演劇少年ユヴェリア王子
おはようございます、叶山彩萌です。
朝起きた時、知らない人がすぐ側に居たら驚きますよね。いや、まあ彩萌はその人の事を知っていたんですけど。
とりあえず親しい間柄じゃない人が居たら驚きますよね。
今日は学校がお休みだったので、朝起こしに来る人は居ません。
だから二度寝だぜー、って思ってたのにまだ朝早いですよー。
彩萌はベッドの上から、ニコニコしている紫頭を見ます。
アクセサリーをじゃらじゃらつけるのは止めてなかったですけど、王冠は被って無かったです。
何かを言う訳でも無く、彩萌を観察してニコニコしてるんですけど何なんでしょうか、この王子は。
「リーディア君に消されちゃった様ですね」
口を開いたと思ったら、挨拶も無しに本題に入ったようです。
消されちゃったって何が? というか彩萌リーディアさんにたぶん会った事無いですけど?
彩萌が何も言わずにじーっとユヴェリア王子を見ていると彼はにっこり笑みを深めたんです。
「まったくもって不愉快です、フレンチキスの一つや二つくらいかまさないと消えない様な作りにしたのに」
「はぁ……?」
「不愉快です、これでは私の魔術がリーディア君より劣ってるみたいじゃないですか! あの魔法薬野郎なんかより僕の方が扱える魔術だって多いのに!」
「そ……そうですか」
なんだかプライドを傷付けられちゃったらしいです。
そう言われれば、リーディアさんに会ったような気がしてきましたよ。
怒ったユヴェリア王子はリーディアさんへの不満をくどくどと喋っています。
「たしかにリーディア君は魔力の内蔵量が多いらしいですけど、僕の方が多いですし」
「へぇー」
「それに僕の方が魔術への理解が深いです! 彩萌さんが会った中では誰よりも僕が一番なのですよ!」
「でも、ディーテさんに魔法について教わってたんじゃないんですか?」
「魔法と魔術は別物です、理論に基づいて成すのが魔術です」
むっとした表情を浮かべながら、ユヴェリア王子はベッドに凭れてぐでーと腕を伸ばして顔を埋めました。
なんだか対抗意識をめらめらと燃やしているんですね、王子は。
彩萌にはよく分からんですけど。
「もっと複雑で、深く根強い魔術で無ければ駄目なんでしょうか」
「うーん……彩萌の勘ですけどー、なんかそう言う事じゃない気がします」
「……愛情に反応するというのなら、愛情に反応しない術にすれば……」
「なんか変な魔法掛けたら、ディーテさんとかが怒る様な気がします」
彩萌はなんだか身の危険を感じました。
久しぶりに来たと思ったら、ユヴェリア王子は愚痴とかを言いに彩萌のとこに来たんですかね?
お腹が空いたんですけど、何なんですか、愚痴を言いに来ただけなら帰ってください、そう思いながら彩萌は窓の外を眺めました。
あぁ、良い天気だ。
「僕は魔術しか取り柄が無いのです」
「そうですか」
「だから、リーディア君なんかに負けたくないのです」
「その心意気は素敵だとは思いますけど、彩萌を巻き込むのは止めてください」
しーちゃん今ご飯食べに行っているみたいで居ないですけど、帰ってきたら大変そうだ、なんて思いました。
だって魔力がいっぱいの方が美味しいらしいですよ、ユヴェリア王子も捕食対象ですよね。
ユヴェリア王子は何故か彩萌に愚痴を漏らします、何で彩萌にそんな事を言うんでしょうかね。
赤の他人だから言いやすい? まったく顔を合わせないから言いやすい? 彩萌の溢れんばかりの良い人オーラの所為ですか?
「理の人間で、魔力を多く保有していて、魔法薬の権威であるドルガー家の人で教鞭を握ってて、フレンジアと仲が良いです」
「なんでフレンジアさん……?」
「僕は優秀で無いと存在価値が無いです、僕の存在というのは弱く危ういものなんです」
「はぁ、辛いんですね」
「ユーヴェリウスよりも、フレアマリーの方が良いのです、そう言う国なんです」
いや、いつも思うんですけど、そっちの世界の常識で話すのは止めてください。
まったくもってわからないんですけど、ユーヴェリウスとフレアマリーが分からんですよ?
