18話:追い打ち
手紙を送った翌日、レオンとリュシエールは二人揃ってリュシエールの部屋でお茶を飲みつつオクタヴィアの反応を想像してみた。
「……まぁ、何となく想像はできるが」
「ええ……そうなんです。でも……」
「…………」
二人が揃って、顔を見合わせている様子をハンナもフレディも、どうしたんだろうか、と観察している。
「あの、リュシエール様? レオン様?」
「なぁに、ハンナ」
「お二人とも、一体どうしたんですか?」
「えーっとね」
困ったように頬を掻いているリュシエールを見て、何か問題でも発生しているのではないだろうか、と推測しているが、どうやらそうではないらしい。
「あのね、お姉さまにお手紙を送ったでしょう? で、幸せ自慢をしたけど……」
「リュシエール嬢が言ったんだ、『足りなくないですかね』と」
「は?」
「はい?」
フレディとハンナはきょとんとし、ああ、とまた揃って納得をしたのか双方手をぽん、と打った。
手紙だけではインパクトが足りない、と思っているリュシエールは、なかなかのメンタルの強さだ。レオンはとても愉しそうに笑っており、くく、と笑ってからフレディを手招きする。
「何ですか、陛下」
「俺のスケジュールを確認してくれ、リュシエール嬢の分もな」
「はぁ……」
次は何だ、と訝し気な顔をしたフレディは自身が良く使っている亜空間収納魔法を展開し、スケジュール帳を取り出してからレオンのスケジュールを確認してみる。
魔界の視察、小競り合い等に出向いていることも多々あるが、魔王妃であるリュシエールが公務を手伝っていることも多くなってきているため、執務自体は普通に回っている。レオンだけでなくフレディも助かってはいる。
「……で、確認して何があるんですか?」
「さっき、レオン様と話していたんですけど……私、人間界に行こうかな、って」
「はい?」
リュシエールがしれっと言った内容にぽかんとするフレディだが、ハンナが『ああ!』と言って手を打つ。
「陛下との幸せ自慢、これを人間界でも行う、と」
「そう」
うん、と頷いているリュシエールはとても良い笑顔を浮かべている。
「はっはっは、すっかりリュシエール嬢はたくましくなっているようだ」
「何か、やられっぱなしって勿体ないのかな、って思いまして」
えへへ、と笑いながら言うリュシエールはすっかり姉への恐怖心が消えているのか、声にも表情にも怯えの色は一切ない。
リュシエールが人間界に行く、というならばレオンも必ず行くだろう。幸せ自慢、ということは人間界に出向いた魔王夫妻がとっても幸せいっぱいだ、ということを見せつける、ということ。
フレディがスケジュールを見ていると、あれこれ調整すれば多少なら時間を取れそうだった。
「レオン様、多分一日や二日なら、日程調整できそうですけど」
「おお、本当か!」
「行ったら行ったで、ちょっと公務が大変なことになりそうなんですが……」
「私、お仕事頑張ります!」
むん、と手を握っているリュシエールが可愛らしく、レオンはつられるように上機嫌になって、リュシエールの頭を撫でてやる。
「ハンナ、私のスケジュールって、調整できる?」
「はい、問題なく調整可能でございます。それに、公務に関しては幹部に諸々根回しをしておきましょうね」
「ありがとう!」
ぱっと明るい表情でお礼を言ったリュシエールに、ハンナもへら、と表情を綻ばせる。それを見たレオンとフレディは、しみじみと口を開いた。
「最初はあんなに敵対心てんこ盛りでしたけど……ハンナ、すごいですね」
「強い者に従う、という魔界の掟を守っているという良い例ではある」
「あー……」
なるほどねぇ、とフレディは頷き、納得する。確かに強い者に従うのは魔界での道理、というものではある。とはいえ、ここまでハンナがデレると思っていなかったが、人……もとい魔族は変わるものだなぁ、としみじみ頷く。
「フレディ様、ところでリュシエール様と陛下のスケジュールのすり合わせを行いませんと」
「ああ、そうですねぇ。ちょっといいです?」
「はいはい」
二人がスケジュール確認をしてくれているのを見たリュシエールは、ふと自分の髪をじっと見つめる。
「……どうした、リュシエール嬢」
「あの、レオン様。もう一つふと思ったんですが」
「ん?」
何だろうか、と不思議そうにしているレオンに対して、自分の頭を指さしつつリュシエールは口を開いた。
「人間界に行くときって、この髪の色とか、どうしたらいいですか?」
「……どういうことだ?」
「えーっと、私の本来の姿って……」
リュシエールが意識を集中すると、ふわりと魔力に包まれ、あっという間に魔界に来た当初の姿に変化する。
久しぶりに見たものの、何となく違和感があってレオンはどことなく困ったように眉を顰めている。
「これじゃないですか……って、レオン様?」
「元に戻してくれるか、何となく本来の姿の方が良い。いや、何となくではないな。絶対にあっちの方が良い」
「……はい」
一瞬、きょとんとしたリュシエールだったが、リュシエールにとっての本来の姿は変化する前の姿の方。
むしろ、人間界に居た頃の姿の方がおかしかった、とも言える。
「これで良いですか?」
「うん」
レオンは本来の姿に戻ったリュシエールを、ぎゅう、と抱き締める。
「……わぁ」
「……良かった……。どうにも来たばかりの姿は、こう……心臓に悪いというか、だな」
「え」
「リュシエール嬢がされてきた仕打ちを思い出して、うっかり人間界を滅ぼしたくなるというか」
「それはちょっと待っていただければ」
レオンのことを抱き締め返し、リュシエールは彼の背中をぽんぽん、と叩く。
スケジュールのすり合わせが完了していたハンナとフレディは、『いつにもまして陛下が甘えたさんだ』と微笑ましそうに見ていたのだが、リュシエールが外見を変えたことで、ハッとした。
「リュシエール様!」
「へ? は、ハンナ、どうしたの」
「それです!」
「……それ、って……どれ?」
ハンナの言葉に、レオンを抱き締めたままきょとんとするリュシエールに、ハンナは力いっぱい言葉を紡いだ。
「「その案、採用だ(です)!!」」
ハンナが提案してくれた内容に、レオンが一旦リュシエールから体を離し、まじまじと顔を見つめてから頷く。リュシエールも悪戯っ子のように目を輝かせながら、レオンに対して頷きかけ、二人揃ってハンナに向き直った。




