魔法少年リーディアさん
こんにちは、叶山彩萌です。もう覚えてくれたかな?
彩萌は、この感情を共有したくて持って来ていたんです。
きっと、山吹君なら彩萌の体験を信じてくれるかなって思っていたんですよ。
信じてくれなくても、笑ってくれるかなーって。
だって、彩萌は山吹君の事が好きですから、もしかしたら幻想世界の住人とお友達になれるかもしれないですし。
彩萌が放課後、山吹君と帰る前にリーディアさんの魔法書を出したんです。
魔法書を見た山吹君の表情は、見た事が無いくらい不機嫌そうな顔でした。
ぼんやりしてたり、笑ったりくらいしか見た事が無い彩萌はちょっとびっくりしました。
「えっとー……、山吹君こういうの、嫌いですか?」
「別に、なんか……変な感じがするかも」
「えっと……、彩萌は不思議体験を山吹君に話したかったんですけど……、止めたほうが良い?」
「うん、やめて……聞きたくない」
きっぱり否定されるのは初めての事でした、まあでもそんな時もあるよな、って彩萌は思ってランドセルに魔法書をしまおうとしたんです。
彩萌は手を滑らせて魔法書を床に落としてしまったんです。バサッ、って音がしてちょっとびっくりしました。
まあすぐに拾ってランドセルに入れて帰ろうとして席を立ったんですよ。
「じゃー、山吹君帰りますよー」
そう声を掛けて、顔を上げましたが山吹君がいないのですけど、どうしましょう?
きっとこういう時、神隠しにあったんだ! とかお姉ちゃんとかはなるかもしれませんが、それはさすがに幻想的すぎます。
だって今までそんな事無かったです、お姉ちゃんが本を落とした時だって何にもなかったですよ。
だから彩萌はまずランドセルをしょいます、そして廊下を見回します。よし、誰も居ない。
いや、よしじゃないですね。
山吹君何処に行っちゃったんでしょうか?
念のために彩萌は教室をもう一回見ようと思い、振り返りました。
山吹君は居ました、でも彩萌が山吹君かもって思っただけで別人っぽいんですけど。
何か雰囲気とかが山吹君なんですよね、でもちょっとだけ大きいんですよね。
お姉ちゃんと同い年くらいだと思います、その人は教室の窓から校庭を眺めてました。
のすたるじーってやつっぽくて、声を掛けづらいです……。
「……まあ、僕がお願いした事だから何とも言えず、微妙な気分になるんだけどね」
「……誰ですか?」
「最初に会ったとき寝惚けてたから覚えてないよね、僕の名前はリーディア・マクレンシア・ドルガーだよ」
声を掛けづらいなって思ってたら、その人は彩萌の方を見て自己紹介をしたんです。
ふむ、会った事ある様な気がしてたけど改めて見るとよくわかんないかも。
彩萌が変な表情をしてると、リーディアさんは言いました。
「聞きたい事があったんでしょ、僕とディーテに」
「えっと……えっと、そんなことよりも山吹君知らないですか……?」
そう聞けば、リーディアさんは一瞬眉間に皺を寄せてからゆるーく笑顔を見せました。
「彩萌ちゃんに幻想に興味を持ってもらうこと、についてだよね?」
「いや、そんな事よりも山吹君知りませんか?」
「重要な事だよ、幻想について彩萌ちゃんが興味を持ってくれたら、……僕と情報を共有したくなる、そうでしょ?」
「いや、お兄さんはリーディアさんであって山吹君では無いです」
「僕は別に自分が山吹だって言ってないけど、どうしてそう思ったの?」
おう、このお兄さん誘導尋問したのか!? 誘導尋問ってやつなのですか!?
