【第五章】†ep.5 さらなる光††
第五章が終わりです。
後でチェックしますがおかしい所、間違いあったらごめんなさい。
正座――。
皆の突き刺さる様な視線――。
顔を上げられない――。
「…黙っていてはわからないだろう?」
とは言っても黙るしかない。
「一体全体…いつからなんだ?」
とそう言ったミグはより一層怖い顔で腕を組み、鋭い瞳で真っ直ぐに私を睨んでいる。
リュシファーは別室。ここにはミグと私しかいない――。
どうしてこうなった――いや、理由はちゃんとわかっていた。
『リュシファーッ、お前は他の女と何をしているのだッッ』
と私が怒鳴ったことが原因だ。
はぁ………。
「――レティ、お前聞いてるのか?」
少し考え事をしていた私ははっとした――。
「えとえと、ミ、ミグ…で、な――なんだっけ?」
この一言がミグの怒りを爆発させることになろうとは、レティシアは思ってもみなかった。
レティシアは腕を引っ張られて引きずられたまま、リュシファー達のいる部屋に連れて行かれた。
「――ミ、ミグッ痛いッ」
そう言って連れて来られた部屋の者全員がその声に驚愕して二人を見ていた。
ミグはぱっと手を離したので突然、ビタッとレティシアは床に伏せた。
起き上がろうとしたレティシアの背中に軽く手をつくと、そのままミグは座った。
「ぬわッ…お、重い」
「…全然口を割らないから苛々して連れて来た。仕方ないからお前に聞こう――いつからだ」
リュシファーは、はぁ…とため息を吐く。
既にルクチェ達には話していた様子で、ルクチェが口を開いた。
「エルフィンちゃん…な、何をそんなに怒っているのよ…いいじゃないの、ね? 別に城を出ているんだからせめてその間だけでも――」
とフォローもしていたが、ミグは視線さえ向けずに口を開いた。
「ルクチェさんは黙ってて――。二人は、俺達と再会する前だよなぁ? 既にこうなってたのは。で、そんな素振りも見せずに隠していたってわけだろう?」
真っ直ぐに突き刺すようなミグのその視線――それにリュシファーは見覚えがあった。
レティシアの婚約の儀を知った時の呟きを聞かれ、問い詰められた時――。見透かすようなその視線に怖れさえ抱いて焦ったことが頭を過ぎる。
レティシアがミグに下敷きにされながら、ため息を吐いた。
「――ミグ、黙ってて悪かった。リュシファーは悪くないっ…。立場がどうとかで止められるならこんなことになっていないし…それに父上達に知られれば許される筈がないから、それなら誰にも言わぬ方が良いと思った――。それは…、いつからと言われても答え難いが――ひょっとしたら城にいる時から気になっていたのかもしれない…でも、気づかなかった。…知らなかった……誰かを好きになるなど、私には知らぬ想いだった。だから、…だからっ―――」
「――よーしっ。じゃ、この件は終わりだ」
・・・へ・・・?
