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沢城都改造計画

 かくして。

 沢城都は、男性であるはずの千佳さんから「女らしさ」を伝授されることとなったのであった。

 ……それでいいのか?


「おーい、都ちゃーんっ!」

 運命の日、私が集合場所へ5分前行動で行ってみると……既に準備完了の千佳さんが大きな声で手を振ってくれる。

 そして、

「……千佳、騒がしいわよ」

 元気な千佳さんをジト目で見つめるのが、こうやって会うのは初めての真雪さん。

 駆け寄る私の全身を、千佳さんがじぃっと観察するように眺め、

「まぁいっか、どうぜ全身コーディネートだし」

 本日の私の格好は……えぇっと、普段着のパーカーとジーンズなんですけど。

 ちなみに千佳さんと真雪さんは、それぞれ対照的な美人さん。千佳さんは黒いベロアのジャケットに白いブラウス、足元はスキニージーンズに濃いブラウンのハーフブーツでキメ。対する真雪さんは濃い緑のバルーンスカートのワンピースに白のウェスタンブーツ。羽織っているボーダーのカーディガンも可愛い。

 ……っていうか私、場違いな気がしてるんですけど。

 私を見つめて「うむうむ」と考える千佳さんの横から、真雪さんが私を見つめて、

「えっと……都さん、ゴメンなさいね、千佳に付き合わせてしまって」

 落ち着きのある、それでいて透き通った声で話しかけられ……思わず赤面しそうになる。

 い、いるんだ……天然でこんな声の人。直感的に大原さやかさんみたいな感じだと思った。分かる人だけ脳内でうなづいてくれればそれでいい。

「初めまして、ってわけでもありませんけど……沢城都です」

 私が慌てて自己紹介すると、真雪さんもまた、その表情に綺麗な笑顔を上乗せして、

「上田真雪です。今日はよろしくね、都さん」

 ……ヤバイ、このお姉さん私のストライクゾーンど真ん中だ。

 理想のお姉さん像そのものである真雪さんに話しかけられ、私の脳内がざわめき始める。

 私が真雪さんに色々な妄想をしていることなど、多分、当人を含む目の前のお姉様方は知るよしもなく(いえ、むしろ知らないでいてください……)、

「よし、自己紹介もすんだみたいだし……早速出かけますかっ」

 千佳さんを先頭に、繁華街へと繰り出したのだった。


 大学生が買い物をするメインスポットは、大学からバスで数十分のところにある駅ビルや周辺の百貨店、セレクトショップが中心だ。

 ……まぁ、私の場合もそうなんだけど、特に決まった店で買うとか特定のブランドが好きとか、そういうわけではない。あえて好きなブランドを上げるとすれば……ユニクロ? うん、安いしシンプルで大好きだよ?

 駅近くのショッピングビルにユニクロが入っているから、そこでトップスから下着までまとめて買って終了。いっつもそんな私なので、

「……あの、千佳さん……ココですか?」

 駅から少し離れた商店街の一角、個人経営のランジェリーショップ……。

 ショーウィンドウの向こうには、各メーカーが趣向を凝らした今年最新モデルの下着がずらり。閉ざされた扉を開けは、その先はまさに男子禁制のパラダイス?(いや、今から思い切り突撃するけど)普段なら絶対素通りする店の前につれてこられ、思わず足元がすくんだ。

「この店はね、あたしの知り合いが経営してる店なの。値段もお手ごろだし、品も確かなんだから」

 店の前、笑顔で紹介してくれる千佳さん……。でも、いきなりココですか。

「都ちゃん……聞くけど、一番最後にバストサイズ測ったのはいつ?」

「え? えぇっと……いつだろ。高校卒業したくらいだから……」

「うっわ半年以上前? っていうかその頃からその大きさなの?」

 何か悪いんですか。

 感心するように見つめる千佳さんの頭を、横から真雪さんがべしっと叩いて、

「千佳、みっともないわよ。都さんが困ってるでしょう?」

「でも真雪、コレは測定しがいがありそうよー。要するに、新谷君と付き合い始めてから初めてってことだもんね」

「ハイハイ分かったから。とりあえず、雑談は中に入ってからね」

 別の意味で興奮し始めた千佳さんの首根っこを掴み、そのまま中へ入っていく千佳さん。

 立ち往生しているわけにもいかず、私も慌てて二人に続いたのだった。


「あら、千佳ちゃんに真雪ちゃん。お客さん連れてきてくれたのね★」

 きらびやかな店内、色々眩しい店内……思わず目をそむけたくなるのは、普段私があまりに無頓着だからでしょうか。

 今のところお客さんは私たち3人だけ。そんな私達の気配に気が付き、店の奥から出てきた女性がスマイルでお出迎え。

 外見年齢は25,6歳くらいだろうか。一つにゆるく結った長い髪の毛、ふっくらした女性らしい体系に薄水色のワンピースがよく似合う。北都南さんばりのアダルトな声に(分かる人だけ分かってくれればいいです)、柔和な風貌。真雪さんとは違う、おっとり天然お姉さんタイプだ。これはこれで大好物の属性。思わずじっくり観察したくなる……。

 と、千佳さんが後ろにいる私を強引に前へ引っ張り出し、

「早苗さん、早速だけど……彼女の、都ちゃんに合うサイズでお手軽価格、なおかつ彼氏を悩殺する勝負下着、お願いしますっ!」

「へ!? あの、ちょっ……!」

 色々言いたいことはあるのだが……彼氏悩殺の勝負下着って何ですか!? しかも結構注文多いですよね!?

