表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

予想外×急展開!

「……何者ですかあの人は」

 ぐったりと息をつきながら椅子に倒れこむ私を、真雪さんが苦笑で見つめる。

 ここは、駅ビル内のファーストフード店。あれから更に買い物を進める千佳さんのパワフルさについていけず……こうして早々にダウンしている私なのである。

 4人掛けのテーブル、放課後なので制服姿の高校生が目立つ店内。女子高生の生足を目で追いながら、ちらりと、横の椅子に置いた紙袋も見つめてみる。

 そう、私の横には大きな紙袋が二つほどある。コレは勿論、千佳さんに「沢城都、女性化計画」(自分で言ってて悲しくなる言葉だわ)の一環として猛烈にプッシュされた結果購入することになった、「普段の私では絶対に買わないような洋服たち」である。

 あぁ、バイト代……コレ、一着でコミック何冊分だろう、そう計算してしまう自分がセコイ。

 それにしても、こんな場所で綾美と大樹君に会うとは思っていなかった。二人が一緒に行動するのは日曜日か夕方以降だと勝手に思っていたので、平日の昼下がりに歩いている二人には、妙な違和感を感じるというか。

 ……まぁ、あの場に千佳さんがいなかったのが不幸中の幸いだろう。あの3人は同じ空間に存在させちゃいけない気がする。でないと私、きっと、もたない。

 ちなみに今、ココにいるのは私と真雪さんだけ。千佳さんは「チェックしておきたい店がある」と言い残し、疾風のような速さで消えてしまった。

 その間、私達は休憩タイム。真雪さんもまた、千佳さんの買い物に巻き込まれて……可愛い黒のスカートを買っていた。

「都さん、千佳は強引だから、嫌なときははっきり言っていいのよ?」

 ブラックコーヒーをすすりながら、真雪さんが申し訳なさそうに提案してくれる。

 だけど、私はコーラをすすってから首を横に振り、

「私が女らしくないのは……事実ですから。薫からも言われてるんですよ、俺がスカート買ってやるからって。男性ってどうしてスカートが好きなんでしょうね?」

 そう、今まで何度言われただろう……実現してないけど。

 私が彼の名前を出すと、真雪さんはとたんに苦い表情になって、

「さっきは……本当にゴメンなさい。千佳を止めたんだけど、一旦決めたら他人の忠告なんか聞かないから……」

「え? あ、あぁ……気にしないでください。多分、結果は同じですから……」

 おそらくさっきの電話のことだろう。私が慌ててフォローすると、

「都さんは本当に……愛されてるのね」

 目を細めて呟く真雪さん。その綺麗な表情に一瞬見とれてしまった自分は正常だと信じている。

 店内は若者の雑音に満ち溢れていた。この場所なら、多少の話はかき消されるだろう。そう思った私は、一度、呼吸を整えて、

「あの……真雪さんは、千佳さんと一緒に住んでるんですよね?」

 私の直球な質問にも動じることなく、穏やかに頷く真雪さん。

「千佳から、ある程度の話は聞いていると思うわ。私の親は、二人とも教師なんだけど……ある日、父さんが連れてきたのが千佳だった。千佳はその時、生家とは絶縁状態で……身寄りがなかった。私は、そんな千佳に自分を重ねたの」

「自分を、重ねた?」

「親が教師なんて職業だとね……どうしても、周囲から妙なレッテルつきの視線で見られている気がするのよ。勿論、私は両親を尊敬しているわ。だけど、それとコレとは別問題。私は「上田真雪」じゃなくて「上田先生の娘さん」としてしか見られてないんだって、ひねくれた考え方しか出来なかったから」

 それは、周囲の言葉が重くてたまらない幼少時代。

 両親という模範を知っている人間が浴びせる悪意のない言葉が、彼女の世界を狭めていく。

 何か、両親の名に見合うだけの実績を残さなければならない、そんな無言のプレッシャー。仮に周囲が「そんな気はない」と言っても、それはもう、彼女に届かない。

 そんな悩みを親に相談できるはずもなく、世界は、狭くなっていく。

「けれど、千佳は、最初から私を「上田真雪」として見てくれた。まぁ、最初は互いにギクシャクしてたけど……千佳、周囲を巻き込む力があるでしょう? 私も「彼女」に巻き込まれて……ようやく、世界が開け始めたの」