彩萌が黙り込むと、お兄さんはゆるーい笑顔を浮かべたまま聞いてきました。
「僕はその本……厳密に言えば日記なんだけど、それ書いた人だから手っ取り早く幻想について知るならもってこいでしょ? だから彩萌ちゃんが僕の知識について興味を持つと思って聞いたんだよ? 僕の話聞きたいかなーって思って聞いたんだよ? どうしてそれで山吹の名前が出て来るのかな?」
「……べつに」
「べつに? 何とも思ってない状態でその返事に辿り着くのは難しいんじゃないかな? 僕が山吹だって、思ったからそんな事言ったんでしょ?」
「や……、山吹君はそんなに性格悪くないんです! それに、彩萌と同じくらいの背でイケメンなんですっ!」
彩萌がそう主張すれば、リーディアさんは複雑そうな表情をしてました。
「喜べばいいのか分かんないね」と呟いていましたが、彩萌には知ったこっちゃないです! 山吹君はどこに居るんですか!
彩萌がリーディアさんを睨めば、リーディアさんはちょっぴり悲しそうに笑いました。
「まあ、そんなわけで……山吹は幻想世界の住人になりました」
「どうしてですか? そもそも、彩萌がふぁんたじーに興味を持つのと何の関係があるんですか?」
「さあ、そこまでは僕もよく分かんないけど大事な事らしいよ、魔王様曰くね」
彩萌は認められません、というか……、なんていうか、認めたくないですけど……仮にリーディアさんが山吹君だったとしたら色々とおかしくないですか? だってリーディアさんはお姉ちゃんと同じくらいに見えます、山吹君は彩萌と同じくらいの身長だったし年そうおうってやつでしたよ!
だから、なんていうか、オカシイです。
えっと、えっと、彩萌は頭がこんがらがってしまいそうです!
もういいや! 本人が目の前に居るんだから聞いちゃえばいい!
「仮に! 仮にですけどリーディアさんが山吹君だったらおかしいですよ! いろいろと、なんで大きいんですか!?」
「それは僕が幻想世界で四年過ごしちゃったから? 飛ばされた先が現在とは限らないってことかな?」
「う、うぅ……うー! わかんない! だって山吹君は山吹君で、リーディアさんはリーディアさんでしょ!? だってだって山吹君は彩萌と同じくらいで、そんな大きくなくって……でも四年だから、えー!? どうして!?」
「彩萌ちゃん落ち着いて、大丈夫だよ泣かないで」
近付いてきたリーディアさんは、やっぱり大きいです。
山吹君だって思えません、いや、思ってしまうんですけど彩萌が認められないのです。
だってさっきまで山吹君は彩萌と同じくらいの身長だったんです!
リーディアさんは綺麗なハンカチを取り出すと彩萌の目元を拭いてくれました、本当に彩萌泣いてたんですね。
やっぱり、山吹君はイケメンです……いや、リーディアさんは山吹君ではありません。
「あ、あやめがやまぶきくんがふぁんたじーのじゅうにんだったらとか、かんがえたからっ、やまぶきくんはふぁんたじーに行ってしまったんですかっ!?」
「そんな事無いよ」
「じゃああやめがやまぶきくんにふしぎたいけんをはなそうとおもったからっ、こんなことになっちゃったんですかっ!?」
「彩萌ちゃんがそうするであろうと想定して、興味を持ってもらったから彩萌ちゃんの所為では無いよ」
彩萌の泣き言に、リーディアさんは冷静に返していました。
よしよしと頭を撫でられると、やっぱり山吹君なのかなぁとか思ってしまいます。どうしよう。
どうしよう、四年。長い。
「どうして、りーでぃあさんはそんなれいせいに言うんですか! あやめと四年も会えなかったのに寂しくなかったんですか!」
「寂しかったからここに居るんだと思うよ」
「えっ……、そ……そうですか」
リーディアさんが冷静に肯定したのに驚いて、彩萌はなんだか引いてしまいました。
やっぱりロリコンだったんですか……、いや、山吹君だったらロリコンじゃないよ、本当は同い年だし。うん。
どうしよう、彩萌、どうしよう。幻想世界遠いですよね……、遠距離恋愛なんてできるかな? どうしよう。
えっ、でもリーディアさんの四年の間は会えないのかな、会えないんだろうな。じゃあこのリーディアさんなの? 山吹君はリーディアさんなの?
