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【第五章】†ep.2 歓喜†

ふぅ。やっとエピソード2アップです。

校正出来てないですが、見つけ次第直したいと思います。


  明朝――。

  居間へ行くなりレティシアとリュシファーは驚愕していた。

「おおっお前たちが娘を救ってくれたのかぁっ。がっはっはっはっはっ! いやぁ~礼を言おう。コレは俺特製の海の男朝食だっ。ささっ、たーんと食べてくれっっ!」

 圧倒もしていただろう――。出された料理と、もちろん豪快な性格のシーシェルの父にも。

 海と船自体が好きなシーシェルの父は、船を持つだけではなく自分も航海に出ているらしい。

 そして、朝から『料理は得意だ』と娘を救った客人のために腕を振るい、この美味しそうだがなんとも物凄く量の多い『海の男朝食』なる食事を作ったのだという。

 焼いただけの魚がどーんと真ん中にあり、その周りに海老のカクテルサラダやパンやパエリア、そして魚介のミネストローネスープなど、朝食べるにしては量が多いしパンか米か統一もされていない。

 二人は圧倒されながらも手をつける。

 味はとても美味しいので思わず微笑んで食事は進む。そんな中でレティシアは口を開いた。

「お、お父上は船乗りもしておるのか。シーシェルがこうおしとやかなので物静かなお父上を想像していたというのに、イメージと違うな。はは……」

 レティシアはリュシファーに『失礼だろ…』と呆れた様に叱られたが、シーシェルの父はそれに豪快に笑った。

「がっはっはははは、いやぁ俺はそういうはっきり言うヤツは大好きだぞぉ。確かにちげぇねぇや。俺がシーシェルの父親とは確かに想像できんだろうな。がっはっはっはっは」

 シーシェルが苦笑しながら、リュシファーにすみませんと目配せしていた。

「――それはそうと、レティシアちゃんと言ったなぁ。いや驚いたなぁ。前に実はどっか、エン……なんとかって国の兵士だとかいう奴に尋ねられたんだ。『見なかったか』ってな。同じ名前の王女様と双子の王子様も一緒に城から逃げ出したらしくてな……。何でも、探しても全然見つからなくてお手上げ状態だとか言っていた――」

 ぎっくぅ……!

 ま、まずい。こんな所にまで捜索の手が……っ。

 レティシアがそう焦って脳裏で冷や汗を垂らしながら駆けずり回っていると、シーシェルの父親はふっと微笑んで言った。

「――髪の毛の色は澄んだ翡翠みたいな緑石…色だったかな。要は黄緑色ってことだろう。俺の勘が間違いなければだが、お嬢ちゃんは、何かこう、一般人って感じがしないんだよなぁ~。色白で、妙に綺麗な顔してるしなぁ、大体『お父上』なんて言うのは貴族か王族くらいだろう」

 レティシアは唖然とした――。

 シーシェルの父は、がさつで何も考えてなさそうな豪快な者だと思っていたら、結構洞察力がある様だ。鋭い勘だ…。

 とレティシアは思っていたが、多分誰が見てもそこは違和感を感じるところであろう。

「――おおかた、そちらのリュシファーさんは“護衛”というところか……まぁなんだ。娘を助けて貰ったわけだから、そんな焦った顔をしなくても別に公言なんてしないから安心してくれ……。それにイエスかノーも言わなくていい――。これはただの俺の憶測だからな……がっはははははっ」

 そう言ってシーシェルの父は意味ありげににっと微笑んだ。レティシアは少しだけほっとしていた。リュシファーをちらっと見ると、リュシファーも同じ様に安堵している様子だった。

「――そうそうシーシェルから聞いたが、その…双子の兄貴を探しているらしいが、はぐれたのか。とにかく、町の者や船員たちにも声をかけておこう。その三人を見たら報告するよう言っておいてやるさ。女の子の格好をして目暗ましとはよくやるなぁ。がっはっはっ」