 私の父親はサラリーマンだし、母もパート勤めだから……上田先輩が経験してきた思いを、完全に理解することは出来ない。

 ただ、感覚として分かるのは……最近、私の近くにも、そんな人が出現したから。

 外見で判断されてしまう、自分の内面を偽りながら世界と接してきた、そんな彼を、よく、知っているから。

「……薫も、そうなんです。彼、無駄に顔と性格が整ってるから……優しすぎるから、周囲の高い理想に合わせようと頑張って、自分のことは顧みずに他人ばっかり気にして、自分のせいで他人を傷つけるくらいなら平気で自分にナイフを突き立てる、そんな人、なんです……」

 そう、なんて不器用な人なんだろう。

 真っ直ぐ進むことしか知らない彼だから、私は、目を離すことが出来ない。

 これ以上、彼を傷つけたくないから。

 薫は今まできっと、いろんなことに耐えてきたはずだ。だから、私と一緒にいる間は何も我慢しなくていい、何も偽らなくていい、そんな関係にしたいと……私は、思っているから。

 頭の中に彼の顔が浮かんだ。早く会いたい、そう思ってしまう。

 そんな私の心情を察したのか、おもむろに真雪先輩が立ち上がり、

「私も、千佳から間接的にしか聞いたことがないんだけど……今から会わせてもらいたいな、新谷君に」

 そう言って、荷物を持った。


「で、でも……いいんですか? 千佳さんを置いてきちゃって……」

「大丈夫よ。子どもじゃないんだから」

 あの後、真雪さんに連れられて私は大学付近まで戻ってきた。当然、合流できなかった千佳さんは放置プレイ。真雪さんがメールを送っていたが、どんな返信が戻ってきたのかは分からない。

 二人で荷物を抱え、毎度おなじみ、大学から一番近いコンビニの前で、

「じゃあ、私も荷物を置いてくるから」

「そういえば、真雪さんはどこに住んでるんですか?」

 素朴な疑問に首をかしげると、彼女は笑顔で国道の向こう、学生というよりも家族向けのマンションを指差して、

「あそこ、家族向けのマンションなんだけど……家賃を2で割っても3万円なの。ルームシェアしてる学生も結構多いみたいよ」

 安いな。やっぱりルームシェアって条件が当てはまれば効率的だと、私も薫と何とかならないかと、本気で思ってしまう。

「でも……真雪さん、やっぱり着替えてこなくちゃダメですか?」

「折角の機会だもの。それに、新谷君を喜ばせたくて色々買ってきたんでしょう? だったら、その目的は達成しないと」

 笑顔で諭され、しぶしぶ頷くしかない従順な私。

 そんな私の姿を見た真雪さんは、「大丈夫。試着したときはすっごく似合ってたじゃない?」と、やっぱり笑顔で勇気をくれて、

「じゃあ、またココで会いましょう」

 私達は、一旦それぞれの家へ戻ったのである。


 私の家――要するに寮へ戻ってきた私は、とりあえず持っていた荷物を床に置き、ベッドの上に座って息をつく。

 床に置いた紙袋、その中には色々と入っているのだが……うぅ、コレを着て今から外に出るのか。今まで積極的に着てこなかった服装たちには、やっぱり少し抵抗がある。

 いや、別にゴスロリとかじゃないんだけど……でも……。

「――都ちゃーん、奈々ですけどー?」

 と、ノックと同時に毎度おなじみの声が廊下から響く。私が「どーぞ」と返答すると、「はーい、毎度おなじみ、奈々の洗濯デリバリーだよー」と、私の洗濯物一式をたたんで持ってきてくれた幼馴染系の彼女が笑顔をのぞかせた。

 ちなみにこの寮内、洗濯は備え付けのコインランドリーである。私は今まである程度まとまってから洗濯していたのだが、奈々と割り勘するようになってから、今日のように洗濯から乾燥まで、全てを彼女に任せてしまっているのが現状である。

