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【第一章】†ep.6 ともだち†

 ――午後、7時30分。

 その日の夕食は大広間で取る事になっていたため、部屋にマリアが呼びに来た後すぐに着替えをさせられ、大広間へと向かった。

 大広間で食事を摂る時は、重大な報告や発表がある時なので、めったに大広間で皆が集まることはない。

 特に何もない時でも、日曜の夜は大広間で食事を摂るという事が決められていた。

 それ以外は、部屋で食事を摂っているのである。今日は月曜日――。

 二日続けて大広間で摂るというのは、少々面倒くさい気持ちでレティシアは席に着いた。

 国王エリックと王妃リーディア、第一王子エルト、第二王子ミグ、第一王女レティシアの他に、レティシアの祖母である太后オルフェシアも様々な料理の並んだこのテーブルに姿を見せている。祖父である大公オーグロンドは病気で亡くなっているが、この王国では女性にも国を治める権利があり、王が亡くなれば王妃にその座が向かう事もある――。しかし、オルフェシアは女王として国を治める権利を放棄――そして、自分の息子である現国王エリックにその権利を譲ったのであった。

 レティシアの正式名称に付いているのも、祖父の名前からとったものである。

 それ以外にも、宰相大臣レイモンド、兵士長テヴァン、財務大臣、外務大臣など上位の家臣がその姿を見せており、違うテーブルに着席している。さらには、その大広間の入り口周り一帯を、侍女や執事、兵士たち、料理番の者までもが立ち囲んで整列させられており、城中の者勢ぞろいで何かの発表のために呼ばれている様だ。


「――ミグ…、今日は何か……重大発表でもあるのか…っ?」

 隣の席のミグにひそひそと声を潜めて尋ねたレティシアに、ミグは顎で左の方を指して言った。

「…ほら、あそこ。挨拶するんだろ――皆に紹介するために…」

「ん…? 紹介……?」

 そう言って見たミグの指した方向に、リュシファーの姿を見かける。

 上位の位はない筈なのだが、リュシファーをレイモンドが連れており、自分達のいる席に座らせている所だった。その後ろには、もう一人エルフの若者がいた。

 後ろに一つに束ねている髪の毛は下ろせば肩より少し長い程の長さ。リュシファーの髪の色よりも淡い色味だが同じ系統の藍色で、瞳は葡萄の様に紫がかって澄んだ瞳――。水色のマールシェスタ城の紋章が入った制服らしき物を着ている。

 二人並んでいる所を見てもリュシファーよりは少し背が低いその若者は、優しそうな面持ちをした時のリュシファーに、どことなく似ている気がした。

 でも、エルフというのはあんな風に綺麗な顔をしているものなのだなと、勝手にレティシアは判断して、考察を終わらせた。

 しかし、その若者をじーっと見ていると、上位家臣たちの席に座るという事に少し緊張しながら慌てて席についている様子に、少し苦笑しながら声を潜めながら口を更に開いた。

「あれ? じゃあ、もう一人いるあのエルフの若い者は……?」

 レティシアの問いに、今度は第一王子エルトがひそひそと口を開いた。

「――レティ? …少しおとなしく待てんのか…? 仕方ないな――ミグとレティは」

「…あ、兄上――。あはは……はぁぃ…」

 エルトが少し呆れたようだが優しく諭すと、レティシアは大人しく返事をした。レティシアはエルトに対しては素直に言う事を聞く。何故ならそれは、エルトがレティシアの思う“理想の兄三原則”に当てはまる素敵な兄だと思っているからだ。

 その極意とは、『優しい』『かっこいい』『頼れる』というもので、理想の兄三原則として掲げる絶対条件であった。

 それに比べてミグに対してはというと、『…もーっ、ミグのせいで兄上に怒られたじゃないかっ……』とこっそり言い、自分の足を伸ばしてミグの足を蹴るという程の扱いである。

