【第四章】†ep.6 現れしもの†
誤字あったりしたらすみません。
声がする――。
深刻に話をする二人の男女――。
両方とも知っている声だ。
精霊の女神レティシアと、土の大精霊ウレハ――。
そう、精霊の守護を受けたレティシアの中にはウレハがその魂を宿していたのだった。
――ところで、ラクロエ様。
貴方様の心に住まい、わかったことですが気がかりな事があるようですね。
“――あ、駄目です。ウレハ……それを言ってはなりません。”
――い、いやしかし……、素直じゃないのもよろしいと思いますが……男として言わせて貰えばはっきりして頂かないと煮えたぎらないというか何というか……。
好きなら好きと何故言わないのです。
「なっ……!? ちょ、ちょっとぉっお前らうるさいぞ。別に私は何ともっっ」
――隠されてももうこのウレハ、ラクロエ様の気持ちは手に取るようにわかってしまうのです。
“――ウ、ウレハッ……レティはまだ子供なので戸惑っているだけ。私も温かい目で見守っているのですから。”
そう精霊の女神レティシアが言った瞬間ウレハは黙り心に静寂が訪れた。
しかし、とても気分が悪い――。そして、すごく腹が立つ。
人の心に勝手に住まい、自分でもよくわからない気持ちをベラベラとはっきり話せるほど、この二人はレティシアの感情を知ることが出来る様だ。おまけに子供と言った……悔しい。
しばらく精霊の女神レティシアが大人しくなったと思っていたら、大地の大精霊ウレハという新入居者が増えたこの状況を、レティシアはこれを厄介事と言わずに何というと思った。
レティシアはため息を吐いて、大地の精霊樹の中を歩きコテージまで歩みを進める。
精霊の女神レティシアは、それぞれの精霊の石を集めろとは言っていたが、石を集めろではなくその大精霊の魂の守護を集めろという意味だった様で、石に眠った魂がレティシアに守護を与えたこの新緑の洞窟の大地の眠り石には、もう何も用はないのだという。
「――あッッ!! いた! レティ!! どこへ行っていたんだッッ、心配したんだぞッ!」
リュシファーとリーフが走ってきた。
怒鳴りつけられ、レティシアはそっぽを向いてリュシファーの顔を見ずに言った。
「――関係ないだろ……」
そう言った次の瞬間だった。
リュシファーがガッと肩を掴み、レティシアをすぐ後ろの木にドンッと強く打ち付けた。
「っ痛ッッ……な、何をする!!」
「いつまで拗ねてるんだッ、子供じゃあるまいし。心配してリーフも俺も探し回ったんだぞッ――」
ふとリュシファーの服を見ると、森を探し回ったらしく土ぼこりで手も服も汚れていた。
レティシアはそれにはっと気付いたが、睨みつけると言った。
「そ、そんな言い方しなくてもいいだろっ! それに拗ねてる訳じゃないッ。大体ッ、人の気も知らないのはどっちだっ」
そう言ってレティシアは稲妻の力で弱い静電気の様な稲妻をピシッと発生させたかと思うと、怯んだリュシファーの手を抜けてコテージの寝室へと走った。
「こ、こらっ! 待てッ……、ったく。しっかり力抑えて――って違うっ……唐突過ぎて思わず手離してしまったじゃないか――あの馬鹿姫……ッ」
怒りを露にするリュシファーは、コテージへと真っ直ぐに向かう。
リーフは気まずそうに様子を見ていたが、リュシファーがコテージの中へ消えてからくすっと微笑んだ。
「――喧嘩する程仲がいいってヤツかなぁ~……これは僕の入る隙はないみたいですね。残念ですが……ふふっ」
そうため息混じりに呟くリーフの顔は少し嬉しそうであった。
一方コテージの鍵のかけられない部屋の中では――。
レティシアは布団を被り、叫ぶように言った。
「うるさいッ、黙れッ。お前と話したくなどないッッ」
そのレティシアのいるベッドの布団をリュシファーがガバっとめくる。
「あっ…………!」
布団はリュシファーの座布団へと用途を変えた。
きっと睨みつけレティシアはむしゃくしゃして枕を投げるが、リュシファーは近距離だというのに軽々と避けた。
「――ムッ……やるな……ってそうじゃなくて、布団返せッ」
