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月並亭にて。  作者: 灯子
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「そうですか。良かったです」



職員室の椅子にスーツ姿で座っている金城が柔らかく笑った。



.............




あれから何事も無く病院に着き、祖母は無事昼までに診察を受ける事が出来た。

診察室で医師に言われた事にかなめはひどくうろたえた。


『血圧が上がっていますね。もう1時間放っておいたら倒れてしまう所だったかもしれない。丁度来てくれて良かったです』


何故そんな事に。ああ、でも、間に合って良かった。


『大丈夫ですよ。お祖母さんくらいのご年齢の方には多いんです。川下さん、お薬をお出ししますからすぐに飲んで下さいね』


にこやかに笑う医師。若いが凄腕でしかも優しいと評判の様で、広くて綺麗な病棟に気後れしていた祖母も、この医師には安心して診てもらえると言っていた。きっと信用して良いのだろう。


薬剤師から薬を受け取る。医師の判断を聞いたのか、薬剤師は祖母に水を渡しながらその場で薬を飲む様促した。


兎にも角にも祖母は急激な血圧上昇による頭痛、酷ければ貧血で倒れるといった事態を免れた。




祖母を家に連れ帰し、布団を敷いて寝かせた。

薬も飲んだからもう大丈夫だ、と祖母は起き上がろうとしたがその度にかなめが再度寝かしつけた。

もう心配はないのかもしれない。祖母の寝息が規則正しくなっていくと供に安堵が広がる。

けれどかなめはどうしても祖母の傍を離れる事が出来なかった。



時計を見ると、かなめの勤務終了時間である15時を丁度回った所だった。




..............



職員室の冷房は今日もかけられていなかった。




「昨日は本当にありがとうございました」


「構いませんよ。大事にならないで本当に良かったです」


「あの、それで…」


聞きたい事が山程ある。


昨日は動揺と焦りで何も考えられなかった。けれど落ち着いた今は疑問しか浮かばない。


“何故、祖母が倒れると知っていたのか”

“あれからどうやって自分の代わりになってくれたのか”


その答えは彼がユニコーンだという事に関係するのか。



「昨日も少し言いましたが、僕は何か媒介さえあれば人を模擬する事が出来るんです。幻覚を見せて僕を貴女だと思わせたのです。だから別に貴女の脱ぎたての服を欲したのは厭らしい理由ではありません」


至極真面目な顔で言い切る。


「それじゃあその力で昨日はずっと私の代わりをしていてくれたんですか」


「ええ。途中で女性が来ましたがバレてはいませんでしたよ。安心して下さい」


「あの、ごめんなさい!」



勢いよく腰を折って叫ぶ様に謝ったかなめに、金城は一瞬驚いた顔をした後困った様に笑った。



「言ったでしょう。昨日は暇だったんです。それよりも貴女が悲しむ事にならずに済んで僕は心からほっとしています」


「それでも何かお詫びをさせて下さい。それから、助けて下さったお礼と」


「うーん。何もいらないんですけど、しいて言えば貴女が欲しいかな」



ここは早朝の職員室。その一角で教師が女生徒に盛大なセクハラ発言を放った。



「…………」


「あれ。ちょっと悩んでます?」


セクハラにはスルーに限る。


「先生は何故、祖母が倒れるって解っていたんですか。しかも時間まで」


「無視ですかぁ。まあ良いですけど。それも僕の力みたいな物ですから。貴女に関する事なら、過去も未来もある程度までは見えるんです。これでも一応人間なんですけどね」



かなめは耳を疑った。

幻覚を見せて擬態する事が出来る事も十二分に現実離れしているが、過去も未来も見えると言うのは一体どういうことだ。

この男は未来を何処まで分かっているのだろうか。


驚きと供に、知りたい気持ちが急激に湧き上がってきた。


「教えて下さい。祖母は、まだまだ長生きしますよね?」


「ええ。昨日の様な事は度々あるかもしれませんが、注意していれば大事にはならない筈です。そのためにあの病院を建てたんですから」


「そうですか。良かった…。って、え?病院?」



金城はいつにも増してにっこりと微笑んだ。



「変だとは思っていたでしょう?あんな辺鄙な場所に立派な病院が建つなんて、と。実はちょっと細工をしてまして」


にやにやと口角を上げるスーツの男を前に、かなめは倒れ込みそうになる所だった。

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