「――お、終わりってミグ…え?」
ミグがレティシアの背中から腰を上げたので、レティシアは起き上がってミグに怪訝そうな表情で詰め寄る。
呆れたようにため息混じりにミグは答えた。
「深くは聞かないよ。別にいいんじゃないの? お前ら結構お似合いだと俺思ってたし。何だかんだで馬が合ってるっていうかなぁ…バランスいいってゆーか? リュシファーってお前のこと上手い事コントロールしてくれてると思うよ――」
「!」
さっきまで怒っていた様に見えたと思ったのに、そうではなかったのだろうか。
おまけにコントロールって…、占い師の婆さんと同じ事……。
…誰にも言わなかったけど、そういえば当たったことになるのかな…。
「――ちょっと苛々してたのはお前が全然言わないからだ。父上の目の届かない場所だし、なーんにも気にすることはないんじゃない? 城に戻ってから考えればいいよ。今考えても仕方ないことは考えなくていいさ」
ミグは呆れた様に微笑みを浮かべ、レティシアの頭を強めにくしゃっと撫でた。
「ゎっ、…ミグ……」
レティシアはミグに思わず抱きついていた。
ミグは優しく微笑んだ。
「それはいいとして、…リュシファーが他の女とあーだこーだというのはどういうことなのかも聞かせて貰いたいんだけど。場合によっては俺はリュシファーに文句でも言わなければならないんだけど?」
「あ、そうだった――すっかりバレたことで忘れてたっ」
そう言ってレティシアはミグに抱きついたままでリュシファーを睨んで言った。
「この男は私という者がありながらっ、ラクロエと口づけした浮気者で、好きだと言っておきながら腹が立つッッ」
・・・・・・・・・。
しかし、レティシアに同調する声はない。むしろ誰もが引きつった笑みを浮かべて何も言えない様子だ。眉をしかめているレティシアに皆が口々にこう言った。
「――えと、でもそれってレティシアですよねぇ? 意識は違えど身体はレティシアの物なのですから、…何かイマイチ怒るべきことではないような……」
「う…うん。確かにそんな感じ。違うのかも…しれないけど、うーん。他の女ということでも…」
「なぁんだ。そんなことかぁ」
リアジュに至ってはくくっと吹き出すのを堪えている様子だ。
レティシアは当の本人までもが呆れた様にため息を吐いていることに、精神的ダメージを受けた。
「だ、だって…私だけど私じゃないじゃないか…っ」
そう小さく俯いて言ったレティシアを誰もが可愛いヤツと思っていた。
「――まぁでも、ラクロエとわかっていて口づけをしたということには変わりないとレティシアはそう言いたいのだろう。リュシファー、その弁解はどうするつもりだ?」
と自分の言いたいことを代弁したリアジュに、レティシアは輝いた目を向けて頷いた。
リュシファーは戸惑いながらも息を吐いて説明した。
「いや、だから…突然ラクロエがそうして来たから、意表を衝かれすぎて動けなくてだな…で、気がついたらラクロエが何か唱えてて、眩しい光に包まれて、目を開けた時には神殿の外にいただけで俺は別にっ」
レティシアはその事実は知っていた。
それでも、避けられなかったリュシファーに少しだけ嫉妬していただけであった。
ラクロエの真意を思うと、レティシアはため息が出た。
「はぁ、やっぱり怒る気なくした…もう良い。それにな…? ラクロエは、私に転生し生まれ出でた時からずっと私の中に存在していたんだ。ラクロエの意識が私の表に出ていた時、私はラクロエが今まで居たその場所にいた…。そこは、とっても寂しい場所だったんだ。だから、ラクロエが皆と話していたことも、心の中で思っていた事も全部自分がしている事のように感じられて、でも、何かを叫んでも誰にも聞こえることはない――。でも、そこでわかったんだ」
レティシアがそう言って、息を吐いてからソファーに歩みを進めるとそこに腰かけた。
遠い目でも見るかの様にどこか物哀しい視線をテーブルに向けて続けた。
