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【第一章】強敵現わる――!?† ep.0 初対面†

 ――男――

 ――……っ、一体、何だ……?


 男は少し起き上がり、自分が受けとめたそれに目を向けた――。

 あの一瞬にして強く印象付けられた宙を舞うが如く揺れ動いていた――澄んだ翡翠の様な緑石色をした何かと同じ色の長い髪の毛は、床に流れるように静かに横たわり沈黙を保っている。艶のあるその髪は細く――、またそれはよく見れば途中から少し巻き毛がかっている。

 受け止めた矢先に嗅いだ香りは、未だにその高貴さと誇り高い地位を誇示し、周りを漂わせ続けていた。髪の毛の間から僅かに覗かせる顔は、苦しさに歪められてはいるものの…美しい顔立ちをしている――。


 ――男に飛び込んで来たそれは、紛れもなく美しい少女の姿だった。


「……お、おい……お嬢ちゃん――大丈夫か……?」

 そう声をかけた瞬間、びくっとして少女の息遣いが止まった様に思えた。

 何か言いたそうに口が開かれたが、息切れがひどくて声にならない様子で、その口から漏れるのは繰り返される辛そうな激しい息遣いだけ。

 倒れ込んで一緒に添えられた手に、一度その身を起こそうと試みる様に力が込められた。

 しかし――、恐らく急いで走って来たのだろう…。すぐにそれは、少女を起こすことも叶わず、緩められた。

 この状況を、脳の一部が『第三者の冷静な目線』という課題を投げかける。

 男は少しだけ状態を起こしているものの、少女の脚と男の脚は元より絡み合う様に密着しており、そして自分の胸板の上では、まだ起き上がることの出来ない少女が悩ましく、その息を切らしている――という…誰もがこれを見れば在らぬ誤解でもかけてしまいそうな、如何わしげな構図が存在していた――。

 冷静に課題を解いた男はぎょっとして、苦しそうに呼吸を繰り返す少女をそっと持ち上げ身を離していき、少女を床に降ろしていたちょうどその時――。

「……痛っ」

 床に降ろした少女が苦痛の声を漏らし、蹲る様にその身を動かし右足首に手を添えている。少女の身は何とかかばい衝撃を和らげたと思っていたが、足が痛めたみたいだ。きつく閉じられた目には涙も浮かんでいる。

 やれやれ……どうやら足を挫いたようだ……

 大丈夫そう……ではないな。

 男はしばし少女の様子が落ち着くのを待つことにした――…。


 一方――。


 ――少女――。


 ……痛……足が……っ


 少女はあの時、階段を急いで駆け降りていた――。

 確かに誤って右足を踏み外し、勢いもついていたこともあってか足は激痛を訴えていた。

 それは自分を階段から突き落とすように倒れかけさせ、考える間もなく右足に再び負荷をかけ左足を踏み出すという反射的な行動。

 しかし、左足を他の段に着地させた後も勢いは止まらず、次に交互に踏み出す筈の足は――右足――。右足を踏み出すわけにはいかないという咄嗟の判断で、そのまま左足に力を込め飛ぶという手段を選んだ……というわけであった。

 飛んだ後の身の危険を考えなかったわけではない。

 段数にして12段位……。階段を転げ落ちるか、床に身を打ちつけられるか――……どちらにしてもタダでは済まない事はわかっていた。

 ただ、床に身を打ちつけられるかと思っていた私を、何者かが受け止めて救ったという事――これは、完全に予想外であった。

 二次災害は免れたとはいえ、床に降ろされる際に足が着いただけでも痛みに顔を歪ませてしまう程の足の痛み――。

 それを自分が下敷きにしてしまった“謎の男”が心配している。

 きつく閉じていた目を少しずつ開けて見たその男の風貌は、ここ、エンブレミア王国ではあまり見ることがない上空から深海を見下ろした様に深い藍の髪色と、髪より明るい色合いの青く澄みきった空の様な蒼の瞳――。その瞳はどこか不思議な魔力を秘めているかの様に、内に光を放つ様に澄んでいる。

 特徴的なのは、耳は長く先が尖っていること――それは、昔読んだ絵本のエルフの挿絵にそっくりだったので、おそらくエルフの一族であるのだろう。顔立ちは端整で男とは思えない程綺麗だ。

 どこの何者かは全くわからない。顔を見た事がない。

 但し、この者に対して気に入らない事ある。たったひとつだけ――。

 ……気に入らない。この私を……、


 ―――“お嬢ちゃん”――――


 と、そう呼んだ事……。ただ、それだけのこと。

 そう――。

 少女が最初に気に入らないと思ったのは、

 男が自分を子供扱いしたという事から始まったという――。


 つづく。

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