 思わず言葉を失って固まる私を、おそらく店主の早苗さんが「そうねぇ……」と見つめ、

「都さん、今、サイズは何をつけてらっしゃるの?」

「え、えっと……確か、75のDだったような……」

 ……うろ覚えでゴメンなさい。

 ちなみに、胸のサイズはトップとアンダーの差で決まるんだけど……まぁ、こんなことまで説明しなくてもいいでしょう、多分。

 あははと誤魔化すように笑う私に、早苗さんはカウンターにおいてあるメジャーを手に取ると、

「じゃあ、ちょっと……奥で測ってみましょうか。真雪ちゃん、千佳ちゃんが覗かないように見張っててね」

「分かりました」

 当たり前に返答した真雪さんは、既に店内をウロウロしている千佳さんへ近づいていく。

「じゃあ、奥の試着室へどうぞ」

 私は早苗さんに導かれ、カーテンの向こう側へ。


 そして。


「……嘘でしょう……」

 私が乾いた声で呟き、

「ほらね! やっぱりあたしの言ったとおりだった!」

 千佳さんが「どーだ」と言わんばかりに胸を張り、

「おめでとう、と、言うべきなのかしら……」

 真雪さんが頑張って言葉を選び、

「結果から言うと、都さんは75のEが丁度いいと思うの」

 メジャー片手ににっこり微笑む早苗さんの言葉が、今回の測定結果そのものである。

 お、おかしい……そんな、どうして? 頭の中で色々考えても答えが見つかるわけのない問題。

 胸が大きくて何が嫌なんだ、と、思われるかもしれない。ただ……私は巨乳を愛でるのは好きだが、自分がそうなりたいとは思わなかった。ただでさえ長時間のパソコン使用で肩こりなのに、それがひどくなるかもしれない。それに……まぁ、周囲の目とか、色々気を遣わなくちゃならなくなるし……。

 ……今後、絶対ネタにされるし。

「えぇっと……確か、彼氏悩殺の勝負下着を探しているのよね?」

「えぇ!? いや、普通のTシャツブラとかでいいんですけど……」

 店内をふらりと見渡して考え込む早苗さんに、慌てて訂正を入れる私。

 だが、

「何言ってるのよ都ちゃん! 新谷君には既にあたしから電話連絡しておいたから、彼の期待に応えてあげないとっ!!」

 何ですと!?

 思わず持っていたトートバックを取り落としそうになる。すっかりハイテンションな千佳さんの横にいる真雪さんが、申し訳なさそうな目で訴えていた。

 「ゴメンなさい、止められなかった」……と。

「あのあのあの、千佳さん……薫に、何を伝えたんですか?」

「うふふ、都ちゃんがすっごい「せくすぃー」になって新谷君においしく食べられる準備中だから、君はいろいろ想像しながら、取り皿とナイフを持って待ってればいいよ、ってね」

 何ですかそれは。

 っていうか……普通に取り皿とナイフ持って待ってそうなんですけど、私の彼。

 逃げられないことは分かっているつもりだった、だけど遂に、絶対に逃げられないことを悟るしかなかった。

 私は一度だけ、深く息をつくと……顔を真っ直ぐ上げて、

「こーなったら……薫を一発で悩殺して気絶させてやりますっ!!」

 昇天、とまではさすがに言えませんが……えぇい、自分の属性を思い出せ。私は攻めだ、攻めの都のはずだっ!!

 自分によく分からない暗示をかけて気分を盛り上げる私に、千佳さんは指をパチンと鳴らしてウィンク一つ。

「よっしゃ! そうと決まれば……早苗さん、あたしはやっぱり「アレ」しかないと思う!!」

「ふふ、「アレ」ね」

 二人の間で共通認識の「アレ」が何なのか、私には勿論分からないのだけど……。

 ちらりと真雪さんに視線を移すと、目を伏せてうつむいていた。

 ……えぇと、どういうことですか?


