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『いらない』と言われた令嬢の幸せ物語 ~うちの子なので返しません、と魔王様がご立腹です!~  作者: みなと


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6話:自分が何なのか

 いきなり、リュシエールは成長してしまっていた。

 一体これはどういうことなんだ、と自分の手をまじまじと見つめ、腕を持ち上げて確認してみたり、視線を下にやって足元を見てみたり、リュシエールは忙しなく自分の体の状態を確認している。


「……何で、成長、して」


 リュシエール自身、何故自分が成長しているのかを理解できておらず、ぺたぺたと更に追加で己の顔にも触れてみる。

 確かに自分の体なのだが、何で!とぐるぐると思考回路が巡っていき続ける。

 その様子を見ていたレオンやフレディ、メイドのハンナまでもがポカンとしたままでリュシエールを見ていたが、いち早く我に返ったレオンが収納魔法を無言で展開し、収納していた手鏡を取り出してからすたすたと歩いていき、リュシエールに手鏡を手渡した。


「リュシエール嬢、これを」

「……あ」


 自分の前まで歩いてきたレオンが差し出している手鏡と、差し出してくれているレオンを交互に見て、リュシエールはポカンとしている。


「ええ、と」

「まずは自分の確認が最優先事項、ではないか?」

「あ、ええと、はい」


 頷いたリュシエールが自分の姿を確認すれば、見たことのない顔の人が。


「……ん?」

「どうした、リュシエール嬢」

「(……んん?)」


 鏡を見たまま、じっと動かなくなったリュシエールを見て、レオンは少し訝し気に見ている。

 もしかして鏡にひび割れでも入っていたのだろうか、と気付き、少しだけ慌てて宰相であるフレディを見れば、彼もいち早く我に返ったらしくレオンの意図を察してぶんぶんと首を縦に何度も振りながら、『おかしな鏡を渡しているかもしれないから、早く確認して!』とジェスチャーで知らせる。

 付き合いの長さから、レオンもすぐさま意図を察して頷き返し、リュシエールに話しかけようと再度視線を戻した時だった。


「これ……」


 わなわなとしているリュシエールに対し、何かフォローを返さないと!と慌てるレオンとフレディ。

 しかし、想像しているものとは、異なる反応にその場に居る面々は硬直することになる。


「わ、わわわ、私!? これ、私!?」

「(……そっちか)」


 思わず内心ツッコミを入れてしまったレオンだったが、鏡をしっかりと両手で持って、まじまじとガン見し続けている。


「何で!?だって、私、あんなに痩せっぽっちで!」


 わなわなと震えながら、しかし先ほどまでとは全く異なっている様子のリュシエールに、もしかして、とレオンは遠慮がちに口を開く。


「リュシエール嬢」

「!?」

「すまない、驚かせてしまっているところ、恐縮なのだが……」


 遠慮がちに、少しだけ困ったように苦笑いをしているレオンを見て、リュシエールは『しまった』と少しだけ顔を歪めてしまった。


 もしも、自分が役割を果たせなければ、またあそこに戻されてしまうのだろうか。

 戻されれば、息苦しく、暗い場所できっと死ぬまで幽閉されてしまうだろう。そんなことになったら、何を希望に生きれば良いんだろうか、と顔色を悪くしているリュシエールに対してかけられたのは、思いがけず優しい言葉だった。


「あなたは、そんな風にきちんと喋れるのだな」

「…………え」


 思っていた反応と異なっている、と少しだけきょとんとしたリュシエールだったが、先ほどの自分の挨拶はとんでもなく失礼で簡素すぎるものだった、と、慌てて魔界式の礼を取って、深く頭を下げた。


「……先ほどは、大変失礼いたしました。私は、リュシエール・ミスティリア。人間界より、和平の証として人間界より参りました。以後、お見知りおきを」


 丁寧に自己紹介をしているリュシエールを見て、どことなくレオンはほっとしている。

 恐らく、ホッとしている理由は『リュシエールが普通に喋れたこと、会話ができるということが分かったこと』、それから『ちゃんと結婚できる年齢かつ見た目だったのが分かった』ということだろう。


「こちらこそ、丁寧な挨拶を感謝する。……しかし、驚いたな」

「……え」

「年相応に成長……?したら、話し方も滑らかになるのは……」

「その……」


 困惑したままではあるが、リュシエールは言葉を続ける。


「ここが、あまりにも呼吸がしやすくて」

「……?」


 一体どういうことだ、と訝しんでいるレオン。

 それは、ハンナも一緒だった。


 人間が魔界に来て、呼吸がしやすいだなんてありえない。


 そんなこと、ありえるわけがないし、少なくとも何らかの拒絶反応が起こって当たり前なのだ。

 だから、リュシエールの話していることが理解できないまま、この広間にいる全員がぽかんとする、あるいは唖然とする、もしくは訝しんでいるものばかりなのだ。


「むしろ、あちらに居る時の方が呼吸がしづらくて……何というか、水の中にいるような……ええと、泳いでいて息継ぎをするような、そんな感じ、と申しますか……」


 リュシエールのこの言葉に、レオンはハッとする。

 この様子に対して、一体どう言葉を返せばいいのか迷っていた彼だが、ようやく合点がいった。


 むしろ、今の状況に関しては人間界に盛大に感謝しなければいけない。

 何せ、とんでもない宝物を、まるでごみを捨てるかのようにこちらにくれたのだから。


 魔王教育が行われる中で、とても大切なことだとして教えられたことがある。


「……リュシエール嬢」

「はい、って………ええええええええ!」


 リュシエールの前に、恭しく膝をついたレオンを見て、全員がぎょっとする。何なら、リュシエールのように叫んでしまいたいほどだが、魔界の住人としてそれだけはいけない、と必死に呑み込んでいるが、手を取られ、手の甲に口づけられているリュシエールが今にも倒れそうになっていることは、悲しきかな、誰にも察してもらえていない。


「ようこそいらっしゃった、始祖の血を引く高貴なる姫よ。我ら一同、貴女を心から歓迎する」

「……はえ……」


 宝物を見るかのような目で見上げられたリュシエールの許容は、一気に満タンになって、溢れた。


「あ」

「陛下! 何なさってるんですかー!」


 リュシエールが最後に聞いたのは、とても焦っているフレディの声。最後に見たのは、あれ?と首を傾げているレオンの顔。

 さっき目が覚めたばかりなのに……とそのまま、また意識を吹き飛ばしたリュシエールは、ぱったりと倒れてしまったのであった。


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