 ……情けないけど。

「毎回毎回、ありがとね」

「ううん、奈々も好きでやってるから……あれ、都ちゃん、買い物行ってたんだね。しかも珍しく、ユニクロの袋じゃない……」

 私の服の好みまで把握している彼女が、軽く目を見開いて、

「ね、ね、見てもいい?」

「へ? 別にいいけど……」

 すっかり好奇心の塊になった奈々が、とりあえず自分の近くにあった紙袋を手に取った。

「なっにが出るかなー? なっにが……あぁっ!? み、都ちゃんがスカート買ってるーっ!?」

 まさにお約束の反応。袋の中からそれを引っ張り出し、ベッドの上に広げる。

 そして自身もベッドの淵に座り、それを目線の高さまで持ち上げた。

「しかも可愛いし! これ、絶対都ちゃんのセンスじゃないよね!?」

「……悪かったわね、その通りよ」

「やっぱりー。しかも安い! この手のスカートだと、バーゲンでも5000円はすると思うよー?」

 戦利品一品目は、マジョリカプリーツ……っていうんだって、普通のプリーツよりも細かくて、ふわっと揺れると可愛いんだけど……のミディアム丈シフォンスカート、色は白だが、透けないようにレースのあしらわれたペチコート付き。重ねて着るとスカートとして、外側だけならジーンズと合わせても可愛い一品である。

 ……勿論、これから「スカート」として着用しなくちゃならないんだけど……。

 ちなみに、値札に書かれた値段は2500円。

「駅の近くにアウトレット専門のお店があって、そこで買ったよ」

「いいなぁ……今度は奈々も連れて行ってねー」

 中から一緒に買ったボーダーのカットソーも取り出し、私の予想外の戦利品を羨ましそうに見つめる彼女だが、

「じゃあ、コッチは何だろ……って、えぇっ!! 奈々、今日はもう驚かないって思ったけど、コレはちょっとびっくりだよ!?」

 もう一つの紙袋には、靴下3足(1000円)と、1980円のエナメルパンプス(色は緑)と……最初にゲットした、アレだ。

「み、都ちゃん……そりゃあ、都ちゃんは彼氏もいるし胸も大きいから、下着は重要だと思うけど……でも……うぅ、都ちゃんが急に大人になったみたいで、奈々は寂しいっす」

 それらを丁寧に袋へ片付けながら、奈々の大きな瞳が、上目遣いで私を見つめた。

 ……その可愛さ、反則だから。

「そ、そんな大げさな……」

 よよよ、と、わざとらしく目を伏せながら悲しく呟く彼女に突っ込んで、

「奈々は……その……コレ、どう思う?」

「どうって?」

「あ、いや、だから……こんな下着だったら、薫、喜んでくれるかな、とか……」

 羞恥プレイ覚悟で尋ねる私に、彼女は「そりゃあ勿論!」と拳を握りしめ、

「都ちゃん、軽く3日は拘束されるかもね」

「え。」

「だぁって……いきなり女の子を意識した都ちゃんを見たら、新谷君だって嬉しいはずだよ。でも、他の男の人に見られたくないって思って、外に出られなくなるかも」

 奈々が言うには、「コレが少女漫画に出てくる、王道なヒーローの心境なんだよ」と、人差し指をぴっと立てて、

「でも……奈々は嬉しいな。都ちゃん、すっごく可愛いんだもん」

「そうかな……私には、奈々の方が可愛く見えるけど」

「ううん、都ちゃん、恋する乙女って感じで萌え萌えだよぉ。奈々は、そんな都ちゃんを見ているのが楽しいのだっ」

 萌えという言葉を私に対して使うべきなのか悩むところだが、奈々が喜んでいるならそれでいいことにする。

 先ほどのスカートを相変わらずじぃっと眺めている彼女は、不意に、何かを思いついて顔を上げ、

「もしかしてコレ、新谷君に買ってもらった?」

「ううん、全部自分で買ったけど……」

「じゃあ、今から新谷君に会いに行くんだねっ!!」

 途端、彼女の目が発光ダイオードよりも輝いた。

「ってことは、都ちゃんは今日もお泊りかぁ……あ、勿論この下着は持っていくんだよね? 都ちゃんはズボンに慣れちゃってるから、いくら新谷君の前でも足を広げたりしちゃダメだよ?」

 まるでお母さんのように、あれやこれやと考えてくれる奈々。

 私が圧倒されながら頷いていると、彼女は不意に顔を近づけて、

「……奈々が使ってるグロス、使う?」

 ポケットからリップグロスを取り出し、手渡してくれる。

 ラメの入ったピンクのグロスは、やっぱり普段、私が買わないような一品なのだが、

「これで更に魅力増大で、新谷君をメロメロにしちゃおう!」

 笑顔でガッツポーズを作る奈々につられて、私も笑顔になる。

 私の周囲には相変わらず、頼もしい友人しかいないのであった。


 ……慣れない。

 スカートをはいて外を歩く、という経験は高校生以来であるような気もして……ミニスカートをはいているわけでもないのに、違和感ばかり感じてしまう。

 っていうか、足元パンプスとかいつブリだろう……高校時代もスニーカーで自転車をこいでいたので、こんな浅い靴を履いたのは本当に久しぶり。いつか慣れるかな、想像できない自分の姿に歩きながら苦笑してしまう。

