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【第六章】†ep.3 何故…†

 唖然――。

 驚愕――。

 愕然――。

 焦り、困惑もその表情に加えながら誰もが頭上のレティシア達の様子を見ていただろう。


 煙の様なものが巻かれていて、その姿ははっきりと見えない。

 その中で最後に眩い光が鉛色の煙の中で発光して、稲妻と突風の渦は攻撃を停止した。

 煙が晴れるのをただ待つのみのこの時間に、皆に緊張が走っていた。


 そこに人影が二つ少しずつ姿を見せ始めた。

 双方とも離れている位置にあるが、ひとつ足りない。

 レティシアの姿の煙が晴れる前に、セルローズとエアローズの方の霧が晴れた。

「!?」

 しかし、セルローズがいない――。

 エアローズが唖然として目を見開いてレティシアの方を見ているのを確認してすぐに、レティシアの姿も見えて来た。おまけにレティシアが両手を左右に広げているその様は、攻撃を受ける前と同じである。

 少し前方――セルローズのいたエアローズが今いる宙に浮いた場所の真下の地面に、黒い鏡が落ちている。

「!? ――ど、どういうことだ…!? 攻撃を受けたのはレティの筈…」

 さっぱり理解不能と言ったミグは、手を降ろしたレティシアを見たのだった――。

 ―――…


 ――…

 レティシアは、手を降ろしてパンパンと服についた埃を払ってから言った。


「――やっぱり予想通りだな。セルローズだけか」


「……そう…それだけ…。でも何故…」

 エアローズが淡々とそう言ったので、レティシアはため息を吐いた。

 セルローズがしていた面倒くさい通訳の役目が自分に回ってきた様な気がしたのだ。

「――そう、ってあんた仲間が死んだのに、驚かないわけ?」

 レティシアが言った一言に、エアローズはくす、と静かに微笑んだ。

「…私、…風のエアローズ。跳ね返しても…雷は…効かない」

「そうだと思った。でも、一人いなくなればもう厄介でもなんでもない」

「…そう…厄介ではない。…ね……あなた何者なの……? ただもの…違うわね……」


 相変わらず絡みずらい――。


 レティシアはため息を吐きながら腕を組んで言った。

「――私は、苛々してるんだ。只者じゃないかどうかは知らないけど……」

 そう言ってレティシアは自分の周りに炎の渦をゆっくりと巻いていく。

「…あ……それは……駄目…っ」

「――駄目って言われても、大魔神ザロクサスに滅ぼされた精霊界のために、お前達も倒さねばならないんだ。覚悟するんだな……」

 組んでいた腕を降ろして人差し指をエアローズに向けるとレティシアは、最後に、ふっ、と微笑んで言った


「――さよなら」


 ―――……

 ――…


 地上へと戻ると、レティシアは海の向こうから飛んできたリュシファーに怒鳴られる。

「――お、お前何だって船の上に移動させるッッ――って、あれ? あの魔の者はどうしたんだ?」

 レティシアは答えずにぷいっとそっぽを向いた。

「…た、倒した。二人とも……な、何が何だかよくわかんなかったけど、煙が消えたらセルローズは死んでるし、エアローズとかいうわけわかんないヤツもすぐに炎に巻いてあっさりと…」

