【第四章】†ep.7 芽††
校正してないのですが見つけ次第修正します。UPします。
精霊の女神レティシアたちの声が聞こえていたが、レティシアが前にかざしていた発動の合図により、目標の魔の者の足元に描かれた赤字の魔法陣からは、既に物凄い巨大な火柱が湧き上がっていた。
更に魔法陣から、赤く燃える炎の色の光の玉が多数出現し、それは魔の者の方へと集まっていき、ちょっとした爆発を巻き起こす。自分でも唖然とする程、巨大な魔力だった。
「――くッ……! おのれ、何者だッッ!!」
魔の者の身を纏った炎はまだ続いているというのに、その目はきっとレティシアを睨みつけ、全く動じてはいない様子である。
「!?」
えッ、き――効いていない……!?
嘘――……!?
レティシアは驚愕していた。
魔の者がレティシアに向いた隙に、レティシアにお辞儀をした町の母親が小さい子供を抱えて、走り去って行く。
炎は目眩ましをしただけかの様に、魔の者とレティシアが睨みっている間に消滅していった。
完全に収まってから、魔の者は口元を吊り上げた。
「――しかし、この私に炎とは……お嬢ちゃんは馬鹿か……?」
なっ…ッッ。
「馬鹿とは何だッッ、それにお嬢ちゃんじゃないッッ!!」
思わず口にする言葉に、魔の者はふっと微笑んだ。
「――はぁ、わかっていない様だから教えてやろう……。我は雷鳴を愛でて操り、人々の泣き叫ぶ悲痛な旋律を聴く――我が名は、大魔神ザロクサスの配下――殺戮の四天王。雷鳴のセルローズだ。稲妻に炎を放っても無駄だ――。効かぬ……」
セルローズという魔の者はやれやれと呆れた様に、両方の手の平を空へ向けて呆れたように微笑んだ。
“――だから言ったのですが、遅かったですね…。”
くっ………。
何たる余裕な感じ。気に入らない――。
「セルローズだかなんだか知らないが、何をしに来たッッ」
レティシアはそう言ってセルローズを鋭く睨みつけていた。
「あぁら、何々? 可愛いこと。この私に楯突こうって言うの? 小娘が生意気な……。でも私はその目、好きよ――……だってこれから、絶望に打ち拉がれて、助けを求める懇願の目に変わるのだものッッ…!!」
そう言ってセルローズは、レティシアに向けて手をかざした。
「!?」
――レティシア、何してるのです。早く避けるのです…!
はっとしてレティシアは慌てて避けて移動した。
先程いた場所に物凄い稲妻が雷鳴とともに空に落ちる。
「――さぁ、逃げ惑うがいいッッ!」
セルローズのその声とともに天へとかざす手。そして数々の雷鳴と、乱射される稲妻――。
な、何ッッ!?
レティシアは天から乱射される稲妻を寸時の所で避けた。続くその動作を何度行ったかわからない。
しかも、避けるのだけで、精一杯だ――。
くッ……このッ……っっ。と睨みつけた時だった。
稲妻がレティシアの身体に触れ、全身を駆け巡る激しい痺れと熱さにレティシアは悲鳴をあげる。
「――あああぁぁぁぁッッ……!!」
この感じ、味わったこと……ある――! 妖雪の……森だ…………。
レティシアは稲妻の電流に、気を失いかけていたがここでやられる訳にはいかないと、必死に気を強く持つが、既にふらふらと下へと下降していきそうになる。
駄目……ッッ、体が……痛くて死にそう……ッ!
身体は少しずつ痺れを和らげていくが、下降しないよう気を張っているだけで、精神的にも身体的にも精一杯だ。そしてぼやけ始めた視界に見える黒い影。
……セルローズだとレティシアは思った。しかし、逃げる力を残していない――。
くッ……死ぬのか……私――……
あざ笑う様に微笑む声がする……。
「……ちょろちょろとこしゃくな小娘だったが、やっと当たった……。まぁここまで逃げ続けたのは褒めてやろうか。だが口ほどにもないな――。でも、そういえばお前がさっき使った炎――人間にしては威力が大きかったわね……」
そう言っている最中に大地の大精霊ウレハは言った。
『ラクロエ様ッッお気をしっかりと――。なんとかして風の力を最大限にお集めください! 風に弱いのですッッ』
わかった…!
