁんたじー)、ランプが浮いてます!

 何でもイクシノア様は物を浮かせたりするのが得意らしいです、ムファトさんはそう言うの出来ないんですって。

 階段を降り切って、ほへーっと彩萌が辺りを見回していたら置いて行かれそうになりましたが、戻ってきたムファトさんに乱暴に引きずられる様に連行されました。

 はてんこうなイクシノア様の面倒を見つつ、彩萌の面倒を見るなんてムファトさん大変そう……。

 そして現在彩萌は、色んな意味で微妙な感じになっていました。


「……なるほど、魔物の巣窟になっていると聞いていたが、襲われなかったのはフルーリア、お前のおかげか!」

「ファントムドックは知能が低いので人には懐かないと言われていますよね、強い魔物に平伏すとよく言われていますが……どうなんでしょうかね?」


 イクシノア様のきらきらした視線と、ムファトさんの冷ややかな目が怖いです。

 両極端な視線にさらされて、彩萌のすとれすげーじがたまっていく!

 身体にすり寄って来る真っ黒で目が何処にあるのか分かんない大型犬(毛が無くてつるつる)は、ファントムドックと言う魔物さんだそうです。

 いや、彩萌は悪くないです。魔物に近寄ったわけでは無いんです、突然背後に現れたんですよ!

 ムファトさんはファントムドックさんが現れる前から気付いてたみたいですが、あえて斬らなかったそうです。

 だから彩萌をちらちら見てたのか、ドックさんがどういう行動を取るか見ていたのですか、酷いです。

 彩萌が食べられたらどうするんですか!? まあ、そんなミスしなさそうですけどぉ……。


「まあ良いじゃねーか、便利だし、フルーリアはアタシたちに危害を加える気はない!」

「さぁ……、どうでしょうかね」


 ムファトさんはあまり強く言わない戦法に出たらしく、彩萌に冷ややかな視線とかを送ってきます。

 彩萌は小動物の様にびくびくするしかないです、しーちゃんは彩萌の腕の中でぐっすりですからね、味方が居ないです。

 ファントムドックさんは彩萌の様子に不思議そうに首を傾げながら、顔を覗き込んできます。

 つるつるわんこに癒されます、耳とかないけど。


「あや……私は、魔物じゃないですよ……」


 ちなみに、彩萌と言うとイクシノア様が怒る。

 ムファトさんとファントムドックさん二人に向けて言います、ムファトさんは顔をぷいって背かれちゃいましたけど。

 ファントムドックさんは頷いてましたよ、たぶんこのドックさん知能低くないですよ。

 そう思ったのは、彩萌だけでは無かったようです。


「さっきお前頷いたのか? ある程度の知能があるなら、アタシの質問にも頷けよ」


 イクシノア様の質問に、渋々といった感じでドックさんは頷きました。

 名犬ファントムドックの誕生ですか?


「ほう……、もしかしたら噂のオーパーツがこの辺りの魔物に良い影響を与えているのかもしれないな、ムファト」

「そうですね、ならなおさら彼女が魔物では無いことの証明が難しくなりましたね」


 何故良い笑顔でそんな事を言うんですかムファトさぁん! そんなに彩萌が嫌いなんですか!

