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【第五章】†ep.1 突然の寂しさと†

「なぁ……また戻ってないか? 同じところ……」

「そのようだな……」

 フィナーテルの街で一泊して、雷迷の遺跡へと向かったレティシアとリュシファーの二人は、崩れ落ちた石造りの神殿の様な遺跡へと足を運んでいた。中は結構広く迷路の様になっていて、地下へと繋がっているらしいのだが、目印らしき物もない――。

 お互いに左と右分かれて進んだというのに、どう頑張っても一回りして同じ場所に鉢合わせてしまう。

 唯一目印といえば、この鉢合わせる中央の場所に石像が立っているだけである。

 猫の様な耳としっぽのついたミュイエの様な容姿の女の像らしいが、その体のラインは全然わからない。

 円柱にただ顔と体を刻んだだけの簡素な造りであった。

 したがって何故か美しいというよりは、醜い――。

「むぅ、もうこうなったら稲妻で壊しちゃうっていうのは?」

「や、やめとけ。考古学者達が怒るぞっ」

「だって、こんな迷路みたいなところで一体何回ぐるぐる回ってお前と鉢合わせれば気が済むんだ」

 はぁ……とリュシファーはため息を吐いて、少し思考していた様だった。

 レティシアはその間退屈なので、石像に何か異変がないかをもう一度詳しく見ていた。

 すると、石像の裏にひきずった様な痕がある。

「リュ、リュシファーひょっとしてこれ……動かせるのかも」

 リュシファーが一緒にそれを見て、レティシアの頭を撫でた。

「たまにはお前も洞察力あるじゃないか。よし、動かそう」

 そう言ってリュシファーは石像を引きずられた方向へと押そうと手を添える。

 しかし、レティシアはきっと睨みつけてしゃがんだまま動かない。

「一言訂正しろ」

「あ?」

「たまにはとは何だッ、お前はたまにいちいち余計な一言をっ」

「……はいはい。わかったから早く手伝え……一人じゃびくとも動かないみたいだ」

 くすっと微笑んで呆れたようにリュシファーが言った。

 ため息を吐いてレティシアも一緒に石像を思いっきり押した。

「えっ!? きゃぁっ」

 レティシアが押すのを手伝った瞬間に、石像は全然重くもなんともなくスッと動き、レティシアは石像に額をぶつけた。

「い……たたたぁ……ッ」

「だ、大丈夫か。お前意外と馬鹿力だな……俺今大して力入れなかったんだが」

 リュシファーは座り込んだレティシアに手を貸してくれて起き上がった。

 痛む額を手で押さえながらレティシアは言った。

「あぁもう、……全然軽いじゃないか……馬鹿力でもなんでもない」

 そう言ってレティシアは先に下へと歩みを進めた。

 階段を降りると、そこは暗闇が広がっていた。

 当たり前だ。地下なのだからと思いながら人差し指に炎を出した。

 小さな炎に照らされた地下は真っ直ぐに続いている様だ。

 歩みを進めながら真っ直ぐ続いた先の中央に二人が進んだ時だった。

 突然、足元の床が抜け、レティシアは悲鳴を上げながら落下した。

 リュシファーの悲鳴も聞こえた。レティシアは咄嗟にフリシールを使い上昇しようと思ったが、何故か風は起こらずにそのまま落下し、足を着地したつもりが嫌な捻り方をした気がした。

