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アヤメちゃんの魔法日記  作者: 深光
始まる為のエンディングノート
106/107

幻想少女アヤメちゃん

 公園みたいなところで彩萌は、エミリちゃんと王子に簡単にお話しした。

 二人とも静かに聞いてくれたよ、ちょっと静かすぎて彩萌が不安になるくらい静かだった。王子はいつも通りのニコニコ顔だし、エミリちゃんはニヤニヤしてるし……かなりどきどきしちゃったよ。

 彩萌がなんか困惑して話すの止まっちゃうと「大丈夫、続きお願い」ってエミリちゃん言ってたけど、彩萌すごい緊張した。

 その所為かのどがかわいちゃって、エミリちゃんにフレッシュジュース買ってもらった。シェリエちゃんもちゃっかり便乗してた。

 王子は精霊との半人だから飲食は一週間に一回で十分らしい、すごいね。

 十分だけど、でも食べられないわけでも無いらしい。

 ミックスジュース美味しい、しーちゃんにも分けてあげたかったけど居ないからしょうがないね。

 本当にどこ行ったんだろうか、しーちゃんたち。

 そんなことを考えてたら、いつの間にか王子が彩萌の隣に来てた。

 あれ……、ここってシェリエちゃんが居たんじゃなかったっけ?

 ちょっと見回せばエミリちゃんがシェリエちゃんと李白さんにべるさん見せてた。

 そういえば興味あるって言ってたもんね。


「王子、このジュース美味しいよ……一口飲む?」

「いえ、必要ありませんし……欲しくもありません」

「そっかぁ……、なんかねーきゅわーんって来てじゅきゃーって感じで美味しいんですよ!」

「えーっと……そうですか、私には理解できません」

「彩萌の食レポは完璧ですよ、本当にきゅわーんでじゅきゃーって感じですからね! いつか飲むとききっと王子もきゅわーんて来てじゅきゃーになりますよ」


 面白い事を言いますね、って王子笑ってるけど本当にじゅきゃーってなるから!

 じゃあこれは彩萌が独占できるんだね、ちょっと量多いけど……飲めるよ。

 だってきゅわーんでじゅきゃーだもんね。


「美味しいものと楽しいことは好きな人達と共有したくなるのです、でも王子は飲めないから感覚をつたえてみました」

「そんな……訳の分からない感覚を伝えられたのは初めてです」

「フレアマリーさんは分かってくれるのにー……でもいつか王子が飲むかもしれないから、その時までのお楽しみってことですね」

「……なんだかそう言われるのは、少し……嬉しい様な気もします」


 ちょっと王子は照れてた、どこに照れたんだろう。

 気付いたら王子は勝手に手を触ってきますけど……あれですよね、李白さんとかりっちゃんに感じるみたいなイヤーって感じは無いけど一種のセクハラ?