はっとしてレティシアは風の気を一気に全身に集めた。
そして解放する風の魔力――。はっきりした視界に入る足元に現れる金色の魔法陣。
眩い金の光は線となり天へ舞い上がり、目の前には金色の光を纏う女性がスッと現れた。
髪の毛で隠されてはいるが、裸体である。
「な、何ッ!?」
セルローズが身を怯ませてレティシアからばっと後退する。
――行けっッッ……!! お願い………ッ!
なんとか突き出した人差し指の命に従う様に、その女性はレティシアに手で投げキッスをしてスッと消える。次に、後退するセルローズの周りに現れる金色の光を纏う風の渦――。
「――何だとッッ……!?」
避けようとするセルローズを風の渦は激しく飲み込んだ。
その目前に、金の髪の女性はスッと出現する。そして、風の渦で動きを止められたセルローズに向かい、その女性が投げキッスを送った瞬間だった――。
先程の風の渦だけでも激しかったというのにすごい轟音を響かせながら、さらに大きく竜巻の様に凄い速さで激しくセルローズを覆う――。瞬時にして真空の刃で身を切り裂く様に、激しい渦の中で血しぶきが飛び、悲鳴も聞こえている。
投げキッスというよりセルローズには『死のキッス』といったところだろう。
人々がおおっと歓声をあげている。その時だった――。
「――レティッッッ!!」
その声の方へ振り返ると、リュシファーの姿が見えた。
リュシファーは急いでこっちに飛んで来ていたかと思うと、何故かレティシアを思い切り突き飛ばした。
「ぅ、わぁッッ…!!」
吹っ飛ぶ間で見える風の渦から突き出された手――。
手から巻き起こる激しい稲妻がリュシファーの姿を覆っている――。
「!!」
――ゆっくりとそれはレティシアの視界を遠ざかり、何とか勢いに逆らおうと身をひるがえした時、稲妻がおさまり両手を額の前で交差させてそれを防いでいたリュシファーの姿が目に止まった――。
「リュ、リュシファー!!」
急いで駆け寄るレティシアに、息を切らしながら意識が遠ざかりそうなリュシファーは微笑んだ。
「――あ…ぶない……だろっ……馬――鹿…ッ」
レティシアは泣きそうになりながらリュシファーに頷いた。
次の瞬間、息を切らすセルローズの声がする。
「――く、はぁ…はぁ…ッおのれ……ただの小娘だと思っていたら、無事だっただけでなく風の法術をあそこまで扱うとはッッ。んッ…? そうか――…ふっ、まぁ良いだろう――面白い。今日の所は退き下がってやろう…っ…」
そう言って後ろを向いたセルローズにレティシアは言った。
「くっ待てッ! 逃げるのかッ!?」
ぴたっと立ち止まってセルローズは瀕死の致命傷を負っているというのに残忍な笑みを浮かべた。
そして手を上にかざすと紫色の魔法陣を宙に張った。
姿を消えさせながら答えた。
「――安心しろ。ここではなくお前に用があった様だ……逃げても必ずや探し出してお前を消しに来よう……次会う時がお前の最期だ――。ふっ、あっはははははっ……!」
高々に笑い声だけがそこに残され、魔法陣から放たれた直線状の光によってセルローズは消えた――。
肩に手が添えられはっとして振り返ると、リュシファーがもたれ掛かって来て、レティシアは慌てて支えて名前を呼ぶが、リュシファーは既に気絶していた。
セルディオと何人かの者が宙に飛び上がってきて、リュシファーを連れて自宅へと運んだ。
深刻そうな面持ちで様子を見るセルディオと街の者の様子に、心配でレティシアは言った。
「リュ、リュシファーは、無事……だよなぁッッ? 無事なんだよな? し、死んじゃ嫌だぁッッそんなこと許さぬッッ」
と泣いているレティシアをアリシアが優しく抱きしめて頭を撫でる。
「大丈夫よ、レティシア王女様……リュシファ―はそんな柔な子じゃないわ。それより、あなたも休まなくては……傷は治したけど、体を休めなくては……」