 レティシアは豪快な笑いに圧倒されながらも礼を言った。

 にっこり微笑んでシーシェルの父は『いいってことよ』と答え、更に言った。

「――これから、どこまで行くのかは知らんが、もしこの辺で宿がなかったり何か困った事があればすぐに家へ来るんだ。お前たちは娘の恩人だ――何でも力になってやる。それにおてんばな王女様…おっと言っちゃいけないなぁ。とにかくそんなご身分だというのに、城を大騒ぎさせてまでこんなところまでやってくるなんてぇ心意気が応援してやりたくもなるじゃないかぁ。お前達の頼みなら大歓迎だっ」

 シーシェルの父はそう言っておきながら、間髪いれずに「さあさあじゃんじゃん食え」と言ってやはり『がっはっは』と豪快に笑っていた。これでは返事をする暇もない。

 ――しかも、先程は憶測と言っておきながら、もう完全に王女だと理解してしまっている。レティシアは引きつった笑みを浮かべながらもこう言った。

「あ……はは、ありがとう……」

 そして、シーシェルの父親の作った大量の料理をなるべく残さないよう食べたが、やはり少し残した。さすがに多かった――。親切な者たちだったなとレティシアはシーシェルの家を後にしたのであった。

 シーシェルの家は港に近く、町の出口まで結構な距離があった。

 相変わらず凄い人がいるなと、そこをリュシファーと歩いている時だった。

 前方を歩いて来る女の子――。

 その女の子を見てレティシアは驚愕した。女の子はきょろきょろと周りを見ながら一人で歩いている。人混みの中遠くに時々ちらちらと姿を見せるだけなのだが、レティシアは立ち止まってじっと先を見てその女の子を目で追った。

 ――ピンク色の髪の毛、――背丈はレティシアと同じくらい。その女の子は真っ直ぐ道沿いにこちらへと向かい歩いて来る。しかし突然女の子はレティシアと同じ様に立ち止まりこちらに視線を向けた――。

「ん? お、おいレティ、なんだ急に立ち止まって――?」

 リュシファーが人混みの中で突然立ち止まったレティシアに声をかけるが、聞こえていない様子だ。

 同じ方向を見てみても、人混みが続いているだけだ。首を傾げた次の瞬間、レティシアは突然走り出して行ったので後を追う。

 しかし――。レティシアは真っ直ぐにピンクの髪の女の子へと向かい抱きついた。

 驚愕してリュシファーは少し足を止め少しずつ近寄ってすぐに理由がわかった。

 そのピンクの髪の女の子はレティシアを抱きしめ、リュシファーは、ふっと安堵したように微笑む。


「――レティッ!! やっと会えたぁ~ッッ」


 その言葉に、レティシアはミグに抱きついたままこくこくと頷いて返事をした。

 レティシアは嬉しさのあまり、ぼろぼろと涙を溢して泣いていたのだった。

「――あはは、しょうがないなぁ……。寂しかったのかぁ? よーちよーち」

「……ひっく、ん……っく、……こども扱い……ッ、――するなっ……馬鹿……ぁっ」

「ははっ、相変わらずだなぁ。お、リュシファーも久しぶりっ。無事だったか……なんでそんなところに立ってるんだぁ?」

 ミグがレティシアに抱きつかれたままで調子よくリュシファーに挨拶をした。

 リュシファーは近寄ってきて、レティシアの頭をわしわしと撫でて呆れた様に言った。

「いや……再会の、邪魔をしては悪いかと思ってなぁ……。はは、こいつ昨日から突然すごく寂しそうだった……。――会えて良かった……」


 リュシファーは照れくさいような困った微笑みを見せ、立ち話もなんだからということでカフェに入った三人。

 まだ泣いてミグに抱きついたまま離れようとしないレティシアとミグが並んでテーブル席に座り、向かいにリュシファーが座っていた。

「レティ、なんだ今日は甘えんぼさんだなぁ……。そんなに寂しかったのか?」

「! ……べ、別にっ。――すっ、少しだけだ……っ」

 そう小さな声で言ったままミグの服をぎゅっと握り締めていた。

 ミグとリュシファーの二人は苦笑しながらこれまでの経緯を話していた。

 ミグたちは三人ムテール大陸の西に位置するランガラフの港町付近へと流され、そこから北にある“水紋の滝”にある『流水石』を取りに向かい、さらにはるか東にあるドーラの港町付近にある“聖魔の塔”にも足を運び『聖魔の石』も取ってきたらしい。

