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【第四章】†ep.5 待ち続けていた者†

今回少し長いかもしれません。誤字等あるかもしれませんが、報告していただけると幸いです。校正をそのうち加えます。すみません。

そして第四章はまだ続きます。

「え? ここが……新緑の洞窟??」

「はい。洞窟というより森なんです。しかし森というよりは木々が洞窟のように屋根を作り、続いているんです」

 しかし、レティシアが見る限り湖の側にただ木が続いているだけで、木が洞窟のようになっている場所などどこにも見当たらない。

「リーフ……そんな場所ないぞ?」

 レティシアは怪訝そうに言った。

「ええ、ですから王家の者しか入れないのです。父上からハープを預かって来ましたので、その音色を奏でれば森が開きます」

 リーフはそう言うと、ハープで何やら物悲しげでせつない旋律を奏でた。

 奏でていると、鳥が集まって来てリーフの肩に止まる。そして、ピー……と甲高い声で鳴いた。

 しんと静まる中、辺りに白い霧が浮かんで来た。それはどんどん視界を遮っていく。

「わ、ちょ……っ」

 ついに何も見えなくなりレティシアは焦って後ずさっていると、途中で音色が止む。

「レティシア王女っ、ご心配なさらずーっ。……霧は少ししたらおさまりますっ」

 リーフの声がして安堵して待っていると、霧はどんどんと薄くなっていき、徐々に視界がはっきりとして来て霧は晴れていった。目の前には確かに洞窟のように、木の枝が絡み合う入り口の様な物が出現していた。しかし人が屈んでなんとか入れる程入り口は狭い。

 リーフが微笑んでそこに進むので続いて入っていくと、どんどん入り口は狭くなっていった。

「……リ、リーフ――、何かどんどん狭くなっていってないかぁ?」

「ふふ、もうすぐ広くなりますよ。ここらへんが一番狭いんですよ」

「……とはいっても狭いな。四つんばいで通らなければならない程狭いとは……」

 三人はそうしてついに狭い木の枝の細い洞窟の道をやっと潜り抜けた。

 手も膝も服も土で汚れていた。パンパンと土埃を払うとレティシアは息を吐いた。

 見渡した先には大きな樹木が一本立っているのが見える。

「あの、大きな木のところまで行きましょう。ここからは広い道ですから安心してください」

「あぁ……あのリーフ。魔物はココにはいないのか?」

「百年以上前に封印されたと云われていますが、最近ここに調査に訪れた城の研究室の者が巨大な植物の魔物を見たと言って逃げ帰って来た様ですので、少し気をつけた方がいいかもしれません」

