06
髪を乾かし、畳の上に布団を敷いて横になる。
宿題があった気がするけれど、とてもする気になれない。
祖母の調子が悪い事はずっと前から気づいていた。
時たまぼーっとしていたり、今晩みたいに食が進んでいなかったり。
腰が以前より曲がったし、歩き方もゆっくりになった。
お昼によもぎ餅をもらったと言っていたけれど、きっと嘘だと思う。
もし本当に頂いて食べていたのなら、祖母はかなめの分もと家に持って帰っている筈だった。
たとえ貰ったのが一つだったとしても、その一つを自分は食べないでかなめにと置いておく様な人なのだ、祖母は。
幸いこんな田舎でもコンビニが無くても、病院だけは立派なものが近くにあった。
こんな辺鄙な所に何故、とは思うけれど、祖母が歩いて通える距離にあるので理由はどうあれありがたい。
祖母は最近になってやっとその病院に通ってくれる様になった。
お金がたくさん要る様になるから困る、と言って行くのを渋っていた祖母に、高齢者の医療費が安い事を説明してやっと行ってくれる様になったのだ。
お金の事を心配するのは、かなめが高校に通えなくなる事を懸念しての事だった。
アルバイトの事を言っても祖母は納得しない。高校生が土日をアルバイトで無駄にして、さらにそのお金を交通費なんかに使って小遣いも満足にないなんて、といつも祖母は嘆いていた。
かなめはそれでも高校を出なければいけない。
そして高校を卒業した後は、看護士の資格を取る為に短大か専門学校に行くつもりだ。
女でも十分な収入を得ることが出来、かつ祖母の身体を一番近くで気遣える。
就職はこの家の近くの、今祖母が通っている病院に。
かなめにとって、これ以上ない職だった。
ずっとそれを目標として勉強を頑張ってきた。
ただ、自分がまだ16だと言う事が恨めしい。
早く大人になりたい。早く働いて、祖母を助けたい。
なんだか嫌な予感がするのだ。
こんな予感は外れて欲しい。まだまだ時間が足りないのに。
言い表せない不安が胸を押し潰しそうになる。
早く寝てしまおうと、蛍光灯の紐を引っ張った。
(私はいい子なんかじゃないよ、おばあちゃん)
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良かった。そういえば今日は土曜日だった。学校に行かなくていいのだ。
代わりにバイトがあるけれど。
今はもう、担任がユニコーンだったとか自分の前世が黒猫だったとかそういうのはあまり考えたくない。
だから今日は頑張って働いて現実逃避をしよう。いや、この場合は“非現実逃避”になるのか。
高校の前の駅よりは手前の駅で降り、近くのコンビニに行く。
例の『家から車で30分』のコンビニだ。かなめはここでバイトしている。
「あ、かなめさんだ」
入り口のドアから客が入って来た事を告げるチャイムが鳴り終わるまでに、男がレジに直進して来た。
「いらっしゃいませ」
「おはようございます、かなめさん。バイトしてるんですね」
「お客様、おタバコですか?ご雑談なら他所でお願いいたします」
「許可は貰っているんですか?」
「当たり前です」
「なら良いです。あ、タバコは吸いませんよ。僕は未来のお嫁さんと子供に受動喫煙をさせる気は全くありません」
何故、ここに、金城がいるのだろうか。