 というか王子の肌白いね、指きれいだね。

 彩萌の手はすごい痣っぽい感じだから、痛々しい感じで黒いから余計にきれいに見えますね。


「……僕の母も、魔力異常の所為で体のあちらこちらに彩萌さんと同じ様な痣があるのですよ」

「えーっと……イクシノア様?」

「ご存知でしたか、意外ですね……何も知らないと思っていたのですけどね」


 会ったことあるし、と彩萌は言わなかった、言ったら面倒なことになりそうだったから。

 なんか、王子の彩萌の手の触りかたがなんか優しい。

 懐かしいなーって思ってんのかな、彩萌を通してお母さんを思い出すのは止めて欲しいですけどね。


「同じ性質のものに惹かれてしまうのは、生き物の性なのでしょうか」

「……突然どうしたんですか?」

「彩萌さんと僕は似ているという話です、高嶺の花は非常に魅力的に見えて困ります」


 そう言って、王子は彩萌の手から手を離して立ち上がったんですよ。

 彩萌が不思議そうに見てれば、王子は苦笑いしてた。苦笑いは珍しいね。

 王子はよく分からん、もっと分かりやすく言ってくれればいいのに。

 でもなんかよく分かんないけど、王子はきっと同じ仲間が居ないから寂しいんだね。

 彩萌みたいに、みんなと同じ様な生き物になりたい……のかな。


「僕……いえ、私の事なんてどうでも良いのです、彩萌さんが本当に求めてる王子様がいらっしゃいましたから……」


 王子が見た方向を見れば、もう……なんていうか見覚えがあって懐かしい姿です。

 似ている人とはさっきまで一緒に居たけどね……、やっぱり違います。

 彩萌はなんか、涙出てきちゃった……感極まってってやつです。

 彩萌と目があった山吹君は、なぜかきょろきょろまわりを見回してた。

 見回し終わったあとに、なぜか口元押さえてた。

 彩萌は気付いたら走り出してました、荷物とかはほうりすててました。

 本当は抱き着きたかったけど、彩萌は抱き着かなかったです。

 嫌がられたらショックだから……、彩萌は立ちつくしてた山吹君の前で止まります。

 やっぱり山吹君の背も高い、彩萌はやっぱり小さいんだね。

 涙の所為でぼやけます……、うぅ酷い顔してたらどうしよう。

 どうしよう、なんて言えばいいのかな。

 こんな姿嫌かな、勝手に居なくなったりして嫌になっちゃったかな、どうしよう。

 なんか言わなきゃいけないのに、なんて言ったらいいのか分かんない。


「山吹君……ごめ、なさいっ。あやめっ……あやめ、いやにならないで……」

「えっと、なんて言うか……――あーもう、バカ! もうほんと、……バカだよ! 嫌になる訳無いから!」


「だから泣くな!」って山吹君は言うけど、彩萌の涙は止まりません。

 なんかよく分かんなくなっちゃった、感情がぐちゃぐちゃになっちゃうとわけわかんない。

 でもたぶん、彩萌すごい嬉しいんだと思う。

 わけわかんなくなっちゃうくらい、嬉しい。


「うー、もー泣かないでよ、こういうの全然分かんないんだって……どうしたら良いか分かんないんだよ……ごめん、嫌じゃないから」


 彩萌だって泣きたくないけど、いっぱい出てきちゃう。

 ごめんなさい、ごめんなさい、彩萌なんか……なんか、わけわかんない。


「えっと、えっと……! すごい心配したんだよ……、見た目なんか変わっちゃったみたいだけど……何とも無さそうでよかった」


 そう言って山吹君が彩萌に手を伸ばそうとしてるのがぼやけて見えた、と思ったらなんかすごい衝撃。

 びっくりして涙ちょびっと引っこんだ、なんか目の前が真っ赤です。

 ……あ、抱っこされてるんだ。


「もー彩萌ちゃんお兄さんすごい心配したんだよー! 死にそうになるくらい心配したんですからね!」


 あ、うん……ディーテさんか、……ごめんなさい。

 あ……なんか涙が止まった、ディーテさんのおかげかな……?

 久しぶりに見たディーテさんはやっぱり、目に痛い感じで赤いです。


「でも元気そうでよかった、本当に……良かった」

「ごめんなさい……」

「今まで大丈夫だった? 誰かにいじめられてない? 怪我してない? お腹空いてない? 体の何処かに違和感とかない? 大丈夫?」

「あ、う……えっと大丈夫です……」


 大丈夫だけど、なんか……山吹君がすごいムッとした顔してますよ。

 ゆっくりと伸ばしてた手を引っ込めて、山吹君はすごい冷めた目をディーテさんに向けてた。

 これは、あれだね。……空気読めてないってやつだね。


「お兄さんはやっぱり思うんです、リーディアなんかに彩萌ちゃんを渡したくないです」

「あえて空気を読まない、だったんですね……」

「だってリーディア暴力的だし口煩いし横暴だし我儘だし、彩萌ちゃんにはもっと良い人がいるはずなんですよ! 目を覚ますべきなんですよ!」


「リーディアはもっとお兄さんに優しくするべき」ってディーテさん言ってたけど、なんだよ……ディーテさんが山吹君に優しく接してもらいたいって話だったんですか。彩萌関係ないじゃん……。

 涙は完璧に止まりました、出てくる気配はありません。


「まあそんな事よりもリーディア、彩萌ちゃんに大事なこと言わないの?」


 大事なこと? 何かあったの?

 冷めた目をディーテさんに向けてた山吹君はそれを聞いて、ちょっと照れたような感じで顔をそらしちゃった。

 しばらくして山吹君はちょっと赤い顔を上げたんです。


「――えっと、おかえり……もう勝手にどっか行くのは、無しね……」

「う、うん……ただいまです! もう勝手にどっか行かないです!」

「まあ……いっか、彩萌ちゃんおかえりー」


 えへへ、やっぱり……うん、彩萌はここが良いです。

 ディーテさんに下ろしてもらって、山吹君に抱き着いたけど嫌がられなかった。

 かなり恥ずかしそうだったけど、はがされなかったです。

 彩萌は幸せです、やっぱり……山吹君が良いです。

 山吹君大好きです、みんなも大好きです。

 ……ところで、しーちゃんたちはどこ行ったの?


「兄貴逃げんじゃねーよ、俺は有言実行なんだよ! 一発殴らせろや!」

「あやめみつけたらちーちゃんにすこちたべられてもいいっていってたぢゃん!」

「約束は、守らないと……ダメ、だと思う……よ?」

「ちょっと……、なんでお兄さんは命狙われてるの? 俺は理解できません……!」


 居ないと思ったら……ディーテさんに気付いて追いかけてたのかな……?

 しーちゃんとフレアマリーさんとグラーノさんは逃げて行ったディーテさん追いかけてた、グラーノさんまで……。でも山吹君がそれを見てくすくす笑ってたから、彩萌もなんだかちょっと面白くなった。

 ディーテさんは精霊さんだから、大丈夫だよね。

 グラーノさんとかユースくんも食べられても平気だし、死なない。

 最期のお別れをしちゃっても、きっとまた会えます。

 だって世界は繋がってるんですよ。

 何度だって、言います。

 ただいま、って。





 ――アヤメちゃんの魔法日記、一〇四頁

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