 やはり、レティシアにとってミグは双子の兄ではなく、同じ立場の関係なのであろう。


 ようやく国王が皆に挨拶するために立ち上がり、それに続くようにレティシア達全員も立ち上がった。

「忙しい中集まってもらったのは、他でもない――。もう知っている者もいるかもしれんが、皆に紹介をしておかねばならぬ者達がいる――。一先ず、席についてくれ」

国王が、席に皆が着くように促したかと思うと、リュシファーとサーシャの方へ視線を向け、頷く――。

 二人がその場に立ち上がると、一礼して一人ずつ自己紹介を述べていった。

 リュシファーは知っているのでともかくとして、サーシャという若者は、王立研究室で研究のために勤務する事となった様である。国王の期待を込めた二人への一言が終わった後、「報告は以上だ――」の言葉を述べると、一礼をした侍女や執事たちなどは、元の仕事に戻っていく。

 レティシア達も、その声とともに肩を撫で下ろし、食事に手をつけていく――。

 リュシファー達は、レイモンドを初めとする大臣たちと普通に会話をしている様子であるが、レティシアは少し疑問に思っている事があった。

 そもそも、良く考えてみれば教育係というだけで、皆に紹介をするというのは今までに前例がなかった気がしていた。

 それをエルトに聞くと、『父上自らが厳選したのだ。優秀な者として期待されておられるのであろう』と、的確な返事が返って来た。

 …父上はリュシファーの事、やはり相当信頼されているということか――…はぁ。

 落胆した様子で料理に手をつけるレティシアに、同席のエリックが話しかけて来た。

「レティシアよ…。ちゃんと約束は守った様だな。昨日は少し言い過ぎたかもしれんが、ちゃんとこれから勉強さえ真面目にやってくれれば、私も何も言わん。――で、どうだ?」

 聞かれた途端にひきつった笑みが浮かんでしまい、視線はリュシファーの方へ自然と向かった――。リュシファーは、その視線が一瞬にして自分に向いただけというのにも拘らず、すぐにレティシアの視線に気付き、意味ありげに勝ち誇った様な表情を一瞬だけ見せた。その様子にレティシアは驚愕の色を隠し何とか作り笑顔を浮かべると、エリックに向けて口を開いた。

「――え、えぇと…、な…なかなか頭の切れる者だと――正直、少し父上には参りました……」

 それを聞いたミグがレティシアを見ながら、驚愕の表情を浮かべている。


「おぉ、そうかそうか。そうであろう? せいぜいしっかり勉強に励むのだぞ。ははは」

 エリックが満足気に大笑いしている。

 しかし、レティシアはそれには答えずに少し俯くようにして、冷静に料理に手を運ぶ。

 ――レティシアは、内心ではそう口にすることは望んではいなかった。

 ここは大人しく引き下がらなければならない理由があったのだ。

 レティシアの口から自然とため息がひとつ、漏れた――。


 ――――…

 大広間での食事会は終わり、へとへとになりながらも部屋に戻り、レティシアはマリアにお茶を入れて貰っていた。

「…姫様? お疲れになられたのですかぁ? 」

「――あぁ……まぁそうかもしれん。少しぼーっとしていたい気分なのだ。…はぁ……」

「まぁ……」

 マリアの視線の先には、完璧にソファーにうつ伏せになる様にしてうな垂れているレティシアの姿があり、マリアは少し困った様に苦笑を浮かべていた。

 そんな折、またノックもなしに例の人物がやって来た。

「マリアさんっ。俺もお茶、貰っていいっ?」

「あらぁ、ミグ様っ、もちろん」

 この時、今の自分と対照的に考えて悩みがなさそうなヤツだと、レティシアは思う。

「サンキュ。――にしてもレティ、何だ? またゴロゴロとー」

 ミグがレティシアのそのうな垂れた様子に呆れて声をかけるが、「あぁ」しか返事はない。ミグのための新しいカップにお茶を注ぎながら、困った様な表情で代わりに説明をするためにマリアが口を開く。

「えぇ、そうなんですよ、ミグ様。大広間から戻って来てから、ずっと姫様ったらぼーっと

していらっしゃって・・・。きっと今日は新しい教育係に、お食事会にと、きっと疲れてしまったんですわ・・・。はぃ、どうぞ」

 マリアがミグにお茶を渡すと、微笑んで「では、失礼します」と去っていった。

「ふぅん……」

 淹れてもらったお茶に口をつけると、ミグはため息を吐きながらレティシアの様子を見ていると、レティシアがやっと重そうに体勢を起こしてから、ちゃんとソファに座り直して口を開く。

