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『いらない』と言われた令嬢の幸せ物語 ~うちの子なので返しません、と魔王様がご立腹です!~  作者: みなと


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8話:変化

 レオンとハンナ、そしてフレディは沈黙の中で過ごしていた。

 ふとレオンが視線を外から室内に戻し、次いでハンナに視線を移動させる。


「……話せ」

「ええと」

「彼女から、何か聞いたのだろう。先ほどの食事の件に関して、どんな様子だったのかを詳細に話せ」


 ハンナは一度フレディに視線をやるが、話してください、と頷かれたために遠慮がちに口を開いた。


「まず、温かな食事に……いたく感動されておりました」

「ほう」

「スープを飲んで、『温かいのを初めて食べた』と」

「え……?」


 先ほどざっくり聞いたのは、こちらの食事に何だか感動していました、ということくらい。

 フレディもレオンも、何だそれはと眉をしかめた。


「そして、ずっと見ていたわけではないので、その……でも、お泣きに、なっていて」

「……何故」

「恐らく、ではありますが。まともな食事を与えられていなかったのではないでしょうか」


 魔族側は、人間を『とても情に厚く、子供には優しい種族』と認識している。

 しかし、リュシエールが置かれている環境は、それとはあまりに異なっているものであり、まともに育てられていなかったようなものだ。


 やせ細った体は、まともに食事を与えられていなかった証。

 言葉を上手く出せなかったのは、きっといつも怒鳴られていたからだろう。


 何でこんな仕打ちが出来るんだ、とレオンもフレディも、顔を顰めた。


「これにも……散々なことが書いている」

「……これ、は」


 先ほどレオンがぐしゃりと握り潰しかけていた報告書の皺を伸ばしてからハンナに見せた。


「……え」


 それを見たハンナは、呆然としてしまう。


「(何で、こんな)」


 そこに書かれていたのは、リュシエールの人間界での境遇だった。


 魔力ナシ、と認定されてからは世話を放棄されていたこと。

 親からも見捨てられた存在であること。

 リュシエールを虐げることで家族仲を保っている、最低な家族がいるということ。


「……ぅ」


 見ているだけで吐き気を催しそうなそれを、ハンナはそっとレオンのデスクへと戻した。戻す際は、当たり前だがありがとうございました、とお礼を言うことは忘れない。


「いやまさか、人間でもこんなことするんだ、って思いますよね……」

「……信じられませんが……」


 言われてみれば、色々と察しはついてしまう。

 リュシエールが、『魔界の方が呼吸がしやすい』と言っていたこと。

 何かおかしいな、と感じてはいたものの、その時はハンナの中で嫉妬心が勝っていたからうまく考えることが出来ていなかったのだ。


「あと、これも見てみろ」

「はい?」


 レオンが差し出してきた書類は、先ほどの調査書とは全く異なるものだった。


「……え?」


 内容を見たハンナは、ぎょっとする。


「まぁ……当たり前の反応だろうな」

「いやー陛下も人が悪いですってー」


 あっけらかんとしている二人に、ハンナは頭痛を覚えてしまうがこれを見たら理解もできる。


「……彼女には、幸せになってもらわなくちゃいけないんだ」


 ぽつりと呟いたレオンの言葉に、ハンナもフレディもしっかりと頷く。


「ハンナ、リュシエール嬢は今は食事をしているのだったな?」

「はい。お食事が終われば少しゆっくりしておいていただいているかとは思いますが……」

「行くか」

「はい!?」


 善は急げ、と言わんばかりに立ち上がってレオンはさっさと歩き始めてしまった。

 まだリュシエールにレオンがやってくることを伝えてはいないのに、と焦るハンナだったが、レオンの口から出た言葉にはハッとした。


「これから、あの子は誰より幸せな花嫁となり、幸福になる。……その時、馬鹿どもがどんな顔をするのか……見物だな」

「……陛下の、仰せのままに」

「……仰せのままに」


 フレディ、ハンナと続いて返事をしてから、リュシエールの滞在している部屋へと向かった三人だった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「(落ち着かない)」


 食事を終えたリュシエールは、ふかふかとしたソファーの、端っこに座っていた。

 真ん中に座ればいいのだが、人間界に居たころはこんなふかふかとしたソファーに座ったことはないし、基本は床だった。

 それに、温かな食事なんて与えられたことはない。


「……あのパン、美味しかった」


 ぽつりと呟いたリュシエールのところに、レオン、ハンナ、フレディがやってくる。

 扉をノックされることも経験をしてこなかったリュシエールは、ぽやぽやと考え事をしていてそのノックの音に気が付かず、入室してきてようやく気付いたのだった。


「え、え!?」

「リュシエール嬢、こんにちは」

「!?」


 何だ、何が起こっているんだ、と目を丸くしているリュシエールに、遠慮なくレオンは近付いてから微笑みかけると、こう問いかけた。


「リュシエール嬢、君には魔族の血が流れているね?」

「……え」


 一体何を、と更に目を丸くするリュシエールに対して、更にレオンは言葉を続けていく。


「ここに……魔界に来てから、体の変化があっただろう?」


 変化、と言われたリュシエールは、こくん、と首を縦に振る。

 きっとこの人たちになら、話しても構わないだろうか、と考えたリュシエールは、ぽつぽつと語り始めた。


「その、ここに来てから……とても呼吸がしやすくて、ですね」

「ああ」

「体も、軽いんです。後は、言葉を出しやすいといいますか」

「言葉を?」

「元居た世界では、呼吸がとても辛くて、まともに喋ることもできていなくて……」


 ああ、とレオンは頷いた。

 呼吸がままならないのであれば、それはそうだろうな、と思う。


「あと」

「ん?」

「怪我も治りました」


 お前やったか? とレオンがすぐさまハンナを睨むが、ハンナはぶんぶんと首を横に振った。


「やろうとしたけど吹っ飛ばされたの、陛下が見ていましたよね!?」

「……ああ」


 そういえば、と何の気なしにレオンが呟く。

 自分の言葉で誤解が生じている!と慌てたリュシエールは、改めて着替えさせられたワンピースの裾をまくって腕を見せた。


「傷だらけだったんです、こことか。でも、今はそれが全くないんです!」


 そっちか、と納得しているレオンは、にこりと微笑んだ。


「きっと、リュシエール嬢には今の環境が一番体に合っている。そしてお前は、俺たち魔族にとっては役立たずなんかでも、何でもない。必要な存在だ」

「え、ええと……話が見えなくて……」

「大丈夫だ、君は、何も心配することはない」


 魔族の血を引いている、と言われたことが一番の驚きだが、レオンの言葉には疑う必要がないんだろう、と思えるほどの力強さがあった。

 リュシエールは混乱しながらも、レオンから目が離せないまま、彼をじっと見上げていた。


リュシエールの周辺にちょっとずつ溢れていくあったかい感情。リュシエール、怖くないよー!

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