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19話

 機転で迷いの術から逃れ、満景は通学路を進んだ。

 どうやら通学路に仕掛けられていた術は、あれだけだったようで、それ以降の道歩きは順調だ。

 スマホの地図アプリに表示されている通りに歩き、熊野高等専修学校の正門前に到着した。

 すると正門のところに、数人が立っていた。

 誰もがスーツを着ていながら、あまり着慣れていない印象がある人ばかり。

 そんな容姿から、満景は学校の先生なのだろうと当たりをつけた。


「おはようございます」


 満景が挨拶すると、立っていた数人の半分が顔を向けてきた。もう半分は、挨拶に反応はしたものの、満景が来たのとは別の道に顔を向け続けている。

 その反応の差に満景が不思議に思っていると、顔を向けてきた人の中から一人が歩み出て近づいてきた。

 三十半ばほどの顔立ちの男性。黒っぽいスーツに赤ネクタイ。履き古された黒い革靴。痩せ型の筋肉質な体型。左手首にこげ茶色の数珠がはまっている。


「おはよう。君は新入生でいいのかな?」

「はい。今日からお世話になります」


 満景がお辞儀をすると、黒スーツの男性は顔に笑顔を浮かべながら質問を投げてきた。


「この時間に登校できたのは、才能から? それとも対処法を知っていたからかな?」


 質問の意図が掴めなかったので、満景は自分の率直な考えを口にすることにした。


「僕に才能があるかわわかりませんが、実家では落ちこぼれ扱いでした。対処法は、ズバリを知っていたわけじゃないですけど、術にかかった状態からの推測で対応策を考えました」

「知らないが、対抗策は考えついたと。どんなものか、教えてもらっても?」

「簡単な方法なので、構いませんよ」


 満景が、スマホと紙の人形を出してから身振りを交えて、先ほど行った対処法を伝えた。

 すると黒スーツの男性は、感心した声を上げた。


「ほほう。式神の目と自分の視覚をリンクさせることで、周りを見えるようにした。そして地図の読み上げ機能という、自分の感覚から切り離したガイドを用いたわけか。これは盲点を突かれた気分だ」

「盲点、ですか?」

「大規模な結界はコストがかかる。そのコストをなるべく減らすために、目的とする効果以外の余分を削っていく。今回通学k路に設置した迷いの術は、人間のみに対象を絞った術にしている。人がある地点に入ると、道を進んでいるという意識を固定させつつ引き返させ、目に映る景色が変だということも分からなくさせる。これなら式神の目を通して見ていても、人間が思考して判断するのなら迷わせることが可能、のはずだった」

「僕が術にかからなくなったのは、スマホのアプリが道順を読み上げてくれたからだと?」

「正しくは、君がスマホの出す指示に従うと意識したことが突破の鍵だ。迷いの術で固定化した意識は、こちらが意図した道を進むというものから、スマホの読み上げに従うという意識に変わった。引き返させるよう意識を植え付けても、スマホの指示に反するから、正しい道に戻ることができる。視覚が式神の目を通して見ている点は、道を歩きやすくなった程度の意味しかなかっただろう」


 つまるところ、満景の対策はたまたまうまい具合に迷いの術の隙間を突破することが出来ただけで、正答だとは言い難いものらしい。

 ともあれ、迷いの術を突破したことは事実だと、黒スーツの男性は評価してくれた。


「というわけで、これを進呈する」


 黒スーツの男性が差し出したのは、校章のような意匠のピンバッチ。

 満景は意味が分からずに見ていると、黒スーツの男性が満景の制服の正面胸ポケットの部分にバッチを差し付けた。


「これは、学校が出した課題をクリアした人に与える優秀者の印だ。多く集めると、将来の就職に有利に働く」

「就職にですか?」

「この学校は、霊能者の育成を旨としている。ただ生徒の中には、定期テストの点数は悪くとも、実技が並外れて優れている者もいる。そういう実技巧者を掬い上げる政策が、このバッチだ」

「霊障現場では、実技が上手い人の方が喜ばれるからですね」

「適材適所に送ることができれば雇い主も生徒もハッピーだし、学校の就職率を上げる事にもつながるからな」


 これで用件は終わりだとばかりに、黒スーツの男性は満景の背中を叩いて正門の向こうへ行けと指示してきた。

 満景は、まぐれであっても、成績優秀者の証であるバッチを得られたことが嬉しくなり、そのバッチを指で撫でながら学校の門を潜った。



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― 新着の感想 ―
へえー、学校が出した課題だったんですねえ 学校生活を送っていればこれからもこういう機会はあるのかなー いいスタートを切れましたね
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