赤い悪魔なんて存在しません
私は図書館とか、図書室とかが好きだ。
別に本が好きな訳では無いのだけども、何となく雰囲気が好きだ。
読むのが好きな訳じゃないのだけども、綺麗に整頓されて本棚に収まっている姿を見るのが好きだ。
何時間でも居られると思う、まあ実際には閉館時間が有るから無理な話だ。
学校の図書室は放課後になると誰も居ない、寂しい事だ。外では元気に遊ぶ生徒たちが見える、子供だなぁ、なんてぼんやり思う。
まあ私も子供なのですが、そんな私は叶山彩萌、ちょっぴり冷えた小学生だ。
でも秘めたる熱い心を持つオテンバさんでもあるのだ、えへん。――そうだったらいいな、と言う幻想でした、ぐすん。
漫画やゲーム、アニメの世界では冷えてる内気な女の子じゃなくって、活発で明るくって可愛い女の子が主役の事が多いから私も乙女としては憧れてしまうのです。
でも現実は彩萌の心を冷やしてしまうのです、悲しい事です。だから私は本の世界に迷い込むのです。
「昨日はー……あれよんだからー、今日はふぁんたじー……」
独り言が寂しく響きます、早くしないと下校時刻になっちゃうからね。急がないといけないね。
借り出したいのに今日は奥にも誰も居ません、なんて事でしょう! 彩萌の楽しみが奪われてしまうのでしょうか?
私がわたわたしていると、後ろから大きな手が彩萌の持っていた本を引っ手繰ったのです。吃驚しますし、行儀が悪いですし。
振り向けば大人の男の人が立っているのです、変な色をしています。きっと宇宙人に違いないです。
その人は真っ赤なんです、赤毛のアメリカ人もびっくりな頭の赤さです。
「これ、借りたい? この本どんな本か知ってる?」
「ふぁんたじーですよ、宇宙人のお兄さんは本をよまない人ですか?」
「お兄さんは宇宙人ではありません、ちょっとイケてるカッコいいお兄さんですよ」
「ちょっとカッコいい宇宙人のお兄さんは本をよまない人ですか?」
「君の中で俺は宇宙人であることが確定したのね、まあ良いけど」
近くにあった椅子に宇宙人は座ります、足が長い所為でなんだか窮屈に見えました。
足を組んで本を眺めています、お父さんも同じ事をするけどお兄さんの方がカッコいいです。流石はちょっとカッコいい宇宙人のお兄さんです。
「これね、魔法書って言うんだよ、幻想で有る事には変わりないけど、ファンタジーでは無いんだよ」
「宇宙人のお兄さんの頭がふぁんたじーでは無くて?」
「……、まあ俺もファンタジーだと思いますけど、これはねリーディアって魔法使いが書いた魔法について書かれた本だよ」
「魔法なんてないんですよ、私はもう高学年の仲間入りしたんですよ」
「そう言うなよ、子供の癖に夢が無いなぁ」
お兄さんはそう言って苦笑いをしました、やっぱりイケメンは何をしてもイケメンです。宇宙人は凄いです。
お姉ちゃんとお母さんが喜びそうな宇宙人は本を私に返してくれました。でも彩萌は隣のクラスの山吹君が好きだから宇宙人は眼中にないのです。
「お兄さんはリーディアの使い魔なんですよ」
「宇宙人では無かったのかぁ、リーディアさんのつかいっぱしりなんですね」
「まあ、そうなるね、でもお兄さん昔は魔王って言う職業もしてたんですよ、尊敬しても良いんだよ」
「リーディアさんに倒されちゃったんですか?」
「気付いたら魔族が衰退してたから止めたんだよ、その後何もする事無かったからね」
「つかいっぱしりのお兄さんは甲斐性無しだったんですね、お父さんもお姉ちゃんによく言われてます」
「世知辛いね」
困った様にお兄さんは溜息を吐きます、アメリカの人みたいなリアクションもしてました。でも学校関係者じゃないのなら、不審者だと思うのです。
彩萌は今不審者と対等の立場で話してました。
私は少しドキドキな体験をしているのだなぁ、とぼんやり思ったのだ。
「お兄さんはどうしてここに居るんですか?」
「本が開かれたとか、魔力を感じたとかだったら魅力的だよね」
「つまり理由は無いんですか?」
「何事にも意味や理由を求めるのって現代人の悲しい性だよね、無意味な事と無駄な事って楽しいよ」
「じゃあ、彩萌は違う本を借りて帰るから、お兄さんも帰った方が良いですよ」
「……お兄さん的に魔法が見たいとか、魔法使いたいとか言って欲しかったんですよ」
「彩萌の頭はお兄さんと違ってふぁんたじーじゃないんですよ」
「彩萌ちゃんは毒舌だね、じゃあお兄さんも今日は帰るね、たぶん彩萌ちゃんとはまた会うと思うからその時は幻想色に染まってね」
そう言うとお兄さんは音も無く消えてしまったのでした、やっぱり宇宙人だったのかもしれません。
だって彩萌は高学年になったのですから、魔法なんて信じられません。
宇宙人の方が現実的なのです。
この出来事は、私の日記に書いておきます。
きっとあとで読み返して笑える思い出になると思うのでした。
「……お兄さんの名前をうっかり聞き逃した」
私がその事に気付いたのは、リーディアさんの魔法書を本棚に戻した時なのでした。
なんだか現実的な彩萌でしたが、私もお兄さんにはまた会う様な気がしてしまいます。
――アヤメちゃんの魔法日記、一頁