でもなんか、聞き辛い雰囲気ですよ。王子は泣き言を呟きたいときみたいですし。
「ユーヴェリウス・モーブは星空の精霊と言われるカラーゴーストです」
「ディーテさんの仲間ですね」
「彼の色は紫色なんです、フレアマリー・バーミリオンはオレンジ色です」
「もしかして王子はフレンジアさんと同じ国出身ですか」
きっとフレアマリーさんは太陽の精霊なんでしょうね。
なんか響きが似ていますし? えーっとでも、ジアが男性とか人って意味で、アが子供とか少女の意味じゃなかったでしたっけ?
ちょっとだけ屈辱的な名前なのかもしれません……。星空の子供と言えば聞こえがいいですけど、言われた本人からすれば半人前と言われている様に感じる様な気がします。
だって彩萌だって子供だけど、面と向かって子供扱いされたりガキンチョって呼ばれると嫌ですもん!
でもこれだけの情報でここまでたどり着いた彩萌は天才です、神童ですよ!
「フレアマリー・バーミリオン、ムールレーニャ・ミスト、テスタト・オーカーが信仰されています」
「むーるれーにゃさんはきっと月です、でも最後の人は予想が出来ません」
「ユーヴェリウス・モーブはどちらかと言えば悪いイメージなんです」
この話、長くなりますか? 彩萌のお腹がかわいそうにくぅくぅ鳴ってます。
というかぶっちゃけ興味無いです、なんてかわいそうなんで言わないですけどね。
「ムールレーニャ・ミストの弟分のような存在のユーヴェリウス・モーブは残酷な性格で人を試す様な存在らしいです、唆し騙して操って悪行をさせて白日の下にその行いを曝し回る様な存在だと」
「おぅ……、なんだか……うん、怖いね」
「これが人の真実なんだと、戒める存在でもあると言われますが悪い印象の方が強いのです」
「何故なら彼はそれを面白がってやっているのですから」と王子は呟いて、黙り込んでしまいました。
王子はなんか、誰かに名前とか見た目についてイヤーな事でも言われちゃったんですかね?
きっとむこうの常識を持っている人に話したくなかったんですね、そうに違いないです。
知っている人に話すのは、イヤですよね! 分かりますよ!
「それってー、えっとー……聖書みたいなのに書かれているお話ですか?」
「……そうですね」
「カラーゴーストについて書かれていたなら、ディーテさんについて書かれていなかったんですか?」
「ディーテ・カーマインですか……」
そんな名前だったんですね、ディーテさん。
王子は、顔を上げました。
「知識と本を管理する魔物を統べる王で、誰に対しても誠実に優しく接するが本当は理の母にしか関心が無く、無慈悲だと」
「それって、実際のディーテさんと比べるとどうですか?」
「誰に対しても誠実じゃないですし、優しくも無ければ理の母以外にも関心が向いていると思っています」
「事実なんてそんなもんですよ、もしかしたらユーヴェリウスさんだって悪く言われて悲しんでいるのかもしれません」
「……そんなもんですかね」
王子はなんだか、納得していない様な顔をしてましたがそんなもんだと思います。
まあ、そんなわけで王子泣くなよ。
王子の頭をなでなでしてあげます、すごい髪の毛がさらさらですよ。
すごいお手入れをしているに違いありません! さらさらさらさらーですよ。
「星空は綺麗じゃないですか、王子の髪の毛すっごい細い……じゃなくて綺麗ですよ!」
「じゃあ結婚してください、私の国の周辺では紫色は好かれていませんから」
「彩萌は山吹君が居るので、ごめんなさい」
「不愉快です」
王子もきっと友達がいないんですね、かわいそうです。同情です。
自分の国の周辺でじゃないと結婚できないんですかね、王子だからいろいろとなんか大変なんですかね。
というか結婚とかまだ早くないですか、王族にとっては早くないんですか? 大変ですね。
「……不愉快です、帰ります」
「愚痴ぐらいなら聞いてあげても良いですよ、アドバイスとかはできないですけど」
「私の話を誰かに言ったら、家に連れて帰りますからね」
「それは誘拐ですよ」
王子が帰ったのを見て、彩萌は体をぐいーっと伸ばします。
もう二度寝をする気分になれません、ベッドから降りて部屋から出ます。
なんだかよく分からないけど、ちゃんと話し合えばリーディアさんとは仲良くなれると思うんですけどねー。
分かり合えたら、楽ですよ、たぶん。
あと関係ないですけど、髪の毛が細いと大変そうですよね。
――アヤメちゃんの魔法日記、十五頁