 とりあえず二人がここに来るのをこのドーラの港町で待ってみようという話になったらしいのは、ミュイエの意見らしい。

 ルーセスト大陸側へと向かうロンダルト海域側はしばらく運行の予定が未定だったが、ここムテール大陸とミスレイル大陸を結ぶ小さな海域――セレス海域は、嵐が起こった海域とは関係がなく近々開港するかもしれないと聞いていたらしく、もし二人が来るならこっちの港町だ――とミュイエは踏んだようだ。

 それと石はルクチェが持っていて、ルクチェ達はホテルにいるらしい。

 ミグから離れずにレティシアは口を開いた。

「……じゃあ、それを受け取れば残るはあと一つということか……? えと、炎の洞窟だっけ」

「――はぁ……」

 リュシファーが呆れたようにため息を吐いたので、レティシアは片眉を吊り上げた。

「――サンザルス大陸、“紅蓮の洞窟”の『聖なる炎石』だ…まぁいい。とにかく、残るはその一つというわけだ」

 リュシファーがレティシアの間違いを訂正して、深刻な表情で言った。

「しかし、問題がある。俺はそこの大陸には行ったことがない。したがって、転移の杖は使っても意味がないということだ。行く手段がない――。どうしたものかなぁとずっと考えてはいるんだが。結構遠いからなぁ。飛んでいくわけにもいかないだろうし…」

と額に手を当てて頭を悩ませている様子だったが、ミグはあっけらかんとこう言った。

「――なんとかなるって、じゃそろそろホテルに戻ろう。ルクチェたちも心配してたし、そういうことなら早く守護して貰った方がいいだろう?」

「あ……あぁ、まぁそうだが。相変わらずノー天気だなぁお前は……」

「考えてたってわからないことはわからないんだよ。ま、後でゆっくり考えよう――」

 レティシアはミグのその台詞も久しぶりに聞いてなんだか嬉しかった。

 ミグに連れられ、二人はカフェを出るとホテルへとやって来た。

 ガチャっとミグドアを開けて調子よく言った。

「へっへーん。ルクチェさんっミュイエーっ、ついに見つけたーっ」

 その声に二人が駆け寄ってきて、五人は久しぶりの再会に歓喜した。

 経緯はミグから聞いていたので、こちらの経緯を話すとルクチェが深刻そうな面持ちで言った。

「――ラクロエ……?」

 その表情は明らかに動揺の色も伺えたので聞き返したが、ルクチェは笑って誤魔化していた。

「あぁぁ、いや、何でもないわ。あはは…ただ、ちょっと聞いたことがある名前の様な気がしたけど気のせいだわ。えと、それでそうそう。石――。これよ――」

 そう言って差し出された青いサファイアの様な色の石と、水色に澄んだ石をレティシアの前に差し出した。

 石はそれぞれ青い光と水色の光を眩しく放ち、目をくらませたかと思うと、そこにひげを生やした青い光を纏った厳しそうな面持ちのお爺さんと、水色の光を放った体のラインが何やら色気を持った人魚の様な女性が姿を現わした。しかし…問題はここからである。

『――おぉぉラクロエ様……ついにお会いできましたなぁ。どうやら女神様も他の者たちも一緒の様で。よかったよかった~勢ぞろいじゃなぁ~』


『リザルト様? 一人まだいませんわ。炎のフレイ様がま・だ・で・す・よぉっ。ふふっ』


『――あぁ、そうじゃったそうじゃった。わしゃ最近物忘れがひどくていかんなぁ~。ま、とにかく守護させて貰いますぞぉ。わしは聖を司る聖の大精霊リザルトと申しますじゃ。そして、こっちのかわいこちゃんが水を司る水の大精霊のリーヴァちゃんじゃ』