そう言いながらもアリシアも心配そうな面持ちをしていた。
「――庇うために飛び込んだのでダメージが大きかった様だ……。でも心配はいらない。直で受け少し気絶しただけだから、大丈夫大丈夫」
セルディオは人差し指を立てて微笑んだ。
安堵してリュシファーの側へと向かい、セルディオが譲った席に座る。
「レティシア様、座ってなどおらずに、お休みになられないと――」
そう声をかけるアリシアの言葉は聞こえていない様で、レティシアは俯いて膝にかかるスカートを ぎゅっと握りしめて呟いていた。
「――リュシファー、ごめん……」
そんなリュシファーを黙って見つめるレティシアを、今はそっとしておこうと誰もが思って部屋を出て行った。
―――…
――
私が……しっかりしていれば、リュシファーはこんなことにならなかった。
魔の者――大魔神ザロクサスの配下……。四天王……稲妻を司るセルローズ以外にも、あと3人いるということか――。
炎、水、風、大地……。
このどれかだろう。聖は魔物は使わないはず…。
あんなに強大な力を持つ者がいるなんて……。大魔神ザロクサスは更にそれを上回るのだろう――。駄目だ、今のままじゃやられる……。
『――ラクロエ様…。少しずつ見守れば良いと思っていましたが、迂闊でした――。まさかもう四天王が動き始めるとは……』
…ウレハ……。で、一体何なんだ四天王って。知っているのか?
『――大魔神直属の右腕と呼ばれる配下の者達。魔族です――。おそらくまだあなたが力を目覚め切らせていない芽の内に摘み取ろうと派遣されたのでしょう。ラクロエ様…一刻も早く大精霊達のもとへ』
――レティシア、気をおとさないでくださいね。今のあなたでは、残念ながら葉が立たないでしょう…。ですが、よくやりました――。私の想像以上の風の法術を使いましたよ。
『風の大精霊セイレシルはあなたとともにあったのですよ。セイレシルはとても穏やかで何も言葉を発しないが、常に貴方を穏やかな優しい風で見守って来ました。あなたを守り、この時が来るのをずっと待っていたのです。――先程、ご覧になったでしょう? セイレシルの姿を――』
…えっ…じゃああの金の髪の女の人が風の大精霊…!?
――えぇ、そうです。あなたが魔法をあまり使わない内から風の法術だけは使えていた様ですが、セイレシルのおかげでしょう…。
『残るは水と炎と雷――聖…この4つの守護を得れば、あなたは気付くだろう。その身に覚える更なる力に――今はそれしか言えません。ラクロエ様、お気を落とさず――前に進みましょう……』
――……レティ、今日はゆっくりおやすみください…私達はこれで。
……………。
魔族――…
大精霊の守護――…
それはあと4つ――…
更なる力……。
前に進まなければ、時々迫り来る恐怖心に押しつぶされそうだ……。
それに怖れている暇など――ない…。
セルローズの様な魔の者の手が、進軍を始めている――――…
私を消した後は、おそらく―――…
―――…
――…
はっと気がついた時――。
私はベッドに寝ていた。
天井が低い……そう思った。ここは城でもない。夢でもない。現実の世界のリュシファーの部屋のベッドの上だった。
ぼんやりと目を覚ましていたが、リュシファーの事が頭に浮かび、慌てて飛び起きてリュシファーの寝ているサーシャの部屋へと向かうと、リュシファーの姿はなかった。
「!?」
急いで階段を駆け降りて私は階段から落ちそうになり声をあげた。
「あっ、わぁぁッッ…!」
咄嗟に目をきつく閉じた。
しかし、私は体を打ち付けられずに誰かに受け止められた。
「――おっと、危ないなぁ相変わらず。…朝から騒々しい。お前、本当に怪我するぞ…」
見上げた先にあるリュシファーの呆れた様な表情――。
私はリュシファーの顔を見た瞬間涙が溢れていた。
リュシファーに抱きついて泣いた。
「お、おいおい。なんだっていうんだ。怪我していないだろう」