 そのまま身は傾き、ドシンッとレティシアは床に倒れた。

「うッ……痛―ッッ……、いったたたッ。足……捻った……かな……ッ、はぁ……」

 人差し指に炎を再び照らして見上げると、大した距離でもないがとても自力では上がれない距離だ。

 そして前を向き直ると、何か祭壇が遠くに見えるが近寄って見ないとよくわからない。

 それは真っ直ぐにまた通路が続いた先にあったのだ。

 ため息を吐いて立ち上がろうとしたが、やはり足を捻ったらしくその場に尻餅をついた。

 フリシールの魔法を使おうとしても何故か身体が浮き上がらない。

 リュシファーはどこへと見渡すが、後ろにも通路が続いているだけで何も左右にはない。壁だけであった。

「リュシファーーー!」

 叫んでみるが、辺りはしんと静まり返っている。

 ため息を吐いて仕方なく壁に手をつき起き上がる。

 そしてレティシアは足をかばいながら壁伝いに祭壇の方へと向かった。

 近づいていくと、赤い石が置いてある。

 ひょっとしてあれが天罰の石とそう思った。よく見ると祭壇のある壁に文字が書かれている。


『天罰を受け入れようとする者、我を同時にその手に触れよ』


 そう書いてある。

 同時に――? どういう事……? 二人で触れってこと? とは言っても今は私一人だ。

 ていうか、大精霊はいないのか……? これ偽者なんじゃ……。

 と疑わしい目で石を見つめた。

 そして恐る恐る手で触れようとしたが、突然ピシっと静電気の様な稲妻が石の周りに発生し、レティシアは慌てて手を離した。どうやら触れさせてはくれない様である。

「もーーーっ意味がわからんッッ! ココまで来たのにっ」

 そう言った時だった。壁の奥からリュシファーの声が聞こえてきた。

「おーい、レティーッお前そっち側にいるのか?」

「あぁーいるーッリュシファーッ、足を挫いたからあまり移動できないし、フリシールも使えないんだーッ」

「……後で診てやるー。それよりッ、お前の所にも祭壇と青い石があるかーッ?」

 そうリュシファーが聞いて来たが、ここにあるのは青い石ではない。

「いや? 赤い石だー。同時に触れよって書いてあるー」

「お前のところにも書いてあるかー、多分、そっちとこっちの石、同時に手に取ればいいんだと思うんだーやってみよう」

「そっか。同時ってそういうことか……! わかったー」

 レティシアは石を見つめて、リュシファーの言う「せーの」の声に合わせて赤い石を手に取った。

 途端にゴゴゴゴゴ……という音を鳴らしながら地が揺れたかと思うと、祭壇が右にずれて行く。

「!」

 ずれた先にはリュシファーの姿が見えた。向こう側の祭壇も同じ様にずれたらしく、通路が繋がった様だった。

 赤い石がレティシアの手から離れ、リュシファーの持つ青い石もその手から離れ、二つは宙に回り始めた。赤い石からは赤い光、青い石からは青い光が発生し、石はどんどんと回る速度を強めて、そこに見える二つのその光は次第に重なり合い紫色に見えていった。

 素早く回りだした石がゆっくりとその動きを弱めていった時、石は不思議と一つになっていた。

 石は赤と青が混ざった様に紫色の光を纏い、一瞬眩しく光を放ったのでレティシアは目を閉じた。

 光がおさまり目を開けた瞬間に見えた、目の前の紫色がかった銀の髪の短い綺麗な女性。

 気の強そうな顔立ちをして、真っ直ぐにレティシアを見据えるその姿は半透明だ――。

 ミュイエのように猫の耳としっぽのようなものがついていて、おそらく大精霊に違いなかった。

 大精霊はその場にひざまずいた。

『ラクロエ様――お待ちしておりました』

 リュシファーは怪訝そうな表情でレティシアを見ていた。リュシファーにはこの大精霊の姿が見えていないらしい。

「――雷の大精霊……か?」

 レティシアは言った。

『はい――。雷の大精霊、イシュタリスです。――ウレハ、女神レティシア様お久しぶりでございます。それに、セイレシルも……。ついに、この時が来たのですね』

 その声に穏やかな風がどこからともなく吹いた気がした。

 そしてウレハが言った。

『――えぇ、久しぶりです。イシュタリス。ラクロエ様はこの通りちゃんと転生して無事我らとともに…助ける者たちもラクロエ様を援護し、あなたも含めて我らの守護は三人となり、残る大精霊達も三人……』