「――私がリュシファーを好きになった様に、ラクロエもまた――お前のことを好きだったとでも言えばいいだろうか。でも、ラクロエはちゃんとわかっていたんだ。その想いは私が想うからこそ抱くものだということも、一瞬表に出られただけで自分がいた裏に私があるということも…。ただ、表に出られてどうしてもお前と話がしてみたかった。それと、口づけがしてみたかった。…ラクロエは私に転生させられて、自由に恋をすることも許されない。口づけをリュシファーにする前に、『ごめん…最後のわがままを許して欲しい』と私に言った。それを思うと怒れなくなる……」
レティシアはため息を吐いてソファーに横になった。
「…なんか、…可哀想だな……ラクロエ…」
ミグが思いつめたように言った一言に、レティシアはふっと微笑んで言った。
「――でも、唯一の救いはラクロエはもう裏にいるわけじゃないってことだ。私とともにあることには変わりないが、完全に同化した。だから、私はラクロエであり、ラクロエは私でもある。だから、消えちゃったわけではないんだ。…せっかく表に出れたのに、満喫もろくにせずに早く同化して私を解放してあげなくちゃという優しい気持ちとか、寂しかった気持ちとか、全部私に根づき、今は全て理解できる。…それと――すごい『力』も」
「!」
ミグはレティシアに駆け寄ってきて驚愕の表情で言った。
「じゃあ、あのすごい時魔法も…ッ!? お前、全部得たってことかッ?」
ミグだけじゃなく皆も集まってきて返事を待つ中、レティシアは起き上がって言った。
「そう――全部だ」
―――……
――…
精霊界の危機の際、ラクロエを完全に融合させて転生を図る時間がなかったため、ラクロエは、レティシアの奥深くに隠されていただけであった。
融合させる儀を後に行うため、六大精霊たちはその自分達の魂のかけらを密かに特別な守護石に宿し、時を待っていたが、無論――。
――その魂のかけらは力と意識だけであり、本体である大精霊の魂のある精霊界の封印により実体化することは出来ず、宿す媒体がなければ何も出来ない。
レティシアに媒体を移し守護した六大精霊がやっと全員揃い、ラクロエとレティシアを融合させるための儀をやっと執り行った今――。
レティシアとラクロエの魂と力は一つに合わさり、力を与えた――。
さらなる光――それは………。
レティシアにそう精霊の女神レティシアが説明した後、大精霊たちは語り出した。
『――ラクロエ様、ついに我らの役目果たせました。
王族のあなたは、全ての力と同時に王族特有の無属性の力を持つ――。
無とは光――。
さらなる光を、その頭上に掲げ、闇をも打ち消す日はもうすぐです…』
――と土の大精霊ウレハ。
『――とはいっても、ラクロエ様は融合したばかり。
我々の力にお体が負ける事はなくなっただろう。
ただし、油断は禁物です。お早く、四天王を倒し、魔鏡を――』
――と雷の大精霊イシュタリス。
『そうすればぁ、塔は壊れちゃってぇ、貸せる力も増えるっても・の・な・の・よ・ねぇ?
リザルト様っ』
――と水の大精霊リーヴァ。
『そうじゃそうじゃ、そして封印を解くには大魔神ザロクサスの奴を倒さねばならんのじゃ。
手強い奴じゃがラクロエ様のお力でぱーっと倒しちゃってくださいですじゃっ』
――と聖の大精霊リザルト。
『……………』
――風の大精霊セイレシルは何も言わなかった。
『――ラクロエ様、我ら大精霊の守護のもと、必ずや大魔神ザロクサスを倒し、精霊界をお救いください。それが、お母上の願いでもあり、我らの最後の希望なのです』
――と炎の大精霊フレイ。
そして――。
最後に精霊の女神は静かに優しく言った。
――レティ、よくここまで私たちの導きに応えてくれました。
あなたはその強さと、元々魔力の高い資質により適合したのでしょうね。
今ははっきりとわかります――。
私は祈りましょう――。
精霊界全ての者達の願いを込めて―――……
……………
第五章終わり。 第六章へ続く…
第五章が終わりました。
初めからここまで読んでくれている方ありがとうございます。
初作品でいきなり結構長い作品書いてますが、だんだんと終わりが見え始めましたぁ。あ、でもまだ続きますが。
ラクロエ…少し可哀想な役柄ですね……。
でも一緒になったからそんなに哀しいわけでもありません。
色々と張った伏線も大分明らかになってきましたぁ。少しすっきりしました。ではでは、第六章からはついに迷いもなく進める展開かなぁと思っています。応援してくださる方は感想でもなんでもください。りんごでしたぁ。