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A rainbow and your voice to be removed in the sky

この物語は、「Two Strange InterestS」の続編です。

前作を知らない方は、軽く目を通していただけるといいと思います!

http://ncode.syosetu.com/n9181a/

 「あたし」が彼と出会ったのは、彼がバイト先に新人として入ってきたことがキッカケだった。

 近くの大学に入学した新入生が、新人バイトとして大量参戦する4月。学生バイトを多く受け入れているこのファミレスも例外ではなく、彼もその中の一人で、あたしにしてみれば可愛い後輩。

 とりあえず第一印象……都会に出てモデルにでもなればいいのに。それくらい整った外見は他の追随を許さない。同期で入ってきた他のバイトとも、今まで働いていた先輩バイトと比べても、誰も彼に勝てるわけがなかった。当然女の子は彼に言い寄り、男の子は彼に嫉妬する……そんなバトルが繰り広げられることを、誰もが予想したのに。

 結果は、そうじゃなかった。

 彼に告白した女の子は全員玉砕し、色目を使っても当然のようにスルーされる結果が続いてくじける脱落者ばかり。

 仕事が出来てお人よしの性格は、同性から好かれ、そしていじられた。

 結果としてドロドロとした人間ドラマは展開されず、彼を中心に新たな店の人間関係が構築される結果に、店長やあたし達フリーターで構成された「状況を傍観する会」の面子は拍子抜けしてしまったのである。

 勿論、その会の副委員長だったあたしも、やたら綺麗にまとまってしまった現実につまらなさを感じ、同時にそんな結果にしてしまった本人を凄いと思ったりしたのだ。

 ただ……彼には何か、女性に近づかない理由がある。それは何となく察していた。ただ、そこまで興味本位で突っ込めるほどデリカシーが欠如しているわけでもない。人は誰しも知られたくないことがある。それはあたしも同じなので、結局彼は全員と絶妙な距離を保ちながら、笑顔で業務をこなしていったのである。


 だから正直、彼に……新谷薫に彼女が出来た。その話を聞いたときは驚いた。

 同時に、彼を落とした彼女にも興味がわいた。バイト先の女の子達の話を総称すれば、同じ大学の、顔は並程度、友人関係も広くなく、特に目立った要素のない人物らしい。

 ただ、女の話は当てにならない。彼女達は自分に都合のいいように現実を歪曲する。彼女達の「並」がどこまで「並」なのか甚だ疑問だし、あたしは自分の目で確かめないと気がすまないタイプだ。あの難攻不落の王子様をゲットしたお姫様の姿を、一度、拝んでみようじゃないのさっ!!


 と、いうわけで。

「……千佳、大学に来る動機が不純すぎるわよ」

 普段は立ち入らない大学構内、諸事情でルームシェアしている友人の真雪が彼と同じ大学であるというツテを使い、普段着で彼女の横を堂々と歩きながら、エセ大学生として構内調査実行中なのである。

 170センチのあたしより身長が頭一つ小さい、本日は頭にニットの帽子、白いワンピースの上から丈の短いジーンズ素材のジャケットを羽織っている真雪は、ふわふわとゆれる長い髪の毛をなびかせながら、あたしを苦笑とも呆れとも取れるような表情で見上げ、

「新谷君、だっけ。私、彼の顔もだけど、彼が今日どんな授業を履修してるのか、何も知らないわよ?」

「その辺は任せてよ。ちゃんと事前調査してきてるからさっ♪」

「……そういうことに関しては完璧なんだから……」

 教科書一式の入ったトートバックを持ち直し、深々とため息をつく真雪。折角の綺麗な顔が台無しである。まぁ、あたしのせいだけど。

 ちなみに本日、これから始まる午後1発目の授業は、彼と噂の彼女が一緒に履修している唯一の科目らしい。二人とも付き合いがあるので、毎回隣に座っているわけでもないらしいのだが……最近は隣席率が高くなり、周囲があまりのラブラブぶりに呆れているとかいないとか。(By:バイト先のA子さん)

「私、その授業なら2年前に取ったんだけど……」

 現在3年生の真雪がぶつぶつと呟いているが、「今度お店に来てくれたら好きなもの食べていいから★」というおなじみの買収で何とか付き合ってくれる。真雪はあまり他の人間関係に干渉したがらない、噂を嫌う性分であることはあたしが誰よりも理解しているけど……でも、それでも、気になるものは気になるのだ。

