星空の魔法に魅せられて
夕方の魔王様は、いつも以上に真っ赤な色をしてました。
尻尾の様に長い三つ編みも驚きますが、その肩の上にしーちゃんが居て彩萌はさらに驚きました。
最後のお別れなんかにしたくない、なんてディーテさんは言いましたけどしーちゃんも行っちゃうのかと思うと涙が止まりません。
しーちゃんはもう家族なんですよ。
「彩萌ちゃん泣かない、お兄さんが魔法をかけてあげますから」
「だから、魔法書を貸して?」とディーテさんは言いましたが、それは嫌です。
彩萌はランドセルを肩から下ろして、抱き締めて守ります。彩萌が首を振れば、ディーテさんは困った様な顔をします。
「しーちゃん……連れて帰っちゃうんですか?」
「まぁ……それは仕方ないよ、だからね彩萌ちゃん、お兄さんが縁を深める魔法を魔法書にかけてあげるから、かーしーてー?」
そう言って、持って帰られちゃうかもしれません……。
半端な者は消えちゃうって、半端な本だって消えちゃうかもしれません。本の精霊だって、聞きましたし、なんか本を大事にしてそうです。
ディーテさんは彩萌に手を伸ばします、頭を撫でる積もりなんでしょうけど、なんかいやーな予感がしたので私は強く目を閉じます。
そうしたら、なんか静電気みたいにばちっとしたんですよ、頭がばちって。
「おっと……やっばー、反発しちゃった?」
その声を聞いて、彩萌が眼を開けば教室の床がきらきらしてんですよね、魔法陣ってやつですか?
彩萌がかなり戸惑って、ディーテさんを見上げればにっこりと笑われました。
「まあちょっと早いだけで、予定調和です! 彩萌ちゃん頑張ってね、お兄さん応援してるから!」
「何が、ですかっ」
舌を噛むところでした、突然がくんとしたんですよ! がくんって、事前に行ってほしいです!
そうしたら、ふわって内臓が浮く様な、エレベーターに乗った時の感じがして、そうしたらひゅーって落ちました。
彩萌はたぶん、叫んでいました。
「あやめー! あやめー! ちーちゃんもいくー!」
「彩萌ちゃんまた会おうねー!」
二人の声が聞こえたなーって思ったけど、目は開けられないですよ!
ランドセルを抱えて、小さくなって衝撃に耐える事しか出来ません、彩萌本当の死亡フラグが立った!
「ちーちゃんうぇーいぶー」なんて、楽しそうな声が聞こえたのは幻聴です。
ぼちゃんと、水しぶきが上がった様な音が聞こえて、苦しくなって冷たくなります。――って、溺れてる!
必死で水面に顔を出して、陸に上がりましたよ。ランドセルを離さなかったのは彩萌の愛がなせるわざです!
目の前に広がっていたのは砂浜です、後ろを振り向けばもうしわけていどに生えた木と草が生えていて、土と砂がまじったような大地が見えます。
すっごく寒くて、彩萌は震えてくしゃみをしました。
「あやめー、だいぢょうぶ?」
近寄ってきたしーちゃんが温かい、彩萌はランドセルの中身を確認します。
びしょびしょです……どうしよう、魔法書もびしょびしょです、酷いありさまです。
風邪をひいてしまいそうです、すっごい寒いです。彩萌落下死はまぬがれましたけど、凍え死にしそうです。
寒くて、動けなくなりそうでしーちゃんに抱き着きます。ここは何処ですか!
「うぉっオアシスが出来てらー、すげーや、ところで嬢ちゃんはどうしてそんなびしょびしょなんだ?」
ぱちん、と音がしたと思ったら服も全部乾いていました、きっとここは幻想世界です。
彩萌は喜ぶべきなんでしょうか、それとも嘆くべきなんでしょうか、分かりません。
ばさっ、と上から重苦しい布を被せられます。誘拐ですか!?