『ちょ、ちょっとぉリザルト様私の台詞をとらないでぇっ。あ、でもまぁ。そおいうこ・とっ。よろしくねっ。私達、ラクロエ様の守護しますからぁ~ふふっ』


 ・・・・・・・・・・・・。


 レティシアはぽかーんとあっけに取られていた。

 リザルトという聖の大精霊は、厳しそうな面持ちだというのに話を聞く限りレイモンドの様に怖い雰囲気を微塵にも感じられない。それどころか、なんだか…ただの陽気なお爺さんといった感じだ。

 そしてリーヴァという水の大精霊は、セクシーな風貌なので色気むんむんな性格なのかと思いきや、くねくねと尻尾を揺らしながら、甘く可愛い声でリザルトとじゃれ合うように話す。

 こ、この二人は本当に大精霊なのか……? い、意外すぎる……。

 とレティシアが考えているとウレハの笑い声がする。

『――ラクロエ様も、さすがにこの者たちの様子には呆れていらっしゃいますか。ははは。心配なさらずともちゃんと大精霊ですから、性格はこんなでも凄い力を持っていますからご安心を。陽気な方たちなのですよ』

「そ、そぉなのか……あはは……ちょ、ちょっとびっくりしただけだ……別に疑ってなどおらぬ……はは」

 そう言ったレティシアの顔は引きつった笑いを浮かべていた。

 レティシアのそんな様子に二人の大精霊はくすくすと笑い始め、『ほらーリザルト様のせいで印象が悪くなっちゃったじゃなぁい。もぉっ』だとか『はっはっは。まぁ堅苦しい者たちばかりではないということじゃ』と何やら言っている。

 ため息を吐いてはいたがその様子にもだんだんと慣れてきたレティシアは次第に楽しそうな大精霊達だと思い始めていた。

『では――呆れほうけられる前に、そろそろ儀式といこうかのう』

『そうねっ。ふざけてる場合じゃなかったわぁ~』

 そう言うと、リザルトとリーヴァの二人は、互いに真剣な面持ちに戻して言った。


『――我、聖の大精霊リザルト。ラクロエ様を守護致しますぞ』


『――我ッ、水の大精霊リーヴァ。ラクロエ様を守護致しますッ』


 そう二人が声を重ねて言った時だった。

 眩い光にレティシアは耐え、光がおさまった時には身体が息を切らすほどに体力を消耗していて、体が重くなりその場に崩れた。

「れ、レティ!! し、しっかりしろ……ッ。大丈夫かッッ」

 ミグのその言葉にレティシアはかろうじて答えた。

「……駄目だ……、なんか、さすがに大精霊を二人同時に受け入れるのは……力が大きくて、しんどい……みたい」

 その様子にとりあえずリュシファーがひょいとレティシアを持ち上げて、ルクチェも部屋の中の寝室のドアを開け布団をめくって手伝ってレティシアを布団に寝かした。

「……少し休むといい。後で様子見に来てやるから」

「……すまない。あ……えと、ミグ……、呼んでくれないかな?」

 レティシアは弱々しい声でリュシファーに言った。

 ふっとリュシファーは微笑むと言った。

「――了解」

 ――……

 ――…


「――俺さぁ、昨日夜中にさ、お前が寂しがってるんじゃないかなと思ったんだ…」

「え……っ」

「はは、なんとなくだ――」

「…………」

 レティシアは何も言わなかった。

 ミグは同じ布団で寝て話をしていた。こうやって話すのも久しぶりだった。

 答えないレティシアにミグは手を頭の後ろに置いて、ふっと微笑んでから静かに言った。

「――そんでもってさ、俺も…なんだか少し、寂しかった……」

「ミグも……?」

「あ、やっぱり寂しかったんだなぁ? ははっ。でも、なーんとなくなぁ……寂しかった。で、朝にちょっと一人で探してみようかなぁと町に出たらお前に会えた……。不思議だなぁ」