 真雪だって、そんなあたしの性格は誰よりも承知しているはず。結局はあたしに付き合い、そして、

「で、彼にばれないようにしたいんでしょう? だったら早めに後ろの席を取りましょう。あの授業は人数も多いし教室も広いから……全体を見渡せる座席を確保出来なきゃ意味がないものね」

 しっかり、協力してくれるのだ。

 話の分かる親友に感謝しながら、あたしは授業が行われる教室へと、足を踏み入れる。


 その授業が行われるという教室は、大学の中でも広い方に分類されるらしい。扉を開いた瞬間、階段状に上まで続く座席を見上げ、「おぉ、大学っぽい」という普通の感想を呟いてしまった。

 教壇は一番低い場所にある。10分前だというのに人気のまばらな教室内を移動し、あたし達は教室向かって左端、通路側の上から3番目、教室全体を見渡せるポジションに陣取る。

 真雪曰く、「みんな入ってくるのは5分前」らしい。あたしは視力1.5の両目をサーチライトのように光らせながら、2箇所ある入り口、入ってくる人間をじぃっと見つめていた。

 友達と話しながら入ってくる人、一人で音楽を聴きながら入ってくる人、いろんな生徒が――いろんな人が、いる。

「……あたしも、通ってみたかったな、大学」

 同年代の子たちが楽しそうに歩いているキャンパス。それを遠くから眺めるだけにしているのは……自分がその中に入れないことを、誰よりも理解しているから。

 ぽつりと呟いた言葉に、横に座った真雪が苦笑いを向ける。

「高校時代は学校嫌いだったくせに」

 確かにその通りでございます。

「千佳は入学しても続かないわよ。こうしてもぐりこむ程度が丁度いいんじゃないの?」

「……かもね」

 相変わらず的確な指摘に降参。結局あたしは彼女に敵わないのだ。いや、勝てるはずがない。あたしをココまで受け入れてくれた彼女と自分を比べるなんて、それこそ――

「……を?」

 色々思いかけた瞬間、入り口で一際目立つ存在を発見。

 見間違えるはずない。彼だ、本日の獲物がやってきたっ!!

「ホラ真雪、彼だよ、あそこにいる無駄なほど爽やか君っ!」

「……失礼よ、千佳」

 冷静に突っ込んだ真雪もまた、あたしの指の先を見つめ、「なるほど。確かに無駄なほど爽やか君かもね」と、先ほど否定した言葉を思いっきり肯定した。

 本日の彼は、黒いシャツの上から同系色のジャケットを羽織り、下は濃紺のジーンズ。眼鏡をかけた双方で室内をきょろきょろと見渡し、誰かを探しているみたいだが……見つけられなかったのか、そのままコチラへ向かって歩き始める。

 げげっ! ココで見つかったらあたしの完璧な傍観計画に不都合が生じてしまうじゃないかっ!!

「やばっ! 新谷君、こっちに来る!?」

 想定外の事態に取り乱すあたしに、真雪は無言で自分が被っていたニット帽を半強制的にかぶせ、そのまま机の上に頭ごと押し付けた。

 机と額がガードする間もなく正面衝突する。彼女はそのままあたしの頭を押さえつけ、涼しい顔で彼の行動を伺っているのだが……あの、真雪……助かったけど痛いんですけど……。