と、レティシアはベッドから降りてリュシファーの座っている布団を引っ張るが、ため息を吐いたリュシファーは冷めた目でレティシアの腕を掴んでぐっとそのまま引いた。
レティシアは倒れこむ瞬間に睨みつけて見た勝ち誇った様子のリュシファーの微笑のあとで、布団の上に倒れていった。
「念願の布団の上だ……満足したか」
その言葉に下からきっとリュシファーを睨みつけたレティシアは、起き上がるのも面倒くさくなりそのままうつ伏せたままで静かに言った。
「――お前、いい加減にしないと……怒るぞ。本気で」
とレティシアは言った。
リュシファーがため息を吐く。
「いい加減にして欲しいのはこっちだ……まともに話を聞けないのか」
「話などしたくない。人の気も知らないで……」
「――レティ……。悪かった……謝る。お前が木の枝ぶちまけて走って去った後、反省したさ……心配してくれたのに、俺はなんて馬鹿なことをしたと――。すぐ許してもらおうとも思ってないが、その事は本当に悪かった」
レティシアはうつ伏せた顔をリュシファーに向けた。
どうやら反省している様でその表情には申し訳なさが浮かんでいる。
レティシアはため息を吐いて、珍しく許してやる気になったので許すと言った。
「ただし、今日一日様子がおかしかった理由を話せ。そしたら許してやる」
リュシファーは驚愕の表情を浮かべて、焦っている様子なのでレティシアは起き上がって腕組みして冷めた目で見た。
「――い、いや……それはマズイ……」
リュシファーが拒むので少し怪訝そうな顔を浮かべて再度聞くと、やはり答えられない様だ。
「あーもう、やっぱりお前手間がかかって面倒くさいと思ってただけなんだろう。言わなくてもよーくわかった……」
「いや、だから……そうじゃないんだっ……自分で言い出しておいて何言ってるんだと思うだろうし、さすがにこれは口が裂けても言うべきじゃないから、言えないんだ…わかってくれっ」
「……ん? はぁ……もういい……疲れた。はっきりしないし……苛々するからお前今日ここで寝ればいい。私はお前の部屋で寝る」
そう言って立ち上がりドアの前へと歩みを進めたが、やはり気になって言った。
「あーやっぱり気になるっ。何で言えないんだッ。どうせ大したことじゃないだろう。言わないならもう知らぬッ。一生許さないっ。これでも言わないのかっ!?」
「――だッ、だからッお前が好きでどうしようもないなんて言えるわけないだろうッ……!」
「!!」
怒鳴ったリュシファーの声はレティシアの頭にこだまするように響いていた。
驚愕のあまりレティシアはへたっと座り込み、唖然として動けなかった。
リュシファーははっとして口を押さえている。しかし、少しして俯いた。ため息も吐いた。そして困った様にも微笑んでゆっくりと歩いてきて、目の前にしゃがみ込んで静かに言った。
「ほんと……お前には調子を狂わされる……。――ついでだ。お前にも聞こう――」
レティシアはリュシファーの切なそうな目から視線を逸らそうしても逸らせなかった。
目を閉じて顔を近づけて来るリュシファーの行動は、想像が出来ていたのかもしれない。
ちっとも私の心は拒絶の意志を持っていなかった――。
もし嫌な相手なら拒む。そうじゃないなら受け入れる――……。
よくわかっていなかった。その感情自体、誰かに抱いたこともない。
ただその時私は拒ませずに、そっと目を閉じていただけだった――。
リュシファーの唇が離れ、すぐ目の前でリュシファーは照れた様に微笑んだ。
「それが答えと受け取っていいのか……?」
少しの間の後、こくっと頷いた時に見たリュシファーの微笑みは、多分今までに見た事がないものだった。そしてやれやれとため息を吐いてリュシファーは私を自分の胸に抱き寄せた。互いに顔を見ずに少しずつ言葉を紡ぐ。リュシファーの話す声は優しかった。
その時何故かはわからないけど、妙にほっとしていたと思う。ずっとここのところ苛々としていたのに、何も苛々しない――。情緒不安定だったのかな――。
リュシファーは、この感情は抱いてはいけない、勘違いだ――と思おうとしていたと言っていた。私もそうなのかもしれない――と思った。
