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【完結】『いらない』と言われた令嬢の幸せ物語 ~うちの子なので返しません、と魔王様がご立腹です!~  作者: みなと


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23/23

【最終話】23話:私はとっても幸せです

「……また?」

「はい……懲りない、といいますか……その」


 困り切った顔のハンナが、なにやらとんでもない長さの羊皮紙を持っている。

 リュシエールもげんなりとしながら書類に目を通し、決済が必要なものについては、慣れた手つきで印を押していく。


「私、帰らない、ってあれだけはっきり言ったよね?」

「ええ、仰いました」

「だよね!?」


「失礼いたします、リュシエール様ぁぁ!!」


「今度は何~……?」


 人間界からの要請を、次はどうやってかわそうかとハンナと唸っているリュシエールの執務室に、一人のメイドが駆け込んできたのだ。

 ぜぇはぁ、と息切れしており、どうやらこのメイドは新入りらしく、城内にある転移装置を使うことを許可されていないようだった。


「あの、リュシエール様にお客様、が」

「えっと……あ、もしかして約束してた方が……」

「ニンゲンが……」


 え? と首を傾げたリュシエールは、ばっと背後を振り返ってハンナを見る。

 しかしハンナは慌てて首を横に振っているから、今回の来客は予想外のお客様、ということなのだろう。しかし、誰が来たのか分からないから、会いたくないのが本当のところである。

 というか、そもそもの話。人間側からリュシエールに会いたい、だなんてやってくると思っていない。リュシエールも、ハンナも。レオンやフレディだってそうだろう。


「……ええと、名前は聞いている?」

「確か……ライオネル? とか何とか」

「リュシエール様……」

「あー……ええとね、元婚約者で……今は私のお姉さまの婚約者になってる、っていうか」


 あの雰囲気はそうなんだろうな、と思うし、あれでオクタヴィアと何もない、という方が無理がある。かつての婚約者、といっていたこともあってか、リュシエールの中で彼は『いないもの』と認識されている。


「えええええ!?」


 とはいえ、あくまでこれはリュシエールの中でだけ。

 新人メイドからすれば、とんでもない話でもあり、魔王妃を貶めるような存在を取り次ぐような真似をしてしまったんだ……と顔面蒼白になってしまっていた。


「わ、私、とんでもない人を……リュシエール様、大変申し訳ございません!」

「大丈夫よ、どうせうまいこと言い包められちゃったんでしょう? ……ハンナ、レオン様にも連絡しておいてくれる?」

「どのように連絡しましょう?」

「ちょっと、お片付けをしてからそちらに伺いますのでお茶でもいかがですか、って」

「かしこまりました」


 ハンナに伝言をお願いしてから、リュシエールはライオネルがいるという部屋にやってくる。

 リュシエールを見た途端、何を勘違いしてしまったのか、ライオネルは感動して泣きだしてしまい、リュシエールに抱き着きに行こうとするが叶うはずもなく取り押さえられてしまった。


「な、何をするんだ、離せ! なぁリュシエール、こんなことやめさせるように言っておくれ! 君はとっても優しくて……」

「お黙りになって?」


 たった、一言。

 それによって、ずん、とライオネルの周辺の重力は変化した。重くのしかかり、抗おうにも抗えない。ライオネルを取り押さえている者たちには一切何もないようで、『何で』とか『どうして』とか、情けない声がずっとライオネルからは出ている。


「それに、あなたの伴侶は私の姉だった人ですよね? 私に、こんなに馴れ馴れしくないしでください」


 にこやかな笑顔で、リュシエールは告げると、そのまま取り押さえているように命じた。それすらもライオネルには信じられないようで、また情けなくも涙を流して追い縋る。


「まって、お願いだから人間界に戻って来ておくれ! なぁリュシエール、お願いだ! まだ間に合うんだ、だから……!」


 何が、間に合うというのだろうか。リュシエールにはさっぱり分からなかった。

 困ったような表情を浮かべたリュシエールを見て、ああやはり彼女は優しかったんだ、とまたもや謎方向に勘違いしたライオネルが顔を輝かせた瞬間、リュシエールが一切の感情を消した状態で、ライオネルを見下ろして、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「……何とも思わない私が冷たいのか、私のことをゴミのように扱ったあなた方に対しての感情が何もわかない……ということが正しいのか、一体何なんでしょうね」

「…………え?」


 ぐすぐすと泣きながら、リュシエールの言葉に反応していたライオネルだったが、そんなライオネルには、かつての『頼れる人』という面影は全くなかった。

 むしろ、嫌悪感しかないこの状況に、リュシエールは困り果てた様子でレオンへと連絡を取るために魔力で小さな鳥を作り上げ、会議をしている部屋へと飛ばした。


 そういえば、ハンナにも伝言をお願いしていたけれど、さすがに今は緊急事態だからまぁ良いか、と思考を切り替える。

 実際、大の大人が……それも、いい年した男性が、かつての婚約者のところにやって来て、めそめそ泣いているのを見ることは、何というか耐えがたいものでしかなかったのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 一方その頃、会議室。


