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【第四章】精霊の導き†ep.0 犠牲†

 …少しの間だったけど、僕お姉ちゃんのこと好きだった…

 ミュイエ……レティをお願い――

 後で僕も――…


「―――――――ッッ……!」


 ミュイエに抱きかかえられた私は、視界を奪われて目を閉じたまま叫んでいた。

 眩しい光だった――。

 振り返って言われた言葉を遮って光で目の前が真っ白になり、最後になんとか目を見開いて見た一人の少年がかざした手と微笑み――。

 目を開けたそこには、妖雪の森の奥深くにあるという妖精の泉があった。

 私とミュイエは少年の手により、この妖精の泉にあるという空間の歪みの外へと出され、ミュイエは黙って俯いたまま泉に背を向け、歩みを進めようとする。

「――ミュ、ミュイエ…? 駄目だっ…。――ノヴァがっ、…まだだ……ろ?」

 そう聞きながらも、本当はちゃんとわかっていた。

 ――でも、信じたくなかった。

「――……レティシア…貴方にはわからないかもしれません。…ノヴァは僕達をここに出し、魔物たちと自分達を一緒に封印した様です……泉はもう光を失い空間の歪みが感じられない――。行きましょう…。離れた所に結界を張って、少し休んだほうがいい。抱きかかえていても痛むでしょう?」

 ミュイエが言ったのはレティシアの怪我のことだった。

 黙って歩き泉から大分離れた場所の木にそっと持たれかからせる様にレティシアを降ろし、ミュイエは結界を張りテントを出した。

 そして木の枝を拾い集め、ポケットから出した赤く小さな四角い石。これをその木の枝の上に乗せた。

 するとそこからボッと炎が上がり暖が出来たのを、レティシアは始終黙って見ていた。

 浮かぶ月は細く、その闇に浮かぶ雲は穏やかにゆっくりと白く小さな雪を降らし、外は寂しさを増すような冷たい静寂が立ち込めている。

 ミュイエはそっとレティシアを抱きかかえ、落ちていた木こりが切ったと思われる短い木を火の前に置き、椅子にして座らせた後しばし黙って火を見つめていた。

「レティシア…寒くないですか?」

「……少し」

「じゃあ、これを」

「…これは……?」

 その白いストールには黄緑色の模様が入っている。

 レティシアは涙を潤ませながらそれを手に取った。

「――…えぇ、これはノヴァの物でこれを羽織って外に出たものの、部屋に貴方を連れ帰った時に暑いと言って僕に渡したのです。あの子も貴方に使って貰えれば喜ぶでしょう…そうとうご執心でしたからね…貴方が目を覚ますまで『このお姉ちゃん綺麗だねぇ』と言ってずっと側で見ていました…ふふ…ですから、きっと僕が持っているより貴方が持っていた方がいいんですよ、レティシア」

 ノヴァ………

 皆で入ったこの妖雪の森に足を踏み入れ、奥に進むにつれて魔物は増えていっていた。少し数の多い魔物と戦っていて森の崖から足を踏み外し、転がるように落ちて気絶して皆とはぐれてしまった私を、二人が発見し助けてくれた。そしてそれを最初に発見したのはノヴァだったともミュイエはその後言っていた。

 レティシアはじっとそのストールを見つめて、片手で握り締めながら頷いた。

 ミュイエとノヴァは妖精族の王族で従兄弟だ。

 ミュイエは白銀のような銀色の髪をしている。多分リュシファーよりも少し大人だと思う。落ち着いているが、リュシファーの様に偉そうではない。白銀の様に白い色をした猫みたいな耳を頭の上に立て、その奥にあるグレーの瞳は、遠くを見るように目の前の炎に向けられている。

 ノヴァは茶色い髪とオレンジ色の瞳とミュイエと同じ色の耳をしていて、10歳くらいの外見の今のレティシアよりも――幼かった。レティシアは、下に弟が出来たみたい可愛いと思った。

 ――そして、…嬉しかったんだよ…? ノヴァ……

「……ありがとう…ミュイエ……大事に使わせてもらう…」

 ノヴァのストールを羽織ろうとして、レティシアは肩の痛みに顔を歪ませる。

 ミュイエが慌ててなんて気が利かないと詫びてストールをレティシアに巻いてくれた。

 そして見つめたミュイエの顔は、少し哀しげに微笑んでいる。

 本当は泣きたいのに、涙を見せない様にしているんだとレティシアはそう思った。

 目に涙は零れていなくとも、その頬に涙が伝っている様にレティシアには見えた。

 左手でミュイエの頬に触れる。少し意外そうな表情を浮かべるミュイエにこう言った。

「…ごめ…ん。魔物退治に来たのに崖から落ちて二人に助けられたというのに、私は骨折して剣も振るえず何の……っ。…なんの…役にも立たなくて、それに、魔物を退治したのは私じゃなくノヴァだ…。自分も一緒に封印して――…そんな……そんなことって――」

「――…この森の奥に住まう魔物は元々この森を完全に陣地にしようと、空間の歪みを探していました。遅かれ早かれ対処しなければなりませんでしたが、森は火を嫌い水を好む――氷の魔物が住み着いたとあれば、どの道どうすることも出来なかったんです。我々は“炎”の魔法を知らぬ水の種族。ノヴァは時空を操る術も使えましたが…基本的に氷の術しか使えない」

「!」

 もし自分が炎の魔法を使っていればこんなことにはならなかった――。

 レティシアは魔法を使うことなど、思いもしなかったことだった。

 骨折して利き腕で剣を振るえない――と狭い視野でしか考えていなかった。

 体を小刻みに震わせて涙が零れる。

 ミュイエが頭を撫でて自分の胸に引き寄せた。

 しばらくそうして泣いていたレティシアに、ミュイエはこう言った。

「…少し落ち着きましたか? レティシア…そろそろテントで休み、明日明るくなってから貴方の仲間を探しましょう。きっと心配しています…」

 ミュイエがレティシアを抱きかかえ、テントへと連れて行った。

 レティシアは寝袋で横になってずっと考えていた。


 いつも私は現実逃避をして逃げてばかりだ……自分の魔力からも逃げ、


 宿命からも皆を頼りにして逃げ――怖れてばかりで何もしない。


 今まで、炎の魔法から逃げ続けているのは当たり前だった。

 

 でも私が……逃げていなければ助けられたのに…


 ――私、何しに来たんだ――?


 何が精霊の宿りし者だ、何が高い魔力だっ…?


 外で聞こえていた断末魔の叫び声――…

 

 あれは、私が救えた者達の声――。


 そして――私が、無残にも見捨てた……。


 ノヴァを犠牲にしたのは私だ――。


 私がやっている事は、ただのわがままじゃないか……。


「ミュイエ…起きてるか……?」

 レティシアは言ったが、ミュイエの声はしない。


 それでも言った。

 上を見上げてただ静かに――。




「――本当に、すまない………」




 この悲劇から、話は始まった―――。



つづく。

少々欝回で第四章が始まりました。しかも、突然知らない人が知ってるみたいに登場してきたのでびっくりされた方もいるかと思いますが、エピソード0なので背景だけ描かせていただきました。回想的な話になりますね。

エピソード1から皆出てきますから安心してくださいね(笑)


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