【第三章】†ep.4 精霊の宿りし者†
「――ほんとに何にも覚えてないのか?」
ミグが言った。
「かわいい~」
ルクチェが言った。ていうより、ずっとそればっかりだ。
――そして、そんな二人に私はこう言った。
「…さっきから二人して立ったまま見下ろさないでくれっ」
――そう。あの時気づいた時には何故か……、
私の姿は、5~6歳の子供の頃の姿へと変わっていたのだった―――。
「だーからっ、泉に落ちてしまって泳げなくて上に上がれなくなって、その内意識を失っていて、その後気がついたらここに寝てたんだって、さっきから言ってるんだっっ」
レティシアはそう言って、ベッドに両手をついて腕の力でなんとか上がり座ると、不機嫌そうに腕組みした。
ミグはその隣に座ると、顔を覗き込む様に前のめりになって微笑んで言った。
「じゃ、誰が助けたんだと思うのかなぁ? レティシアちゃん」
「ばっ馬鹿にしてるのかっ? 子供扱いするなっ…あ、いや。今は子供の姿だった……」
「かわいい…」
「…………」
ルクチェは相変わらずレティシアを見て目をきらきらと輝かせ、レティシアは冷めた目でルクチェを見ていたが、どうも二人して完全に自分の事を子供扱いするので(実際今は子供であるが)苛々としていたレティシアに、よしよしと更に頭を撫でてミグは追い討ちをかけてくる。
「こーんな小さい時もあったなぁ~ははっ。大体5~6歳ってとこかなぁ? 見る限り」
「――もー知らんっ。ちょっと散歩に行って来るっ」
そう言ってレティシアは外に出ようとジャンプしてベッドを降りた。
ミグも仕方ないといった様子で、後をついて来たが離れた所からついて来ていた。
振り返ると、ミグは子供を微笑ましく見守るようについて来る。
レティシアはため息を吐いて立ち止まると、ミグの歩みを少し待った。
そして、誰もいない時計塔の前まで一緒にただ黙って歩いた。
時計塔は古く、そして高い――。町全体を見渡せるそれは、多分城と同じくらいであるだろうが、上に上がるには相当な段数の階段を登らなくてはいけないだろう。
上を見上げるレティシアに、ミグは飛んで行ってみるかと聞いた。
「――フリ…シールか?」
「………うん、そうだ」
こくっと頷いたが、レティシアはミグの視線に気付き、首を横に振った。
「――や、やっぱりいい。ここに座ろう」
と言って、時計塔の入り口の階段の上に座った――。
ミグは多分、詠唱なしで魔法を使うのかを見たかったに違いなかった。
ミグは、いつも何も悩みもなさそうだったが、魔法は一生懸命勉強している。何の苦労もなしに突然詠唱なしに魔法が使えるようになっていたなどと――ミグのその努力を思うと、フリシールを使った後に説明するわけにはいかないと思った――。
「――なぁ…ミグ。小さい時に言ってたこと覚えてるか?」
「……ん? 何だ?」
「――こうやって二人で城を抜け出して、いつか冒険の旅に出たいなって言ってたの」
レティシアのその言葉に、ミグはレティシアの前にしゃがみ込んで言った。
「――そんなこともあったなぁ…。まさか、こんな形で旅に出るとは思いも寄らなかったけどな……。まぁ――、それでも一応叶ったか………はは。どうした急に」
ミグが穏やかで遠い目で、その頃を思い出すように満月を見ながら言った。
「ううん……。別に…なんとなく思い出しただけだ…」
「―――今頃どうしてるかなぁ…皆。お前が今こんな姿になってるって知ったら――…。どちらにしても簡単に帰るわけにもいかないな……」
立ち上がるとミグは少し離れた所までゆっくりと歩いていった。人通りの全くない静寂の支配する町の広場――。
街頭の灯りがミグの影を地に映し、その上には大きな満月が、小さな無数の星達が散りばめられた闇に、その姿をはっきりと浮かばせている。
どこかまだよそよそしい感じのするミグの後姿を、ただレティシアは見ていた――。
「――それよりお前さ、ひょっとして今まで、俺に遠慮して言わなかった…とか?」
振り返ったミグが突然言ったその一言は、穏やかに言ったけど少し寂しそうだった。
少し迷った――と思ったけど、少しのつもりが俯いて何も言葉が出てこない。