――すでに、魔の者も動き始めました。どうやら思ったより早かった様です。

精霊の女神レティシアの言葉に、レティシアははっとして鋭くイシュタリスを見据えて言った。


「イシュタリス……力を貸して欲しい……」


 イシュタリスはそのレティシアの瞳に、微笑を浮かべると静かに言った。


『勿論でございます。ラクロエ様の盾となり、力となりましょう。このイシュタリス、あなたを守護いたします――』


 パァッと眩しい光が視界を遮ったかと思うと、レティシアはその場に倒れていた。


 ――――……

 ――……



 ―――ん……。


「……あ、れ? ここは……」

 レティシアがそう言った時だった。

「気、気がついたか…もう、驚いたぞ。一人で何かと話していると思ったら倒れたのだから」

「あ……ごめん。雷の大精霊が現れて話をしていた……力を貸すと言った瞬間に意識が遠くなって……」

 レティシアは起き上がると、辺りを見渡した。

 先ほどからどうも身体がふわふわとすると思っていたが、この部屋の感じはどこかで見た事がある気がした。そして、窓の外を見て気付いた。

「あれ? ここは? 船の中!?」

「そうだ。よくわかったなぁ――。今はムテール大陸へと向かっている。船はロンダルト海域は閉鎖されているが、ミスレイル大陸とムテール大陸を結ぶセレス海域は特に問題がないということで、開放になった様なのでな。気絶している間に、なんとか次の大陸へと準備してましたよ。足ももう捻挫治ってる。本当にお前は怪我が耐えない。俺がいて良かったな」

 リュシファーが得意気に微笑んだ。

 リュシファーがおさらいのためにレティシアに見せた地図にペンで書き記してある文字を見せた。

 ムテール大陸に水と聖の文字が書かれている。

 ミスレイル大陸には雷の文字。サンザルス大陸には炎の文字。

 そしてルーセスト大陸には大地の文字と、エンブレミア王国の場所に最初からレティシアに宿っていたという風の文字が記されてあった。

 なんというマメさだとレティシアは感心した。

 そしてもう一つ言った。

「それと、ミグたちがいる可能性も高い」

「どうしてだ?」

「――はぁ……、ロンダルト海域で嵐が発生。その左右には俺達が非難したルーセスト大陸と、ココ。俺達が今向かっているムテール大陸がある。ここに飛ばされた可能性は非常に高い――というわけだ」

「な、なるほど……お前、本当に頭に辞書入ったみたいなヤツだなぁ。ちゃんと、考えてるんだなぁ。そんな様子ないのに、いつ考えているのかは知らんが――」

 レティシアはそう言ってベッドを降りた。そしてドアの方へと歩みを進め、ドアを開いて立ち止まってから言った。

「――助かっている。感謝する……ちょっとトイレへ」

 そう言ってレティシアはトイレへと足を運んだ。

 リュシファーはふっと微笑んだ。

 何も変わらない――。あいつは……。と思っていた。

 それでも見ていて少しだけ思う。

 時々、素直に礼を言う時が増えただけ信頼は深まっているなと――。

 ――……


 甲板――。


「はぁ……イシュタリス――お前の力はかなりの物だな……気絶するとは思ってもみなかった」

『おや、ラクロエ様の方が凄い力をお持ちの筈なんですよ。まぁ、まだ少し成長途中ですからきっと身体が驚かれただけです』

「――まだ未熟、そう言いたいのだな……」

『…い、いえ、私は別に…仕方がないではないですか。炎の精霊の子でありながら炎を怖れ魔法をまともに勉強してこなかったんですから…』

“――そうです。魔力が少しまだ低いのですよ……。”

