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【第五章】†ep.3 炎殺のメルローズ†

校正必要箇所あるかもしれません。

載せてから読み返すと変な所に気付くのは何なんでしょう…。

今度じっくりチェックしようと思います。

『ブラックウィングロッド号』という名の黒い船。シーシェルの父の名はロッドである。

「黒き翼――ロッド様の船ってわけよ~がっはっはっはっは」

と、その名の由来を話すロッドの顔はとても満足そうだった。

 ロッド率いる船員が5人――。それと、レティシア達五人がサンザルス大陸を目指し、航海を始めてから二日近く程。時刻は昼の一時頃であろう――。

 甲板では、シーシェルの父が『そろそろ入港の準備をしておけっ』と船員に向けて威勢のいい声をあげている。ゆっくりと流れる船から少し遠くに見える、砂浜にある小さな港――。

 じりじりと暑い日差しに額の前で手をかざしながらそれを眺めたレティシアは、暑さにうな垂れつつも、渡り鳥が遠くを群れて羽を急がせ、突如聞こえる『みゅーッ』という鳴き声にはっと耳を澄ます。 それはうみねこの鳴く声であったが、思い出したエミュ~のこと――。

「――ミグ、そういえばエミュ~は?」

 そう聞いたレティシアに思わずミグが顔を曇らせた。

 ―――。エミュ~を野に放すということは、飼う時から決めていた事だった。ずっと隠して飼い続けることは出来ないのは解かっていたし、ましてや自分達が城を抜け出しマリアだけに世話を頼むわけにもいかない。どのみち誰かに見つかって野に放されるだろう。

 それならばミグ自身の手で、野に放して来たとミグは言った。眠りの魔法をかけ結界印を張った場所に寝かせておいたと言っていた。エミュ~は発見した時こそ子猫の様であったが、大きくなり一度森へ連れて行った事があった。突然二人に襲い来た魔物に向かい、エミュ~はその時猛獣とも思える攻撃を仕掛け助けてくれたのだが、二人は唖然としていた。しかし、『ミュ~』というあの愛くるしい声で鳴いて二人の無事を喜ぶエミュ~を置いて帰るなど出来ず、一度諦めたのだった。野に放しても無事なのはわかってはいた。――わかってはいたが、「そぅ…」とそう言ってエミュ~の鳴く声に似た鳥の声に、レティシアはただ耳を澄ましていたのだった。

 その時だった――。リュシファーがやって来て二人を発見して言った。

「お前らもうすぐ到着だっていうのに、のんびりしてるなぁ…はい、準備準備」

 二人が苦笑いをリュシファーに向け、リュシファーが指差す部屋への階段へと降りて行く。

 それはまるで魔法でも発動したかのように二人がぴゅーっと部屋へと向かって行ったので、リュシファーはその場でくすっと微笑んでいた。

「じゃ、待っていなくていいんだなぁ? その転移の杖とか何とかって言うのは便利だなぁ」

 ロッドが船着き場で腕を組みながら言った。

「――あぁ、行った事がない場所には使えないから、ここまで来たらもう自分達で戻れる。本当に感謝する。シーシェルの父上」

 レティシアはそう言ってロッドに微笑んだ。

 ロッドは珍しく深刻な顔をして言った。

「事情は大体わかったが、気を…つけるんだぞ。なんか娘が増えたみたいでさ、ちょっと何か寂しいじゃねぇか…。王女様を娘だなんておかしな話だけどよ、あんたは城におさまる玉じゃねぇなぁ…。――元気な姿、またいつか見せに来てくれ――。歓迎するからよっ」

 そう言ってロッドは背を向けた。めずらしく大笑いしないことに、レティシアは言った。

「――なんだシーシェルの父上、らしくないぞ。がっはっはっはーって笑ってくれないと、調子が出ないぞ?」

 その一言にロッドは『こいつはいいや、その通りだ』とやはり大笑いをして、後ろ向きに手を振って言った。

「よし、辛気臭いお別れはここまでだ。じゃあなっっ――」

 ロッドが船に乗り込んで来るのを船員達が、同情するような目でロッドを見ていた。

 ロッドの船が遠くに消えるまでレティシア達は見送っていた。

「さてと…では、参りましょうか」

 ミュイエが言った一言に皆歩みを進めた。

 砂浜を歩くレティシアは、歩けど歩けど砂浜が続くこの海沿いの辺りにだんだん苛々としてきた。暑さと足を取られる様なこの砂の歩きにくさ――両方であった。

「――もぉ、歩きにくいし暑いしいつまで砂浜歩くんだぁ。ちゃんとした道はまだか?」

 ため息を吐いてルクチェが言った。

「ティアラちゃん、あのね…ここの大陸。全部砂浜みたいな地面しかないのよ。これを“砂漠”っていうのよ」

「!」

 ガーン。砂漠とは聞いたことがあるけど、海沿いだから砂浜なのだとレティシアは思っていたのに、ずっと続くと思うとうな垂れずにはいられない。おまけに海を船着き場まで降りたというのに港町らしきものはない。時折木で出来た家がぽつぽつと並ぶくらいである。