「……うん。不思議だ……」

 双子には――きっと不思議な何かがあるのかもしれない。

 他の人には理解できない何かが、絶対にあるとレティシアはその時思っていた。

 とにかくやっと会えて良かった。やっぱりミグとこうしていると、安心する――。


 そう思った時だった――。


『――かーわええのぉ……。ラクロエ様と人間界でのお兄様のミグ殿。……兄妹ってええのぉ……』

 聖の大精霊リザルトの穏やかな声が聞こえてきた。

 そして次に、勿論、水の大精霊リーヴァの声。

『んもぅっ。駄目よぉ、リザルト様っ。聞こえちゃうでしょぉ? せっかく久しぶりの再会を喜んでるところ邪魔しちゃだ~めっ』

『――おおそうじゃったそうじゃった。すまんすまん。わしゃ最近涙もろくていかんのぉ』

『あらやだ、リザルト様ったら』

 レティシアはミグには聞こえていないこの声達に、引きつった笑みを浮かべた。

 その二人によって雰囲気はぶち壊しである。

 しかし、そういえば、再会を浸っている場合じゃなかったなぁとレティシアは思った。

 はぁ……とため息を吐いてレティシアは、ミグの隣で少し眠ることにしたのだった。


 レティシアは目を覚ました昼の三時頃に、ミグと二人でフリシールで港へ向かっていた。

 港で船に乗るわけではない――。二人は人を探しに来ていた。

 船には乗客が乗っていく中で、船員たちの姿も見える。

 レティシアは船員に駆け寄ると声をかけた。

「すまないが。えと、この船を持っている者を呼んでくれるか? なんかこうがっはっはとか言って笑う者だ。あとあと、シーシェルって娘の父上さんだっ」

「――ん? 船長のことかな? ん? ――あッ、き、君はっ。えとちょっと待っててね」

 何やらミグとレティシアを交互に見たかと思うと、船に入っていく船員。

 レティシアとミグは船長をしてるとは思っていなかったので、少し首を傾げながらシーシェルの父や組員を何人か連れて戻ってきた。

 どうやら出港も迫っており、組員達が止めるのも聞かずに急いで来てくれたようだった。

「ぉぉおおっ、見つかったのかぁ。いやぁよかったぁっ。がっはっはっはっ。報告にわざわざ来てくれたのかい?」

 シーシェルの父はそう言ってレティシア達に大笑いをしたが、レティシアは首を振って言った。

「それもあるんだが、頼みがあって来たっ」

 レティシアが言った一言に、シーシェルの父は快く何か聞いて来た。

「サンザルス大陸に行きたいんだ。――でも、船は出ていないし困っている――」

 最期はレティシアは俯いて言った。

 シーシェルの父は相変わらずの大笑いをすると言った。

「がっはっはっはっ。俺にそれで、船を出してくれないかと頼みに来たというわけか。――よし。おいお前、舵見習いをして何年になるっ?」

 そう言ってシーシェルの父はおもむろに、追いかけてきた船員の内の一人に聞いた。

 圧倒された様な表情でその船員は「に、2年です…」と答えた。

「よし、じゃあしばらく代理でお前が舵を取れ。しばらく船はお前の物だ。俺は、この子たちのためにサンザルス大陸へちょっくら向かってやることにしたっ」

 船員達が口々に驚く中で、シーシェルの父はレティシアとミグの真ん中に立ち、二人に両手で肩を組んだまま船に背を向けた。そしてがっはっはっはっはっと笑いながら歩みを進めていく。

 後ろを振り返ると船員達がざわめいて誰も動けないままそれを見送っていた。

 このシーシェルの父、どうやら船長の権限を大いに利用して勝手な真似をしているのではと思うような大胆な男である。

 とはいってもレティシアはそのことに礼を言ってから聞いた。

「……でも、良かったのか? 突然船放っぽりだちゃったりして……船長さんだろう?」

「いいんだいいんだ。あいつらもいい勉強になる。それに海の男はそう簡単に挫ける柔な男達じゃないからなぁ。ま、非番の船員に声かけて明日の朝迎える様に手配しておくから、明日7時に港に来てくれ。ちゃんと船はあるからよぉ。しかも、海賊船みてぇにカッコイイ船があるぜ。俺のコレクションのひとつってヤツさぁ」

