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2 喋らないと申されましても

「・・・」


応接間での話し合いも既に半時ほど経つだろうか。

アガヤ第二王子の護衛や侯爵家の侍女達は冷や汗をかいている。

隣に座るお父様も1kほど全速力で走ったかのように汗だくとなっていた。

反対にお母様は涼しい笑顔でいる。

しかし、私は気付いている。

お母様の笑顔の内側が鬼の形相となっているのを。

お母様も私と同じく目の前に座る横柄な態度でいる者を切り捨てているはず。


「おい!」


先程から苛立ちを露にしていたアガヤ第二王子がついに苛立ちを口にした。

何を苛立っているのかと言うとニーハが先程から一言も喋っていないからだ。

既に半時ほど経つのにニーハはお茶をすするだけで澄まし顔で座っているだけであった。

しかし、それも仕方がない。

アガヤ第二王子の方から何か問われればお答えするのだが、先程から他所を向いて話す素振りもない。

かといってニーハは既にアガヤ第二王子に興味すらないため問う事もなかった。


場を繋ごうとお父様が一生懸命にアガヤ第二王子に質問するが、「ああ」や「知らん」など素っ気ない返答しか返って来ない。

そして、一言も発っせないニーハに「おい!」と問い掛けたのだ。

しかし、ニーハはアガヤ第二王子が怒りのあまりに発した言葉にも反応しなかった。

ニーハは『オイ』と言う名前ではない。名前を呼ばれていない限り不敬ではない。

・・・・はず。


「貴様、不敬だぞ!」


ニーハの『キサマ』でも『フケイ』と言う名前でもない。

なので無視を継続する。

しかし、この重たい空気に耐えられなくなったお父様が「ニーハ、アガヤ殿下に呼ばれているぞ」と声掛けてきた。


「あら、私に話し掛けられていたのですか?」


「惚けるな!」


「惚けるも何も今まで一度も『オイ』とか『キサマ』とか『フケイ』とか呼ばれた事がありませんでしたので私に話し掛けているとは思いませんでしたわ」


「何だと」


「名前で呼んで下されませんと解りませんわ。名前で呼んで頂けると助かります」


「・・・」


「どうしましたか?」


「オ、オーザッカ侯爵令嬢・・・」


「それは名前ではありませんわ」


やはりアガヤ第二王子は私の名前など覚えていない。

挨拶で告げたし、先ほどオーザッカ公爵の口から発せられている。

それどころか、婚約者と勘違いしているなら名前くらいは覚えてくるのものだも思うのだけど。


「こ、侯爵令嬢でお前に問うている事が解るだろ」


「そうですね。それとアガヤ殿下が私の名を憶えていない事も解りましたわ」


「そ、それは・・・」


「それで、私にどのようなご用があるのでしょうか?」


「ご用?」


「ご用があるから私の事を呼ばれたのですよね?」


「き・・・侯爵令嬢は先程まで何故一言も喋らなかった」


ニーハは首を傾げ不思議そうな顔をする。


「何故と申されましても先程までの話に私が話す所がありましたでしょうか?私の記憶が正しければお父様のお話にアガヤ殿下が『ああ』とか『ない』などの返事をされただけで私が話す所はないように思えますが?」


「き・・・侯爵令嬢は婚約者だろ!婚約者なら色々と聞いてくるのが常識だ!」


「私、婚約の話は聞いておりませんし、サインをした記憶もございませんので、婚約者ではございません」


この世界では婚約の書類に本人同士のサインが必要とする。その書類にサインをしていない以上は婚約者ではない。


「アガヤ殿下は私と婚約していると思われたのですか?」


「あ、ああ」


「それではアガヤ殿下はどうして私に話そうとされないのですか?」


「何?」


「先程、アガヤ殿下は『婚約者なら色々と聞いてくるのが常識だ』と言われました。ならば何故、私に聞いて来られなかったのですか?」


アガヤ殿下は返答出来ない。

アガヤ殿下はニーハに完敗したのだ。

だが、この手のハズレ王子は簡単に自身の負けを認めない。

アガヤ殿下は顔を真っ赤にして立ち上がり護衛を怒鳴り付けると「帰るぞ!」と叫び、オーザッカ公爵邸を後にした。

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