 リーフは微笑んであっけらかんと言ったので、間の抜けた空気を作る。

「き、気をつけた方がいいかもしれませんじゃないだろうっ。怖くないのかっ?」

 少し考えてリーフはさらに微笑んで言った。

「大丈夫ですよ。僕は歌を歌うこと位ですが、少しはお役に立てると思いますし」

 歌を歌うのが何の役に立つのだと思い、レティシアは呆れた顔をしてため息を吐いた。

 そんなリーフにレティシアは一本道だし後ろに下がっている様に言った。

 リュシファーが先程からあまり口を開かないので、レティシアは気になってリュシファーの目の前で立ち止まった。

「わ、何だ突然立ち止まって」

「――お前、なんか今日変だぞ? 何かあったのか?」

 レティシアの質問にリュシファーはため息を吐いて、色々あるんだとだけ伝えて先を歩いていった。

 レティシアは首を傾げながら、リュシファーの後ろに続いた。

 そのまま進んでいくと、大きな木がもうすぐ目の前に見えて来て、レティシアは歓喜してリュシファーの隣に来て話しかけたが、リュシファーは立ち止まるとため息を吐く。

「お前さ……随分浮かれてるが、俺は手出ししないということをちゃんとわかっているのか? 植物の魔物は何に弱いか当ててみろ」

「え……えーと、雷?」

「まぁ悪くない選択ではあるが、水以外の他の魔法はどれも似た様なもの。だが、ひとつだけよく効くものがある……」

 そう言ってリュシファーが歩みを進め出したのでレティシアも歩みを進めていたが、はっとして立ち止まる。

 リュシファーは常日頃から敵の弱点となる魔法を見抜き、最善の方法で倒すように言っていた。今回のそれは、未だにまだ挑戦したことのない火の魔法。炎――の法術だった。

 レティシアは動揺しながらも息を吸い、そして吐いて心を落ち着けていた。

「――レティシア王女、どうしたのですか?」

 後ろから来たリーフに話しかけられてびくっとしてレティシアは二歩程後ずさった。

「お、驚かすな!!」

 寿命が縮まる程驚いて、心臓が激しく鼓動していた。詫びたリーフに着いていくと、大きな樹木の前についに到着し、――そこにレティシアは立っていた。

 近くで見ると一体何千年立っていたのだろうと思う程に太い幹に、広い天井の様な張り巡らされた枝たちがその枝に葉をつけ、緑に彩っている。その幹の根元には穴があり、下へと続いている様だ。

「す――ごいなぁ……こんな木みたことない」

「――『大地の精霊樹』。この木には大地の精霊が眠っているんだと云われていますよ」

 確かに、ルーセスト大陸は大地の精霊に守られていると聞いたことがある。

 その大地の精霊の加護を受け、大地は豊かに地に根を張り、この自然を産んでいるのだろうか。昔はエンブレミア王国近隣も荒野ではなく木々が溢れていたという。

 続く戦争により草原と化してしまったが、ダムルニクス王国は自然を復活させるために努力を惜しまなかった。従ってダムルニクス王国近隣には美しく深緑の宝石といわれる自然を取り戻したのであろう。もしかしたら大地の精霊の導きによりそうさせられたのかもしれないとレティシアは何となく思っていた。

 その時だった――。

「――わぁっ!!」

 リーフの声がして後ろを振り返ると、植物のつるがリーフの足元に絡み、リーフを逆さ吊りにしていた。そのつるの先を辿ると、もう一本巨大な木がつるをうねうねと動かしながら立っていた。

「!!」

 その巨大な植物の魔物って、これ!?

 で、でかいっ!

 レティシアはリュシファーに声を荒げて言った。


「リュシファー! 剣をッ!!」


「……駄目」


 緊迫した空気だというのに妙に余裕なこの男は、ちっとも動揺せずに冷めた目で言った。

「あ……やっぱり?」

 少し間の抜けた空気を感じつつ、レティシアは苦笑いして前を向いた。


 ――仕方ない。こういう時だというのに全く……、じゃ魔法か――。

 巨大な木の魔物はその場に重心をかけたかと思うと、一気に地を蹴り高く飛び上がった。

 レティシアは驚きながらもごくっと息を呑むと、落下点を目を光らせて測っていた。

 リュシファーが息を吐いて身を浮かせて後退した。

 レティシアは5歩後退すると、計算通りの位置に巨大な木の魔物はついにズシーンという重低音がなり響き、地を揺らした。

「わぁ……っゆ、揺れるっ……、ちょ、ちょっとっ! リーフを離せっ!」

 レティシアはそう言ってフリシールで身を浮かせると、とりあえず稲妻を呼んだ。

 リーフを捕まえているつるに向かって雷を放ったのだが、あと一歩の所で避けられてしまう。

 こ、こいつ……でかいくせに速い……!

 そうしているとつるがレティシアにひゅんと鞭打つように飛んで来て、避け切れなかった腕を強く打った。

「……っ痛……! こ…っのーーッッ!」

 鞭打たれた部分から血が滲んでいたが、レティシアは短剣を太ももからスッと出すと、つるを避けながらリーフを巻いているつるに勢い良く刺した。

 怯んだ植物のつるは一瞬緩み、リーフを落ちそうになったのをリュシファーがうまくキャッチした。

 それをちらっと見る隙もなく、つるはレティシアに飛んで来る。

 パシッと腕につるが絡み、先程の傷に食い込んでいる。

 痛ッッ、駄目……ッ、痛痛痛ッッ! 死ぬッ、く……ッ。や、やば……。

 とレティシアは痛そうに慌てて食い込んだつるを外そうとするが、余計につるは食い込んでいく様だ。

「れ、レティ……! 馬鹿ッ!」

 リュシファーがリーフを離れた地に降ろそうと急いで向かうが、その間にも別のつるがレティシアの背を打つ。

「ぁッ…! 痛……ーー……ッ! はぁ、はぁ……こ……この……ッ」

 レティシアは悲鳴をあげてしゃがみ込んだ。

 しかしそれでも息を切らしながらきっと魔物を睨みつけると、なんとか立ち上がって言った。


「……ッ……ちょ……調子に、乗るなぁあッッ!」


 更につるが迫る中で、レティシアは静かに目を閉じた――。

 自分の中でまだ眠っている炎のかけらの微かな熱を感じる――。

 自分の奥底で何重にも鍵をかけて閉じ込めておいた力――。これだけは、ずっと怖れを抱きながら、ただ逃げて来た。

 でも――もう私は――! 逃げないと決めた…………!!