 そう横から入って来たのは精霊の女神レティシア。

『お、お二方、…そうは言ってもラクロエ様もしっかりと成長して来ておられるのだから、そう仰らずに』

 遠からず近からず二人でレティシアの魔力が低いと言うことに、ウレハが優しくフォローをしているがあーだこーだと論議が始まっている。


「はぁ……人の心に住む住人がさすがに増えると騒々しいな……はは……」


 思いっきり聞こえていないふりをするかの様にレティシアは言った。

 甲板の手すりに腕をかけ、海風に当たりながらレティシアは少し伸びた緑石色の髪に触れた。

 ミスレイル大陸やムテール大陸はエンブレミア王国から少し距離がある遠い国。したがって正体を知る者もいないだろうと髪色と瞳を元に戻したまま過ごしていた。

 そういえばここにこうしてミグと話していたのがなつかしいとレティシアは思った。


『何してるんだ?』

『いつか、一緒に冒険の旅に出れたらいいなぁ』

『――どうしたぁ? 浮かない顔して』

『あはは、なんとかなるって』

『風邪引くぞ。そんなとこにずっといたら』


 ミグの言葉が頭に次々と浮かんでくる。

 思えば、ミグの部屋にレティシアは行ったことがない。

 いつもミグはレティシアの部屋にノックもナシで入ってきて話をしに来てくれていた。

 いつも、一緒だった。

 こっそり魔物退治に行った時も一緒。怒られるのも一緒。ずっと小さな時からいつも一緒だった。

 でも――今はいない。一緒にどうでもいい話をしたりすることが、普通だった。

 ミグはいつも自分を気にかけていてくれていたこと――。

 前のミグと同じに切って貰った髪の毛は大分伸びてしまったと、その指で髪に触れていた。

 そして――。


 なんだか、寂しい――。


 レティシアは物哀しげに遠くを見つめながら、そんなことを思っていたのだった――……

 ――――……

 ――……


「レティ、あともう少しで港に着くぞ」

 リュシファーが言った。

 甲板から帰ってきて、リュシファーと夕食を食べに食堂に行き少し話をしていたが、食堂の窓から見えた小さい島々に灯る灯台の光に、レティシアは驚愕した。

「えっ!? もう?」

 リュシファーはため息を吐いて言った。

「お前というヤツは……。雷迷の遺跡にいたのは着いたのは昼前。倒れてお前が気がついたのが日が沈む前だが夕方近くかもしれんが、船には三時頃に乗ったんだ。ミスレイル大陸とムテール大陸は近くてな。だから船も開港したんだろう。それでもざっと六時間か……」

「へー。じゃ、今、夜の九時?」

「あぁ、そうだ。あと20分くらいでつくだろう。しかし、夜じゃ何も出来ないからドーラの港町に一泊するしかないな。行動は明日だ。少しドーラの港町でも観光してみるか? 夜とはいえ港町は賑やかだ。それに、ミグたちもいるかもしれないしな」

 レティシアはその言葉に顔を輝かせて頷いた。

 ミグたちがいるかもしれないと聞いて、いてもたってもいられなくなり部屋へ早く戻って荷物を片そうとリュシファーをせかした。

 リュシファーは呆れたようにゆっくりと席を立ってレティシアに続いた。


 ドーラの港町――。

 夜だというのに賑わったその港には、様々な人が様々な想いをはせながら船の到着を待つ。

しばし離れていた恋人との再会。帰郷して来た息子を迎える者。やっと航海を終えた船乗りの夫を待っていた者――様々な者が温かく船から降りる者を歓迎している様だった。

 船の運行の復旧は、レティシア達が乗る前日に開始したばかりでやっとのことだったのだ。

 前日から船はほぼ満員状態で、リュシファーが買ったチケットが最後の二枚だったと後で言っていた。

 立ち並ぶ店の明かりは夜だというのに灯り、眠らない町と言いたくなる風景だった。

 ひとまず宿を取るためにホテルを回る。


「申し訳ございません。満室でございまして……」


 この台詞を何度聞いただろう。

 ため息を吐きながら、ホテルの入り口を後にする。 

 リュシファーとレティシアは最悪外で結界を張ってコテージで休もうという話までしていた時だった。

「――イヤッ、離してッッ……嫌ッッ」

という女の声。

 町の端っこに近い辺りにあるホテルにまで空室を尋ねに向かっていたレティシア達は、その声の方向に視線を向けた。見ると柄の悪そうな男が大人しげでか弱そうな女性を路地に連れ込もうとしている。