「そ、そうか……って、お前はいつまでそうやって拗ねてるつもりなんだ」

「………」

 相変わらずそっぽを向くレティシアに、リュシファーはため息を吐いて言うが、何も答えたくなかった。何か苛々として仕方がない。

「――そうだ。魔鏡、これで残りの二つも手に入ったんだ。壊そう」

 ミグが場を取り繕うように言われたそれに、レティシアは先の二つに行ったと同様にそれを壊す――。


 その瞬間――。

 魔鏡の塔はスッと姿を消して、森が金色の光を放ち始めた。

「なっ……!? 何だ…森が――…ッ」

 少ししてその光はおさまり、森は不思議な金色の光をぼんやりと消していった。

 レティシアは立ち上がると、指の傷を軽く舐めて剣を鞘にしまう。

「――さぁ行こう」

と森へ歩みを進めようとしたが、ガッと手首を掴まれて足を止めた。

 はっとして手首を掴んだリュシファーの顔を見て掴んだその手を逃れようとするが、リュシファーは痛いほどにより強く手首を掴み離してはくれない。

「…おとなしくしてろ。血が垂れてる。さっきより深く切り過ぎだ――。よく自分でこんなに切れるもんだ」

 そう言うとリュシファーは聖魔法で傷を修復した。

 ため息を吐いてレティシアは言った。

「――もう、いいだろう。離してくれても…」

「はぁ、……そうだな…」

 呆れたようにリュシファーは手を離す。

 手首を強く掴まれて、少し、じん、と痛んでいたが言わなかった。


 …そんな切なそうな目で見るな――。私だって、何でこうしちゃうのか…よくわからぬ…。

 昔…みたいだ。

 感謝の気持ちも素直に言えずに敵視した目でリュシファーを見て、ただ突き放していた。

 そう――、昔は…いつもこうだったな。

 なんだかその頃に戻ったみたいだ――。

 もし、その頃にリュシファーが好きと気付いていたら、こんな気持ちになっていたのだろうか。

 ――でもきっと辛いだろうな……。


 レティシアは脳裏に様々な思いをはせながら森へと進んだ。


 森の入り口――。

 レティシアは足を止める。


 ため息を吐いて、振り返って皆が立ち止まったのでレティシアは黙ってひとり前に進み出た。

 皆の方を再び向き直ったレティシアは、ふっと微笑んで両手を左右に広げた。


「先に謝る――。ごめん…」


「!?」

 レティシアはそう言って皆と自分との境界線の部分に、光の空間遮断防壁を張った――。

 皆が驚愕する中、レティシアは手を降ろした。


「もし、私が負けちゃったら…ごめんね。ミグ…私、ミグの事“ともだち”だと思っていたけど、城を抜けてみて、お前はやはり少し私より兄なのかなと思って頼りにもしていた――。いつも気にかけてくれて、本当にありがとう」

 レティシアは穏やかに言った。

 ミグは困惑した表情で何かを言っているが、聞こえない。

 近寄ろうとしてミグは光の防壁に手をつけて驚いていた。

 防壁は音も遮断し、それを放った術者の声しか向こう側に届かない。

 だからこそ使った――魔法だった。

 返事を聞かなくて済む――…


「ルクチェ、私を神殿まで導いてくれて感謝する。それに、少し姉上が出来たみたいで、少し嬉しかったんだ。私、男兄弟しかおらぬだろう? おかしな話だが、なんだかんだで嬉しかったんだ。ありがとう」

 ルクチェも困惑し、哀しそうな表情でレティシアを見ていた。

 もう防壁で何も出来ないことがわかり、呆然と立ち尽くしている。


「ミュイエ…私が至らなかったばかりに、精霊族たち…ノヴァのこと…本当に申し訳ないと思っている――。もし無事に勝てたら、私がノヴァたちの封印を解くから…あ…負けてしまったら叶わないが、その時は私を恨んでいい。と言ってもお前は恨まぬだろうがな…優しいからな……とにかく、ここまで一緒に来てくれて、ありがとう」

 ミュイエは困惑しながらも穏やかに微笑んで頷いていた。

 ミュイエは理解が早い――。私の意志をきっと読んでくれている筈だと思った。


「それから――」

と言ってレティシアはリュシファーをじっと見て、くるっと後ろを向いた。


「――リュシファー、お前には何も言わない。……と思ったが、…やっぱり言っておかなきゃ気が済まない。私を一国の王女だと知りながら、関係なく好きと言ってくれてありがとう。お前がどういうつもりかは知らぬが、…お前はっ…この…件が…終わっ……ら――、はぁ、――やっぱり駄目だ…、言えぬっ。も…もう行くっ。必ず帰って…っきて、その後に言う…っ」

 レティシアは言おうとして哀しくなって来てしまい、言えなかった。

 動揺する姿、怒りに怒鳴る姿、ひょっとしたら哀しそうな顔、どれも想像することは容易い。

 しかし、見ればきっと決意が緩む――。そう思うと表情を見ることが出来なかった。


 皆には見えていない、目の前に現れていた紫色の靄のゲート。

 涙を拭ったレティシアは、きっと睨みつけてそこに進む――。


 必ず――、

 大魔神ザロクサスを倒す――――!


