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『いらない』と言われた令嬢の幸せ物語 ~うちの子なので返しません、と魔王様がご立腹です!~  作者: みなと


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16/22

16話:お返事

「だが、少し迷いがあるようだな」

「……う、ん」


 少しづつ、敬語が取れてきてレオンに対して素直な気持ちを含めて色々吐露できるようになってきているリュシエール。

 一方のレオンも、リュシエールの感情の動きはすぐさま察知できるようになってきているのだった。


「何を迷っている?」

「その……手紙の内容が、……」


 どう説明しようか、と少しだけ悩んだリュシエールは、レオンに手紙をはい、と差し出す。

 もうとっくに結婚しているとはいえ、家族からの手紙を見ても良いものなのだろうか、と少しだけ考えたレオンがリュシエールに視線をやれば、物凄く困り顔のリュシエールと視線がかち合ってしまった。


「失礼」


 一言断りを入れて、レオンは少しくしゃくしゃになった手紙を、リュシエールの手から受け取った。

 中身を見た途端、レオンの顔がぐぐぐ、と歪んでいくのを見ていたリュシエールは、『やっぱりそうなるよねぇ……』と溜息を吐いてしまった。


「何だこれは……ふざけたことを……!」

「お姉さまは……その、一応『ホワイト』の正しい意味を知っているから、私が死んでいる、だなんて思ってもいないんだと思うんです。まぁその、死ぬどころか……」


 ちら、とリュシエールはレオンに視線をやり、二人の視線が合えばレオンはとても優しく微笑んでくれる。

 魔王妃としてすっかり魔界で認識されているリュシエール、そして魔王妃にとてつもない愛情を注いでいるレオン。とてもお似合いにして、かつ、最強夫妻とも言われている二人の呼吸は、とてもピッタリだ。


「……リュシエール嬢は、死ぬどころかこちらで覚醒したからな」


 くく、と心底愉しそうに笑っているレオンを見て、リュシエールも笑顔が浮かんだ。


「うん。おかげさまで、魔法もしっかり使えるようになったから……本当にありがとう」

「礼にはおよばんが……ああそうだ、そろそろ『様』を取ってくれて構わんのだが」

「それはまだもうちょっと後で」

「そうか。では、俺も『嬢』付きのまま呼ぶとしようか」


 笑い合いながら会話をしている二人だったが、改めてリュシエールの姉からの手紙に視線をやった。


「しかし……何ともまぁ、馬鹿らしい手紙だ」

「そうでしょう?」


 姉からの手紙には、こう書かれていた。


 ――お前は、こちらの世界では死んだことになった。しかしどうせ意地汚く生きているのだろう、そうであれば魔界への侵攻に役立つような何か有益な情報でも寄越せ。


 要約するとこうなのだが、何とも馬鹿馬鹿しい内容だ、と二人は盛大に溜息を吐く。


「知っていても教える訳がないというのに……何を考えているのかしら」

「所詮は浅ましいニンゲン、ということだ。正しき意味合いをどうやって知ったかは定かではないが、知っているなら人間界で正しき知識を広めてくれればいいものを」

「しないと思う」

「だろうなぁ」


 またもや大きなため息を吐いた二人。

 向こうはリュシエールが生きていることを確信したうえで、このような手紙を送ってきている。


 面倒なことになる前に、どうにかして手を打たなければならないが……とレオンもリュシエールも唸ってしまった。

 どうしたものか、と悩んでいたが、レオンに聞いてもらって少しだけスッキリしたリュシエールは、すっと立ち上がってレオンに頭を下げる。


「一旦、他の人にも相談してみます。レオン様にまず相談できて良かった」

「……役得、だからな」


 ふ、とレオンは笑みを浮かべると部屋に戻りたそうにしているリュシエールに、転移魔法をかけてやる。

 頭を下げたリュシエールが消えた頃合いで、レオンの元にはフレディがやってきた。


「リュシエール様、大丈夫ですかね」

「大丈夫だろう、困ったことがあれば彼女から来るさ」

「……」


 すんごい自信だ……とフレディは思い、そしてレオンに書類を差し出した。


「早めに色々、どうにかしたいですよねぇ……」

「そうだな。おい、書類に誤字がある」

「あ」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「……うーん」

「まぁリュシエール様、大きなため息が」

「ねぇ……ハンナならどうする?」


 はて、と首を傾げたハンナがリュシエールの悩みを聞いてから、きょとんとした顔で、しかもとてもあっけらかんと言い放った内容に、リュシエールは目を真ん丸にした。


「そのような人たちに、妃殿下が何かをする必要はありません。ですが、あまりにも鬱陶しいなら、見せつければいいのです」

「……へ?」

「ヒトは……いいえ、ヒト以外もそうなんですけどね、不幸を願われているなら、幸せを見せつけるとダメージが大きいそうですよ」


 うふふ、と微笑んでいるハンナに『そんな便利な方法が……!』とリュシエールは驚いているようだった。


「リュシエール様と出会って、私も勉強したのです」

「……そっか」


 そもそも、前提条件として『魔界にいるのだから戦争を引き起こしかねない事態を作るわけにはいかない』というものがある。とはいえ、ちょっかいをかけられては大変鬱陶しい。


「それがある意味平和……?」

「ええ」

「何で気が付かなったんだろう……うわぁ……!」

「陛下は決して気が付きません」


 だってあの人、脳筋ですので。

 またもやあっけらかんと告げるハンナだが、強さの証明=武力、という思考回路ならば、これが当たり前なのだろう。

 そうか……そんな風にすれば良いんだ……と呟いたリュシエールは、自分の足元に魔法陣をうみ出した。


「ちょっとレオン様のところに行ってきます!」

「行ってらっしゃいませ」


 嬉しそうに転移魔法でレオンの部屋に再び現れたリュシエールの姿に、レオンもフレディもぎょっとしてしまう。

 何せ、今まさにフレディから人間界からの手紙――レオン宛のものを見てしまい、これから燃やそうとしていたところだったのだ。


「……リュシエール?」

「レオン様! ちょっとお願いが……って、どうしたんですか?」


 思わずいつも通りではない呼び方をしてしまったレオンに、リュシエールはこてん、と首を傾げる。


「ああいや……少し、虫が、な」

「珍しいですね」


 フレディもレオンも、思わず冷や汗をかいてしまう。

 レオン宛の手紙が、まさかのリュシエールの姉からのもので、『不出来な妹がさぞや魔王様に迷惑をかけているに違いないですわ』と、レオンに媚び媚びの内容だったから。


 いっそ、また戦争を吹っかけてやろうかと思っていたところに、リュシエールが転移してきた、というわけである。


「レオン様、お忙しいとは思うんですけど、さっきの相談ごと、分かりました!」

「……ん? あ、ああ、どうしたんだ」


 問いかけてくるレオンに対して、リュシエールは微笑んで、言葉を紡いだ。


「お姉さまへのお手紙のお返事に、私の幸せ自慢を書きたいです!」


「…………は?」

「ええ…………?」


 驚くレオンとフレディ。

 そしてにこにこ笑顔のリュシエール。


 とっても対照的な両者の様子に、直後に入ってきた家臣がぎょっとするまで、おおよそ一分……というところなのであった。


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