こうお互いの気持ちを知ったというのは確かだったが、何も変わらない気がした。
でも、この時から何かが少し変わっていくのだと思う――。
色々と話をした後、気がつけば眠くてベッドまで行けず二人とも床で布団をかけて眠っていたのだった――。
そして――。
「おっはよぉーございまーす。レティシ――」
リーフがドアを開けて目の前の二人に目をとめる。
「んぁ? リーフ、もう朝~?」
レティシアのその声にリュシファーも目を開ける。
二人して起き上がり、リーフのその表情が何を意味するかがわかりはっとした。
二人は離れ、お互いに弁解する様にリーフに詰め寄る。
リーフは呆れた様に息を吐いた。
「はいはい。何を弁解なさっているのかわかりませんが、二人が仲が良いのはわかっていましたから、別に驚きませんよ。――いつも喧嘩してるみたいですけど、何だかんだでお二人はとても馬が合ってると思うしね。まぁ……少し、悔しいですけどねぇ。元婚約者としては」
リーフは複雑そうな表情で微笑んだ。
「あ、いや別にそんなんじゃ。えと、だからちょっと話をしていたら眠くなって寝ただけだ」
「そ、そうそう。きょ、教育係と姫がそんなことあるわけないだろう。ははは」
リーフはじっと冷めた目で二人を交互に見る。
気まずそうにぎこちない笑顔を作る二人を見て、ため息を吐いた。
「――じゃ、そういうことにしておいてあげます。行きましょう」
そういうリーフの表情は穏やかに微笑んでいた。
おそらく気付いてしまったのだろう。でも、何だか嬉しそうにドアの外へと出て行った。
「……あれ、絶対バレたよ…お前がぎこちない表情するから」
「いや、俺は冷静に対処した……つもり」
「ノイエル様といいリーフといい、ダムルニクス王国って少し怖いな。なんというか何を考えているかよくわからない」
「ま……“穏やかな面持ちに隠れた微笑”といったところだろうな」
リュシファーが言った一言に、レティシアはそれだと思った。
そういうわけで――。
大地の精霊樹の穴に入る必要のない三人は、ダムルニクス王国大広間へと足を運んでいた。
「――それはそうと、なんだかレティシア王女もリュシファー殿も眠そうですね……大丈夫ですか? そんな体で発つなんて……少し休んで行かれては……?」
ノイエルは目を閉じかけているレティシアと、少し疲労の色が垣間見えるリュシファーに心配そうな面持ちを向けた。
「いや、えと、先を少し急がねばならないのでなんとかなると思う。ミグたちを探さなければならないし……」
「そうですか……しかし今サユラナの街の船は休航している様ですよ。今航海に出てもまた原因不明の嵐に見舞われる怖れがあるとのことで、皆困っているそうです。どちらへ向かわれるのですか?」
リュシファーが一歩前に歩み出る。
「転移の杖でとりあえず移動致します」
「転移の杖――? 何それ」
レティシアが始めて聞いたと怪訝そうな表情をリュシファーに向けた。
それに苦笑してリュシファーは異次元空間から杖を出した。
「この杖は、行った事のある街ならば全て移動できます。二つ大陸を移動するたびに修理しなければなりませんが、私の故郷エルフィードにある不思議な杖なので多分初めてご覧になったと思います」
「なんと……そんな物が――。で、どちらに」
「まずは一度遠くの大陸ですが、ミスレイル大陸へ向かわなければなりません。一度、この杖は使用しておりますので回復も兼ねてエルフィードへ向かおうかと――」
「ほぉなるほど……って、えっ聞いてないぞ……? リュシファー」
「あぁ、でも姫様は――ノープランですよね?」
リュシファーが困った様に微笑んでいる。
ぎこちなく微笑みを浮かべるレティシアを見て、ノイエルがくすっと笑った。
「レティシア王女、この者には頭が上がりませんね。ふふっ」
「あ……はは……」
あぁ、ノイエル様も痛いところを…。
「とにかく、まぁそういうわけでさっそく向かおうかと思うので、ここで移動してしまってもよろしいでしょうか?」
な……なぬっ!? も、もうっ!?