「――どっかに、カフェとか休む場所はぁ?」

「――あと1時間くらい歩けばザルークスの街があるわ。我慢してね…それにしても暑いわね…」

「はぁ…」

 仕方ないのでレティシアは風に乗り身を浮かせた。

 レティシア達は暑い中、途中魔物を倒しながら進んでいき、やっと着いたザルークスの街。

 疲れ切った様子で町並みを歩いていた。

 ザルークスの街は砂漠のオアシスを囲む街で、宮殿もある。

 歩く人々の格好は白いターバンを頭に巻き、男は上半身裸だったり、軽く薄い生地のボレロを羽織っているだけであった。女の人も下着だけで歩いている様な上と下しか覆う部分がない服を着ていた。お腹周りや腕や脚は露出しているので、なんだかセクシーである。暑い国での適応した格好というものなのだとレティシアは感心していた。

「おや、旅の方――珍しい。その格好じゃ暑いでしょう。服を買いませんか?」

 その声は服屋の店員の声だった。

 丁度いいのでレティシア達は服を買う事にした。

 皆、街の者が着る服の様に露出度の高い格好になった。

 さすがにレティシアとルクチェは踊り子の様な薄く透けた布が一応パンツに着いた様なやや露出度が低めの物を選んだ。それでも露出度の改善は微々たるものである。

「なんか異国に来たって感じだな…はは」

 リュシファーが二人を眺めながら実感して言った。

「少し涼しくなってから紅蓮の洞窟に向かった方がいいだろう。少し宿で休むか――」

 そうリュシファーが続けて言った時だった。

 前方より歩いて来る赤いルビーの様な髪の毛の女性――。

 美しいその顔立ちは高貴な感じがプンプンとした。レティシアは真っ直ぐ歩いて来るその女性をじっと見ていた。

 その女性は立ち止まり、レティシアを見て言った。

「――ん? お前、王族だな? そこの隣の女も」

「?」

 レティシアとミグは顔を見合わせた。何故一目見てわかったのか不思議だったのだ。

 真っ直ぐに女は歩いてきて、レティシア達の目の前にやって来た。

「辺境のこんな国に足を運ぶとは、何をしに来た?」

 偉そうな口調のこの女にレティシアは怪訝そうな表情で言った。

「何故わかった? 私が王族だと」

「同じ王族としての勘――といったところか。…それに、なんだかお前は私と同じ匂いがするのでな。宮殿へ参られよ――私はザルークスの王女リアジュだ。…茶でも飲め。宿などむさ苦しい場所に他国の王女を泊まらせるわけにもいかぬだろう」

 そのリアジュの言葉に、レティシアが何かつっかかって言うんじゃないかと、周りの四人はひやひやとしていた。しかし、レティシアは苛々とした様子もなく、真っ直ぐにリアジュを見据えたままで名を名乗っていたので、四人はほっとしていた。

 レティシアは、リアジュに確かに自分と同じ匂いを感じていた。

 ――なんとなく――であった。

 名を聞き、リアジュは少し視線を左上に向けて呟くように言っていた。

「――ほう、大地の大陸の城から来たのか。では、お前の事か――」

「ん?」

 怪訝そうに眉を吊り上げるレティシアにふっと微笑むと、『何でもない』と言ってレティシア達を連れ宮殿へと歩みを進めて行った。

 ザルークス宮殿――。質素な作りの街並と違い、豪華な宮殿は半透明のシースルーのピンクの布や紫の布が所々にかかり、宝石が散りばめられた壁の模様も美しくその造形を誇っていた。宮殿の廊下を通る侍女がリアジュが通り過ぎるまで足を止め、お辞儀をしている。