「――うーん…。マリアの言う通り、なんか一日疲れたみたいだ。ぼーっとしてしまう…」

 うつ伏せになっていたからか顔には跡が付いており、顔が少し赤くなっているのをミグが苦笑しながら『なるほどな』と思った。まさに、疲労の色が伺えたミグは、そんなボロボロの様子のレティシアに少し同情しながらも、自分が逃走した事を謝ってからその後について尋ねる。

 レティシアは落胆した様子を見せ、その口からはため息も漏れ始めながらミグを見た。

「――想像通りだ。…明日からみっちり勉強させられるんだから、気が重い……。あーヤダヤダ。まだ明日じゃないのに、憂鬱だぁぁー」

 落胆から嘆きに少し表情を変えるレティシアのその様子と、あのリュシファーのなんともいえない恐怖を感じる威圧感を思い返せば、大体状況が想像が出来たミグは、相変わらずの苦笑いを浮かべながら少し慰め、もう一つの質問を投げかけた。

「あはは…それはそうと、お前さっき父上にちゃんと教育係の事褒めてたろ。あれもなんかあるだろ……?」

 実はミグはそれを聞きたくてそこに来たのだった。あの食事会でのレティシアの異変――これには、絶対に何かあるとずっと気になっていたのだった。

 先程から質問ばかりされうんざりして、一々、全部質問されては疲れると思いレティシアは全てをミグに聞かせたのだった。

「うわー…。なるほど。……そりゃ、変なこと口に出来ないな」

「やっとあの者の恐ろしさがわかったか?…本当、これじゃおちおち城下にも出れやしない――…」

「まぁ、それにしても…こりゃ観念するしかないなぁ。さすがのお前も――」

 そうミグが言っている最中に、レティシアは立ち上がってお茶を一口飲んでからテーブルに置いたかと思うと、ドアの方に向かって歩みを進め出す。

「…ミグ、私――ちょっと兄上の所に行って来る……」

 もはや満身創痍といった感じでふらふらとドアに向かうレティシアに、ミグは心配しつつも同情している様に微笑みを浮かべている。

「…エルト兄様んとこ?……お前さぁ…俺も、“一応”…お兄様だぞ?」

 一瞬、立ち止まり冷めた目線をミグに向け、ふっと心ない笑みを浮かべたと思うと、レティシアはまた歩みを進めていきドアに手をかけ立ち止まった。ミグの方は向かずに、前を向いたままその言葉は発せられた――。

「ミグは――、“友達”みたいなもんだ…」

 パタン……………

 その言葉を残し、部屋のドアを開けたレティシアは出て行った。

「――へいへい。友達ね…いってらっしゃぁい……」

 ミグは『歳も同じ。時間差で早く生まれただけで、“兄/妹”という位置づけ自体がそもそも理不尽だ――』と、前からレティシアはよく言っていたのを思い出し、少し呆れた様にやれやれと言った感じで微笑んだ。


 ―――昔から子供扱いされるのが大嫌いな奴だったからなぁ……。

とはいっても? 双子の兄弟と言う位置づけでさえ、結局は自分が一番下なので仕方ないんだけどなぁ…

 そして、さっきの落胆して疲れていた様子を思い出して、新しい教育係が手にした切り札がレティシアにとって大きな存在であることにもその思考を繋げていた。

 目の前のお茶を揺らしながらぼーっと眺めていたミグはつぶやくように言った。


「大変だなぁ……あいつも――…」


 既にレティシアはもう既にエルトの元へ着いてる頃だろう。

 しばらくして、自分のお茶を飲み干すとミグは自分の部屋へと戻っていったのであった―――。

 ―――……


 つづく。

第二王子ミグの回でした。

レティシアからみて、やっぱりミグは友達みたいな存在です。ミグは妹を優しく気にかけてあげているつもりなんですけど…。まぁ、そんな二人の関係もちぐはぐで面白いかなぁと。レティシアの兄はなんていったって理想の兄三原則にぴったりのエルトだけなんでしょうね。

エルトの回は次回です。

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