「――えぇ、構いませんよ。では、お気をつけて。いつでも遊びに寄ってくださいね」
「ありがとうございます。では、リーフ王子もお元気で――」
「はい。レティシア王女の事、よろしくお願いします」
リュシファーは軽く頷いて杖を掲げる。
「――失礼致します……」
ちょ、ちょっと待って……!
「リッリーフッ、私なっ―――」
最後まで言い切れぬまま、シュッと風の様な物が目の前に広がり、私は気がつけば森にいた。
風の波動が二人の周りを水面に水紋が広がる様に吹き抜けていた。
「あ……あ~あ、消えるの早くて最後まで言えなかったぁ」
「わ、悪いな……。でも、何を言おうとしていたんだ?」
リュシファーがへたっと座り込んだレティシアに言った。
「――色々ありがとうって……小さい時、ダムルニクス王国に遊びに連れて来られて、でも見慣れない私と誰も遊んでくれなくてひとりぼっちだった私に、リーフが声かけてくれたんだ。『何してるの?』って。絵本読んでくれて、歌も歌ってくれて。ずっと忘れてたんだけど、思いだしたよとも――言いたかったなぁ……」
レティシアは少し哀しそうに俯いて言った。
「――また、会えるさ……その時言えばいい。無事にやることやったら寄ればいいさ」
リュシファーが詫びてからそう言った。
私は黙って頷いた。
エルフィードの街と言っていた割に辺りは深い森。
森ばっかりで嫌になるなぁと思いながらリュシファーに着いて行く。
すると、奥に街の様な景色が広がっている。
「あ、あれ? エルフィードって。なんか来ると思ってなかったからわくわくするなぁ~」
「はは、別にここは人間は来ないだろうから、姿戻して大丈夫だぞ。俺も戻す」
そう言ってリュシファーは金の髪と瞳から元の姿へと戻したので、レティシアもそうした。
エルフィードの街並みは、森にあるとは思えない程大きくたくさんのエルフがいた。
皆若いということが不思議でならない。同じ歳くらいなのに、中にはオッサンやオバサンもいるということなのだから、イマイチよく理解に苦しむ。
「おっ、リュシファーじゃないかっ! 久しぶりだなぁ~。あれ? 後ろの人間の子、誰?」
「あぁ、久しぶりだな。コイツはまぁ人間だけど少し特殊かなぁ、ちょっとわけあってここに立ち寄ったんだ」
「おばば様が言ってたのはまさか…。あ、いや何でもない。それより、この子すごい可愛いけどひょっとしてお前の――?」
「――ん……?」
レティシアが首を傾げると、赤く燃えるような髪のエルフはレティシアの顔を覗きこんだ。
「ごめん、先をちょっと急ぐんだ。後で時間があれば――」
リュシファーは苦笑してレティシアの手を引くと、誤魔化して先を急いだ様だった。
「はぁ……あいつには気をつけろ。いいヤツなんだけど女に軽いヤツだからな。狙った獲物は
100%落とす――がポリシーだからなぁ。ま、とにかくこっち」
レティシアは首を傾げながらも、そうなのかと納得しておいた。
そして、一軒の赤い屋根の民家の前に立つと、息を吐いてレティシアの手を引いた。
ドアをノックする音。少しして開けた紫の瞳と銀の髪の若い女性。そして女性は顔を輝かせてリュシファーに抱きついた。
「きゃー帰って来たのねぇ。突然どうしたのぉ?」
レティシアは怪訝そうな顔を浮かべていた。
少しムッともしていたかもしれない。
「あぁ、ちょっと事情があってな――母さん」
「母さん……?? え、え、え…えええぇぇッッ!?」
レティシアはリュシファーの母親を下から上まで見た。
「だ、だから言っただろう? こっちでは少し勝手が違うと。その…エルフと交わると人間でさえ少しその影響を受けるとは言ってなかったが……まぁ、そういうことだ」