 案の定、

「ちょっ……! ちょっと待ってください千佳さん早苗さん! そ、それは無理です絶対無理です!!」

「じゃあ、コッチならまだ大丈夫でしょ?」

「いや、布の部分が明らかに少なすぎるし……」

「都さん、コレが今年のトレンドよ★」

「あのスイマセン……私まだ、そんなに大人じゃないんですけど……」

「都ちゃん、いっそコレなんかどうだ!?」

「せめて下着としての意味をなすモノを持ってきてくださいっ!!」

 ……真雪さんが目を伏せた理由を、その身で痛感する私なのである。


 両者の激しい攻防から数十分後、

「結構普通じゃない? それ」

「私にしてみれば大冒険です!!」

 互いに色々妥協した結果、私は新しいサイズの下着(上下セット)とキャミソール(ってことにしよう)を購入、これで総額3800円は大分安い。

「折角だし……もうセットしておく? 新谷君がすぐ堪能できるように★」

「……いいえ結構です謹んで遠慮させていただきます」

 おつりを財布に片付けながら、後ろから興味津々に囁く千佳さんの申し出を丁重に辞退。

「千佳、いい加減にしなさい」

 さすがに呆れた真雪さんが諌めるも、「だって、楽しんだもん」と実に彼女らしい言葉を返される。

「よし、次は服装ね! 都ちゃん、真雪、行くわよっ!!」

 相変わらずパワフルな彼女を、早苗さんは終始、笑顔で見つめていた。

 既に意識が次の店へ向かっているため、その姿は店の外、切り替えの早い千佳さんを追うべく、私も早苗さんに会釈して、

「――都さん」

「はい?」

 不意に早苗さんから呼び止められた私は、

「今度は是非、噂の彼氏さんと一緒に来てくださいね」

「……考えておきます」

 とりあえず、引きつりながら笑ってみた。


 さぁ、まだまだ買い物は始まったばかり。次の店へレッツゴー!!

 ……と、一人だけ元気なのは先頭を歩く千佳さん。その数歩後ろから、既に色々流されかけている私と、そんな私を気遣う真雪さんが続く。

 一同は商店街から再び駅前へ戻ってきた。どのデパートへ入ろうか、案内板の前で立ち止まって最短ルートを頭の中で思い描く千佳さんに、ようやく休憩できると心の中で安堵したのも、つかの間。

「あれ、都……?」

 不意に横から声をかけられ、誰だと思って顔を向けてみれば。

「綾美、大樹君」

 昼間から二人でお出かけという珍しい場面に遭遇し、少し間の抜けた声で名前を呼んでしまった。

 ロングカーディガンにスキニーデニムの綾美と、デザインTシャツに濃紺ジーンズの大樹君。どこからどう見ても均整の取れたカップルである二人は、私の横にいる真雪さんに気が付き、

「都ちゃん、薫は?」

「え? あ……今日は薫と一緒じゃないの。大学の先輩と一緒で……」

 ちらりと視線を向けると、軽く会釈する真雪さん。

 二人は少し意外そうな顔で私達二人を見つめ、

「へぇー……綺麗な先輩ねぇ。都、いかにもアンタが好きそうなタイプの……」

「あーやーみっ!!」

 さすが親友、私の嗜好から余計なことまで口走ろうとした親友を大声と殺気を込めた目線で制し、

「ふ、二人はデート? こんな場所で会うなんて、奇遇ねー……」

「そうなのよ、丁度トーンとインクが切れちゃって……夏コミの委託販売をあさるついでに、町へ繰り出してきたって訳」

 お願いだからそんな専門用語並べないで!!

 何の躊躇いもなく饒舌に語る綾美を、隣にいる大樹君は止めるどころか、

「そういえば都ちゃん、今更だけど「School Days」やる? まぁ、正直欝展開多いし、薫のマシンでギリギリ大丈夫だろうってくらい容量食うけど、「Summer Days」も一緒に貸せるから、薫に欲しいソフトを伝えてくれよ。あ、全編アニメつながりなら「フルアニ」もあるけど、微妙だったんだよなぁ……都ちゃん、脱衣マージャンは……」

「うん分かったわざわざご丁寧にありがとうっ!!」

 わざとだ、絶対この二人わざとだっ!! もう少し状況とか環境とか選んで言葉を発しようよ二人とも!

 この二人には、千佳さんと真雪さんには私と薫の「本性」を隠すことに決めている。背中に嫌な冷や汗がにじむ私と、会話の内容がちんぷんかんぷんの真雪さん。

 悪魔のような二人は、その後も私で限界まで遊んだ後、

「じゃあね。新谷君にもよろしく」

「都ちゃん、またな」

 至極爽やかな笑顔で、ア○メイトが入っている駅ビルの方へ歩いていく……。

 ……疲れた。

「随分にぎやかなお友達なのね」

 すっかり蚊帳の外だった真雪さんが、疲れた表情の私を覗き込み、

「途中、会話がよく分からなかったんだけど……あの二人は、どういう知り合いなの?」

「……人畜有害なカップルです……」

 これ以外に、的確な表現方法が思い浮かばなかった。

千佳さんの独壇場です……実はまだまだ続きます。都、頑張れ。

あと、大樹の出番が少なくてスイマセン……ここだけです。

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