そう言ってリュシファーが私を降ろしても、抱きついたままで泣きながら言った。
「死んじゃうかと思ったっ、馬鹿ぁぁぁ」
その様子に、セルディオとアリシアが口を開いた。
「あら、レティシア王女はすっごく心配していたのよ? あっけらかーんとどうしたじゃないでしょーが……ねぇあなた」
「そうだぞ…少し、羨ましいが」
その言葉にやはり間の抜けた空気が吹き抜けていく。
泣いていた私でさえぴたっと涙が止まっていた。
セルディオは、睨みつけてくるアリシアに、はははと微笑んで誤魔化すと、レティシアの頭を撫でた。
「まぁ、隠すつもりだったんだろうが、いやぁまさかお前も人間の女の子に恋をするとは、思っても見なかったなぁ…」
ぎくっ……と、リュシファーとレティシアは顔を引きつらせていた。
「……お、お父上、なんでわかったんだ?」
それを慌ててレティシアの口を手で押さえたリュシファーは言った。
「ばっ、馬鹿ッ。これは親父の戦法だっ――」
にこにこと微笑んだセルディオの様子に、リュシファ―がレティシアに注意するのを失念していたことを後悔して溜め息を吐いた――。
「――ほぉ……、やはりそうか……一足遅かったな、リュシファー。ははは……別に隠す事はあるまい。悪いことじゃあるまい。レティシアの心配ぶりをみて、ただの教育係を心配するような様子ではなかったのでな。あーなるほど、と思ったまでだ……」
「えぇ、私は初めからそうじゃないかなと思っていたけど?」
ソファーに座らされた二人にセルディオは、にこにこと微笑みながら話を聞いていた。
「――立場が怖くて恋心を消せる物だとは思わないがなぁ…。かけおちでもなんでもすればいい。といっても今回は勝手が違うな。……まぁ……なんとかなる――。全てが終わったらここに寄る様にな……大事な話をしてやろう」
「大事な話ぃ? 今じゃ駄目なのか?」
「――今は駄目だ。こっちも色々と段階っていう物があるからなぁ」
「はぁ? まぁいいけど、とにかくそういうわけでコイツについているという訳だけど、危なっかしくて見ていられなくてなぁ…常にノープランだし、先が思いやられるからなぁ…」
「なッ何だそのノープランとか先が思いやられるとかっ。私だってちゃんと考えているのだっ」
レティシアは何となくカチンと来てリュシファーに言ったが、やれやれとため息を吐いて言った。
「はいはい…悪かった悪かった。まぁ、とにかくだ。そんなわけで杖も回復して来て貰ったみたいだし、ひとまず安心だ。この大陸にあるフィナーテルの街付近にある“雷迷の遺跡”に向かおうと思う。そこにある“天罰の石”――それに雷の大精霊が眠っているだろうから…」
リュシファーはやはり地理も知らないレティシアと違い、さくっとプランを立てていた様だ。
セルディオとアリシアが少し深刻な面持ちで言った。
「そういえば、そのセルローズとか言う銀の髪の魔族が探していたのはレティシア王女だと言ったと街の者が言っていた。気をつけるんだぞ…。何かあったら死ぬ覚悟で守ってやれ…」
「――で、お前は何か考えていたわけ?」
少しの間の後でレティシアは言った。
「い…いいから、行くぞっ。リュシファーの父上殿母上殿、世話になった――感謝する」
レティシアは歩みを進めて外へと出て、家の外で赤い屋根のリュシファーの家を、リュシファーが来るまで私は眺めていた。
次にこの家を見る時は、
芽を摘み取ろうとする追っ手を倒し、
――全てが終わった時だ――と、
私はそう思ったのだった――。
第四章終わり第五章へつづく。
ついに4章がおわりました。
魔の者…不穏な気配ですね…。
相変わらずリュシファーの父は何を考えているのか。間の抜けた不思議な方です。
でゎでゎ次回は第五章でお会いしましょう。
頑張って描いてますっ。読んでくれてありがとうございます。
お楽しみに。