「あらぁ、かわいい子ねぇ……。でも人間の女の子なんて久しぶりに見たわぁ。私この子の母親よ、さっ入って」
そう言うと、妙に母親らしくないこのリュシファーの母親はにこにこしながら二人を通した。
小声でリュシファーが言った。
「すまんな…少し疲れるかもしれんが我慢してやってくれ」
レティシアは少し可笑しくなってきてくすっと笑った。
二人にお茶を淹れにリュシファーの母親がソファーからいなくなり、レティシアは言った。
「宿屋の部屋よりは広いな」
「……はぁ、城と一緒にするなって。ここじゃ悪くない方だ」
とかリュシファーと話していると、コンコンと玄関のドアがノックされる。
「あ、親父かな――俺出る」
「お願~い」
と親子の会話をレティシアは聞いていると、リュシファーとそっくりだが髪が肩くらいまでのリュシファーと同じ歳くらいの若い男が一緒に居間に来た。
レティシアを見るなり、リュシファーの父親と若者はにっこりと微笑んだ。
「おや、お前がまさか人間のお嬢さんを連れてくるとは意外だな」
と父親はからかうようにリュシファーに言った。
「リュシファーの父のセルディオだ。よろしく頼む」
「えっ? ぁあぁっ、えとっ、エンブレミア王国国王の娘レティシ――」
とそこまでつい自己紹介を返していると、リュシファーが駆け寄ってきて手で口を押さえた。
「こらっ……馬鹿ッッ……!」
「ご……ごめん。つい――」
ちらっと振り返るとリュシファーの母親が持っていたお茶の乗ったトレイをコト…と台所のテーブルに置き驚愕の表情、セルディオは額に手を当て何やら頭を悩ませるような険しい表情だ。その沈黙の中、誰も何も言えずに緊迫した時間が流れていた。
セルディオはため息を吐いてレティシア達の目の前に座った。
そして、目を細めてじっと睨む様にレティシアに視線を向けると、次にリュシファーの方へと厳しそうな面持ちを向ける。
一体、何を考えているんだ……。
「リュシファー――」
そうセルディオが口にした時、緊迫した雰囲気は一気に高まった。
レティシアはごくっと息を呑んだ。そしてついにセルディオが額に当てた手を下ろした。
「――随分とかわいい女の子だな……」
ずるっとレティシアは妄想の中でこけた。
ち、違うだろうッ。リュシファーの父上ッ、言うべきところはそこじゃないと思うんだが…。
「い、いや……親父、それは俺もそうだと思うけど……、ってそうじゃない。気になるところはそこじゃないと……」
リュシファーが代弁して聞いてくれたので少しほっとした。
父セルディオは、ふっと微笑んでソファーに座った。
「そりゃま、一国の王女が何故お前とこんなところにとは思ってはいるが、何やら訳ありという感じだ。とくに聞かない方が良いのかと思ってな――」
「!」
似てる――……
そう思った。リュシファーも同じ時そうやって何も聞かずにいてくれる。
この父にしてこの子あり――とレティシアは感心していた。
「で、えと自己紹介が途中だったが、名はレティシ――なんだったかな?」
にこにこと笑顔でレティシアに聞いて来たセルディオにレティシアは、ふっと微笑んで言った。
「――えと、名はレティシアで、リュシファーにはいつも世話になっている。礼を言おう」
リュシファーが唖然としてレティシアを見ている。
レティシアはふふっとリュシファーに微笑を向けて言った。
「何ぼーっとしている? 座ったらどうだ? お前も」
「え、あ……あぁ」
そう戸惑いながらレティシアの隣に座ったリュシファーの向かいに、母親も座った。
母親はアリシアと名を名乗った。この目の前にいる二人が、あのかけおちをしてこの街に来たのだなとレティシアは思い返していた。
「で、何をしにここまで?」
「あ……あ、転移の杖を回復しに来たんだ。でもってついでに寝かせてもらおうと思って。昨日寝てなくてな」
