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【第三章】Tiara & Elffin†ep.0 いつもの二人†

 エンブレミア王国マールシェスタ城――。

 第二王子ミグ。

 第一王女レティシア。

 二人の行方がわからなくなってから、2時間が経過していた。

 外は、雷鳴の響く土砂降りの雨――。

 エンブレミア王国城下街――。

 そんなに遠くに行っている筈はないのだが、雨と暗闇により視界も悪く、二人の行方は全く気配さえ見つからずに時は過ぎていた。

 ――街の人々も、城の兵士達が総動員で街を走り回っているので、何か不穏な気配でもあるのかと警戒をして、そそくさと家に帰る者も多かった。


「…どこ行ったんだ……この雨ではさすがに空から見ても、何も見えないだろうな…」

と、リュシファーもこの天候ではお手上げ状態であった。


 そんな中――。

 エンブレミア王国城下街の街中を探しても見つからない二人の姿は、既にそこにはなかった―――。

 旅用の地味な枯葉色のフード付のマントで雨風を凌ぎながら、一人の旅人が雨風の中、魔法で稲妻を発生させて一匹の魔物を倒したようである。

「はぁ~…疲れた。雨の中ご苦労だなぁ…休めばいいのに。――こいつもそろそろ目覚ますだろうし、休憩するか……よし」

 その愚痴を溢した旅人――ミグは、地に結界印を描いた。そして、トンッと杖を突き立てた瞬間、その結界印がぼんやりと水色に光ったかと思うと、静かに消えて元の文字だけになった。

 結界印――魔物がいる外で休息をとる際に、魔物が踏み込めぬ様にしたい範囲をこの結果印を描き囲むと、聖なる力で守られた聖域を作ることが出来る。また、そのために描く魔方文字の羅列自体のことを指す言葉でもある。

 最後に、聖なる力で守りを得るための呪文を唱え、杖をトンッと突き立てれば、あっという間に安全な地の出来上がりだ。

「これでよし――。一応、目立たない森の入り口の木の下だし、そう簡単には見つからないだろうし、雨も少し凌げるだろう。…後は、テントだな」

 そう言って、異次元空間から丸い緑の小さな玉を取り出すと、結界を張った地に思いっきり叩きつけるように投げつけた。

 ボフッと雨雲の様な色の煙が、鼻と口を押えていないといけない程にその場に発ち上がり数秒で消え去ると、そこには緑色のテントが姿を現していた。

 テントのファスナーを開けると、自分の服の胸元のポケットからそっと女の子の人形の様な物を取り出すと、そこに静かに置いた。

 ミグはその横に座ると、深く被っていたフードつきのマントのフードを脱いだ。

 そこから現わしたミグの髪の毛は、レティシアの様に澄んだ翡翠の様な緑石色をしたいつもの色をしていない――。瞳の色もそれは同じである。

 髪の色は、淡いピンク色に変えられており、瞳は紫水晶の様な紫色――。髪型はいつもより少し長く、ゆるく巻いてある。勿論、それは変装のためであるが、レティシアと同じ顔立ちをしたミグのその風貌は、まさに――女の子そのものである。万全を期して男の姿ではバレると思い、そうしたのだった。

 先程取り出した女の子の人形の様な物――これは、ミグが魔法で小さくしたレティシアだった。眠っている様子で目を閉じたままのレティシアに向かって、ミグはそれを解く呪文を唱え出す。

「――その地より見えし(ことわり)小さき物…真の理の姿見えぬそこより…我と今ここに在るべき姿に力を解き放て……」

 その言葉が紡ぎ出された直後、レティシアの体の周りから青白い煙がぽんっと発生してテント内を立ち込め、何も見えなくなる。

「ごほっ…ごほっ…」

 ミグが咳払いをして袖で鼻と口を覆いながら、テントのファスナーを上げて煙を外に追いやるように手で扇いだ。

 煙はテントの入り口から少しずつ出て行き、視界が元に戻る頃にはレティシアの姿は元の大きさへと戻っていた。

「…ったく、煙いのが厄介だな~こういう魔法は。…まぁ、テント内じゃ仕方ないか…」

 そう文句を言いながらレティシアの横に横になったかと思うと、テント内にある毛布をレティシアと自分にかけ、少しだけ考え事をしていた。

 ――目、覚ましたら何て言おうかな……。とりあえず、怒られる事は覚悟してるだろ~?

