7 カンニングと申されましても
「貴様、カンニングしただろ!」
学園の成績が張り出されている廊下の前にて根拠のない言い掛かりで絡んで来たのはいつもの男であった。
成績表には私が1位でミーファが2位となっている。
オーザッカ侯爵邸で勉強会を開いたかいがあった。
そもそも、ここはゲームの中の世界であって、問題自体がさほど難しくない。
それにミーファはゲーム体験者で問題の傾向が解り、私は王家の高等な教育を得られた事もあるため、二人の力が合わされば当然の結果であった。
同じ転生者で同じく王家の高等な教育を受けたと思われる絡んできた男の成績を見ると・・・
なんと言うか・・・
上位にはいない。
彼はゲームをやった事があるのでは?
もしかしたら彼は私と同じく異世界や転生と言うワードは知っているがゲームをやっていないのかもしれない。
それでも結果は酷いものである。
「殿下、根拠は?まさか、王族の方が根拠もなしに貴族を貶めるような発言をしておりませんよね」
「そ、それは・・・」
やはり根拠はない。
「アガヤ殿下酷い。私とニーハ様は殿下に恥をかかせないよう一生懸命勉強致しましたのに、それをカンニングと疑うなんて・・・」
「うっ、いや・・・」
出た!ヒロインの涙。
これが噂に聞くヒロインの必殺技。
場合よっては、この必殺技を喰らうのが自分であったかと思うと恐ろしい。
流石の必殺技だけあって同じく成績表を見ていた生徒が一斉に絡んできた男へ批判を漏れる。
最早そこには王子に対する考慮など一つも見られなかった。
「アガヤ殿下、ミーファはちゃんと勉強しておりました。それは、私も見ております。根拠もなく疑うのは止めて頂きたい」
ミーファを庇うのはミゼルであった。
最近のミーファはミゼルが絡んできた男の側近から外れた事もあり、絡んで来た男から距離を取るようにしている。絡んできた男の方がミーファにしつこく付きまとっていた。
ミーファを苛めから守るミゼルも今では絡んできた男から守る為に常にミーファの側にいる。
そして私見逃さない。
ミゼルはミーファと呼び捨てにしていた事を。
二人の中が順調そうでなりより。
後は、この邪魔物に退場して貰いたい。
「殿下、私は幼少の頃から王家の高等な教育をずっと受けてきております。その教育があれば今回のテストはさほど難しくはないと思うのですが、残念ながら同じく高等な教育を受けていたはずの方の成績を見ますと説得力に欠けてしまいますね」
「そ、そうだ。それは根拠にならない」
いや、そうじゃない。
ニーハは絡んできた男が馬鹿なせいと馬鹿にしたのだけど、絡んできた男は自身が優位になっていると勘違いして気付いてくれない。
「それでは、今回の問題を王家の方にお見せしましょう。見て頂ければ、教育を受けた者なら解ける問題であったかどうか解るはずです」
「いや、そこまでしなくても良いのではないのか?」
「言われなき言い掛かりで絡んできたのは殿下でございます。私とミーファさんはその疑いを晴らさなければなりません。私が真面目に教育を受けたのか、もう一方が不真面目であったのかハッキリさせたいと思います」
「ま、待て」
絡んできた男がたじろいでいるところに、騒ぎを聞き付けた教師陣が駆け寄って来た。
「どうしたのですか?」
「お騒がせしてすみません。殿下が自分の成績が低いのに私やミーファが成績上位なのはカンニングしたからだと疑われてしまいましたので、申し訳御座いませんが今回の問題を王家の方に渡して頂き王家の教育で解らない問題であったか確認をお願い致します」
「そんな事する必要ありません。王家の教育を受けていれば解る問題ばかりです」
「ですが、もう一人の王家の教育を受けられた方の成績があまりにも乏しく、王家の教育が根拠に出来ないのです」
「それは私共も驚いております。今までの王族の方々は皆様が優秀な成績を修めておりましたが、このような低い成績は初めてでございます。寧ろ、その件で国王陛下にお伝えしなくてはなりません。少々、詳しい話をお伺いしたいのでアガヤ殿下には職員室に来て頂きたい」
絡んできた男は教師達に連れていかれた。
「ゲームのアガヤ殿下も成績悪かったの?」
「いいえ、常にトップでしたよ」
やはり。
転生者によってゲームのストーリーは簡単に歪められる。
そこに強制力や修正力などもない。