 まあ、でも彩萌は大人ですからね、分かってますよ。ムファトさんは病気のイクシノア様を守る為につんけんしてるんだって、分かってるんだからね……。

 決して、フレンジアさんに嫌われてるみたいでなんかヤダ、なんて思ってないんですからね……。


「もう魔物でも良いですけど、あ……私はへいわちゅぎなんです」


 噛んだ。彩萌もさ行が危うい様です、これじゃあしーちゃんに何も言えないですね。

 ムファトさんは変な表情になってましたが、イクシノア様は大爆笑してくれました。


「良いぞフルーリア、その調子だ!」


 何ですか、その反応。

 ムファトさんは顔すらも見てくれなくなりましたが、それに対してイクシノア様はお腹を抱えて笑ってます。


「……はやく、そのおーぱーつ持って地下迷宮から出ませんか」

「いや、出る前にこの辺りを荒らしてる魔物を探さねーと」


 ムリだよ、イクシノア様病気だもん……。彩萌はいたたまれないって感じだから早くこの人たちとバイバイしたい。

 ひょいひょいとイクシノア様は壁が崩れて出来た障害物とか乗り越えてますけど、この人本当に病気なのかな。

 彩萌はしーちゃん抱いてるから、片手で登らないといけないし、小さいから大変なんですよ。

 もっと彩萌を気にしてください、ほぼ無理やり連れて来たんですから……。

 懐いてきたドックさんは、山の上で彩萌を眺めてますしぃ……。

 もう疲れたよ、山吹君。


「……お家帰りたい」


 山吹君には悪いけど、幻想世界(ふぁんたじー)に彩萌はくじけちゃいそうです。

 そういえば、夕ご飯食べてないからお腹ぺこぺこだよ。

 今日の夕飯、彩萌としーちゃんが大好きなから揚げ作ってくれるってお母さん言ってたんですよ。

 そういえば彩萌は幻想世界(ふぁんたじー)に来ちゃったからお家帰れないんですよね、お姉ちゃんにもお母さんにもお父さんにも会えないね。

 どうしよう、彩萌は大人の女性だけど今凄く泣きたいです。

 でもいっぱい前に泣いちゃったから、頭が痛くなってきちゃいます。


「――……大丈夫ですか」


 さすがに道を塞ぐがれきの山にしがみ付いて止まっていたから、ムファトさんが声を掛けてくれました。

 でもムファトさんの質問に答えを返す気力が無いです、だってえもう嫌味に耐えられないほどすとれすげーじいっぱいなの。

 でもさすがに無視したら嫌味を言われちゃうと思うので顔を上げますよ、情けない顔になってますけど、その辺は勘弁してね。

 涙と逆光でムファトさんの表情は見れなかったけど、あの変な表情を浮かべているのかもしれない。


「さすがに……大人気なかったかもしれないね、悪かったよ」

「うぅ……むーちゃんありがとう」

「むーちゃんはやめてくれないかな」


 手を差し伸べてくれたので、素直にお礼を言ったら断られました。

 むーちゃん……可愛いと思うのに、というか口調が柔らかくなったらそのまんまフレンジアさんなんですけど。

 手を引っ張って引き上げてくれたムファトさんは少しだけ乱暴だったけど、ちょっと優しくなってて彩萌はホッとしました。

 でも涙は止まらなくて、泣きべそかきながらイクシノア様の元に行けば笑って言われました。


「やっぱり世話好きでかわいい物好きなんだなムファトは、弱い者いじめに耐えられなくなったんだろう!」

「……、……彼女は空腹の様ですよ」

「あぁそうなのか、ごめんな、気付かなかった」


 え、なんでムファトさん彩萌が空腹だって知ってるの?

 驚いてムファトさんを見上げれば一言「くじけそう、お腹ぺこぺこ、帰りたいって呟いてましたよ」って言いました。

 イクシノア様は彩萌に干しリイムをくれました。グミみたいに硬くて、すっぱ甘いです。

 まあ、イクシノア様に触れたら何が起こるか分からないってムファトさんが言ったのでムファトさんから受け取りましたけど。


「いくしのあ様は、……どういったご病気なの?」

「なんだよ、いくしのあって、可愛いじゃねーか、魔力異常によって起こる体調不良とか、麻痺とかまあいろいろなるやつに掛かってる」

「魔力異常……?」

「普通は汚染された魔力を体内に取り込むと起こるんだが、アタシの場合ちょっと違うから治せないんだよな」


 これって、深く聞かない方が良いのかな? そう思ってムファトさんを見上げましたけど、なんか全然大丈夫そうです。

 お仕事中の顔をしてましたけど、別に何も言ってこないし何も反応示してないですし、イクシノア様も全然気にしてない感じです。

 というか彩萌はちょっとお疲れ気味なので舌が回ってないです、学校帰りだったのに長い距離歩いてがれき登りだもんね……。

 彩萌はインドア派です、マジです。しーちゃんみたいに、眠りたい。


「まー簡単に説明するけど、とある大陸でユーヴェリウスに会ったんだ、喰った」

「くった? ……喰った? ……精霊食べたの!?」

「おう、味は無かったぞ。仲良くなったし、アタシはもっと強くなりたかったから契約したいって言ったら、何が起こるか分からないし僕の体の一部食べるんだよ? って聞かれたから食べた」

「食べさせたユーヴェリウスさんもすごいけど、それで食べられるイクシノア様もすごいですね」


 驚いた様な表情をしていれば、隣でムファトさんが小さく肯いていた。やっぱりすごいよね。

 あと、ムファトさんは呆れた様な雰囲気だった。


「そうしたら体内の魔力が増えすぎちゃって、食べすぎたのかもしれない、あと妊娠した」

「えっとぉ……、大変ですね」

「そうだな、でも息子は可愛いぞ、たぶんユーヴェリウスの子供だからユヴェリアって名前付けた」

「豪快ですね……」


 その一言以外に言葉が見つからないです、豪快過ぎるでしょ。

 増えすぎちゃった魔力を制御するためにおーぱーつが欲しいって、イクシノア様は語ってました。

 見付かると良いですね、おーぱーつ。でも、彩萌は口にしなかったですけど、予想だとたぶん此処にあるやつは制御するやつだとは思えないです……。

 どちらかと言えば、増幅させる系じゃないですかね?

 だって、魔力が高い魔物ほど知能が高くなるってエミリちゃん言ってましたから、ドックさんの知能が高くなったことを考えると制御系では無い気がします。

 でも見てみない事には分からないですよね、彩萌は幻想(ふぁんたじー)初心者ですし。


「あ、……そういえば、思ったんですけど、なんかこの地下迷宮もやもやした魔物さんいっぱい居ますね」

「そのファントムドックもそうですしね……、イクシノア様あまり魔物には近付かないようにしてください」


 視界の隅に黒っぽいもやもやが映るんですよ、最初すっごい怖かったですよ?

 彩萌はその後ムファトさんに手を引かれながら、イクシノア様の後をついて行くのでした。

 ドックさんは彩萌がムファトさんにお願いされて、イクシノア様の前を歩くようにお願いしたので先頭です。

 まあイクシノア様に近付かないようにお願いしたので、だいぶ前を歩いてますけどね、ドックさん。

 こうして手を引かれながら、お話ししながら歩いていると彩萌は少しだけお家に帰れない現実を忘れる事が出来ました。

 なんだか彩萌はこっちに来て、山吹君の気持ちが少しだけわかった気がしました。





 ――アヤメちゃんの魔法日記、十九頁

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