私が子供の姿だからなのか、それでもミグは相変わらず穏やかに微笑んでいる。
さっきの自分の思惑も、ミグはきっと気付いてたんだ――。それに、ミグは今ちょっと魔法を使ってみろとか言う――。理由も聞かず、何の魔法を使えばいいのかとミグに聞いた。
しかし、穏やかな微笑とは裏腹な答えを、ミグはその口で紡いだ――。
「――そんなの決まってる。――炎――だ」
「!?」
よりによって“炎”――。レティシアは体が震えた。拒絶反応だった――。
「やっぱり――嫌みたいだな。…その歳くらいだったっけなぁ、あの時のことは」
「……………」
ミグは穏やかな表情をしながらも、何かを決意したように下を一度向き顔を上げた。
「――もったいないんだよ。――あんな、小さい頃の思い出に縛られてさ…。詠唱なしで魔法使うのは、魔力が高い資質を秘めている証拠なんだぜ? 俺思ったんだ――幼い頃のあの炎…あれも資質の一つだったんだろうなって、今日という一日、ずっと――考えてた」
――“もったいない”――と、そうリュシファーと同じ事をミグは口にした。
…例えそうだとしても、……私には出来ないっ……怖いんだ、――ミグッ…。
ミグはその場所より更に少し離れると、レティシアの方を向いて呪文を詠唱した――。
「――小さき理から生まれし炎よ、今舞い踊り我が意志に応え、飛竜の如く火柱となれ…」
ミグが返している手のひらの上に火炎の火柱が、ゴォッと音を立てて竜が舞い上がるように激しく巻き起こり、そして次第に炎の揺らめきと化しミグのその手のひらの上に、煌々とただ燃え上がり続けるように落ち着いていった。
「…これさ――、炎の中位魔法だけど…基本の呪文くらいは覚えてる筈だ――使ってみろ」
「……ミグ……私には、…無理だ―――」
「………ったく…仕方がない…じゃ、氷でも何でもいいから風以外でなんか使えっ」
ミグはそう言ったが、レティシアはやはり出来ないと首を横に振った時だった――。
「――あ、そ……じゃ、これ――お前にやるよっ」
「!?」
瞬時にして、ミグは手の内の炎をこちらへと放っていた――。
放たれた火炎は、竜が獲物を食いちぎりに来るかの様に凄い勢いで渦を巻きながらやって来る。幼い時に使ったレティシアの火炎くらいある炎に、レティシアは驚愕した。
炎の中位魔法を、そんないきなり放つなんて……ッ!!
レティシアは慌てて現実逃避する間もなく、咄嗟に氷の呪文が頭に過ぎっていく。
つ、使いたくないけど……っ――――こんなの避けきれるわけない……っっ!
そう思った瞬間、レティシアの周りから冷たい風の渦が巻き起こり、向かってくる炎目指して巨大な氷柱が鋭く冷気とともに連続して突き刺さっていく。炎の周りには、寒そうな色の光が既に取り囲み炎を凍結していき、空気中をきらきらと細かい光の砂が舞い落ちていくのを見た時、それが炎が凍らされ砕け散って消滅した物だとレティシアは知った――。辺りは少し冷気を感じる程寒く冷え切っていたが、しばしの静寂の後――、元の気温を取り戻していく。
「はぁっ…はぁっ………」
ミグが手加減もなしで突然、中位魔法を自分に放つなどと、考えもしなかった……。
…それに、―――また。
レティシアは気が抜け安堵しその場に膝をついた。額には汗、目には涙も浮かんでいる。
激しく呼吸を整えているレティシアの前に、影が見える。
はっとしてレティシアは怯えた目でそれを見上げた。途端、頭をよしよしと撫でるミグ。
「――上出来上出来。はは、悪かったな、突然放って」
ミグが困った様に微笑んでそう言った。
「あっ危ないじゃないか! と、突然放つなんて反則っていうんだっ。そういうの…! こ、怖かったじゃ――な…いか…っ」
ミグはしゃがみ込んでレティシアを抱きしめると、頭をぽんぽんと優しく撫でる。
慰められる様にミグによしよしと撫でられ、ついに泣きたくなって来てレティシアは泣いた――。
「――悪かった…。でも人間さ、突然ピンチになった時って意外と何でも出来るんだぜ? 今みたいに怖いとかなんだとか、言ってられなくなるんだよ――使わない様にしてても、使わねばならない時には、つい使っちゃったりするんじゃないかなーと思ってさ……。――お前も、ちゃんと氷使えたじゃないか…それにしても凄い威力の魔法だったぞ…よく出来た」
