螺旋の先の夜の部屋
階段を下りきっても真っ暗です、でも部屋の真ん中に何か丸っこいのが浮いてる。
よく見ればその丸っこいのの下に、誰かが倒れてる。
それは神様だったけど、なんかめっちゃうねうね具合が進行してた。
どうやらテスさんとフレアマリーさんの言ってた変な邪神族って言うのは神様のことだったらしく、二人ともちょっとだけ驚いてた。
りっちゃんは顔をしかめて怖い感じ、神様けっこう危ない感じ?
とりあえず彩萌はフレアマリーさんに下ろしてもらって、空をぱたぱた飛んでたしーちゃんを抱っこした。
誰も近づこうとしないで遠目で見てるだけなんだね。
彩萌は持ち前の足の早さでフレアマリーさんのすきをついて、神様に近づいてみた。
だって……絶対止められるもん。
フレアマリーさんとかテスさんの制止の声が聞こえたけど、たぶん大丈夫だと思う。
近づいてみたけど、神様はなんかうねうねしたのを出してるだけ。
神様真っ黒だね、よく分かんないけど……うねうね~ってなっちゃってるのは穢れじゃなくて、ウェルサーの中途半端になっちゃった力の所為なんじゃないかなーって思った。なんとなくね、うん……なんとなく。
触るとね、とろとろしてるの。
ちょっと熱いけど、なんか温泉に腕を入れたみたいな熱さだね。
ぐいーって手で押せば中に入っちゃった、ぐぐーってもっと奥に入れるとなんかあった。
なんか気づいたら隣にりっちゃんが居た。
ちょっとだけびっくりしたからなんか声くらいかけてよ。
掴んだやつを引っぱって出したらね、それも黒かったけど……たぶん手だと思う。
ぐいぐい引っぱってたら白いとこが出て来たよ、神様は服着てないのか。
服着てたけど溶けたの? それともうねうねの所為で破けたの?
もっと引っぱればね、胸元から下は真っ黒のうねうねになってた。
肩と顔と首しか残ってないみたい。
「……神様死んでるの?」
「いや、死んではいないと思う……ただ侵食されすぎて意識を保つのが無理だったのかもしれない」
ふーん……そうなんだ、なんかよく分かんないけど彩萌はこれをどうすれば良いのか知ってる気がする。
とりあえずいったん彩萌は、フレアマリーさんとテスさんに近づくよ。
「おい……彩萌何ともないのか?」
「大丈夫です! そんなのよりもフレアマリーさんとテスさんこの魔女っ娘スティックに色を入れてくださーい」
「……っは? こんな時に何言ってんのお前」
フレアマリーさんは文句を言いつつも、色つけてくれた。
テスさんは何も言わなかったけど、テスさんも色をつけてくれたよ。
後はディーテさんの色を入れてもらいたいけど、あの人のは無くても平気だと思う。
彩萌はね、部屋の真ん中に浮いてる丸っこいのに近づくよ。
テスさんとフレアマリーさんは神様に近づけないみたいで、ちょっと困ってた。
「……何をする気か分からないけど、その丸いのはこいつの魂だからな」
「大丈夫! 彩萌なんか分かんないけど、今すごい自信満々だから!」
彩萌はね、魔女っ娘スティックで神様の魂な丸いのを叩いたんですよ。
りっちゃんが驚いた感じの声を上げてたけど、大丈夫です。たぶん大丈夫です。
けっこう思いっきり叩いたけど、割れないね。
もう一回叩いたら、ひびが入ったの。
「な、お前……壊す気か!」
「なんかよく分かんないけど、このままじゃ良くない気がするんです」
だから壊すよ、なんかよく分かんないけどこの黒いのは壊さないとダメだと思う。
もう一回叩けばなんか割れた音がして……めっちゃ熱いの。
魔女っ娘スティックめっちゃ熱いです、火傷しそう。
割れた音がしたのに、魂は割れてなくってなんかどろーってしてる。
どろどろしてるのいっぱい出てきた、なんか水溜りみたいになってて彩萌の足がつかってるよ。
りっちゃんがなんか、うわぁ……って引いてた。
「しーちゃん、ちょっとフレアマリーさんのとこ行っててね」
「うん、なんかあったらよんでね! ちーちゃんつよいからね!」
ぱたぱた飛んでったのを確認して、彩萌は魔女っ娘スティックをかかげるよ。
ぜんぜん分かんないのに、こうすれば良いって分かってるってなんか不思議な感じ。
やっぱり彩萌ってウェルサーなのかなぁ……。
「ビィアエルヴィア ディルーアエリィリッアフェシュクア フィークウェルシュアリディーメニア」
何言ってるのか、彩萌でも意味分かんない。
気づいたら喋ってた、彩萌もしかしたらなんか……今すごいあの……と、とらんすふぉーむ!
とらんすふぉーむしてる!
とらんすふぉーむの意味よく分かんないけど、そんな言葉があった気がする!
それにしても古い言葉って、なんかアが多いよね。
そんなことを思ってたら、黒いどろどろががばーってなってどばーって飲みこまれた。
りっちゃんも一緒だよ、そうなると神様もだね。
なんか前に邪神族に飲まれた感じに似てる、まあ透けて見えないけど……。
落ちる感じがする、……この感覚はあれです。
澱みの海に落ちる感じ、懐かしい感じです。
溶けそうになるんです……、彩萌は今何が溶けそうになってるのか分かった気がする。
彩萌が溶けそうなんです、彩萌という意識が溶けて元に戻っていく感じです。
でもそれは今はダメなんで意識を戻さないといけないんです、しっかりしないといけないんです。
「お父さん、私はちゃんと帰ってきたよ。またお願い叶えてくれる?」
私の声に反応して、澱みの海の深い場所で赤い光が目を開けます。
りっちゃんが神様を支えながら驚いてるのが見えるね、ずっと澱みの海に居たのに奥底に居た存在には気づかなかったんだね。
これがりっちゃんたちが偽ってた本物の神様なんだよ。
「人間の私に必要無い部分をあげるから叶山彩萌を輪廻に返してあげて欲しいの、リーディアに私の力を譲ってあげて欲しい」
言いたいことはそれだけか、と声も無く神は私に言う。
私は世界を知ったので、少しはお利口さんになったんですよ。
昔みたいに馬鹿なだけの小娘じゃないんです、だからなんて言うか……ごめんなさい、許してください。
「私に対して怒ってるのは分かってる、でも人間は関係ないから穢れを解いてください」
――お前は永遠に力を得られぬと知れ、永遠の命を与えられぬと知れ、永遠に醜い姿となり苦しめば良い。我の声も姿も見る事は叶わぬ、永遠に会い見える事は無く、永遠に我の力を借りる事は叶わぬ。お前はもう永遠に我の子では無い。
神はそう言うと赤い光の目を閉じます。
そうすると、すっごい体が痛い。
信じられないくらい痛い、分かんないけど全部が痛い。
よだれとか出ちゃってたと思う、でも痛いから許してほしい。
――愛してるよウェルサー、刹那の命を楽しめば良い。
その言葉を聞いて、私の意識が消える。
叶山彩萌に戻って行く、私が消えて行くのを感じる。
それでも私は、永遠に私なので良いです。
お父さんごめんなさい、ありがとう。
――アヤメちゃんの魔法日記、九十九頁