 堂々とそれに足を止める様子もなく歩みを進めていくリアジュに連れられて、レティシア達五人はリアジュの部屋へと通された。

「適当に座って寛いでくれ。今、茶を淹れさせよう。――誰か! 誰かおらぬかっ!」

 リアジュの強い口調に一人の侍女が急いで姿を現わした。

 茶を淹れる様リアジュが頼んでいる。

 レティシア達はひとまずソファへと座る。

 リアジュは肩で揃ったその髪と瞳の色は同じ赤いルビーの様な色をしている。

 歳はルクチェと同じくらいで24歳くらいだ。化粧のアイシャドウも赤で妖艶である。

「ふぅ、では聞こう――。お前達は何をしにここまで?」

「あぁ、紅蓮の洞窟へと用があるのだ」

「――ぐ、紅蓮の洞窟…!? あそこは王家の者しか入れぬぞ?」

 怪訝そうな表情を浮かべながらリアジュは言った。

 ダムルニクス王国の様にまた王家が守る石なのかとやれやれとため息を吐いた。

「じゃ、国王に頼もう。わけあってどうしてもいかねばならないのだ。別に石はあってもなくても良いのだ。見せてくれればよい」

 リアジュがますます怪訝そうな表情を浮かべて、ため息を吐いた。

「――現在母上は不在だ」

 その言葉にレティシアも怪訝そうな表情を浮かべていた。

 するとリアジュはふっと微笑んでこの国が女王が治める国であると教えてくれた。

「なるほど……じゃあ、勝手に行くしかないか」

「――なっ、何を考えているッ。これだから世間知らずの王女は…ッ」

「なんだッ、いないなら仕方ないだろうッ」

「だからって勝手に入るなどと、炎の精霊の怒りを買っても知らぬぞッ」

「――ん? 炎の精霊の怒り~?」

 レティシアとリアジュは少しの言い合いは、レティシアの疑問により静止した。

 ため息を吐いたリアジュは、この大陸に住まう炎の精霊はこの地を守り、神として崇められていて、その炎の精霊を祭る祭壇が洞窟の奥深くにあり、この大陸の王族以外許されていない神聖な場所に勝手に入られては怒りを買うかもしれないので困ると言った。

 レティシアはリアジュとしばし睨み合いをしていたが、ため息を吐いた。

 ルクチェが言った。

「リアジュ様、お願いします。どうしても聖なる炎石のもとへと参らねばならないのです。私、はるかかなた北方は精霊使いの街ミールティアから参りました。神殿の巫女でございます。精霊の声を聞き、精霊の導きによりここまでやって参りました。他の石の元へは既に参り、後残るはこの紅蓮の洞窟のみなのです」

 その言葉にリアジュは驚愕し、訪れるしばしの沈黙――。

 そこへお茶を運んできた侍女がお茶を置いて去って行こうとする。

「――し、失礼致します……ご、ごゆっくり……おくつろぎ…ください」

 緊迫した空気に耐えられなかったのか、侍女の声は上ずっていた。

 リアジュは静かに言った。

「――どうやらわけがある様だな。“聖なる炎石”という精霊が宿ると言われている石の事は、王家の者しか知らないのだ。それをお前達が知っている時点で、信用せねばなるまい。祭壇はおろか紅蓮の洞窟の入り口でさえ、常に誰も入れぬよう厳重な見張りをつけている」

 そう言って赤い花びらが浮かんだお茶に口をつけたリアジュに、レティシアは息を吐いた。

 ダムルニクス王国のノイエル殿は簡単に承諾してくれたのに、今回はそうはいかないらしい。

 レティシアはそれでも言った。

「リアジュ、この国のしきたりはわかる。しかし、その様な事を言っている場合ではないのだ。時間がない――。お前が駄目と言っても私は見張りを倒してでも行く。邪魔をした――」

 レティシアは席を立って、皆が唖然とするのを無視して一人部屋の外に出ようとした。


「――おい、最後まで聞け。まだ話は終わっていない。本当にお前は私と似ているな。自分を見ているみたいでぞっとする」


 リアジュは少し微笑まずに言い、レティシアもまた同じに振り返り言った。


「お前が私に似ているだけだ――」


 この何とも言えないやりとりに、四人は声も出ずに圧倒されていた。

 敵同士が冷淡な口調で戦闘を繰り広げているかの様な会話の言葉の数々――。

 敵意が感じられるその言葉を放ちながらも、あくまでも冷静でお互いに取り乱しはしない。

 それが緊迫した空気をそこに作り、ぴりぴりとしていたのだった。

 しかし、リアジュはふっと口元を緩ませその空気を消し去った。

「――おいおい、そんなに睨まなくても、私は着いてってやるって言おうとしたのだ。事情があるのだろう? 私がなんとかしてやろうという話を聞かずに出て行っては、お前達は牢に入れられるぞ」