レティシアはその時ミグの思惑を知り、余計に涙が溢れて泣き声で言った。
「………ミグ、私っ…な? わからな――…くて…っ…怖いんだ…」
「――怖い? あの時の…こと?」
「違う…それも…怖いけどっ…、リュシファーに…っ、言われたこと――」
もう詠唱なしで魔法が発動することをミグに知られたレティシアは、リュシファーに言われたこと――。その力が目覚め始めた様な気がすること――。そして、自分でもわからなくてそれが怖いということ――。だから、はっきりわかるまでは人に説明できなくてミグにも言えなかったことを、やっと打ち明けた――。
聞き取りずらかっただろうレティシアの言葉に、ミグはずっと優しく頷いて聞いてくれた。
「――なるほどね……そっか。――よし、じゃ今日はもう休もう…疲れたろ」
「……うん」
そうして、ミグはレティシアを抱き上げると、抱っこして屋敷まで帰ってくれたのだった。
――その帰り道…。
万が一、私が魔法をとっさに使えなくて炎が直撃していたらどうしてたんだと聞いた。
するとミグは――、“そん時はそん時だ――”と、相変わらず悪びれた様子もなく微笑んで言った――。もちろん怒って文句を言ったが本当は心の中で、私はそんなミグに感謝していた――。
――――…
次の日――。
ルクチェが二人を呼びに来た。
今日は、祭りがあるという。“精霊の祈り祭”というお祭りだ。
精霊のお告げを一年に一度だけ、町の皆にその場で執り行い聞かせるのだという。
そして、守ってくれている精霊に感謝を捧げるため、精霊に見立てた子供たちは皆精霊の羽衣という衣装を着て参加させるというのだ。
当然―――。
「え…子供が精霊の役をするのに何で私が? 子供扱いするのも大概にしてくれっ」
「い、いや。そうだけど、今のティアラちゃんは子供っじゃな・ぁ・い? まぁ、決まりなのよ」
結局、ルクチェに連れられ丸い光の玉が浮遊する神殿に連れて来られたレティシアは、
神殿の奥にある温泉の湧く大きな泉――『精霊の祈り泉』に来ていた。
既にルクチェの屋敷で入浴は済ませてあったのだが、巫女であるルクチェは身を清めるためにここにも入浴をするらしく、一般の者は別に入浴しなくても良いが、ついでなので一緒にと連れて来られたのだった。
「――ティアラちゃん、少し聞いて…いい?」
何か改まってルクチェがそう言うので、レティシアは首を傾げながら黙って頷いた。
「今――この神殿の周りに浮いている物見える?」
「い、色んな色のぼんやりした光の玉のこと?」
「…やっぱり見えるのね。これは精霊使いにしか見えない筈なんだけど、どういうわけか見えているのが引っかかってたのよ。それに、精霊召喚術も同じ。普通の人には丸い玉が発生しているところは見えてないの」
「え!? 普通の人に見えてないものなのっっ?」
レティシアが驚いて言うと、ルクチェは困った顔をして頷いた。
「――精霊の魂なのよ、この光の玉。たくさんあるけど、この神殿は、私達精霊使いの間では、“精霊の墓場”とも言っているのよ…死した精霊の魂が集まる場所――……私ね、ティアラちゃん達に会った時、実は精霊のお告げを受けたの――。“行く当てもなく旅をする可愛らしい双子について行動を共にして保護しなさい。それがあなたたちの世界の糧となり希望となる手助けとなるでしょう――。また、それは定めでもあり、私達の願い――。ただし、これは時が来るまでは他の者に言ってはなりません”ってね」
「!?」
ルクチェは静かにもう一言こう言った。
「――そして、おそらくそれはティアラちゃんに何か関係があるわ」
「!」
その時だった――。
レティシアははっとして、何故かずっと忘れていた夢を思い出した。
慌ててレティシアは泉から出た。服も着ずに、――そのまま走っていた。
レティシアが来たのはレティシアが落ちた小さな泉の女神像の前――。
像の台座の石碑の文字をもう一度ちゃんとよく見ると、そこの下には擦れながらも見落としていた文字があり、――“精霊の女神 Latisier”――と、そう書かれていた。
ルクチェが服を着て急いで追いかけてきて、バスタオルをレティシアにかける。
