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『いらない』と言われた令嬢の幸せ物語 ~うちの子なので返しません、と魔王様がご立腹です!~  作者: みなと


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13話:私だって、守りたいんだ

「宣戦布告、ねぇ」


 困った様子でレオンは呟き、手紙をよこせ、と言わんばかりに手をひらひらと揺らした。

 一体何がどうなって、どういう思考回路の元で宣戦布告などしてくるのだろうか、と呆れた様子で溜息を吐いて、フレディから受け取った手紙をリュシエールと共に読んでいく。


「あー……」

「まぁ……」


 二人の反応は異なっていたのだが、リュシエールがどこか遠い目をして、ぽつりと呟いた。


「心配している風を装っているものの、戦争特需を産み出したいが故の……こう……何というか」


 どうやって言葉を続けたものだろうか、と困っているリュシエールの続きを、レオンが真顔で続けた。


「要するに、馬鹿だ、ということだな。リュシエール」

「……ええ、まぁ」

「君をこちらに寄越したものの、何も変化がないどころか、基本的に平和が保たれているから、向こうも焦ったんだろうさ」

「恐らく、私が死ぬことを期待していたのではないなか、と推測いたします」



 淡々と言うリュシエールに、レオンはそうでもないが、フレディとハンナはぎょっとする。

 しかし、調査報告書を見た限りでは、そういう扱いがこれまで当たり前のように行われていたのだろう。それが、無傷どころか魔界でとても平穏に暮らしているのだから、何とも皮肉なものである。


「レオン様」

「何だ、リュシエール嬢」

「私から、ひとつ提案が」


 にこ、とリュシエールがレオンに微笑みかける。


「一通、お手紙を書きましょう」


 提案内容に、レオンをはじめ、フレディもハンナも目を丸くしてしまう。

 だが、リュシエールが何も策もなしにこんなことを言うはずもないのでは、と三人が頷き合っているのを見て、他の使用人たちは『大丈夫だろう』と判断したらしい。

 リュシエールが自信なさげどころか、自信満々にしていることも、使用人たちの信頼を勝ち取った。


「ふふ、大丈夫です。きっと、私の予想通りになります。でも、念のためにハンナが書いてくれると助かるのだけれど……」

「私が……ですか?」

「そう。多分、私の筆跡を知っている人がいるから」

「……ほう」


 レオンが、その言葉にぴくりと反応する。


「レオン様?」

「いや、何でもない」


 はて、とリュシエールが首を傾げていると、ハンナとフレディが色々察してくれたのか、『はぁ』と揃って溜息を吐いている。とはいえ、リュシエールは色んな意味で自覚していないので、彼女の頭の上には『?』マークが大量だった。


「とりあえず、ハンナ」

「はい!」

「お手紙の代筆、よろしくね」

「かしこまりました」


 ふふ、と二人は微笑み合ってから、リュシエールはソファーから立ち上がった。


「早速か?」

「はい!」


 レオンの問いかけに笑顔で頷いてから、ハンナとリュシエールはレオンの部屋から立ち去った。

 二人が出て行って、足音が聞こえなくなってから、レオンはフレディを振り返る。


「フレディ、人間界に密偵を。結果を見届けようじゃないか」

「かしこまりました」


 どうせ、リュシエールの言ったとおりになるのだろう。レオンはそう信じている。

 普段はあんなにも自信のなさそうな彼女が、ここまで断言したのだから、結果を楽しんでいればいい。その意図もレオンはきっちりと察しているから、密偵をすぐさま呼び寄せて、人間界に放ったのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「何だこれは……」


 魔界からの手紙を受け取った国王は、わなわなと震えていた。


「へ、陛下……」


 周囲の家臣たちも、愕然としている中で、リュシエールの両親までもが愕然としていた。


「人間が魔界に来たとしても、そもそも魔法が使えない。一体何をどうして魔界に来ようとしているのか……だと。ふざけたことを……!」

「もしや、魔界の瘴気の濃度が上がったのではありませんか!?」

「そうだ! きっとそうですよ陛下!」


 わいわいと騒ぐ家臣たちを忌々し気に睨みつけ、国王はゆっくりと口を開いた。


「お前たち……リュシエールを生贄にした、とかほざいておったが、ただ『差し出した』だけではあるまいな」

「そ、そんな!!」

「だって、国からホワイトが居なくなればいい、って陛下だって仰っていたではありませんか!」


 思いがけず部下からの反論を受け、国王はまたぐっと黙り込んでしまう。

 しかし、そこに人間界側の偵察員が今にも倒れそうな様子で入ってきたのだ。


「陛、下……」

「な、っ……」


 ふらふらと歩いてきた偵察員は、その場に倒れ込んでしまったものの、どうにか国王の前まで歩いてきて、額を床にこすりつけるかのごとく、土下座を始めた。


「陛下、申し訳ございません! ……っ、魔界は……あのようなところ、人間はそもそも生きていられません! 前回攻め入ることができたのは、きっと魔王に魔王妃がいなかったからです!! 今は……あまりに瘴気が濃厚で、人間の住めるような環境下ではなくなっております!!」