 ―――……


 こうして、その夜。

 変装したリアジュと宮殿を抜け、紅蓮の洞窟へ足を運ぶ6人。

 砂漠の大陸の夜は寒い。

 昼間はあんなに暑かったというのに、夜は冷えてレティシア達は元の服に戻していた。

 延々と続く砂の地に吹く穏やかではない風――。

 砂を含んだその突風にレティシアはノヴァのストールを鼻と口に巻いていた。

「しっかし、お前というヤツは本当に私と似ていて嫌になる。もっとも若い時の私だがな。まだその様に子供のような頃があった――」

 リアジュのその言葉にレティシアはむっとした。

「――なっ何を言う! 子供などではないッッ」

「それそれ。そういうつっかかってくる辺りが子供なのだ。昔はそうだったなぁ。私も大人になったものだ…はは」

 そう言うリアジュの言葉は妙に説得力があったが、レティシアはふんと拗ねて言い返さなかった。それを見て、ミュイエが苦笑を浮かべていた。

「ふふ、とはいってもあの二人とっても馬が合いますよ。似た者同士ね…」

「あ…はは。でもまぁ、時々見てる側はひやひやするわねぇ…」

 ルクチェもその隣で先を行く二人の様子に困った微笑を浮かべている中、リュシファーはため息を吐いていた。

 その時だった――。

 ひゅぅぅ……と、突風が少し熱を持った風に変わった。

 ――ん?

 と不思議に思ったレティシアは立ち止まった。

 リアジュがどうしたのかと尋ねた。

 レティシアは何か嫌な予感がした。

 咄嗟にリアジュの腕を引き、後ろへと後退した。

「!? な、何だッ」

 驚いてレティシアを見るリアジュの顔に照らされる赤い光の影と熱風。

 レティシア達がいた場所へと渦巻く炎の渦――。

「!」

 そしてそこから現れた赤みがかった銀色の髪の女。

 髪は巻き毛で胸の辺りまで伸び、その表情には残忍な笑み――。

「――うふふふ、みぃーつけた…っ」

 女はそう言って微笑んだ。

 ……何…ッ、こんな所にまで魔の者がっ…!?

 レティシアはきっと睨んで言った。

「――お前は何者だッ」

 少し間をとって女はふふっと微笑んで人差し指をつんっと軽く前に突き出して言った。

「はい。よく出来ました。そういうことは、早く聞いてくれないとねぇ~。私は大魔神ザロクサス様の配下――殺戮の四天王、地獄の炎舞で全てを闇へ葬る…ふふっ、炎殺のメルローズとは私のこと」

 炎殺のメルローズ……!?

 やはり雷鳴のセルローズと同じ魔の者だ…ッッ!

 くッ……。

 ついに現れた――。

 レティシアはリアジュに小声で後ろに下がっているよう言った。

「何を言うッ。私も戦うッ…」

「――リアジュ、頼む。こいつの狙いは私だ。それに、お前では歯が立たない」

 歯が立たぬと言われて腹も立ったが、メルローズに向けるレティシアのその鋭い眼力に、強い意志をその瞳に見て大人しく引いた。

「――何をごちゃごちゃ言ってるの? さぁて、そろそろ遊んで貰おうか」

 メルローズが言った。

 レティシアは何をすればいいか、既にわかっていて準備していた。

 かざした手、それはどちらから差し出したものか区別できた者はいなかった。

 ほぼ同時にぶつかり合う――物凄い炎の渦と物凄い氷の渦。

 それがぶつかり合う様を遠目から見た時、驚愕してリアジュはへたっと座り込んだ。


 リュシファーが静かに言った。

「強力な魔法が使えるヤツじゃないと、あれに下手に手出しは出来ないだろう…。俺も手助けは出来るが少し様子を見る。アイツなりの覚悟の前に、今、手出しすれば怒るだろう。あの目をした時のアイツは、誰も止められない――」

 その言葉に唖然としたままリアジュはレティシアとメルローズの攻防を見ていたが、明らかにレティシアが押している。

「――なっ何ッッ!?」

 メルローズが押されたその氷の渦に飲まれ、更に降り注ぐ激しい氷柱の攻撃を受けて、悲鳴をあげてもがき苦しんでいる。

 レティシアはそれでも笑み一つ溢さない。

『――ふふっ、私を甘く見て貰っては困るわぁ~。まだ行くわよッッセイレシルッ!』

 水の大精霊リーヴァは激しい水流を巻き起こし、風の大精霊セイレシルとともにそこに巻き起こし出来た激しい突風とともに勢いを増した激しい竜巻が更にメルローズを襲い、その後メルローズはその場に立っていられずに崩れ落ちた。

