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『いらない』と言われた令嬢の幸せ物語 ~うちの子なので返しません、と魔王様がご立腹です!~  作者: みなと


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11/12

11話:条約

 ――リュシエールが魔界に行ってから、しばらく経過した頃。


「……姫様、お可哀想に」

「魔界に行っては、もう……」

「和平条約のためとはいえ、何ということを……」




 話は、人間界の時間で数か月前まで遡る。

 リュシエールが魔界に行った後、本来リュシエールと婚姻関係になるはずだった相手は、リュシエールの姉と結婚をしていた。

 彼女の姉が『リュシエールは、この関係を崩すことは望んでなどおりませんでした。だから、不本意かもしれませんがわたくしと……』と迫ったことで、あまりにも簡単に婚約関係が変化したのだ。


「姫様、妹姫のことは……」

「……こちらからの手紙に、リュシエールは何も反応しなくて……っ」


 ぐす、とウソ泣きを披露してみせれば、姉の婚約者――ライオネルはきっと何かを決意したように真剣な表情になった。


「オクタヴィア様、まずはもう一度、我らからリュシエール様に手紙を送ります。それでだめならば……」

「駄目、なら?」


 うるうると潤んだ瞳で、オクタヴィアはライオネルを見上げた。


「契約を破ったのは、あちらが先。であれば……姫様の弔い合戦ともいえる戦を仕掛けましょう。契約違反には、相応の罰を示さなければいけない」

「ああ……っ、ライオネル様!」


 感動した様子でオクタヴィアは叫び、そのままぎゅうっとライオネルに抱き着いた。

 しかと抱き合った二人は、別々の思いを抱いている。


 いくらリュシエールが『ホワイト』であるとはいえ、家族には大事にされていると思っていたライオネルは、今回の件に関して『どうして』としか言えなかった。

 まさか、リュシエールが和平の証として自ら魔界に出向いてしまうだなんて思っていなかったのだ。


 ライオネルとリュシエールは、婚約者としてほどほどの仲の良さではあった。

 彼と会うときだけは、リュシエールはきちんと着飾っていたし、家族仲もいいように見せかけていた。利用できるものは利用してしまえ、という王家の面々の考えだったのだが、ライオネル自身はまさかリュシエールのことを捨て駒にしているだなんて思ってすらいなかったし、心優しいリュシエールは他を犠牲になんかできないから、自分が犠牲になった。そう思い込んでいた。


 あくまでも、自分に都合の良いようにしか考えていないため、結果としてライオネルはオクタヴィアをはじめとして、王家の人間の都合の良いように利用され始めていることにも気付いていない。


 彼の意見が着火剤のようになり、落ち着いたはずの戦火がまたもや燃え盛ることになるだなんて、これっぽっちも考えていない。


 ――だが、人間サイドはこれで良かったのだ。


 戦争が終結に向かう=武器の必要がなくなる。

 すなわち、武器を作る必要がなくなるから、経済状況が戦争前に戻ってしまう。


 所謂、戦争特需というものがなくなってしまうということであり、これによって雇用が消失してしまうと考えたのだ。


 では、どうすれば良いのか。


『もう一度戦争を起こしてしまえば良い』。


 魔族側の過失である、という点を一点集中で責め倒し『条約を先に破ったのはどちらなのか』というところを突いて、一気に攻めてやればいくら魔族とてそう簡単には人間に勝てないだろうと推測したのだ。


「(まぁ、あのホワイトに手紙なんか送っていないけれど……この男、思っているより扱いやすくて助かるわ)」


 ライオネルの腕の中で、オクタヴィアはクスリと微笑む。

 あのリュシエールの婚約者になるというくらいの男だから、どれだけ馬鹿なのだろうかと思っていたが、予想以上。

 ちょっと言い方を考えて誘導してやれば、こんなにも簡単に戦争勃発させられそうなほどに熱くなってくれた。


「(ねぇリュシエール、感謝してあげるわ。お前のおかげでまた、戦争を起こせる)」


 ぎゅ、と改めてライオネルに抱き着き直したオクタヴィアは熱の籠った眼差しで自身の婚約者となった彼を見つめ、そしてどちらからともなく口づけを交わした。

 そのまま、二人の影は重なり合ったのだが、これをじっと、窓の外でカラスが見ていたことには、二人は気付いていない。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……ほう」

「あら、まぁ」


 使い魔からこの人間界の惨状を知り、まさかこんなことになっているなんて、とリュシエールもレオンも溜息を吐いた。


「私を利用したことは良いんです、でも……まさかまた、二重に利用しようだなんて、呆れてしまいますね」


 すっかり、本来の姿でいることが慣れたリュシエールは、カラスからの報告に困ったような表情を浮かべている。


 人間界と魔界の時間の経過は、少しだけ異なっている。

 魔界では一年経過しているが、人間界ではおおよそ、その半分の時間しか経過していない、という状況だ。


 だがしかし、オクタヴィアはしれっと嘘をついている。


「姉さまから、手紙なんて何も来ていないのに」

「そうだよなぁ……おいハンナ」

「はい」


 ハンナを呼べば、ふっと姿を現した。


「一応聞いておく、正規ルート以外に、リュシエール宛てに何か手紙が来たか?」

「いいえ」


 レオンの問いかけに端的に返答したハンナは、心配そうにリュシエールを見る。その視線に応えるかのように、リュシエールはハンナと視線を合わせて微笑んだ。

 言葉にこそ出していないが、大丈夫だ、心配しないで、と言っていることがハンナにも理解できて、ほっとしたように微笑み返した。


「しかし、これからどうしようか」


 少しだけ面白そうに、レオンがリュシエールに視線をやりつつ呟けば、リュシエールが何となくレオンの言わんとしていることを察して、ふふ、と微笑んだ。


「簡単ですよ。彼らには……彼らが言っている馬鹿げた言葉の責任を、きちんと取ってもらえば良い」


 カラスを手招きすれば、ふわりと羽を広げて飛んで、リュシエールの腕にすっと止まった。黒くて艶やかな毛を撫でてやれば、心なしか嬉しそうにしているカラスを見つめたまま、リュシエールは言葉を続けていく。


「自分たちへのブーメラン発言に関しては、彼ら自身に責任を取ってもらってから、しっかりと後悔してもらいましょう」

「……後悔はしないか?」

「後悔?」


 リュシエールはレオンからの問いかけに、はて、と首を傾げた。


「だって、元々私の故郷はここなのです。それに……私は今、レオン様の花嫁修業をしている身。どうして後悔などできましょうか」


 迷いなく言うリュシエールを抱き寄せ、自身の膝に乗せてから、レオンはリュシエールの柔らかな髪に口付けた。


「そうだった、忘れていたよ我が姫。……確か人間界の言葉には、こんなものがあったな」


 楽しそうな口調で、レオンは続けていく。


「目には目を……歯には歯を、だったか。存分に、思い知ってもらおう」


 レオンの目と、リュシエールの目が、楽しそうに細められていく。


 ――かつて故郷だったところに対して、何の遠慮もいらない。


 リュシエールは、そう思ってレオンの腕の中の心地よさを堪能していた。


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