 靄に入ると、靄がどす黒く紫色もしている様な色の揺らめく炎に似た煙がレティシアを包んだ。

 そして、視界を覆っていた煙が姿を消すと、そこには一本の道が広がっていた。

 辺りは薄暗く、所々に灯っている炎は真っ直ぐ先へと配置されている。

 しんと静まり返ったその暗闇の中で浮かぶその炎の色は紫、赤、緑、青の不思議な炎だ。


 真っ直ぐに歩みを進め、きっと睨んだその先には誰かが立っている。

 背が高く、長い銀の髪を一つに後ろに束ね、一瞬女かと思ったが女にしては少しだけがっしりとした体格をしている。それはやはり男であると告げていた。とはいえ、妙に顔立ちは端整である。

 瞳は燃えるように血の色の様に残忍な色を見せている。その目が細められ、眉を潜めている。


 こいつが…大魔神――ザロクサス――!


「――客人とは、珍しいな……。入るときはお邪魔しますと言ったらどうだ、人間の娘」


「な…ッ、馬鹿にしているのかッ!」

 レティシアは細かいことだが気に障って投げ込んだ言葉に、大魔神ザロクサスはふっと鼻で笑う。


「――不穏因子……この様な美しい娘だったとは、いい目をするのだな……人間の娘」


 相変わらず余裕な表情の大魔神ザロクサスに、殺意を覚えてレティシアはきっと睨みつけた。

「人間の娘人間の娘って…さっきからうるさいっ! 私の名は、レティシアだ…ッ!!」


「――ほぅ、レティシア…どこかで聞いた事がある名だな……まぁいい。人間の娘、私に何か用なのか」


 冷淡な調子で物を言う大魔神ザロクサスは、先程から少し変な間合いを作って答えてくる。

 それに警戒をしつつもレティシアは答える。


「――大魔神ザロクサス…ッ、お前を倒しに来た…」


 ザロクサスの表情が一変して一瞬厳しいものに変えられたが、すぐにため息を吐いた。


「人間の娘ごときが俺を倒すだと……? 舐められたものだな…。お前程の美しい娘なら、可愛がってあげてもいいんだがな…殺すには少し惜しい――」


「くッ……ふざけたことを言うなッッ!」

 レティシアはより強く、きっと鋭い眼力で大魔神ザロクサスを睨みつけ声を荒げた。


「ほほぅ、気の強い娘は嫌いではないぞ――…? しかしお前のその目、どこかで見た事があるな…あれは――そうだ。精霊界を幽閉した時だったなぁ。王妃だ。その女が同じ様な瞳で、私をその様にきつく睨み上げていたんだっけなぁ…ははははははっ……、最期まで怯えた目を見せなかった。相当、気が強い女だと思ったのを今でもよく覚えている――印象的だったなぁ…」


 ラクロエの…母上――…ッ?

 ゆ、許せん……こいつだけは絶対に……ッッ


「――そうそう、お前、我が配下の四天王――倒したのだなぁ。魔鏡の塔が消滅したということは、倒されたという証――。しかし人間の娘がそんなことをして一体何の得になるというのだ。…魔力が欲しいか――。精霊が幽閉されている今、お前に精霊が貸す力も微々たるもの…おとなしくこの私が時が来て征服を始める時まで待てば良いものを…」


「――勝てる見込みがないと言いたいのか…?」


「――そうだろう? 別にお前がここから立ち去るというならば、ここまで怖れも抱かずにやって来たことに敬意を払って、黙ってそれを見過ごしても良い――。ただ――」

 そう言ったザロクサスの表情が残忍なものへと変わる。


「戦うというのならば、仕方ない――。四天王に勝ったからと言っていい気になっているのだろうが、俺の力を侮って貰っては困る…」

 そう言って大魔王ザロクサスは宙に浮かび上がり、レティシアに向けて手をかざした。

 途端にレティシアの周りにボッ、ボッ、と現れる黒い炎、回り出すそれはレティシアに一つだけ向かってきた。


「ッッうわ!!!」


 ――は、速い……!