 ――――。


 リュシファーがリーフを地に降ろし振り返った時には、レティシアの周りの地に円を描く様に燃える様な赤とオレンジ色が混合した光がゴオッッと轟音をたてて勢い良く真っ直ぐに湧き上がっっていた。炎を巻き込んだ突風が地から吹き、二匹の龍の様にそれはとぐろを巻く様にぐるぐると魔物に向かって威嚇する様に静止する。その双龍の威嚇の前に、魔物のつるは動きを止め、互いに睨み合い沈黙している様に見える。

「――なッ……!?」

 リュシファーが驚愕してそう呟くより早く、レティシアが人差し指を目標を差し、その命に応える様に炎を纏ったその双龍が巨大な木の魔物に襲いかかり、一瞬にして魔物全体に火が回り炎上していく。

 突き出した人差し指を下ろしたレティシアは、その場から飛び上がるとくるっと宙を一回転して、高見から燃え苦しむ魔物を見下すように見下ろした。その後にこちらに向き直ったレティシアは、ゆっくりとこちらへ飛んで来る。

 一瞬だが、リュシファーはぞくっとした――。

 レティシアは不敵な笑みをその口元に携え、そしてその後ろではまだ燃えさかる火炎が全てを燃やし尽くそうとその業火を讃え、逆光のせいか少し恐ろしく感じたのだった。

 ――後ろの魔物の結末は、最後まで見なくてもわかっていた。

 リュシファーはレティシアが怖れていた炎とはこの事だったのかと、幼い時に恐怖を抱いた理由を少し納得した。しかし、とはいえあんなに怖れていた筈だったのに見事な炎の魔法を使い、その後の怖れを全く感じない妙な落ち着き具合と、不敵なその笑み――。変だ…。

 しかも、魔力を鍛えている最中だというのに、その威力は半端ない。

 他の魔法はここまでの威力だったか…? と、思考していた。

 その時だった。

「――おい、二人ともどうした?」

 レティシアの言葉にリュシファーははっとして、ぎこちなく微笑んだ。

 怪訝そうな表情で顔を覗きこむレティシアの顔からは、不敵な笑みも消えいつも通りの表情が取り戻されていた。

「――あ、あぁレティ。よくやったな――それより怪我見せてみろ。血が出てるじゃないか。他にはどっか怪我はっ?」

 リュシファーはくるくるとレティシアを回して色々診て背中の傷を見つける。

 しかも、服がさっくり切れて血が付着している。ため息を吐いた。

「あ~あ、お前…背中も傷があるッ。じっとしてろ」

 小言を言いながらレティシアを地面に座らせると、聖の魔法で傷を修復するために聖の気を集めた。傷を治し終わったのをリーフが見て言った。

「えと――そ、そろそろ外はもう夕方になりますから……今夜はここら辺に結界を張って休んでいきましょう。ここから先は、木の穴の中が入り口なんですが、地下洞窟に繋がっていて少し足場が悪いですから、明日の朝に向かいましょう」

 リーフのその言葉に頷いて結界を張りコテージを出したリュシファーは、レティシアと一緒に木々を拾い集めに向かう。リーフはもし魔物がいたら危険なので、結界の中にいるように言ったのだった。木の枝がたくさん落ちていそうな場所を探し、レティシアとリュシファーは歩みを進めていた。

 ――昨日は、大変だったなぁ…。覚えてないみたいだけど、本心を知っては少し接しずらいというかなんというか…。おまけについ拒絶の言葉をその口で紡がれるのが怖くて――酒で何もわかっていない無垢なコイツに、俺は――…あー消えろ消えろ、何を考えているんだ俺はっ……。