 そう言ってまた大笑いをすると、ぎこちなく微笑む二人に静かに続けた。

「――まぁお前ら……俺の憶測だが何か事情がありそうだからなぁ。勿論、深い事情は聞かない。じゃ明日なっ。寝坊するなぁ? 今日は早く寝ろ。朝七時にこの港に来るように。――がっはっはっはっはっ……」

 そう言って去っていくシーシェルの父の後ろ姿を見て、圧倒された表情のミグが呟いた。


「――ほ、ほんとだぁ…」


 その様子にレティシアはふふっと微笑んだ。

 レティシアは港に向かう途中、シーシェルの父のことをこう話していた。

 豪快。おおざっぱ。ガサツな感じだがとても良い者で、そして『がっはっはっはっは』と笑うと――。


 ここまで来た経緯は、レティシアとミグが目が覚ました時リュシファー達のいる部屋に戻ると、皆深刻な顔をしていい移動手段が思いつかない様子であったのだが、さりげなくミュイエがぼそっと言ったのだ。


「船を持っている人でもいれば頼んでみる価値はあると思うんですがねぇ~」

と――。


 その言葉にレティシアはシーシェルの父のことを思い出し、ミグが見つかった報告もかねてやって来たというわけであった。

 そして、勿論――。


「「承諾ッッ」」


 というレティシアとミグの報告に、皆歓喜した。

 二人が人差し指を高々と上に突き上げた所を見て、ミュイエはくすくすっと笑い出した。

 怪訝そうな顔をしてレティシアがミュイエに尋ねると、二人元気にそう言った姿はとても可愛らしかったと言った。

 安堵もしたこともあり、ミュイエにつられて皆笑っていた。


 ――……


 ――ドーラの港のホテルの一室のバルコニー。風呂上りのミュイエとリュシファーが涼んでいた。

 夜空には星が輝き明日の天候を予期させ、心地いい風がそこに吹く。

「――やっぱり、元気ですねぇ~お二人揃った方が」

「……そうだな~。城にいる時から二人揃うとろくな事もしなかったが、まぁ片方欠けては調子も出ないんだろう……」

「ふふっ、そうでしょうねぇ~。あの二人見てると目に浮かぶようです。……ですが、明日はいよいよサンザルス大陸へ出港ですね。精霊の導き通りに大分進んできました。……レティシアは数奇な運命に立ち向かう強さがあると……あ、いえ、強くなって来ているといった方が良いでしょうね。苦境を乗り越えてひとつずつ、対抗する強さを身につけていっていると僕は思います……」

 ミュイエがバルコニーの格子まで歩みを進めて言ったその言葉に、リュシファーはため息を吐いた。


「――潰れなきゃ……いいんだけどな……」


「え?」

 ミュイエが聞き返し振り向いたのでリュシファーは慌てて弁解するようにこう言った。

「あ、いや……ほら、あいつ言わないだろう。そういう弱さみたいなことめったに。いつも、前だけ向いてさ…、負けてたまるかッって感じだろう? でも、奥底には怖れも眠っていると思うんだ……」

 ミュイエもため息を吐いて少し納得している様子だった。

「――そうですね。出来るだけ支えてあげたいものですね……」

 しばし沈黙が続き互いに何か考えていたが、ため息を吐いてどちらからともなく寝室へと戻って行った――。

 リュシファーが寝室に向かうと、レティシアとミグは二人一緒のベッドに丸くなり眠っていた。

 それにふっと微笑んで、リュシファーはレティシアの頭をそっと撫でてこう呟いた。


「おやすみ――」


 と――……


つづく。

★やっと再会を果たせてよかったよかった。

さて、航海へと無事話を進んできました。

シーシェルのお父さん、なんか豪快だけどとてもいい人じゃ~ないですか。

というわけで次回お楽しみをっ。



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