リーディアさんが山吹君だったの? 山吹君がリーディアさんだったの? えっ、どっち? どうなの?
「もう山吹君には、会えないんですか……?」
「そうだね、会えないね、たぶん幻想世界の住人にも会えないかも」
「えっ!?」
驚愕の事実です……! 彩萌はまだエミリちゃんとかにバイバイしてないですし!
しーちゃんはどうなるのかな、家に置き去りですよね?
えっ、なんで、別れは突然と言いますけど突然すぎます。
というか……遠距離恋愛どころの話では無かった! どうしよう、彩萌はまだ告白すらしてなかったのに!
でも此処に居るのはリーディアさんだから、彩萌が告白したいのは山吹君だから、えっ、でもリーディアさんは山吹君だから……えぇっ!?
「猫の髪留め、可愛いね」
彩萌が混乱しているというのに、リーディアさんは彩萌のぱっちんを見付けるとそれを指で突いていました。
このやろー、なんだよー! 彩萌がこんなにわけわからんっぷいになってるのに!
ちょっと引っ込んでいた涙が出て来てしまいました、このー……リーディアさんのばかやろー。
「その本は彩萌ちゃんにあげる、記念に取っておいてよ」
「なんで、そんな、最後のお別れみたいな事言うんですかっ!? 彩萌はまだお別れしてないのに!」
「勝手に居なくなって、勝手に成長した僕がお別れのあいさつに来られても困るよね」
当たり前です、彩萌は今絶賛混乱中です。
つまり、つまり山吹君を幻想世界の住人にする為に彩萌を利用してたって事ですか? しかも利用してたのが山吹君なんですか?
えっ、……山吹君って実は彩萌の事が嫌いだったんですか!? だって四年も会えなくなるのに山吹君は過去の自分を飛ばす方向でやってたんでしょ?
彩萌に会えなくなるのに、お家にも帰れなくなるのに? どうしてですか!?
猫のこれを贈ったのは、どうしてですか、だって嫌いなんでしょ。
あ、なんか彩萌凄い心にダメージ、あぁなんか、直接的に嫌いって言われるよりもダメージです。
「あ、ぅ山吹君は……彩萌の事嫌いだったんですか……?」
「そんな事無いよ、ちょっと下僕にしたい感じだよ、でもなんか、正常に戻そうとする力が働くと僕みたいな半端者は消えちゃうらしいよ、それってイヤでしょ?」
「消えちゃうの?」
消えちゃうのはイヤです、どこか遠くに行っちゃったより、イヤです。
ちょっと下僕にしたい感じ、が気になりましたけど今は気にしたら負けです、大事な部分を聞かないといけません。
「彩萌は山吹君の事、好きですけど、山吹君はどうですか?」
「えっ、あ、うーん……えっとー僕にいとは違うから十歳はちょっと……、嫌いではないけど……」
フラれた! しかもロリコンじゃないからちょっとっていうやなフラれかたしたぁあ!
本当は同い年なのに、本当は同い年なのにっ!
四年、長い。悲し過ぎて彩萌はなんて言ったらいいのか分かりません!
