善意と気不味さ
くるしい
苦しい苦しいくるしい苦しいクルしい苦しい苦しいクルシイ―
カエリタイ
***
「りこちゃん、新しい学校にはもう慣れた?」
叔母さんがもう4度めになる質問をりこに寄越したのは、夕食のときのことだった。炊きたてのふっくらとした白米を茶碗によそいつつさらに、聞きなれた言葉を続ける。
「困ったこととかあったら言ってね。叔母さん、出来るかぎりりこちゃんに不便なく生活させてあげたいから」
「ありがとうございます―大丈夫です、みんな良くしてくれるから」
差し出された茶碗をどうも、と軽く頭を下げながら受け取って、りこはいつもと同じ文句を言った。
困ってたって言えるわけないじゃない、ただでさえ迷惑かけてるのに…。そう思いはするものの、それこそ居候の身で言えるわけがない。
りこは今、父の姉の家で世話になっている。母親はりこが小さい頃に交通事故で亡くなった。父は転勤が多く、転校ばかりでは可哀想だと、母が死んだ直後から父方の祖母の家に預けられっぱなしだった。その祖母も今年の5月に亡くなって、住む家をなくしたりこは、父の姉の家に住まわせてもらうことになったのだ。
叔母もその夫もとても良くしてくれたし、従兄弟にあたる2つ年上の翔太とも決して仲は悪くない。それでも、いきなり転がり込む形になった申し訳なさもあって、りこはどこか他人行儀な態度を崩すことが出来なかった。
「叔母さんはりこちゃんのこと自分の娘みたいに思ってるわ。だから、りこちゃんも叔母さんたちをもっと頼ってくれたら良いのよ?」
「そうだよ、叔父さんも叔母さんも、りこちゃんを大切な家族だと思ってるからね」
―だから、少し悲しげにそう言って微笑んだ叔父と叔母に、りこは曖昧に笑い返すことしか出来なかった。隣から翔太の視線も感じて、なんとも言えない気まずさを押し流すように、りこは口に含んだ夕食を無理やり飲み込んだ。