「なッ………何……貴様……何…者…、ッうぐッ……ッッ――…」

 メルローズは身をさらっと黒い灰に変えていき、それは砂となり空に舞った――。

 レティシアはそれを見るなり、ふっと意識が遠退き倒れた。

「――レ、レティ!!」

「――ティアラちゃん!!」

 4人が駆け寄ってレティシアを揺すったが、どうやらただ気絶しているだけの様だった。

 ひとまず命に別状がないことを知りリュシファーが安堵して息を吐いた。その傍に落ちていた黒い手鏡を手に取った。手鏡とはいってもそれは鏡の部分も薄っすらと黒く姿は良く映らない。

「な…なんでしょう? それは」

「わからん…だがとりあえずそれは後だ。ひとまずレティシアを連れて今日は戻ろう。すぐに目覚めそうもない」

 皆が頷いてレティシアを宮殿へと運んだ。

 宮殿の客間の一室。一人一部屋与えてくれたリアジュを含む5人は、皆レティシアを寝かせた部屋のベッドの傍へ集まっていた。

 レティシアに魔力回復剤を調合するリュシファーがその一番前で皆に様子を説明した。

「――レティは自分の持てる魔力以上の力のを持つ精霊の守護を得ているのだから、身体の負担も大きいのだろう。まぁ心配することはない。休めば回復する」

「でも久しぶりに見たけどアイツ余裕で倒す程の力を持ってるんだなぁ」

 ミグが言った一言にリュシファーはため息を吐いて薬を調合する手を止めた。

「ミグ、あれが余裕で倒した様に見えたか? レティのあの目を見れば、お前ならわかるだろう。鋭いあの視線はレティ自身の決意を表す目だ。本気でやらねば、やられる――と真剣に挑んでいた。俺は余裕ではなかったと思う…」

 ミグが黙り皆も沈黙する中、リュシファーが止めていた手を再び作業に移し、その横でリアジュが言った。

「お、お前達一体、何を成そうとしている? それに、さっきの者…レティシアは『コイツの狙いは私だ』と下がっている様に言ったのだ。何故一国のただの王女が変なヤツに狙われるのだッ?」

四人が一斉にリアジュを見て、視線だけを送り頷くとミグが事情を話した。

「――何…てことだ。では告げは本当だったようだな」

「告げ?」

「“異国の姫、いつか重大な使命のためにやって来る。そなたは力を貸してあげなさい”と。確かあれは何年も前だ。城下に抜けた時に異国から来たという占い師の老婆に声をかけられ、そう言われた。実はお前達に会った時、ふとそれを思い出した。なんとなく王族の様な気がしたのでここへと招き入れたのだが、占い自体はまぁ半信半疑だった。自分が力を貸してやってもいいと思うかの判断が出来たので力を貸したまでだ。レティシアは意志が強く、何かを成そうとする者の目をしていたのでな――」

「…何者だ? その婆さん。すげー占い師だな」

「うーん。そこまでは知らないが、とにかく私は紅蓮の洞窟へ向かって石をこっそり借りて来よう。誰も入らぬ洞窟だ。石を持っている事すら誰にもわからん。協力しよう」

 遅いので今日は寝ることにして明日リアジュが石を借りて来てくれるということになった。

 四人はリアジュに感謝して今夜は遅いので休むことにしたが、様子を見るためにリュシファーだけは部屋に残っていた。


 雷鳴のセルローズ。炎殺のメルローズ。

 次々と現れる魔の者の手――。

 そのうちの一人、炎殺のメルローズを倒しただけでもこんな状態だ。

 皆には言わなかったが、前回レティはセルローズと対戦して恐ろしさを知っている。

 そのため自分の持てる魔力以上の力を僅かに使ってまで放ったのだろう。

 やるかやられるか――その気持ちはわかる…。

 だがレティ…、お前は死ぬ気か――ッ

 持てる魔力以上の力を使いすぎれば死に至る事だってあるんだぞ?

 考えていても仕方がない。

 目を覚ましてからだな…。

 おそらく、このまま今日は目を覚まさないどころか、二日は眠り続けるだろう。

 困ったものだな……。


 ――こうして、リュシファーはその脳裏にレティシアへの思案をひとりで抱えていた。


 そして眠ったままのレティシアが目を覚ましたのは、

 リュシファーの予想通り二日後のことであった。


つづく。

名前考える事が結構多いですが、適当にいつも頭に浮かんだものを少し試行錯誤して考えて使ってます。

さてさて四天王一人あっさり倒せました。

意識的な物が今回は違った様です。

前回セルローズの時に恐ろしさをしっているので本気ということでしたが。リュシファーのひそかな心配も…ありみたいな回です。

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