 ……良くも考えてみれば手で口を塞げば良かっただけだ――。

 ――まぁ、覚えていないのが幸い――か……。しかし……

「リュシファー、ねぇ。ねーってばっ」

 思考を迷走させていたリュシファーは、顔を覗き込んで来たレティシアからばっと身を後退させて驚いた。

「――わッ、おッ…脅かすなッ」

「――な、なんか今日のリュシファーは変だぞ? ――朝からだ。何か文句でもあるなら言えばいいだろう?」

 レティシアは腰に手を当て不服そうに言葉を紡ぎ、その目の表情も同じに向けていた。

 ――はっきり言って悔しいが、可愛いヤツだと思ってしまう。大体、俺そういうキャラじゃなかったし、何でこんな…突き刺すような瞳で真っ直ぐに俺を見るんだ、こいつは…。何も知らぬ無垢な瞳。長いまつ毛。柔らかい唇…いや、ここは柔らかそうなと言っておいた方がいいか…と、そんな事を考えている自分にさえ恥ずかしくなり、馬鹿馬鹿しいとさえ思う。

 口に手を当て邪魔なその思考を消し去ろうとしてレティシアからそっぽを向き言った。

「べ……別にいいから早く枝を拾おう。それに、いつもいつも手間かけさせられていては疲れる時もあるんだよ。こっちの身にもなってみろ――」

 そう言った後でリュシファーは、振り返らなくてもわかるその表情にはぁ……やれやれとため息を吐いていた。

 しかし、次の瞬間背中にぶちまけられた数本の木の枝――。


 …………え?


 慌てて振り返った俯いたレティシアは――、手を強く握り締め小刻みに身を震わせていた。

 それは全くの予想範囲外。まさか本気で怒るとは思っていなかった。

 脳裏に思考が並び始める。そして――マズイ……――とそれらは言っている。


「そうか……じゃ、いい――城に戻って休めばいい」


 レティシアは俯いたままで冷淡にそう言った。

「レ、レティ……俺は――」

 はっとしてそう言いかけた時だった。

 きっとその瞳はリュシファーを捕らえていた。鋭く見開かれたそれは目に涙も浮かばせているが決して溢さない。

 吸い込まれる様な光を強く放ち、睨みつけていた。

 体が硬直して動かない。焦りとともに、レティシアの怒りと何か拒絶の様な意志をはっきりと感じていた。

 案の定レティシアはその後、予想通りの言葉を吐いて走り去り、呼び止めたが振り返りもせずにコテージへと入って行くのが遠くに見えた。そしてリーフがその後を追うのが見える。

 やめておいた方がいいのに……

 と思いながらも呆然と立ち尽くすリュシファーは、少しして枝を拾いため息を吐いた。

 ――……


 バンッッ……!

 乱暴に閉めたコテージの部屋の一つのドア。

 知らぬッ……もうあんなヤツ知らぬッ!

 誰が世話を焼いてくれと頼んだんだっ。お前が勝手について来たんじゃないかっ。

 大体、昨日少し落ち込んでたし、少し気にかけてやったのに何だあの言い草はッ!

 あーーーーーーーーーーーーもうッッ! イライラする……!!

 レティシアはものすごく苛々としてベッドにある枕を取ると、ドアの方へ振り返りながら思い切りそれを投げつけていた。

「――わぁっ!?」

「!」

 途端に聞こえた声とともに、リーフが飛んできた枕に当たった衝撃で後ろへと尻餅をついている。投げつけて枕が飛んでいる間にドアが開かれていたのには気付いていたが、もう手から離れていた枕をどうする事も出来なかったのだった。

