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プロローグ

2013年05月30日書き直し


現在、大規模な書き直し作業中です。


この後のお話と整合性が無い場合があるので、その点はご了承ください。

 人間はとても生きづらい生き物なのかもしれない。

 いや、社会が人間を生きづらくさせているのか。

 

 僕の名前は犬神史郎。今年で28に成るフリーターだ。

 

 フリーターとは聞こえが良いが、要は就職戦線から落ちこぼれた人間だ。

 

 時代が悪かったと言えば済むのかもしれないが、圧倒的に自分の怠惰でそうなったと、自分では思っている。


 大学に行くこともなく、高校を出てからも適当に就職はしてみたものの、適当に選んだ就職先には馴染めず、すぐに退職した。


 それからは、目的もなく、ただダラダラと日々を過ごすだけのつまらない人間に成り下がった。


 別にその前は、目標を持って充実した日々を送っていたわけじゃない。ただ、なんとなく生きていた事は変わりないのだが、多少の夢や目標もあった。 


 しかし、今はそれもどうだってよくなり、適当に人生を無駄に消費していた。 


 唯一の趣味は、幼い頃から好きだった考古学ぐらいで、それすらも学校で勉強したわけでもない中途半端な人間だった。

 

 そんな、夢も希望も目標も特に無い、ただひっそりと暮らしている一人の人間。


 それが僕だった。


 あの時までは…。


 あれは、久々に趣味のフィールドワーク(現地調査)をするために、古墳を訪ねて山奥にある神社に行くことにしたのが、そもそもの始まりだった。


 「ふぅ、やっと着いたか」


 電車で三時間、バスで二時間掛けて、人気のない寂れた山村に訪れるのは、僕ぐらいのものだろう。

 途中にあった道祖神に刻まれた年号を見ると、この場所が千年近く前からある古い村であることがわかる。


 何もない、鬱蒼とした森と、わずかに道路沿いにある、ひなびた商店を除けば、ここが平家の落人伝説の里の一つだと言われるのも納得できる場所だった。


 季節は春の初めの頃、まだ山奥では肌寒い季節だった。


 僕は重い荷物を担いで、目的の神社に向かった。

 この村の近くには宿泊施設が無く、キャンプ場が近くにあるぐらいで、それすらも河原を一般開放しているだけの、娯楽の御の字も無い場所だった。

 村に来た目的が、古墳の調査なので、こっちとしては気になる要素ではなかったが、お陰で今回はキャンプを張ることに成るだろう。

 背中に背負っているのは、その為のキャンプ道具一式だった。

 数日こちらで滞在して、古墳以外の寺社仏閣や、周辺の史跡を巡る予定だから、かなりの大荷物になってしまった。

 調査の時は、邪魔なので先にキャンプ場に預けてきても良かったが、逸る気持ちが僕を古墳へと誘った。


 こうした、自由気ままな生活ができるのも日雇い派遣的な派遣会社に登録して生活しているからこそできる、道楽だ。


 神社は、村の外れの山道を縫うように刻まれた石段の上に鎮座していた。


 この神社の歴史は古く、古文書によれば天正年間にはすでに存在していたらしい。

 神社の御神体を祭る岩屋が、僕が今回フィールドワークに訪れる予定の古墳だった。


 岩屋様とか、ただ単に岩屋と地元民から呼ばれるその遺跡。

 岩屋とは、古墳の石室が何らかの理由で後の世に暴かれ、名付けられる場合が多い。

 開発により、岩屋は今では余り見ることが出来ないが、奈良県明日香村にある石舞台古墳などがその典型だろう。

 

 この神社は、その岩屋の中に、御神体を収める小さな社があり、珍しい古墳であった。

 御神体とは、多くは鏡である場合が多い。それ以外には鉾や剣など、いずれも古代の権力の象徴的な物が祀られていることも多い。

 また、日本的なアニミズム信仰として、巨石、巨木もまた御神体として祀られることが多いのだ。

 

 僕はまず、神社の表、拝殿で参拝を済ますと、メインである岩屋へと早速向かったのだった。


 岩屋は思ったよりも小さく、こじんまりとした印象だった。縦が約3メートル弱、横が約1.5メートル強ほどの狭い入り口で、中はそれよりも広そうだが、ここからでは真っ暗闇で、それ以上の事は窺い知ることが出来なかった。


 用意していた懐中電灯で内部を照らすと、背負っていた、キャンプ道具一式を入り口を塞ぐ形で下ろし、懐中電灯で内部を照らし観察した。

 

この遺跡は詳しい調査がされていないせいか、ここの郷土史にも詳しい内容は書かれておらず、内部がどうなっているのか、またどういった状態なのかも、調査に来るまで不明だった。