 レティシアは、だっと走って叫んだ。

「こらーッッ、お前ッッ何してるッッ! 嫌がっているだろう!」

 その様子にリュシファーはため息を吐いてゆっくりと後をついて行く。

 柄の悪そうな男がレティシアを見るなり、女性の手を離す。

「なんだお前――……おっ……? こ、これは威勢がいいお嬢さんだが驚いたな。なんて綺麗な顔だ。まだ子供の様だがそれはそれで、なかなか可愛いな」

 その言葉にレティシアはきっと男を睨みつけて言った。


「――おい……今何て言った……」


 その言葉は冷淡に言われ、目は男をきっと睨みつけており、男は思わずびくっと体を硬直させた。

「なッ――なんて目をしやがる……ガキの癖に……ッ」

 そう言った時、女性は男の隙を見てレティシアの後ろへと非難した。

「あっ……おい! ちっ、てめぇ……ちょっと可愛いからって邪魔しやがって――」

 男がそう言って怒りを露にして、レティシアに襲い掛かろうとした時だった。

 目の前を走る紫に発光する線が織り成す防壁――。

 その防壁に手をついた男の視界を奪う稲妻の曲線の数々。体を駆け巡る熱と痺れと痛み――。

「わあああああッッ!」

 睨みつけたレティシアの目の前には稲妻で出来た防壁が存在していたのだった。

 雷の大精霊イシュタリスのふふっと微笑む声が頭の中で聞こえた。

『――威勢がいいのはどっちかしら?』

 イシュタリスは割と血の気が多いらしい。勝気な台詞を吐いている。

「何もそこまでしなくても」とレティシアはイシュタリスと少し会話していた。

 しかし、怒りにまかせ少しこの者に思い知らせてやろうと力を使ったことは確かであった。

 イシュタリスは自分の意志に同調して応えたまでだったと思いなおし、ため息を吐いた。


 一方。リュシファーはその様子に唖然としながら立ち尽くした。

 な……何ッ!? 防壁の張り方なんて教えていないぞ……いつの間に……ッ

 レティシアは目の前に倒れた男の上に片足を乗せると、ふっと微笑んだ。

「今度、私を子供扱いしたら次は知らんッ、ふんっ」

 男は足元で苦痛に顔を歪ませながらなんとか頷いていた。

 よしと気が済んだレティシアはリュシファーに向き直り、その場を去ろうとしたのを女が呼び止めた。

「あぁっあのあのッッ、お、お待ちくださいッッ。た、助けていただき本当にありがとうございましたっっ。黙って行かれるなんてそんな、何かお礼をッッ」

「――礼? 礼なんてよいよい。別に困っているわけでもな――あ、まぁ唯一困っているといえば宿が空いてなくて困っているというくらいだ。はは…それより大丈夫か? 怪我はないか? 怪我があったらリュシファーが治してくれるから、少し診て貰うといい」

 そう言ってレティシアはリュシファーの元へと女と一緒に歩みを進めようとした時だった。

「ぁ、あのっ、私の家でよろしかったらお泊め致しますっっ! 助けていただいたのですから、大したことじゃないですがお礼させてください……っ」

「へッ? 本当ッ?? いいのか?」

「はいっ」

 ――こうして、このことがきっかけで宿を確保出来た二人はシーシェルというこのおとなし気な雰囲気の女性の家へと足を運んだ。シーシェルの家は何故か民家よりも大きくて、家というより屋敷だった。玄関を入って真っ直ぐの壁には、船の碇の形をしたオブジェが飾られている。