「ど、どうしたのっ? ティ…ティアラちゃん? と、突然びっくりしちゃったじゃない」
「――この…女神像、レティシアって言うの……?」
「――え? …あ、えぇ。そうよ。同じ名前ね――」
もう一度レティシアは、擦れた文字を一生懸命読もうとしていた。
しかし、読めなかった以前と同じ部分が、やはり擦れていてとても読めそうにない。
その時、ルクチェは言った。
「――精霊神の名の下に、清め――捧げよ、祈りと魔力の杯を。…現れし精霊の魂宿りし者より…混沌の闇から…世界は救われん。…我らひとつの願いを聞き、声を知り、声に動け。こう書かれているのよ。これは精霊使いの役目を記してあるのよ」
「!」
レティシアは驚愕してルクチェを振り返っていた。
ルクチェもそのレティシアの表情を見て、困惑した表情を浮かべている。
泉の中に落ちた時のあの声の言っていた精霊の滅んだ歴史――そして、残したというひとつの願い……。
石碑に刻まれていることは、女神レティシアの言っていたことと明らかに一致する。
精霊の魂――宿りし者とは……ま、まさか…本当に……?
―――――……私……――なのか……?
―――……
精霊の祈り祭は、町の中に夕方から出店が立ち並び、賑わう町が活気に溢れていた。
旅の者もその活気に笑顔で酒を飲み、上機嫌で広場へと集まって来た。
広場の真ん中では、噴水が止められてそこには代わりに炎が舞い上がっており、その周りを子供達が囲む。レティシアもその中に混じり、精霊の羽衣と、精霊の髪飾りを身につけ、精霊の杖を持たされていた。
横目でミグをチラッと見ると、にやにやしながら小さい子供を見守る様にレティシアを見ていた。恥ずかしい様ななんとも言えない気持ちで、レティシアは時が来るのを待っていた。
「えー皆さん。精霊様もきっと今日のこの集まりをお喜びになられていると思います――精霊に感謝と労いを込め、本日は盛大にパーッと騒いで盛り上がって頂ければと思います――。えーではですね、さっそくですが、精霊の祈り儀を始めたいと思います……」
そう言って町長は、巫女のルクチェを側に呼び、精霊の祈り木という木の枝を渡すと、精霊役の子供達の周りを歩いてゆく。
精霊の祈り儀での子供の役割は、精霊使いに指名された子供が祈り木を受け取ると、決められた祈りの言葉を言った後、炎の中に投げ込む――役目はそれだけである。しかし、その後、炎の色が七色に変わり、町長の元には精霊がやって来て、お告げを受けるという話をルクチェから聞いていた。
嫌な予感がしたものの、予想通りルクチェはレティシアに精霊の祈り木を渡して来た。
……ハァ……やっぱりな。どうりで清めに付き合わされたりしたわけだ――。
本当は子供じゃないのに…。
レティシアはそう思いながら、子供達が炎のある噴水のスペースから去ってから、一人で
前に立つと、祈りの言葉を口にする。
「――ここに捧げる祈り木のもと、その糧を我らに告げたまえ――」
ルクチェが頷いているのを確認して、レティシアは炎の中に祈り木を放る。
祈り木を捧げた瞬間、炎はボッっと燃え上がり、神殿から浮遊している精霊の魂という光の玉が一色ずつ一斉に炎の中へ集まって来て、その炎の色はその色を次々と変えていく。
レティシアが驚愕していると、その炎の中で大きな黄色い光がぼんやりと光を放ち、浮遊している。
その時だった――。
「こ……これは…なんと――」
町長が驚愕したような表情で炎の中の光を見ている――。
炎の中の光はスッと消え、炎は元の勢いを取り戻し、穏やかにその火を讃えている。
ルクチェが町長に声をかけている。町の者もざわめき、ミグも怪訝そうな顔で町長を注目している。町長が服のポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭いている。
「え、えー皆さん、精霊は感謝を述べておりました。他には何も――。…ま、ささ、これで堅苦しい儀は終わりです。皆さんぱーっと盛り上がってくださいっははははは」
町長の発言に少しあっけに取られながら、町の人々は広場から出店の方へと去っていく。