「四年、長い。彩萌、完敗……です」
「ごめんね、でもほら、僕ってもう居ないも同然の存在だから忘れても問題ないよ」
悲しい事を悲しそうに言わないでくださいっ、彩萌の涙が止まらないですっ。
成長した山吹君の性格が悪かったのは見なかった事にします、小さい山吹君にもそのへんりん? が見えていましたし。
そんな強引さが嫌いじゃなかったですし、でも彩萌は仕返しをしようと思います。
「山吹君の言っている事はむじゅんしていますっ! 忘れても良いって言ってるくせに彩萌に贈り物をして本を記念に取っとけって言うのはむじゅんです!」
「……エミリ・リデルと仲が良かったようだし、記念になりそうでしょ?」
「でも、本についてはエミリちゃん関係ないです、ほとんどリーディアさんの主観ですし」
「なんなの、彩萌ちゃん……僕が綺麗にさようならしようと思ったのにそう言うの引っ張り出さないでくれる?」
ちょっとムッとした表情で急成長した山吹君はそう言います。
いやー、幼い山吹君は基本の顔がぼーっとしてましたけど、大人になったらちゃんと感情を顔に出す様になったんですね。
「寂しかったんでしょ! 彩萌とかに忘れられるのが、認めろですよ!」
「彩萌ちゃんたまに、ですよの使い方がおかしくなるよね……」
「はぐらかすのは寂しかった証拠ですよ! お父さんも良くお母さんに図星をつかれてはぐらかしてますよ!」
男のプライドを傷付けると面倒臭いのよ、ってお母さん言ってましたけど、彩萌は今日は文句を言いたい気分なんです。
だってお別れなんて寂しいです、泣いてしまうのはもう嫌なんで、恥ずかしいんで。
彩萌は、幻想があるなら奇跡を信じて良いと思うんですよ、だから永遠のお別れだなんて思いたくないですよ。
「寂しかったー、なんて言ったら彩萌ちゃんが慰めてくれるの? 彩萌ちゃんこっちの世界来てくれるの?」
「すこしだけ、考える時間が欲しいです……」
「下校を促す放送が鳴るまでなら良いよ」
あとちょっとしかないじゃないですか、でも彩萌はこれに答えても意味無いこと、なんとなくわかります。
彩萌に言われてイラッと来て言っちゃったみたいです、たぶんどう答えても満足はしないと思います。
彩萌的には山吹君と一緒に行く! とその場の感情に流されて言いたい所ですが、彩萌は大人のレディですからね……私が居なくなったら家族が悲しみます。
そもそも、連れていってくれない気がします。
「彩萌は山吹君とは一緒に行けないです……、でも忘れるのは嫌ですよ、山吹君も彩萌のこと忘れないでください」
「それは酷いね、寂しくなっちゃうよ」
「最後のお別れでは無いです、いつかまた会える日が来るはずです! だから彩萌は最後のお別れみたいな事したくないです!」
「告白した癖に?」
「上げ足取るのきんしーですよ、彩萌の恋心を踏みにじるのは禁止です」
頭をなでなでしたり、ハンカチで目元を拭いてくれた山吹君を彩萌はぎゅーっとしてあげます。ハグってやつですよ、恥ずかしいですけどやっぱりスキンシップって大事らしいですよ!
寂しかったなら効果的です、ほら、最後のお別れじゃないなら彩萌にもまだチャンスがありますし、落ちろっですよ。
まだ十歳ですけど、彩萌は成長期に入りますから、大人でセクシーでぼんきゅっぼんになるんですよ。
女の子ばーじょんのディーテさんに負けないくらいセクシーになってやるんですからね。
最後に見た山吹君は、ちょっと泣いていたように見えました。
山吹君は消えちゃいました、跡形も無い。
「……魔法書」
ランドセルを下ろして、確認します。ちゃんと入っててなんか、安心しました。
もう本当に会えなくなるのかな、なんて考えながら彩萌がぼーっと魔法書を見ていると下校を促す放送が鳴ってしまいました。
校庭で遊んでいた生徒たちも、帰る人もいれば、まだまだ遊び足りんな感じの人も居ました。
彩萌も帰らなきゃいけないです、山吹君が居なくても、家に帰らないといけないです。
うっ、引っ込んでいた涙がまた出て来てしまいました。
「最後のお別れなんかじゃないんですっ」
「ホントだよねー、最後のお別れなんかにしたくないよねー、お兄さんもそう思う」
最後の最後に、出て来るのはやっぱり魔王様ですか。
彩萌が振り返れば、そこにはちょっぴり毒々しい感じにびっくりするほど真っ赤なお兄さんがいました。
――アヤメちゃんの魔法日記、十七頁