 そう思った時だった。


『――くっ、間に合って…!』

 水の大精霊リーヴァの声がした気がしたが、レティシアは炎に巻かれ苦痛に顔を歪ませた。

 その場にうつ伏せに倒れこんでレティシアは下唇を噛んだ。


 こ…ッ、こいつ…強い……ッッ


 ザロクサスはレティシアに近づき、髪を掴むと顔を上に向かせた。


「――ほぉ、死んでいないとは…気に入った……、それに見れば見るほど美しいな………。やはり殺すには惜しくなった――」

 レティシアは体が痺れた様に動かないまま、抱きかかえられた。

 大魔神ザロクサスに抱きかかえられ、腕に触れられている部分が熱く痛み、その苦痛に歪ませる顔。

 それでも瞳だけは大魔神ザロクサスを睨みつけて離さない。

 しかし次の瞬間――。

 ゆっくりと合わせられた唇――。

 リュシファーの顔が頭に浮かぶが、リュシファーとしていたものではないその熱い口づけに、レティシアは意識が遠くなるのを感じた――。

 頭がぼんやりとして視界がはっきりしない中、大魔神ザロクサスの声がする――。


“はっはっはっはっはっはっ・・・・・・・・・。

これでお前は俺のものだ――。さぁ、傷を癒してやろう――。

―――……”


 ―――……


 ――…



 一方、ミグ達――。

「――今、何時だ…っ」


「…もう、5分起きに聞かれても困るわ、エルフィンちゃん。大丈夫よ」

 ルクチェは困った様に微笑みながらミグに言うが、ミグは苛々として光の防壁をゴン、と殴りつけた。

「あーッ、痛…ぇ…ッ! くそっ…あいつ何考えているんだッッ」

 そう拳を押さえながら呟くミグにミュイエは、はぁ、とため息を吐いて言った。


「――先程から、もうそれでも1時間半は経ちました。少し…心配です」


 その言葉にルクチェもミグもその表情に影を落とす。

 リュシファーに至っては、腕組みをしたまま、じっと前を見つめているだけである。

 しかし、ため息を吐くとその場に座った。


「アイツは勝手に背負い込む所は前からあるが、こんな最後の戦いの時までひとりで背負い込むとは……困ったヤツだな――」

と呆れ返っている様子だ。


「――お前、こんな時に何でそんなに冷静でいられるんだッッ。好きな女がひとりで戦場に向かったんだぞッ? 知らなかったッ。お前はその程度の感情で俺の大事な妹を――」

 そこまで言ったのをルクチェが肩に手を置いて止め、視線をちらっとリュシファーの膝元に合図するように向けたので、ミグはそれを追った。

 膝に置かれた手は服を強く掴み、小刻みに震えている。


 ! ――あ…、そうだ。平気な筈ない――…。

 どれだけコイツがアイツの事を想っているか、俺、ちゃんと解かっていた筈だったのに…。

 ミグはそれに気付いてため息を吐いた。

「――ご、ごめん。いてもたってもいられなくて、つい八つ当たりした。…悪かった」

 そう言った時だった――。


 突如消えた場所からその姿を現したレティシアに気付き、ミグは顔を輝かせて言った。


「レティ――!!」


 そう言っては見たものの、聞こえていないとも知っていた。

 いてもたってもいられないが、今は来るのを待つしかない。

 レティシアの表情は、少し影を作るように冷淡に俯いている。

 レティシアは目の前で手をかざし、光の防壁を解いた。


 そして駆け寄る4人。

 エミュ~はそこに立ったままだった。


 レティシアは皆が声をかけているにも拘らず、俯いたまま何も言わない。

「お、おい――どうしたんだ? 疲れたのか?」

「大魔神ザロクサス、倒したの?」

 ルクチェのその一言に、レティシアはふっと鼻で笑ったのを見た瞬間だった。

「!?」

 物凄い衝撃波に吹き飛ばされ、散り散りになる4人――。

 それをあざ笑うかの様にふふっと微笑むレティシア――。


「大魔神ザロクサス様を倒す――? 寝言は寝てから言うんだな…」


「なっ…!?」

 ミグは少し起き上がってレティシアを見た。

 レティシアは残忍に微笑を浮かべながら、その目の前に手をかざしていたのだった――。


 つづく。


あれれ。なんか気がついたら終わりに向かって一直線な雰囲気です。

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