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『いらない』と言われた令嬢の幸せ物語 ~うちの子なので返しません、と魔王様がご立腹です!~  作者: みなと


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14話:平穏な日々よ、お帰りなさい

 人間界の偵察をいつまで続けるのか、という話し合いのもと、魔界サイドは人間界に決して干渉することなく、ただ静かにことの成り行きを見守っていた。


 人間界からすれば、魔界に対して宣戦布告をしたのだから、頭に血を上らせてこちらに攻め入ってくれれば御の字。

 やはり魔族は野蛮なやつらなんだ、と大手を振って再び戦争をしかけられた……のだが、実際はそうならなかった。


 人間にとっての一番の計算違いは、リュシエールがとんでもなく冷静になって、人間界サイドはこう思っていると思うんですよね、と行動を予測してくれたおかげで、魔界サイドがここまで徹底的に静観することができていることだろう。


「レオン様、あちらから何か手紙などはその後来ておりますか?」

「いいや、来ていない」

「ふふ、向こうにとっては計算違いかもしれませんが、こちらにとっては別に何もなかった。訳の分からない手紙が一通、届いてしまっただけ、ということですもの」

「全くもってその通りだな」


 ははは、と笑っているレオンのところにやってきたリュシエールの手には、何冊かの参考書がある。

 そういえば、と思い出したレオンは、こいこい、とリュシエールを手招きした。


「さて、リュシエール嬢。参考書を見せてみろ」

「はい」


 レオンに言われるまま参考書を差し出したリュシエールは、レオンの手元をじっと見ていた。


「……ふむ、これはいらんな。魔法理論……うん、これは必要だ」


 リュシエールの持っていた参考書は、全部で四冊。

 何となくこれが必要かな、と思って持ってきていたのだが、実際に必要だ、と判断されたのはそのうちの二冊だった。


「魔法理論と、回路構築……でしたか」

「ああ。そもそも、リュシエール嬢はこれまで魔法をほぼ、使ったことがないだろう。応用魔法の教本はおいおいで問題ないさ」

「なるほど」


 頷いて、レオンと一緒にリュシエールは訓練場に歩いて行った。


「ここなら、ある程度大きな魔法を使ったところで問題はないだろう」

「わぁ……」


 上を見上げれば、しっかりとした魔法障壁が展開されているし、確かに思いきり魔法を放っても問題なさそうだ、とリュシエールは思う。


「レオン様、でも」

「何だ」

「私、一人でまったりやってたので……その」

「ほう?」


 これからも一人でやりたいです、と続けようとしたリュシエールの頬を、レオンはつんつんと突く。うにゃ、となにやら可愛い声を上げているリュシエールを見て、レオンの表情は自然と綻んでいく。


「……誰、あれ」

「魔王様……だよな?」

「人格……変わった……?」


 ぽそぽそと囁かれていることには気が付いているのか、いないのか。

 レオンはリュシエールがころころと表情を変えることが嬉しいことと、最初に比べて驚くほど明るくなっていること、レオンに対してしっかりと心を開いてくれていることなどがあり、どうやら楽しくて仕方がないようだ。


「……レオン様」

「すまんすまん、つい」

「まぁ……その、レオン様が一緒に練習にお付き合いくださるのであれば、一緒にお願いします」

「分かった。ところで、得意な属性は分かっているのか?」

「ええと……判定結果だと、聖属性? が得意だと出ていて……」


 まさかの聖属性か、とレオンが少しだけ目を丸くしていると、リュシエールがすっと手を持ち上げる。


「一応、その……魔族の人たちには被害がないようにしたいから、きちんとコントロールできるようにはなりたいな、って」

「良い心がけだが……まさか、判定結果で聖属性が出るとはな」

「私もびっくりです」


 うんうん、と二人で頷き合っている光景を見ている魔法使いたちは、『この人たちいつから訓練始めるんだろう……』と思っていたのであった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 なお、ほぼ同時刻。宰相フレディの部屋にて。


「フレディ様ーー!!」


 何人かの魔王城の家臣がどどど、となだれ込んできたのを見て、フレディは一体なんだ、と顔を顰めた。


「何ですか賑やかな……」

「あの!」

「陛下とリュシエール様の!」

「挙式はいつですか!」


 駆け込んできた面々が叫んだ言葉に、フレディはきょとんと目を丸くしてしまった。


「あー……」


 そういえば、あの二人の結婚式……いや、それ以前に婚約式もしておかなければいけないな、とフレディは考える。

 だがしかし、視線を魔法の演習場に向けて、何やらじゃれ合っている二人の微笑ましい様子を見て、困ったような表情を浮かべた。


「……個人的にはあの二人の結婚式、婚約式をさくっと済ませてからやっちゃいたいんですけど」


 あっはっは、と笑いながら言われた言葉に家臣たちの目の色が変わる。

 これ幸い、と顔を見合わせた彼らは、一斉に走り出して、あちこちにお触れを出してしまったのだ。


「……止めた方が良かったのかな」


 はて、と首をひねっているフレディだったが、結婚式をさっさと挙げてしまいたいのは紛れもない事実。

 リュシエールはこの魔界の魔王妃となるのだから、人間界にも見せつける必要だってある。まぁ、この機会に二人にしっかりと考えてもらおう、と思って、あえてフレディはそのまま彼らの好きなようにさせてしまおうと考えた。


 ……のだが。


「結婚式?」


 レオンは話を聞いて開口一番、はて、と不思議そうに首を傾げてしまったのだ。

 隣に立っているリュシエールも、何故だかきょとんと目を丸くしているし、一体どうしてだ! とどよめいた面々だったが、レオンは改めて考え、そして口を開いてこう断言したのだ。


「すまない、今はリュシエール嬢を愛でることで、俺は大変忙しい。……ので、準備はそなたらに全て一任しよう!」

「え」


 隣で聞いていたリュシエールは目を真ん丸にしており、レオンを見上げている。

 そんなリュシエールを一度だけ見て、レオンはにこり、と微笑んでから言葉を続けた。


「とはいえ、ドレスは俺とリュシエール嬢で選ぶので、楽しみとして残しておいてくれ」


 にこやかに、しかし、とてもはっきりとした口調で告げられ、家臣たちはわっと一気に盛り上がる。

 それを見ていたリュシエールは、じわじわと内容を理解し、そして一気に顔を真っ赤にしてから最近覚えた飛行魔法でその場から飛び立ってしまったのだ。


「あ!?」

「リュシエール様ぁぁ!?」

「いい、俺が追いかける」


 そう告げたレオンは、ぐっと地面を蹴ってからリュシエールが飛び立った方角へと一気に加速して飛んで行ってしまった。

 それを見ていた家臣たちは、力が抜けたのか、顔を見合わせてへら、と笑い合ったのだった。


「……何か……陛下、ピリピリした感じなくなって、良い感じだな」

「リュシエール様のおかげだ」

「ああ」


 誰からともなく言って、家臣たちも笑い合う。

 これが、いつしか当たり前になりつつある魔界だったのだが、人間界はそうはいかないのであった……。


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