「な、なに、を」

「友好の証たるリュシエール嬢も、あのような環境下では生きてはおりますまい……。今回の偵察で、オクタヴィア様がご心配している、とお伝えできれば……そう思っておりましたが……!」


 ぐ、と拳を握った偵察員は、まだ言葉を続ける。


「……このままでは、泣く泣くあちらに向かわれたリュシエール嬢を助けるために、魔界に攻め入ることもできやしない。そもそも魔王妃の容姿はリュシエール嬢とは別物でした!! 彼女が生きているわけがないし、魔王に慈しまれていたのは別の魔族の女です!!」


 この報告を聞いた国王はじめ、リュシエールの両親たちまでもが愕然としてしまった。

 まさか、自分たちの子はもう既に死んでいる、とでもいうのだろうか。だが、そうなれば好都合だ、とリュシエールの両親はニタ、と笑った。


「ぐ……っ!」

「リュシエール、が……」

「まさか、そんな」


 ぺたん、と国王夫妻はその場に座り込み、そしてぱっと顔を見合わせて頷き合う。リュシエールの母親は大げさすぎるほどに泣き始め、わぁわぁとその場に泣き声だけがこだましていた。


「ああ……っ、わたくしのリュシエール!! どうして……どうしてあなたが犠牲に……!」

「おい、泣くな! きっと、リュシエールは……っ、俺たちのことを思って、……っ、おい!!」


 リュシエールの父親である国王は、泣きながら顔をばっと上げる。

 涙で濡れ、ぐしゃぐしゃになった顔のままで、何か決意した顔でその場にいた家臣たちに向けて口を開いた。


「我が娘の仇を!! 憎き魔族に、報復を!!」


 起こせないのであれば、戦争の理由を作ればいい。ただそれだけだ。

 リュシエールの両親である国王夫妻は、すぐさまこの悪知恵を考え出してしまった。今回の報告で聞いた内容を元に、リュシエールの『死』を利用してしまえばいいんだ、と考え、一芝居をうつことにした、というわけだった。


 きっと、普通の思考回路の人間ならば、これを怪しんでいただろうが、先ほど報告を受けた内容を家臣たちが聞いているから、これにすぐさま乗っかってしまった。


「……そうだ。和平の証としてのリュシエール嬢を殺したのであれば……」

「魔族に……報いを!」


 家臣の誰かが言った、その言葉を皮切りに、家臣たちは、わっと騒ぎ始めた。

 あちこちから『報復を!』や、『魔族を根絶やしに!』と言う声が聞こえてきている。


 ――それを、聞かれているとも知らず、彼らは盛り上がり続けたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……ね?」

「まぁ……さすがですわね、リュシエール様」


 ハンナは驚きつつもリュシエールと微笑み合っているが、レオンをはじめとしたフレディや他の家臣たちは、『予想通りになってしまった』と顔を見合わせている。


「レオン様、こちらの言っていた通りになったでしょう?」

「……見事だな」


 レオンは手を伸ばし、丁寧な手つきでリュシエールの頭を撫でてやる。

 またもや嬉しそうに微笑んでいるリュシエールをじっと見つめ、彼女の額に口付けをしてから、魔界の偵察部隊が中継してくれている映像を関係者と眺めていた。


「……見事、ではありますが……まさか、元・家族の皆さまがここまで浅ましいだなんて……」

「リュシエール嬢……」


 リュシエールの華奢な体をレオンはぎゅっと抱き締め、よしよしと頭を撫でつつぽつりと低い声で呟いた。


「君の怒りの矛先は、まず初めに俺であることが望ましかったんだが」

「へ」


 先ほどのリュシエールの少し低い声を聞いたレオンは、リュシエールが怒っているのだと思ったらしい。


「レオン様、どちらかといえば……呆れておりますが」

「それも、俺が初めてが良かった」

「まぁ」


 手のかかるお方ですねぇ、とリュシエールはレオンの頭に手を伸ばし、優しく撫でる。これは誰が何と言おうとも、リュシエールにだけ認められている『特権』のようなもの。

 いつの間にか呆れも怒りも霧散してしまったリュシエールは、微笑んでこう言葉を続けた。


「ねぇ、レオン様。私だって皆を守りたいんです。ただ、あなたに守られるだけではなく、隣に並んで、一緒に歩きたい」

「……っ」

「守られているだけの人って、魔王妃にはなれないでしょう?」


 魔界に来たばかりの、怯え切っているリュシエールは、もういない。


「……驚いたな、君からそんな言葉が聞けるなんて」

「ふふ、私だって……多少は成長しますよ」


 微笑み合っている二人を見て、さっきまでの緊迫していた空気はいつの間にか霧散していた。

 ああ、この二人ならば何があっても大丈夫だ。

 そう確信して、部下たちは皆、二人を微笑ましく見守っていたのだった。


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