レティシアがミグの元へ戻ると、ルクチェがやって来てレティシア達に屋敷へ少し戻りましょうと声をかけられ、ミグとレティシアは怪訝そうな顔を見合わせていた。
通された町長の部屋――。町長はレティシアを、しばし微笑んで見つめると口を開いた。
「――実は、精霊はお告げをしなかったわけじゃない。…皆には言わない方が良いと思いましてね――。あまり、騒ぎになってもお困りになられるでしょう」
レティシア達の身分の事を言っているのだとはわかるが、騒ぎになるという発言を聞いて、何かレティシアは嫌な予感がした。――そして、それは的中した。
「精霊は、“まだ時ではありません”と言っていた前回までとは違い、今回は“時は来ました――汝の子が連れ来た我々の魂宿る双の子祈り木を持ち、我らの元へと現れました。――今は目覚めの時を待つばかり。そして全てを委ね、後は祈らん”と申されました――」
「!」
長老の言葉を聞いた時、レティシアは重なり合うパズルのピースが、レティシアの意志とは関係なく勝手にひとつずつはまっていく様で、意識が遠のくような感覚に襲われていた。
頭の中に響いた女神レティシアの言葉――、石碑の文字――、長老の言葉―――…。
―――それらはずっと自分が不思議に思っていたし怖れさえも抱いていた――自分に眠っているという高い魔力の存在理由として、しっかりと脳裏で結びつき、刻まれていく……。
浮遊する精霊の魂たちの願いのかけらの数々――。
精霊界を全勢力を用いて封印し、滅ぼしたという“大魔神ザロクサス”の事――…
――どうやら精霊の魂が宿るという自分の異変―――……そして………、
全てが急激な目眩の様に視界をぐらつかせ、レティシアはその場に膝をついた。
「――ちょ、ちょっとティアラちゃん……ッッ!?」
「レティッッ!! 大丈夫かッ!? お、おいッ、しっかりしろっ……ッ」
ミグとルクチェがレティシアを心配してしゃがみ込むが、その時レティシアは声を聞いた。
泉で聞いた声と同じ声だった――。
「!?」
――レティシア…やっと、わかりましたか?
…な…何が…?……
――あなたは精霊の魂宿りし者…私達は14年もの間、
あなたがここへ来るのを待ちわびていました。
14歳になった今日この日より、あなたの力は完全に目覚めていくでしょう……。
――しかし、あなたは少し怖れを抱いていますか――…。
…………こ、怖くなんかないっ。ただ、突然精霊だとか大魔神だとか世界だとか…っ。
おまけに小さくなっちゃうし……これもそのせいだとか言うんじゃないだろうな?
――そう…と言ったらどうします?
…………ぐ、…そんなはっきりと――…だ、だったらは、早く元に戻せっっ
――あなたが怖れを消さない限り、無理です。
…はぁっ!? ちょっちょっと待てっ。怖れを消すってどういうことなんだっ
――それはあなた自身が一番よくわかっているはずですよ…
……………
――…………はぁ………
止む終えませんね…私はミールティアに存在する理由はもうありません。
……あなたの元へと参りましょう……導かねばならないでしょう……。
…………へ……………?
「――おい、レティッ…ってばっ」
「!」
はっと気がつくとルクチェとミグが心配そうに自分を見下ろしていた。
いつの間にかレティシアは、床に寝ていたのだ。
「あ…あれ? 私……」
状況が理解できずにゆっくりと起き上がると、頭がぼんやりとしている。
ミグに話を聞くとどうやら気絶していた様だった。
しかもその間、『戻せ』とか『馬鹿』とか言っていたらしい。
「あは、あはははは…実はよくわかんないんだけどちょ、ちょっと気が遠くなってさ…だって、突然精霊の魂宿りし者とか言われても…よくわかんないし。色んな事がぐるぐると……」
レティシアはそう言った時だった。
――まぁ、なんてこと…
そんなことではこれから先が思いやられますよ…レティシア…
「!」
――自分の心を疑う様な、信じられないことが起こっている様だった。
私はそのまま気絶していて――気がついた時には、祭りも終わり町は静けさを取り戻している夜中だった。
夢の中で精霊の女神レティシアは言った。
“これからよろしくお願いしますね”と―――…
つづく