◆3章 トライアングル
次の車両にはおばさんが一人とサラリーマンが一人。どっちも心配そうな顔をしていた。
その次の車両には恐い男がいた。
亮輔にはヤクザか暴力団にしか見えず、亮輔は前を通るときにヒヤヒヤした。
そして一番端の車両には女の子が一人いた。
聡士がドアを開けた音にびっくりするぐらい緊張している。
案の定、聡士が話しかける。
「すごい地震だったね〜。俺ら、あっちの車両で会って、暇だったから来たの。小林聡士でコイツが清水亮輔。ヨロシクね」
「あ、はい、えーと、よろしくお願いします」
「名前なんていうの?」
「え、私?えと、大村空です」
亮輔と聡士は空の正面に座った。
「今日は学校ないの?」
亮輔が尋ねる。
「はい、創立記念日で休みなんです」
「そういや、清水こそなんで?」
「病院。手首ひねっちゃって」
「ふーん。で、俺は寝坊、と。偶然だなぁ。じゃ、ここで自己紹介でもしとく?これも何かの縁ってことでさ」
「別に俺はどっちでもいいけど。大村さんは?」
「えーと、じゃ、一応やりたいです」
「よし、決まり!まずは俺からね。小林聡士、17歳、高2、特技はマシンガントークと無遅刻無欠席。はい、次、清水」
「清水亮輔、同じく17歳の高2。特技はサッカー。あとは…特に特徴なし」
「最後は私?えーと、大村空、私も17歳で高2です。あと、特徴は……照れ屋なとこ…かな」
「おし、自己紹介完了!次は恒例の質問コーナー!じゃまず俺から。大村さんは彼氏いるの?」
「えっ…、そんなこと聞くんですか?」
空の顔はもう真っ赤になっている。
「えーっと……、まだいない…です」
「まだ?まだってことはこれまでもいなかったの?信じらんな〜い」
空はさらに真っ赤になってうつ向いてしまった。
「(なあ清水、ありえなくねぇ?大村さん、あんなかわいいんだぜ?)」
聡士が小声で亮輔に話しかける。
「(確かに可愛いけど、今はそんなんどうだっていいだろ)」
「(よくねぇよ。だってこれはチャンス…」
聡士の声をアナウンスが遮る。
『えー、先ほど起こりました地震によりまして、ただいま連絡の取れない状況となっております。ですので一度外に出まして、歩いて地上に出る道を探すことにいたします。繰り返します……』
「マジ?」聡士がいやそうな顔をした。
「外に出るのも電車の中にいるのも変わんねぇよ」
聡士はまだぶつぶつ言っている。
「いい加減諦めろって」
──10分前、集まった乗客に車掌は言った。
「これから二手に別れて線路づたいに歩いて脱出の手がかりを探していただきます」
そして、亮輔たちは恐い男と一緒に行動することになったのだった。