 あんな落ち込む様な演技して俯いて、おまけに? 一応謝ってはおいたけど、こっそり呪文詠唱してタイミング見計らって、眠らせたーなんて……普通怒る。

 いや、それはまぁいいか。仕方なかったことだ――。


 それよりここはどこ? 私は何故ここに? なんて所から始まるか……。

 ――い、いやぁ~レティ。ちょーっと城抜け出してみたんだよー。あっはっは。

 …なーんて簡単に言えないよなぁ…。

 一番厄介なのが、何でこんなことしたんだ――? とか聞かれたら…何て説明しようかなぁ。衝撃的すぎるから少し黙ってようかなぁ……でもなぁ~…。

 ――俺も今思うとよくわかんないけど、リュシファーの言葉でちょっと思いついただけって言うか……なんていうか――、…つい……?

 …確実に怒るだろうなぁ。やっぱその前に事情話すしかないな。

 そしたら、俺がこうしたのもアイツも納得するよ。ははっ。

 ――あ、後先は考えてないけど、少し逃亡生活しようじゃないかっ。ははー…

 …ってことで。…そういえば、ほんとに後先は考えないで出てきちゃったわけだけど。

 ――ま、いっか。考えてても仕方ない。なるようになるってね。うん…そうだ。


 ……本当にお気楽なものである。

 短所でもあり長所でもあるのだが、調子に乗りやすくのん気でお気楽主義。後先を考えないこの性格は、――長所というか短所というべきか…としか言いようがない。

 とにかく――。

 そんな調子で思考を巡らせていたミグは、それでも時々ちゃっかり考える時もあり、追っ手の状況の整理――、自分たちが城を出た時刻――、追っ手が出始めただろう時刻――、追っ手の探し順――…これらを考えるとレティシアが目が覚めたら、早めに移動した方が良さそうだと割り出していた。

 レティシアが隣ですやすやと寝る中、地図を広げ少し頭を悩ませていたミグは、行き先の正しさを確かめていた。

 ミグが目指していたのはサユラナという街――。ルーセスト大陸の南東に位置するエンブレミア王国から、北西に来た大陸の上部に位置する割と大きな港街である。他の大陸からの人々も行き来し、観光なども盛んで人通りも多いため、変装でもしていれば簡単にバレる様なことはないとミグは考えていた。……よし、まぁなんとかなるか。

 そう思った時だった―――。

「ん―――……?」

と小さく呟いてぼんやりとレティシアが目を開けた。

「レ、レティ! 目覚ましたかっ?」

 レティシアは隣を見て、ぎくっと顔を硬直させていた――。

「っ………。ミ、ミ…グ……?」

 声を思い返して気付いたのかレティシアは、そう言ったかと思うと次に笑い出した。

「ぷっ…ミグ何だ、その格好は…っあははは。寝起きで笑わせるな…っ」

「――あぁ、これかっ。いや、変装しなきゃなんないからさ」

 ミグがそう言うと、レティシアはきょとんとして言った。

「へ?…何で??」

 そして、ミグが困った様に作り笑顔を作って目線だけ、テントを一回りさせてレティシアに気付かせようとすると、同じ様に目で辺りを見回したレティシアは、驚愕の表情の後、こう言った。

「う……、ぇ……えっ? …ま、まさか―――――」

 ようやく気付いた様子のレティシアに、ミグは頷いて言った。

「ん? ああ、そのまさかだ――。城抜けてみちゃったりして~。――ま、まぁ…色々と…」

 目を見開いたまま青ざめていくよう様なレティシアの表情は、予想通りだったがおそらくいつもの通り、現実逃避している様子だ。

「――悪夢でも何でもないぞ…言っておくけど」

「!」

 その一言に何とか現実に戻ってきた様子のレティシアは、次の瞬間、慌てて起き上がり、テントのファスナーを下げている。外をきょろきょろと見回して、現実をちゃんと理解したのかゆっくりと振り返って言った。



「………ミグ、あのさぁ………。ミグって―――馬鹿?」



 ――そう言ったレティシアの表情は、もはや怒りとか驚きを通り越して呆れ返った微笑みを、その顔に浮かべていた――。



「いーや…俺は大真面目だよ………、――レティ」



 ――ミグはその一方で、何も知らないレティシアにふっと少し微笑んでから、静かにそう言った。


 時刻は午後23時近く――。


 その後全て聞かせた盟約の話に

 勿論、納得しないレティシア――。

 しかし、追っ手に追われる自分達は

 少しカッコイイかもとのん気な事を言うミグ――。


 ――いつもの会話風景と同じに見えるが

 ひとつだけ違うのは………


 ここが、城ではないことだった―――。


 そして――。

 二人の行く先は、何故かとっても不安である………。


つづく。

ミグがレティシアが目を覚ますまでに考えていたことなど、ミグ目線で展開しています。こうして、第三章は始まっていきます。というプロローグ回でした。

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