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『いらない』と言われた令嬢の幸せ物語 ~うちの子なので返しません、と魔王様がご立腹です!~  作者: みなと


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3/12

3話:どこにいっても、同じこと

 あの、とかやめて、とか、とてもか細いながらにも抵抗しようとしているリュシエールの声がハンナには聞こえているが、歩む速度は緩めることもなく、ずんずんとリュシエールの手を引いて歩き続けている。


「あの、どこに……!」

「謁見の間です、陛下がお呼びですので」


 へいか、って誰だろうと少しだけ考えたリュシエールだが、はっと思い出して急いで周囲に視線をやる。

 明らかに人間界の建築様式とは異なっている城の造り、装飾品も何もかも異なっているからリュシエールはぱちくりと目を丸くしたままで、手を引かれるままに必死に歩いていきながら、ハンナを見上げるが視線をこちらに向けてくれるわけもなくて、リュシエールは少しだけ体を固くした。

 どうしよう、と思って声をかけようとしても、ハンナの雰囲気はとても冷たいもので、変化は見られそうになかった。


「何なんですか。きちんと歩いていただけません?」

「あ、貴女の、名前、を」

「名乗る必要は、今はございませんので」

「……」


 少しだけしょんぼりと肩を落としたままで、リュシエールは連れられるままで歩き続ける。

 魔王城の中を歩いている他の魔族も、リュシエールを見てぎょっとして驚いた視線を向け、ハンナを見て一体何なんだ、と訝しげな視線を向けている。


「……おい」

「あれって……」

「ヒト……?」


 ひそひそと話している内容は何なのだろうかと、リュシエールは耳を澄ませてみてもうまく聞き取れない。

 どうしたものかと悩んでいるうちに、半ば引きずられるように謁見の間の前に到着してしまい、リュシエールは身構えてしまうが、足を踏ん張ろうとしても、握られている手を、ハンナにぐっと引っ張られてしまう。


「ハンナ、到着しました。陛下に急ぎお伝えくださいませ」

「かしこまりました」


 謁見の間の両脇に控えていた騎士は、そっと謁見の間の中に入っていき、早めに入室許可を取ってきてくれたおかげで入室許可が得られた。


「陛下は中にいらっしゃいます。そちらの方をお待ちになっていたから、是非どうぞ、とのことです」

「……そうですか」


 入室許可が得られ、本当ならばハンナとしては嬉しく感じるはずなのに、オマケがいるからどうにも嬉しくない。

 大きな溜息を吐いて、ハンナは両サイドにいる騎士に合図をすれば、騎士たちはにこりとリュシエールにも微笑みかけてくれる。リュシエールは一体何事か、とまた目を丸くしたもののおずおずと頭を下げる。


「入りますよ」

「は、はい……!」


 またもや手を引かれ、謁見の間に入ったリュシエールの視線の先に居た青年を見て、目が離せなくなる。

 玉座に腰を下ろし、足を組んでいる青年。頭には魔族の証である立派な角もあり、座っているだけで威厳を感じさせていた。


「(あれが……魔王様……?)」


 リュシエールは変わらず引きずられるように、玉座の前へと歩みを進めていく。

 そんな様子を見て、フレディはそっとレオンに耳打ちした。


「……陛下、やはり彼女が和平の証として送ってこられた人間のようです。何であの人が自分の意思でここに来る前に拾ったりしてるんですか!」

「落ちていたからな」

「だからね、犬猫じゃないんですって」


 なお、やりとりは全て小声である。

 ひそひそ、と小声で会話をしている二人を見ていたが、この人が魔王なんだ、とレオンに視線を移した。


「……おい」

「何です?」


 レオンの声に対してフレディは小声で呼びかけるも、いつの間にか難しい顔になってしまっている彼を見てフレディはぎょっとしている。


「あの……陛下?」

「どうにも、貧相すぎる。それに、何だあの目は。ああいやそれもあるが……」


 和平の証であるならば、彼女の役割は『花嫁』なのだ。

 しかし、どう見てもとても幼い見た目で、結婚できる年齢ではなさそうだ。


「おい、お前」

「……?」


 何だろう、と首を傾げたリュシエール。

 しかし、その行動がハンナにとっては地雷を踏み抜くものだった。


「……お前、我らが陛下の問いかけに、言葉を返さぬとは何たる無礼!」


 言い終わるが早いか、ハンナが手を振り上げ、勢いよくリュシエールの頬を打った。バチン、と音が響いて、小柄なリュシエールの体は吹き飛ばされてしまう。


「~~っ!」


 転がった、幼い体。

 彼女は、確かに反応を返してくれていたというのに、どうしてこんなことをしでかしているんだ、と思う前にレオンはすっと手をかざし、無詠唱で重力魔法を展開し、ハンナをその場へと這いつくばらせるような姿勢を取らせてしまう。


「――あぐっ!」

「貴様、何をしている……?」

「へい、か」

「誰の客人だと、思っている」


 冷たい声が響き、ぎろりとレオンはハンナを睨みつける。魔族全体を束ねる王として、このようなことを見過ごせるはずもない。


「大丈夫ですか!」


 そうしている間に、フレディが駆け足でリュシエールの元へと向かっていた。

 のろのろと起き上がろうとしているリュシエールに手を貸してやれば、視線が合う。


「……大変失礼いたしました、お怪我はございませんか?」

「すみ、ません。あの、お手間を……取らせて、しまい、ました」


 つっかえながらも答えてくれたリュシエールにホッとしている反面、あまりにきょとんとしているものだから、フレディはつられたように目を丸くしてしまった。


「あのう……さっき叩かれたところ、痛くないですか?」

「……治ってる……」

「え?」


 頬に手を当てていたリュシエールの呟きは、きっとフレディ以外には聞こえていない。叩かれたところを見れば、もうすっかり赤みが引いている。

 叩かれた瞬間を見ているから、真っ赤になっていたことだって知っている。


 ――だが、もうないのだ。


 治療魔法でも展開させたのだろうか、とフレディは特に深くは考えずに、立ち上がろうとしたリュシエールにそのまま手を貸してゆっくりと一緒に立ち上がった。


「平気ですか?」

「……はい、ありがとうございます。それから……」


 リュシエールは立ち上がってフレディにお礼を言い、玉座に座ったままのレオンに視線をやった。そして、一言。


「結婚できます、私……十八歳なので」

「……ん?」


 十八歳、という単語に、レオンもフレディもぎょっとする。


「お前……十八歳なのか!? それで!?」

「……」


 うん、と口に出さないままで頷いてから、またじっとリュシエールはレオンを見つめる。


「……何だ、ちゃんと喋れるんじゃないか。人形かと思っていたぞ」


 その言葉に、違う、と言わんばかりに首を振ったリュシエールを見て苦笑いを浮かべてしまった。とりあえず、返事も返せるし、結婚できる年齢でもあるのは理解できたものの、ほとんど表情が変わらないことに関しては、どことなく不気味さを感じてしまった。


「(コイツが……。和平の証として人質的にここにやって来たというわけか)」


 何となく理由を察したレオンは、こっそりと溜息を吐いた。

 ハンナに関しては、床に押し付けられたままで、レオンと会話していたリュシエールのことを睨み続けている。そんなことをしたとて無駄なんだがな、と内心思うが、きちんと立場を理解させねば、と感じたレオンだった。


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― 新着の感想 ―
まあどんなに自分が気に入らなくても王族に手だしてただで済むわけねえよねえ
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