「……真雪、痛い」

「見つかっても良かったっていうの?」

 確かにその通りでございます。

 帽子という変装グッズの基本を忘れた自分を叱咤しながら、彼女が手を離してくれる時まで、じっと突っ伏して耐えるしかないあたし。

「もう大丈夫ね。千佳、お疲れ様」

 まだ何も始まっていないのだが、どっと疲れが。彼女があたしの頭から手を離した瞬間、突っ伏したままで笑顔の真雪を見上げ、

「……乙女の柔肌に傷が残ったらどうしてくれるのさ」

「寝言は寝てから言うべきだと思うわよ?」

 容赦ない切り替えしに、閉口するしかない。

 あたしはそろ~っと上体を起こし、真雪が指差すほうへ視線を移した。

 ターゲットである新谷君は、あたし達から見れば座席3席分ほど斜め前に着席。地味に近いけどよく観察できる場所に陣取ってくれたことに感謝しながら、彼女の到着を待つ。

「今日は別々に座る日だったりして」

「……そういうこと言わないでください」

 不吉なことを笑顔で呟く真雪に突っ込みながら、あたしは、彼の背中を見つめていた。

 背中しか見えないけど、その存在感は他と違う。優しいけど、安易に近寄りがたい、そんな感じがする。

 彼はいつもそうだ。他人を引き寄せる魅力と、簡単に踏み込めない雰囲気。その二つを併せ持っている、難しい存在。

 彼を遠巻きに見ている女子生徒の数は多い。だけど、誰も彼に話しかけようとしない。もしかしたら以前に玉砕したのかもしれない。

 新谷君が女性を遠ざける理由は何だろう。そんなことあたしには分からない。ただ……。

「……あ」

 不意に、真雪が声をもらす。何事かと思って彼女の視線を追うと、

「……ビンゴ」

 あたしは思わず笑みを浮かべていた。気がつけば、彼の隣に女性が座っている。顔を見損ねたので判断しかねるが、首の後ろにかかるくらいの髪の毛にキャラメル色のパーカーを着て、何よりも彼と自然に話している様子から、単なる友人ではないことを察することが出来る。

「真雪、顔は見た?」

「見てないの?」

 あれだけ待っていたくせに見ていないのか。思いっきりジト目を向けられ、反論できない。

「……スイマセン、タイミング逃しました」

 素直に白状すると、思いっきりため息をつかれた。

「まぁ、顔は明るい感じで可愛いと思うわよ? 遠めに見てもスタイルいいみたいだし。彼との共通点は眼鏡かしら」

 たった数秒でどれだけ観察していたのだろうか。さらりと彼女の特徴を述べる真雪に、改めて侮れない力を感じる。

 新谷君の隣に座っている彼女は、当たり前に彼と会話していた。彼も、今まであたしが見たことないほど優しい雰囲気で盛り上がっている。会話の内容まではさすがに聞こえてこないけど……でも、

「あの新谷君がねぇ……」

 正直、意外だった。彼に彼女がいるという話も、こうやって現実を見せられるまでは半信半疑だったのだから。

 でも……彼は今、楽しそうだ。バイト中には絶対見せない、きっと、彼女の前でしか見せない素顔になっているのだろう。

 初めて見たときから思っていたことを、心の中で再確認する。

 彼とあたしは似ている、境遇はまるで違うだろうけど、でも、似ている。

 あたしに真雪がいるように、彼には彼女がいて、それで――

「……ねぇ、真雪」

「何?」

「あたしは、あんたに救われた。真雪がいなかったら……あたしは多分、この場所にいられなかったと思う」

 ぽつりと呟いた言葉の意味を、真雪は誰よりも理解しているはず。

 だからこれ以上は語らず、あたしはもう一度、楽しそうに話している二人の背中を見つめ、

「あたしにとっての真雪が、新谷君にとっての彼女であればいいなって……思ってるんだよね」

「……そういうことね」

 納得したような口調の真雪もまた、二人の姿を見つめ、

「私は彼のこと、何も知らないけど……でも、あんなに笑ってるんだもの。二人の間に利害関係なんかはないように見えるけど」

 彼女がそう呟いた瞬間、始業を知らせるチャイムが鳴り響く。

 これ以上この場所にとどまる理由もないので、あたしは荷物を持って静かに立ち上がろうと――

「――あら、ダメよ千佳ったら」

 刹那、隣に座っている真雪に思いっきり服の袖を引っ張られ、再び着席。

 扉から教師らしき男性が入ってきた。ヲイ、このままじゃあたしまで授業受けなくちゃならなくなるだろ!?

