3 婚約と申されましても
「お断り致します!」
アガヤ第二王子との話し合いも終わり、私達はオーザッカ侯爵の執務室へと場所を移す。
そこで、父であるオーザッカ侯爵から王家より婚約の話がきている事を伝えられる。
しかし、ニーハはハッキリと自分の気持ちを伝えた。
「し、しかし王家からの話を簡単に断る訳には・・・」
「簡単に断るも何も向こうは私の事を嫌っているではありませんか。お父様もご覧になられたではありませんか、アガヤ殿下は私の名前ですら憶えようともしておられないのですよ。好意を抱かないにしても最低でも尊重し会える態度なら解りますが、あのような態度で上手く行くはずがありません。私だって貴族の娘ですので、政略結婚の覚悟はございますが、アレは政略結婚どころではございません!」
「しかしだな、若気の至りで大きくなれば・・・」
「貴方、あの方が変わられるとは私も思えません。貴方はニーハを不幸にしたいのですか?」
やはりお母様はニーハの味方であった。
先程の応接間の時もお母様だけは涼しい顔をしていた。
お母様の中でもアガヤ殿下の事は切り捨てていたのだろう。
「いや、ニーハには幸せになって貰いたい。しかしだな、国王陛下が・・・」
お父様の言う通り国王陛下からの話を無碍に断る訳もいかない。
もしかしたら、国王陛下もお父様の性格を知って厄介者を寄越して来たのかもしれない。
だけど、このままでは残念王子と婚約結ぶことになってしまう。それだけは御免被りたい。
「それではお父様、こうされてみてはどうでしょうか・・・」
国王陛下がお父様の性格を知って言いくるめようとするなら、ニーハもお父様を言いくるめる事にした。
「解った。その方向で国王陛下と話をしてみよう」
お父様は侯爵と地位も高いにも関わらず気弱すぎる。
そんな性格では良からぬ者に漬け込まれるのではと心配になってしまう。
「お姉さま」
「あらフゼン、どうしたの?」
フゼンは私一つ下の弟である。
父上との話も終わり自身の部屋に戻ろうとしていたところ、フゼンに声を掛けられた。
「お姉さまは王子様と婚約されるのですか?」
「うーん、どうだろう?私は嫌なんだけど、国王陛下からの話を無碍には出来ないから、後はお父様とアガヤ殿下しだいじゃないかしら」
フゼンは首を傾げる。
賢いフゼンでも流石に理解出来ないらしい。
あれから幾日か日が経つ。
そんなある日、お父様に執務室に来るよう言われる。
言われた通り執務室に入るとお父様の隣に見知らぬ男性が立っていた。
「こちらの方は王宮で文官として務めているスーガンさんだ。以前、アガヤ殿下の件を国王陛下にお話したところ、ニーハが提案した内容で了承頂いた。これは、その正式な契約書となっている。既にアガヤ殿下のサインは頂いているので後はニーハのサインを貰うだけだ」
ニーハはお父様から契約書を受け取ると一つ一つ読み込む。
王家との契約だ。
もし、記載ミスや向こうに有利な内容に変換されていると将来が大変になる。
何せお父様の事だから王家の方に言いくるめられている可能性がある。
お父様や文官の方を待たせる形になっても隅々まで読み込まなければ安心出来ない。
「大丈夫そうですね。私の出した条件がそのまま記載されておりますので、これなら安心してサインが出来ますわ」
ニーハは契約書にサインをすると文官の方に書類を手渡す。
「なるほど、国王陛下が婚約を結びたくなる気持ちが解ります。ニーハ令嬢が王妃となって頂ければこの国は安泰でしょう」
文官は何を持って感心したのか解らないが褒められて嬉しくない事はないので一礼をして執務室を後にした。
もし、この世界がゲームや小説の世界なら私はおそらく断罪される立場になる。
でも、私は素直に断罪されるつもりはない。
その一手が今回の契約書となる。
将来に向けて磐石な一手が打てたと安心するニーハであった。