 内部は奥行きは3.5メートルほど、幅は両手を広げて、指先が着くぐらいの岩屋としては広いモノだった。


 ライトに照らしだされて、御神体を祀る祠と、その土台と化している巨大な石棺が見えた。


 「う~ん、思ったよりデカイ石棺だな。こんな山奥にあるとは思えない規模だな」

 

 大きな石棺は、それだけでどれほどの権力を持っていた人物かが分かる代物だ。権力の象徴として、あるいはアニミズム的な巨石信仰からなのか、石棺はなかなか立派なものだった。


 僕は、一人でブツブツと言いながら岩屋の内部を丹念に調べて居た。ノミ跡が全くない綺麗な石積みで構成された岩屋は、古代の高度な技術を今に忍ばせる貴重な資料だ。


 早速取り出したデジカメで、岩屋内を撮影して、石積みの形状や天井の形を記録していく。

 メジャーで、岩屋の大凡のサイズを測定して、最後に石棺の調査に取り掛かった。


 「縦が4メートル11センチ、横が2メートル10センチと」


 石棺のサイズを測りながら、こんなことをやっている自分を冷静に見つめるもう一人の自分がモヤモヤと居るのが分かる。


 元々、考古学者にあこがれて、小さな時から色々なことを学んでいた。

 しかし、考古学者に成るためには、僕の苦手な数学や英語などの試験を経て大学の考古学科に入学する以外の道がないことを知って、すぐに諦めてしまった。


 諦められるぐらいなら、その程度だったのかもしれないが、それでも在野の考古学マニアとしてでもいいから、地味に調査研究をして、趣味として楽しむことを僕は選んだのだ。


 高校を出て、すぐに働き出して、安月給ながら比較的休みが取りやすい派遣の仕事を選び、こうして休の日にはフィールドワークに出かけるのが当たり前となっていた。


 「さて、とりあえず調査も終わったし。挨拶して帰るか」


 粗方の調査が終わり、入り口にあるキャンプ道具を背負って、御神体に最後に調査にご協力頂いた、感謝を述べようとして、僕は小さな祠の正面に立った。

 

 すると突然、金縛りにあったように動けなくなった。


 懐中電灯の明かりが消えて、視界は外からの僅かな光でかろうじて見える程度になる。

 

 その、光の筋が丁度御神体の鏡に差し掛かった途端、猛烈な光が辺りを包んだ。


 「うわぁ!?」


 突然のことに、僕は何も出来ずにただ眩しさと、足元がグニャリとした感覚を残して意識を失ったのだった。



 まぶしい……


 ここは……


 僕は一体……


 「(おい)」


 「うぅぅ……あれ?僕は一体」


 「(気がついたか)」


 「!?」


 「(何を驚いている?)」


 驚いたのである。兎に角驚いたのである。


 気がつけば、目の前に犬?顔の人が出現したのだから、驚かない方がおかしい。


 昔読んだ東方見聞録に、犬頭人と言う人間が居るって書かれていたが、もし目の前の人(?)がそうだと名乗れば、納得したであろう。

 しかし、現実にはそんな人間はいないわけで、すぐに被り物か何かと思ったが、口の動きと光沢が、とても精巧な動きと柔らかさを持っている舌が、発声される言葉が、僕にこれがキグルミではなく、もっとリアルな物であることを印象づけた。


 「あ、あの~」


 「(ほら、早く帰れ。ここは人間がおいそれと来て良い場所じゃない)」


 「それ、被り物ですか?」


 「(さっきから何言っているんだ)」


 言葉が通じず、お手上げである。

 

 取り敢えず状況を整理しようと、僕は目を瞑り考え始めた。


 「(おい、どうした?具合でも悪いのか)」


 犬顔の人が何か言っているが、それすらもあえて無視して考えに没頭する。


 えっと、まず神社に行って、そんでもって岩屋を調査をしてたんだよな。それから……


 完全に自分の世界に入ってしまった僕だったが、しびれを切らした犬顔の人によってその思考は中断された。


 「(おい!)」


 「うぁぇ!!」


 「(いい加減にしろ、ここは神聖な場所なんだ。何時までも人間に居られるのは迷惑だ)」


 「あ~えぇっと……言葉通じませんよね…」


 犬顔の人が、何に対して怒っているのか分からず困惑する僕に、相手は若干苦い顔をして改めて問いかけた。


 「(お前、捨て人か?)」


 「……」


 「(はぁ……、捨て人なら帰れとも言えないな)」


 「あの、ここはどこですか?」


 「(仕方ない、村まで一緒に来い)」


 結局、僕は犬顔の人に連れられて、その場を後にするのだった。

 