「リーフッ……! あぁあぁ、ご、ごめんっ。痛かった?」

 急いで駆け寄ってリーフに侘びを入れると、身を起こすのを手伝った。

 リーフは何が起こったのかわからないといった表情できょとんとしていた。

「あ……いえ、少し――び、びっくりしただけ……です。ははは……はは、な、何かあったのかなと思いまして……」

 まだ少し唖然としながらもリーフはそう言った。

 レティシアはぷいっとそっぽを向いて「べ、別に何もっ」と言った。

 そうですかと言いながらもリーフは恐る恐るリュシファーの名を口にして来たので、レティシアはかっとなって枕を持って立ち上がると声を荒げて言った。

「あんなヤツっ。今度と言う今度はもう怒った……!」

「――やっぱりなんかあったんじゃないですか……」

「とにかく私は少し休む。飯が出来たらリーフが起こしに来てくれ」

 そう言ってレティシアはベッドの布団に潜り込んだ。

 リーフは『あ……はい。ではおやすみなさい』と言って部屋を出て行った。

 しんと静まり返った部屋のベッドからゆっくりと起き上がると、レティシアはため息を吐いて呟いた。

「――馬鹿……」


 次に目を覚まし、ボーっとしているとタイミングよくノックの音がしてレティシアは起き上がってドアを開けた。ご飯が出来たと微笑んでリーフは言った。

 コテージを出るとリュシファーの姿が見え、レティシアはぷいっとそっぽを向いて向かいに座った。

いつもは寝て起きれば忘れられた筈だったのだが、今回はやはりレティシアはまだ苛々としていた。ため息を吐きながらリーフが手渡すご飯を受け取る。

 リーフは言った。


「さて、では食べましょ~っ」


 リーフは元気に言ったがこの二人は微妙そうな雰囲気で空返事をした。

 気まずそうな表情を浮かべながらも笑顔を作るリーフは、正直困っていただろう。

 食事も終わり、レティシアは少し散歩に行って来ると言ってひとりでその辺を歩いて気晴らしに向かった。リュシファーは珍しく止めなかった。それにも少し苛々としながらレティシアは乱暴に地を踏みつけながら、足を進めていた。

「なんだっ、もー苛々するっっ」

 はっとしてレティシアは口を押さえて振り返るが、もう大分コテージは遠い。

 おそらく聞こえていないだろうと思い、安堵した。

 その時だった。目の前をぼんやりとした緑色の光が横切っていく。

 ミールティアの神殿にあったみたいな光の――玉? ってことは精霊の魂…? でも、それにしては少し大きい。確かリーフが大地の精霊が眠っているとか言ってたな……うーん。

 光の玉を追うようにレティシアは歩みを進めていく。光はコテージの方へと進み、大地の精霊樹の根元の穴へと入っていく。コテージを見るとその前にリュシファー達の姿はない。

 思い切ってレティシアはその穴へと入ってみることにした。

 暗くて良く見えないので、レティシアは人差し指の上で小さな炎を浮かばせ、松明の様にそれは辺りを照らした。土のついた根の様な物がぶら下がっていて、その木の根が洞窟の様に周りを形作っていて、足場が悪い。なんとか歩みを進めるが光を見ると、それはレティシアを待つように途中、その場に静止してはレティシアが近づくとまた先へと進んでいく。

「??」

 レティシアは首を傾げて立ち止まってみた。光も気付いた様で宙でぴたっと静止している。

 ――な、なんかよくわからないがついて来いということらしいな……。

 レティシアが通り抜けるこの穴の中は木の中というのは信じられない程長く続いている。

 リーフは、途中で本当に洞窟に抜けると言っていたが、それらしき物はない。

 ため息を吐きながら光を見ると、光は上へと姿を消す。レティシアは光を見失わない様、焦って追い、ついに穴の外に抜けた。


「!!」

 視界一面に飛び込んできた舞い落ちてくる新緑の葉――。

 そして、中央には小さな泉が湧き左右見渡せば木の中だというのに森が広がっている。

 思わず口を開けたまま、その光景に言葉も出ない。

 黙ったままレティシアは何かに吸い寄せられるように小さな泉まで足を運んだ。

 先程の光が上からゆっくりと降りてきて、泉の真ん中で静止する。

 そして突然の眩しい光。きつく閉じた目の前ではなく後ろから声がした。

「――レティシア様、よくおいでくださいました」

「えっ……」

 レティシアは薄目を開けてみると、視界を奪う光は消えている。

 ゆっくりと振り返るなりレティシアは驚愕した――。

 その身をぼんやりとした新緑の様な黄緑色の光が纏い――人の形をしているがおそらく人ではない男。髪は短くて新緑の様な黄緑がかった銀色。瞳も同じ。歳は30歳前後だろう。