 色々と荷物の入ったトートバッグを持ち直し、靴が脱げないようにと意識しながら歩みを進める私。

 とりあえず、私は再びコンビニに向かっていた。そこで真雪先輩と合流して、薫を呼び出して――という打ち合わせ。真雪先輩は薫に会ってどうするつもりなのだろう……クールかつ真意の読めないビューティーな方なので(意味不明……)、千佳さんじゃないんだから大丈夫、と、よく分からない言葉で自分を納得させようとする私なのである。

 寮とコンビニは一本道である。だからこのまま直進すれば――


「ちょっと……いい加減にしてください……!」

 消え入りそうな声が聞こえてきたのは、丁度その時。

 私は思わず立ち止まり、改めて、耳を澄ませる。


「手……離して、離してくださいっ……!」

 何だろうこのシチュエーションは。まるで女の子が無理やり連れて行かれそうになっているようだ。

 空耳でないことを祈りながら、注意深く、周囲を見渡す。

 大学が講義の時間なので、周辺に学生の姿はない。自転車で通り抜ける人はいるけど、彼女の声に気が付いているのは私だけみたいだ。

 もう一度、眼鏡の奥にある視力が限りなくゼロに近い瞳で注視する。少し先に、学生用のマンションへ続く細い脇道があるけど……でも、まさか。

 その分岐点まで近づき、問題の道へ足を踏み入れる。この路地は国道と繋がっていて、コンビニを頂点にした三角形の底辺みたいな位置にあるのだが。

 人の通りはない。聞き間違いだと思った次の瞬間、


「林檎ちゃん?」


 私は発見してしまったのだ。

 学生用マンションの非常口で見知らぬ男性と押し問答になっている……彼女の姿を。


 私の声に気が付いた両名が、思いっきり私を見つめる。

 手前に入るのが林檎ちゃんだ。今日も相変わらず美少女。やっぱりスカートはこういう可愛い子が着るから可愛いのだと妙に納得してしまう相変わらずの私。

 そして、彼女の向こう側、見知らぬ男性が一人。

 背丈は小柄な彼女よりも高いが……せいぜい私と変わらないくらいだろうか。中肉中背、服装はポロシャツで(下まで見えない……)前髪が目をすっぽり覆い隠すほど長く、イマドキそんなエロゲーの主人公いないよと突っ込みたくなってしまう。

 私は少し表情を引き締めながら、二人に近づいた。

「そんなところで、何してるの?」

 口ではそんなこと聞いているが、怯えきった彼女の表情を見れば、事情などすぐに察知してしまう。

 彼を睨みながら距離を詰める私。武器の類を持っている可能性は否定出来ない。ナイフなんか取り出されたら厄介だ。何をするのか分からない、そんな雰囲気を感じる人だから。

 大きな声を出そうか、それとも警察を呼ぼうか、私が本気で思案した、次の瞬間、


「そ、そうよ……彼女なら漫画とかゲームとか好きだしっ! す、スタイルだっていいから私なんかよりずっと適役だと思うんだけどっ!」


 多少上ずりながらも大声でそういう林檎ちゃんは、隙を突いてその場を離れると、唐突に私の背後へ回りこみ――


「うどわっ!?」


 いきなり背中を押されて、ただでさえ気をつけていた足元が脅かされる。

 そのまま体は前のめり。咄嗟に地面への転倒こそ回避できたものの、気が付けば位置関係が大きく逆転していて。

 私の目の前に、外見がギャルゲー主人公な人物がいて。

 私の背中にいたはずの林檎ちゃんは……猛ダッシュでその場から逃げ去っていたりして。


 状況を理解で生きない私の手を、目の前の人物が思いっきり掴んで、

「……まぁ、素材としては問題ないかな」

 ぽつりと呟くと、半ば放心状態である私の手を強引に引いて、見知らぬマンションの中へ引っ張っていく。


 ……私、これからどうなるの?


唐突な急展開ですが……さて、さらわれた都はどうなってしまうのか!?

18禁ではございませんので、そーゆー展開を期待した人は正座です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