リュシファーが困った様に微笑んだ。
セルディオは呆れた様に微笑むと言った。
「構わん。ただし、もうひとつだけ聞こう――」
おっと、何だかノイエル様の様にやはり掴み所がないぞ…。何か裏があるぞ、父上殿は…。
そう思った時、リュシファーが聞き返し、セルディオは唐突にこう言った。
「――で、お前らは付き合っているのか?」
リュシファーは苦笑を浮かべて否定した。
「――そうか、ならばお前はサーシャの部屋で寝るといい。レティシア王女はお前のベッドに寝かせてやれ」
「な……なんだ……。ははは、そんなことか…」
リュシファーがぼそっと呟いた。
「なんだそんなことかじゃない。一緒に寝るわけにはいかんだろう? 王女様なんだから」
「あ、いや何でもない何でもない。とにかく、じゃあ上に上がらせてもらう。行こう、レティ」
「うん。で、では…また後で」
「はい、おやすみ――」
そう言って二階にあるリュシファーが使っていた部屋に向かうと、そこには本の山というかめちゃくちゃ難しい本がたくさん本棚から溢れて山ほどあり、リュシファーらしいとレティシアは苦笑を浮かべた。
とりあえずベッドに横になるよう言われたので、レティシアはひとまず横になった。
「――リュシファーの父上は少し変わっているのだなぁ。なんというか掴みどころがないというか」
「ははは、まぁいつものことだ。それより、一応隠してはおいたが…気を悪くしたらすまないな」
「あ、いや別に気にしていないぞ。あまり公言は出来ないからな……はは」
そう言ってリュシファーはレティシアの額に唇を触れると、おやすみと言って去って行った。
部屋にいてベッドから部屋を見渡して思った。なんだか変な感じだ。
リュシファーの匂いがする布団。リュシファーが住んでいた部屋。リュシファーの家族。どれも城にいたら見る事はなかった物たちだ。
ミグたちはどうしてるかなぁ~……。
気がついたらレティシアは目を閉じて寝ていた。
“――レティ、起きるのですッッ!”
『――ラクロエ様ッッ!! お目覚めになってくださいッ。』
「ん? …なんだあ? ウレハにレティシア…」
レティシアは精霊の女神レティシアと大地の大精霊ウレハの声で目を開けた。
『――大変ですッ。魔の者が現れましたッ』
「え…?魔の者…?? 魔物? 魔王? 大魔神じゃなかったー?」
レティシアは寝ぼけて魔の者だか魔物だかわからなくなっていた。
――いつまで寝ぼけているのですッ。説明している暇はありません。
外へ出て倒すのですッ。
――ラクロエ様ッ、お早く。
「なっ……!?」
窓の外を見ると人々は逃げ惑い、外に急いで出ると何人かのエルフが戦っている。
雷が辺りに落雷してはそれを避け、風の魔法を放っている。
しかし、それを避け、ひとりのエルフが雷に当たりその場に倒れる。
「ッ……!」
そしてその先に見えた魔の者―――。
女だ。巻き毛ががった銀の髪を後ろに高く一つに束ね、背には黒い悪魔の様な翼――。
胸元が谷間が見える程開いた黒いロングドレス。横にはスリットがきわどい所まで入り、何だかわからないが妙にセクシーな格好だ。大人な女の色気がぷんぷんしている。
そして残忍な笑みを浮かべたその魔の者の妖しい紫に魅せる瞳は、逃げ遅れ転んだ小さなエルフの女の子に向けられている。
「あ、危な……ッ間に合え……!!」
レティシアは一瞬で自分の中の炎の力を高め、放っていた時精霊の女神レティシアとウレハの声がする。
『いけないッ、その力は駄目だッ』
――レティッッ! なりませんッッ!!
――え……?
つづく。
ふー。
やっと出来ました。次回四章が最終回となっています。
多分。
一体何者なのか…。では次回…。