振り返ったレティシアの前に膝をつき顔を見上げている男の存在にレティシアだったが、精霊の女神レティシアの声がしてはっとした。

 ――ウレハ……ついに時は来ましたよ。

 精霊の女神レティシアは、明らかに自分ではなくウレハというこの者に話しかけている。


「このお方が、ラクロエ様なのですね――……」


 ――えぇ。そうです。……あ、レティ。この者は大地の精霊ウレハ――。

 精霊にはそれぞれに統率者がいるのですよ。最も力を強く持ち、同じ属性の配下の者を従える役割を持つ――ウレハは大地の精霊を仕切る大精霊というわけです。

 ついに、話す時がやって来ました。精霊の属性に関する話を致しましょう。

 魔法には、水、風、雷、土、聖、そして火――。六つの属性がありますね。

 勿論それぞれに精霊はいて、ウレハの様な大精霊がいます。

 精霊はその属した属性の力を持ち、生まれ持った属性の力以外は持っていません。

 ですが、そこに例外があり、あなたはそれに当たります――。精霊の世界にも王族がいて、あなたは精霊界の王女ラクロエ――。王族は全ての属性の力を持ちます。

「!!」

 その続きをウレハが口を開いて説明した。

「ラクロエ様――王族は無属性といえど、一緒に交わる精霊の力を強く受け継ぎます。土の法術しか遣わない私と違いあなたは全ての法術を使えますが、中でも火の力が強い威力を発揮する筈です。何故ならあなたは無属性の王と、火の精霊の間に生を受けられた王女なのです――おわかりですか……っ?」

 ウレハが真っ直ぐと切なそうな表情で視線を向ける。

 ――ずっと、お待ちしておりましたという声が聞かずとも聞こえるような、そんな瞳だった。

「ラ……ラクロエ……わ、私が、精霊界の王女――」

 耳を疑いながらも見たウレハのその目の前で、――現実逃避など出来る筈がなかった。

 精霊の女神レティシアだけではなく、土の大精霊ウレハもまた…私が訪れるのをずっと待っていた。

 精霊たちは皆、最後の希望を王女ラクロエを転生させることで託した――と。

 そういうことなのだろう。

「――あなたは姿こそラクロエ様ではなくともラクロエ様に代わりはありません。あなた様ならば大魔神ザロクサスを倒し、精霊界を救える筈……ッ」

 ウレハは地に膝をつけたまま俯き、地にポタッ一滴の涙を溢した。

「ウレ……ハ……」

 待ち焦がれていた希望の光。王女の来訪。強い願いと想いと無念さ――。全てだった。

 レティシアはしゃがみ込んでウレハの涙を人差し指で拭って言った。

「――永く、待たせたな……ウレハ。でも私はまだ未熟だが――きっと必ず…ザロクサスとやらを倒して救ってみせるから…顔を上げてくれ、泣くな――」

 レティシアはしゃがみ込んで人差し指でウレハの涙を拭った。

「ラクロエ――様……っ、勿体無いお言葉――」

 ウレハは涙を自分でも拭って、息を吐いてから言った。

「ラクロエ様は私どもが守らねばならないというのに……ラクロエ様はお強い。誇り高く王の血を引き継いでおられる。その意志を強める王妃の火の精霊の血も――よくぞご立派に……」

 ウレハはよくわからないが褒めている様子だった。少し慌ててレティシアは言った。

「お、おおげさだ……っ。ラクロエという者が私に転生したのはわかるが、精霊の女神レティシアに使命を聞かされても、正直あまり実感がなかった。ただ、お前を見ていて思った。14年間私が立ち上がるのを待ち続けて来たのだろうなと……。そう思ったら、何も精霊の事は知らないがやはりやるべきだってな……。私は、自分の知る者がこれ以上、傷ついて欲しくない――それだけだ。ラクロエとしての言葉ではなく、私自身の言葉で悪いがそれだけだ――」

 レティシアはそうやって静かに微笑んだ。

 ウレハは涙を堪えている様子だった――。

 そして意を決した様に言った。

「ラクロエ様――我、土の大精霊ウレハ。あなたを守護致します――」

「――えっ!?」

 そう言った瞬間光が視界を奪う――。

 目も開けていられない程のその光――。


 光がおさまりレティシアが目を開けた時、ウレハの姿はどこにもなかったのであった――。


つづく。

この設定を眠らせたまま話が進んでいました。

さてさて、レティシアはあんなに怖れていたのに火の精霊の血も持っていたんですね。幼い頃に巨大な炎もまたそれが原因でしょう。

怖れることにはなりましたが、今回、怖れていません。何故なんでしょう。とまぁ新たに意外な真実が明かされましたが今後をお楽しみに。でゎりんごでした。


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