「お、おい真雪……あたし、講義なんて冗談じゃな……」

「あら、たまには学問的な話も聞いておかないと、脳年齢が退化する一方よ? 私も久しぶりに聞こうと思っているし……大丈夫、千佳にも何とか分かる授業だと思うから」

 さりげなく失礼なことを言い放った真雪は、自分のバックからルーズリーフとシャーペンを取り出すと、

「とりあえず……ノートくらい取りなさいよね? 学生として潜り込んでるんだから♪」

 彼女の生真面目で意地悪な性格は、あたしが逃げることを許さず……。

 結局それから90分、久しぶりに眠気と戦いながら講義を受ける羽目になる。

 正直、教壇に立っている教授が何を言いたいのか、回りくどくてあたしには理解不能。横の真雪が頷いているのがなぜなのか、本気で頭をひねってしまう。

 ただ、たまにちらりと新谷君を見下ろすと……あたしと同じく眠りかけた彼女をペンでつついていたりして。

「……眠いよね、うん、その気持ち分かるよ」

「同情しないの」

 横から思いっきり0.3のペンで刺されるあたしなのである。


 後日、あたしは新谷君と休憩時間が微妙に重なり、スタッフが休むバックルームで鉢合わせすることになった。

 ブラウスに黒のスラックス、というウェイター用の制服に身を包んだ彼が、疲れた表情でバックルームに入ってきて、フラフラとパイプ椅子に腰を下ろす。

 基本、接客は女性スタッフが行い、男性は厨房が多いのだが……彼の場合はほとんどが接客。理由はまぁ、言うまでもないと思う。

「お疲れ様、相変わらず女の子にモテモテだね」

 もうすぐ休憩時間が終了するあたしは、身支度を整えながらにたりと彼を見つめた。

 さっき、料理を運んだテーブルで、女性客に話しかけられている様子を目撃してしまったのだ。壁際から彼を見つめるあたしの視線に、「やめてください」と苦笑を返す新谷君。

「そんなんじゃ、彼女に浮気だって言われちゃうんじゃないの?」

 彼に彼女がいることは周知の事実。ただ、あたしからこの話題を彼にふることはなかった。案の定少し驚いたような表情になるが、すぐ、その眼を細めて呟く。

「浮気なんかしませんよ。そんな度胸も余裕もありませんから」

「でも、彼女が出来てからも結構な数告白されてるって聞いてるわよ?」

「……どこから聞いてるんですか、そういうこと」

 ジト目で見つめられ、「まぁ、あたしも色々と情報源があるのよ」という言葉で適当に誤魔化し、

「正直、浮気しそうになったこともあるんじゃないの?」

「ないですね」

 あたしの冗談交じりの言葉を、彼はきっぱりと断言した。その潔さは彼らしく、イマドキにしては珍しい。

 いや、彼ならやりかねないと思っていたけど……でも、ここまではっきり言われると、ますます顔を見そこねた彼女に興味がわくんですけど。

「そんなに魅力的な子なんだ。プリクラとか写真は持ってないの? あたしにもどんな子なのか見せてよ~」

「写真……そういえば持ってないですね。今度一緒に撮りたいです。そしたら藤原さんにも見せますから」

 こら、はにかんで願望を語るな。このバカップルめ。

 ただ……新谷君のこんな顔、今まで見たことない。

 椅子に座ってスポーツドリンクを片手に、凄く優しい表情の新谷君。彼はいつも優しいけど、こうやって誰か一人を思っている顔は、初めて見た。

 要するに、それだけ、

「……新谷君のそんな顔、バイト中に初めてみたよ」

「そうですか?」

「そうよ。普段も優しそうな顔してるけど……どこかで女の子を遠ざけようとしてるでしょう? ある程度距離をとった付き合いしかしてないなーと思ってたから、正直意外」

「よく見てますね、さすがです」

 照れ笑いをする彼に、あたしは意地悪な顔で指摘した。

「……好きで好きでしょうがないって感じだね。今すぐ彼女に会いたいって顔してるよ?」

 普通なら赤面して「違う」と釈明するような場面でも、彼はあっさり切り返す。

「まぁ……実際そうですね」

 ヲイ、この男は……どこまで自分に正直なんだ、相手があたしとはいえ。

 あまりのラブラブぶりに軽く怒りを覚え始めた頃、彼は少しうつむきながら、ぽつりと呟く。

「……彼女のおかげで、今の俺がいるんです。彼女は弱い俺を強くしてくれた、逃げることばかりを選んでいた俺に、正面からぶつかってくれた。だから俺も、彼女のことを聞かれたら誤魔化さずに答えようって決めたんです。俺が都を好きなことに、嘘はありませんから」

 なるほど、彼女の名前は都ちゃんというのか……今度真雪に調べてもらえないかな。いや、バイトの子に聞けば一発で分かるかな?

 ただ、その「都ちゃん」は……今の彼にとってなくてはならない存在になったのだろう。二人の間に何があったのかは分からないけど、でも、彼がこうして今、幸せならば……。

「……良かったね、新谷君」

「そうですね」

 彼につられて、あたしも笑っていた。

 同時に、ここまで彼を惹きつけている彼女に……「都ちゃん」に、並々ならぬ興味がわいて。


 それから、あたしは本格的に彼らと接していくことにする。

 それが、あたし自身を、あたしと真雪の関係まで変えてしまうような……忘れられない日々の始まりになったのだ。

ついに始まった第2部……発展した2人をニヤニヤしながらお楽しみください。新キャラは基本的に女性です。都大喜びですな。

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