「……ですから……って、何だ?」


 会議の場で白熱していたレオンにフレディ、その他魔界の貴族たちは、一羽の鳥が入ってきたことに驚いて、思わず全員がそちらに注意を向ける。

 だが、鳥の色が真っ白だったこともあり、魔王妃様からだ、とすぐさま全員が察してくれたようだ。


「……リュシエールから?」


 はて、とレオンも首を傾げている。

 確か、ハンナからは来客対応が終わったらリュシエールとお茶を、と聞いていたこともあって、長引くようであれば巻きで会議を終了させようとまで思っていたのだが、小鳥に込められたメッセージを再生すると、勢いよく立ち上がってから姿を消してしまった。


「陛下!?」

「フレディ様、陛下は魔王妃様第一主義の方ではありませんか、今更ですよ」

「それに、魔王妃様がいらっしゃってから、魔界は何となく平和にもなっているし、レオン陛下だって穏やかになっているではありませんか」


 魔王妃様に余計なことをしなければ、という言葉がつくものの、基本的には以前よりも魔界は平和になっている。

 なお、前回、人間界に行った際にあちら側の王妃やオクタヴィアが色々やらかしてくれたおかげもあって、人間界に攻め入る大義名分が出来たこともあり、容赦のない侵攻が行われてもいる。

 リュシエールを害する者、利用しようとする者に対して、レオンは一切の容赦をしていない。


 だから、今回もそうなのだろうな、と皆が思い、『魔王様が帰ってくるまで休憩だー』とのんびりした声が響いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「リュシエール!」

「レオン様!」


 やってきてくれたレオンのところに駆け寄って抱き着き、ほ、と息を吐いたリュシエールを見て、レオンは床に抑え込まれているライオネルをぎろりと睨んだ。


「ひ、っ」

「……ああ、こいつが」

「はい、お客様だそうなんですが……」


 レオンに抱き着いたまま、リュシエールはライオネルを取り押さえている二人に対して、微笑んで口を開いた。


「そこのお客様、お帰りになるから放り出してちょうだい」

「かしこまりました、魔王妃様」

「容赦はいらん、さっさと人間界に返せ」

「はっ!」

「い、いやだ! リュシエール!」


 まだ縋るのか、とリュシエールがげんなりしていると、レオンの殺気がぶわりと膨れ上がって、ぎゅう、とリュシエールを抱き締める力を強くした。


「……レオン?」


 最近は呼び捨てにすることも多いが、不意打ちの呼び捨てに、へら、とレオンの表情が緩むも、すぐさま表情を引き締める。

 どうしてなんだ、と何度聞いたか分からないライオネルの言葉を聞いたリュシエールはたった一言『飽きました』とだけ呟く。これが合図とでも言わんばかりに、ライオネルは引きずられて、強制退出させられた。


「大丈夫だったか?」

「はい。あの、何か気持ち悪くて」

「……あれは、気持ち悪い以外の何ものでもないな。頑張ったな、リュシエール」

「……ん」


 こめかみに口付けられ、とても嬉しそうに微笑むリュシエールだったが、レオンが会議中だったことを思い出してから、慌てて体を離して二人揃って会議室へと転移し、『お邪魔してしまってごめんなさい!』と大慌てでリュシエールが謝罪をしたのだった。


 なお、強制送還を食らったライオネルは、オクタヴィアにこれでもか、というほど罵られているのだが、これは人間界でのお話なので、リュシエールにもレオンにも、全く関係のないことだった。



 ――数年後。


「かーさまー!」

「だめ、あたしがかーさまのおひざのるんだから!」


 わちゃわちゃとじゃれ合いながらやって来る我が子を抱き締めるべく、リュシエールはにこにこと微笑んで両腕を広げている。

 子供たちは、今日がどちらがリュシエールの膝に乗るのか、我先に、とリュシエールのところに行こうとしているのだ。そこに、レオンが末娘を抱っこしてやってくる。


「おやおや、双子の王子と姫は、相変わらずお母さま大好きっ子だな?」

「レオン。まぁ、そっちは寝ちゃったのかしら」

「ああ、ぐっすりだよ」


 微笑ましく会話をしている、魔王と魔王妃。

 結婚をしてもうかなりの年数が経過しているというのに、二人の関係は冷え切ることなくラブラブのままだった。


 もう、かつてリュシエールが虐げられていた国の王族は、根こそぎいなくなっている。

 新しい人が統治することになり、改めて停戦協定も締結し直すことになり、今度こそ本当に『平和』が訪れていたのだった。なお、一時期は魔界との全面戦争になりかけていたこともあるが、もう、それもない。


「……ねぇ、レオン。また私のことを返せ、って言われたらどうするの?」

「まさか、返すわけがないじゃないか」


 くく、と笑ったレオンは、眠る子供たちを見つめながらリュシエールを抱き寄せる。


「……全て俺のもの、だろう?」

「ん」


 抱き寄せられるまま、リュシエールは頷いて微笑む。

 リュシエールの居場所は、この魔界であり、レオンの腕の中なのだから。

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