「夜はさみーからなー、そんな恰好じゃあ風邪引いちまうよ、予備のマントをアタシが持ってて良かったな? 感謝するよーに」
「……誰ですか?」
顔を上げれば、ユヴェリア王子みたいにすごく紫色の女の人がいました。けっこう若いです。
その人もユヴェリア王子みたいに、きらきらしたアクセサリーをいっぱい着けててきらきらしてました。
「アタシの事を知らないなんて、この辺の子じゃあないね? 捨て子か? かわいそーに、信じられないね!」
「イクシノア様! 単独での行動はおやめください、よく分からない者に近付くなんて、病気が悪化したらどうなさるおつもりですか!」
駆け付けた人は、少しだけ見覚えのある人でした。
銀色の髪、オレンジ色の眼、女性みたいな顔立ちの人は確かに、フレンジアさんでした。
でもフレンジアさんの髪は短いし、なんだか服装もその辺に居そうな旅人じゃなくて、高そうな鎧を着てます。
まるで騎士みたいですね、フレンジアさん、なんて思ったけど彩萌は口にしません。なんかよくない事になりそうだから。
彩萌に抱っこされているしーちゃんもだんまりしてます、空気を読んでます。
「良いんだ、彼女はきっと理の人間だ、魔力は感じない! きっとあっちの世界から来て奴隷にされて捨てられたかわいそうな子だ、そうに違いない!」
いえ、理の人間である事はあってますけど、彩萌は奴隷になった記憶はありません……。
この人思い込みが激しいんですね、良い人そうですけど。
きちゃ、って音がしたと思ったらフレンジアさんが剣を抜いてました、死亡フラグが無くなったと思ったら無くなって無かった! お姉ちゃんどうしよう!
「判りません、高度な知能を持った魔物であればそのくらい、容易にできる事です! 彼女が魔物で無いという証明なんて、何処にもありません!」
「止めないかムファト、怯えてるじゃないか! 大丈夫だ、アタシの中に流れる魔力は反応していない、ユーヴェリウスの力が信用ならないというのか!」
彩萌が置いてけぼりですが、仕方ない事ですよね。
どうやら銀色の髪の人はムファトさんと言うみたいですね、フレンジアさんじゃなかった。
イクシノア様とムファトさん、うん……覚えた。
「あ、あの……私、大丈夫です……大丈夫です」
なんかすごい、びりびりした雰囲気だったので彩萌は逃げたい。
しーちゃんとマントがあればどうにかなりそうな気がする、だからこの空気から彩萌は逃げたいです。
そう思ってそう言えば、ムファトさんの表情がさらに険しくなりました。
「いけません」
「えっ……どうしてですか……?」
「貴方が人々に害をなす魔物である可能性が否定できていないからです、人の子だった場合、保護をする義務があります、理の人間ならなおさらです」
つまりどっちにしろ逃がす気は無いんですね、死にたくないです!
怖い顔で彩萌を見るムファトさんに、イクシノア様は怒ってました。
「おい、そんな言い方するんじゃない! この子はアタシの息子の嫁にすることにした、今からこの子の名前はフルーリアだ! よく覚えておくよーに」
「えっ、彩萌には名前はもうありますよ?」
「思い出したくない過去があるだろう? それにアタシの所有物になるので過去の名前は捨てるが良い!」
おうぼうです……! この人良い人かもしれないけどおうぼうです……!
まあ、でも良いですよ、彩萌は今はフルーリアをしてあげます。
だって、イクシノア様は興奮してるみたいですし、今話しても意味が無いですよね。
「黒い良い髪だ、新月の夜の子だ」
「……名前の意味ですか?」
「いや、フルーは暗い夜の精霊の名前なんだ、邪神族のことだ、リアは精霊の子供の事を指すんだ」
「じゃ……邪神ですか?」
「邪神とは言うが、悪い奴らじゃないぞ」
私はムファトさんに乱暴に立たされて、連行されて行きます。
ランドセルを背負って、マントを着るなんて事をした女子小学生はきっと彩萌が最初で最後ですよ!
どこ行くんでしょうか、そもそもこの二人は夜の砂漠で何をしていたんですか。
病気、とか言ってたけどイクシノア様夜の寒い砂漠に居て良いんですか?
「あの……何処に行くんですか?」
「あぁ、何でも遺跡周辺に凶暴な魔物が出るらしい、これは……アタシが退治に行かないといけないよな!」
彩萌は理解しました、この人たぶんはてんこうってやつなんですよ。
ムファトさんはこの人の護衛的な何かなんですよ、苦労人なのかもしれません。
「それに、噂ではその遺跡には魔力を制御するオーパーツがあるらしい、アタシにはそれが必要なんだ」
その声は覚悟と言うか、決意と言うか……、真剣な声でした。
「大丈夫だ、フルーリア、お前はアタシが守ってやる!」
「……病気を完治させてから、その様な発言をしてください、護衛は私の仕事です」
はぁ、と溜息を吐く姿はどう見てもフレンジアさんにしか見えなかったです。実はムファトさんフレンジアさんなんじゃありません?
ちなみに空気を読んでる、って思ってたしーちゃんはただ寝ているだけでした。そりゃ喋らんですよね……。
日記が無いので、しばらく日記書けないと思うとなんだかそわそわします……。
この世界で、山吹君に会えるのでしょうか?
――アヤメちゃんの魔法日記、十八頁