 今まで混乱して気づかなかったが、今居た所は例の岩屋と同じ作りの石室のような場所だった。

 人が数人入ればいっぱいいっぱいな感じで、入口正面から奥に、壁を掘り抜いて作られた祭壇らしきものがある。

 そこには、綺麗に光を放つ謎の石が置いてあり、他には下に敷く布と石を置く台座ぐらいだった。 

 

 犬顔の人に引っ張られるように歩かされながら外に出た僕は、すぐに周囲を観察した。

 すると、ある違和感に気づいた。

 今まで居た場所なら当然あるはずの、拝殿や神社の建物はなく、見渡す限りの森林が、そこにはあった。

 そこから、一本の獣道のような細い道がかろうじて見える以外は、何もわからない。


 そして、別の違和感が襲ってきた。

 

 植生が……違う?


 明らかに生えている植物が、今まで居た場所の植生と違っていた。

 

 考古学をやる上で動植物もある程度詳しくないといけないので、勉強しているが、そんな勉強をしていない素人でも分かるくらい、日本では見たこともない植物が、生えているのがわかった。


 ただ、全く違う植物がある反面、見知った植物もちらほら見えるので、それが僕を混乱させた。


 ここは一体どこなんだ!?


 そんな感じで、ぼんやりと考えていると、犬顔の人が何か喋りかけてきた。


 「(お前はしばらく村で預かった後、人の居る場所まで送る)」

 

 「すみません、さっきから何を言っているのかわからなくて……」


 相手が話しかけてきても、こちらはさっぱりわからず、相手もこちらの言葉がわからない。


 学校で、語学の成績が悪かった僕だけど、流石に多少の外国語は聞き取ることができる。


 空港でアルバイトしていた時に、世界中の色んな国の言葉で話しかけられ、なんとかジェスチャーと英単語だけで乗り切った事を思い出して、必死に彼が何を話しているのか聴こうとしていた。 


 しかし、それ以降彼は何も喋らず、僕の手首をしっかりと握って、ずんずんと獣道を進んでいった。


 やがてなだらかな下り坂だった道が平坦になり、森が薄くなっていった。


 遠くに開けた場所が見えてきた。


 そしてしばらくすると、村らしき場所に到着した。

 

 なんで、そんなに曖昧な表現なのかといえば、明らかに自分の知っている村とは違ったからだ。


 まず、家がすべて竪穴式住居そのもので、住んでいる人も、見える範囲の人(?)が犬顔だったのだ。


 家の数は全部で30ほどあろうか、どれも授業で習った縄文人の暮らしに出てくる様な作りで、風雨をしのげるのか、若干不安を覚えるほど、作りは荒く、粗野だった。


 なんだここ……テーマパークか?


 僕が困惑していると、一人の子供らしき犬顔の人が駆け寄ってきた。


 「(ロウヤおかえり~)」


 「(元気にしてたか、ちびすけ)」


 「(うん!)」


 「(そうか)」


 「(ロウヤ、後ろのそれは?)」


 先程から手を放して、子供(?)と思われる犬人(僕命名)と自分を連れてきた犬人が、何か喋っている。


 懸命に聞き取ろうとしても、全く意味が解らず頭が痛くなりそうだ。


 どうして、こんな事になったんだ?僕はどうなるんだろう?……

 

 心の中は不安でいっぱいだった。特に明らかにおかしい現状に僕は段々と心の余裕が奪われていった。


 「(あぁ……こいつはちょっと分けあって、村に連れてきたんだ)」


 「(そうなんだ、こんにちは兄ちゃん!)」


 「うわぁ!」


 突然犬人の子どもが、僕に飛び掛って来たので、とっさに避けてしまった。

 犬人の子どもは、よほど運動神経がいいのか、転びもせずに体を捻らせ体勢をすぐに戻して振り返った。


 「(ひでぇな兄ちゃん。怪我したらどうするんだよ)」


 「あの……お願いです、どうか僕を元の場所に返してください……返して……」


 「(お、おい、どうした?)」


 そこで僕は、ついに心の限界が来たのか、突然泣き出してしまった。


 涙は次から次へと流れていき、留まる所をしらないかのように溢れ、顔を濡らしていった。


 その後は、号泣して泣きじゃくる僕と、それを必死でなだめてくれる犬人さんという状態だった。


 結局泣き、つかれた僕は、そのまま意識を失った。


 寝れば、寝ればきっとこの世界から抜け出せる。そうこの世界は夢なんだと言わんがばかりに……。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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