07
考えたくないからバイトを頑張ろうと思って頑張っていたらむしろ元凶が飛び込んできた。
「僕は例え吸っても愛の為なら禁煙など簡単な事ですがそもそも吸う利点が思い浮かびませんしね。えーでもかなめさんがタバコを吸う男がタイプだと言うなら吸います。貴女の周りだけバリアを貼って煙を阻止すれば」
「次のお客様どうぞー」
「あの、ちょっとあの人何なんですか。お知り合い?」
「いいえ。全く全然知らない人です。ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません。230円になります」
一人ブツブツ言っている男を押しのけて、律儀にも後ろに並んでいた客を前に呼ぶ。
思いっきり怪しまれている男が実は自分の担任なんですよ、とは到底言える筈もない。
「邪魔をしてしまいましたね。すみません。ちょっと嬉しくてつい」
「貴方の事だから、別に偶然って訳じゃないんでしょう」
「あ、バレました?」
子供の軽い悪戯がバレた時の様な顔をして誤魔化す様に笑う。
「昨日は突然、すみませんでした。という旨をどうしても伝えたくて」
「それがどうして受動喫煙がどうの嫁子供がどうのになるんですか」
「おや、僕は冗談で言った訳じゃないんですよ。お嫁さんには病気になって欲しくないでしょう」
「そうですね。先生はすごくお嫁さん想いなんですね。良いご結婚を」
「そのつもりですよ。で、そのお嫁さんは誰だと思います?」
にこにこと意味深に笑う。むしろこの笑顔は“にやにや”と形容した方が良いのかもしれない。
(この人本当に危ない人なんだ、うんそうだ絶対そうだ)
「ところで従業員は貴女一人なんですか?」
嫁云々の話題が逸れてほっとする一方、また違う嫌な予感がした。
「朝なので、一人です。狭いですし一人で十分なんです」
「え、女性一人に任せるのですかここの店長は。ちょっとおかしいんじゃないですか」
この男におかしいと言われる店長が不憫に思えてならない。
「仕方ない。もう一人が来るまでここに居てあげます。幸い今日は土曜日で何もすることがありませんからね」
幸いですって。何が。どういう所が。
「いいですから、むしろ邪魔ですから!先生みたいな背の高い人がいたら本当に狭く感じるんです、このコンビニ!」
「先生と呼ばれるのも背徳的で良いんですけど、今日は楽しい土曜日で学校はお休みなんです。ここは“晶さん”って呼んでくれても」
「話を聞け!!!」
こいつを“爽やかで良い教師”等と形容した奴に人差し指と中指で思いっきり目潰ししたい!むしろこいつに目潰ししたい!