 それに目を留めて立ち止まるレティシアにシーシェルは言った。

「あ、それ……。私の父、船を所有しているのです。あなた方もどこか他所から来たのでしょう? 多分父の船でやって来たのだと思います。ふふっ。さぁ、こちらです」

 シーシェルは薄桃色で巻き毛の髪を揺らしながら微笑んで二人を居間へと案内した。

 お茶を淹れにシーシェルはキッチンへと足を運び、二人はソファーへくつろいだ。

 少しだけレティシアは伸びをすると息を吐いた。

「はぁ……こんなに宿が空いていないとは思わなかったなぁ」

「はは……仕方ないさ。まぁなんとかなったんだから幸運を感謝しなければな……」

「――お茶が入りました」

 レティシアはシーシェルが入れてくれたお茶を微笑んで受け取った。

「シーシェル、本当に感謝する。助かった」

「いえ、助けられたのは私の方ですわ。こんなことでお礼が出来るなんて、まだ申し訳ないくらいです」

 なんて控えめな穏やかな女性なのだろう。なんだか癒される様なそんな感じだと思った。

 そのシーシェルの微笑みはマリアにどことなく似ている気がした。

「あ、でもとても聡明な魔法使いさんなんですねぇ。女の子なのに大丈夫なのかしらと不安だったんですが、驚きました」

「あぁはは、いや、そのつい子供扱いするので無気になってしまっただけだ……」

 レティシアが少し照れて言っているので、リュシファーは少しふっと微笑んだ。

「えと、リュシファーさんでしたっけ。リュシファーさんとレティシアさんはどうしてこの大陸に?」

 シーシェルが聞いたので、レティシアは静かに言った。

「人探しも兼ねて少し用事があって来た。双子の兄のミグという者を探していてな……多分この大陸にいると思うんだが――」

 そこまでレティシアが言った時、シーシェルが「あっ……」と小さく呟いた。

 レティシアとリュシファーはその様子にシーシェルを見て気付くことでもあったのかと尋ねた。

「いえあのっ思い出して。三人の旅の方たちの中にすごい美少女がいて、『私と同じ顔をした女の子を知らないか』と尋ねられたんです。でも、双子のお兄さんならば多分、別の方ですね。でもその女の子、髪の色は違いましたけど顔がそっくりだったので――」

「そ、それって――……!」

「まさか……!」

 間違いないと二人は頷いたのに、シーシェルは少し驚いた顔をしていたが、レティシア達はその女の子の特徴を聞いた。

 髪はピンク色、瞳は紫水晶の様な紫色だとのことで、それは間違いなくミグの姿だとレティシアは思って更に聞いた。

「あ、はい、でもそれは二日程前のことで、ひょっとしたらもうこの町にはもういないかもしれませんが……確かにその方が変装されているレティシアさんのお兄さんならば、きっと私もすぐに見かけたらわかる筈ですから。私も気にして見てみます」

 シーシェルはそう言ったが、レティシアは少し肩を落とした。

 ため息を吐いたのをリュシファーがやれやれとため息を吐いた。

「あぁ、頼む。まぁちょっと明日、用があって出なくてはならないので今夜はすまないが、もう休ませて貰うことにしよう」


「あ、はいっ寝室はこちらです。どうぞごゆっくり」

「――ありがとう」

 シーシェルに礼を言ってレティシアは寝室の窓から外を眺めた。

 リュシファーが後ろからレティシアの肩を、ぽんぽんと優しく叩いた。

「……リュシファー……」

「そんな寂しそうな顔するな…すぐに見つかるさ……」

「――早く休め。私は今日結構寝ていたからな。もう少しここで外を眺めてから寝る」

「そうか……じゃ、お先に……」

 リュシファーが寝静まってから、レティシアは窓の外に風に乗って出た。

 シーシェルの屋敷の屋根に上り、一人考えていた。


 ミグ……早く会いたいな…なんか急に寂しくて――。

 離れている時間が長いせいかな――どこにいるんだろう。

 ルクチェもミュイエも元気かな……。

 もし、この町でリュシファーがいなかったら、誰も私を知っている人はいない。

 今は一人じゃないのに、やっぱりミグがいないと何かおかしな感じがする。

 双子ってそういうものなのかなぁ……そういえばミグは私が泣いている様な気がしたとか、何かあった気がしたとか言って不思議にも気付いて声かけてくれていたなぁ。

 今ミグは私が寂しいのを、どこかで気付いているのかなぁ。あはは……私なんだか今日おかしいや。

 もう寝よう……。

 はぁ、とレティシアはため息を吐いて最後に呟いた。

「――おやすみ、ミグ……」


 ――夜空には星は雲って見えなかったが、

 雲に隠れた月明かりだけはぼんやりと辺りを照らしていた。


つづく。

★やっとアップしました。

ネット調子悪いみたいで、とりあえずアップしましたが、

再会が近そうな感じですが、これからどうなるのかお楽しみを。相変わらず誤字とか修正必要箇所が多くてすみません。

読み直して気付いた所は直しております(汗)

ではでは。りんごでした。また次回。

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