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【第ニ章】†ep.4 ……ごめん。†

「レティっ、エミュ~連れて来たっ」

 そう――ノックもなしにドアが開かれたかと思うと、エミュ~は真っ直ぐにレティシアの元へ飛んで来た。


 ベッドの上のレティシアは、仮眠を取っていて寝ぼけて何か返事をしていたが、やって来たエミュ~が首元に来た瞬間に驚いて声をあげた。

「ん!? つ、冷たっ…!」

 そう言ってがばっと起き上がったレティシアは、エミュ~をびしょびしょに濡れたまま連れて来たミグに、文句のひとつでも言ってやろうと思って口を開く。


「こらー! ミ―――」

 ドアの方へと声を荒げていたレティシアは、途中で口を噤み、きょとんとして誰もいない自分の部屋を見回していた。

「――あ…れ……? ミグの声がしたと思っ…たんだけどなぁ。……変なの」


 何だかよくわからないといった様子で首を傾げたレティシアは、外が雨の音を鳴らしているのに気づいた。

 雨の日はエミュ~を部屋に連れて来て、ミグと交代で世話をしていた。

 今日は自分の日だという事と、屋上まで自分が行かなくても済んで丁度良かったという事を考え、レティシアはミグのことを忘れてエミュ~に簡易魔法かけて乾かす。

 エミュ~は一度感謝する様に『みゅ~』と鳴いて、布団の中に潜り込んでいった。

 部屋に突然レイモンドが来たりするとマズイので部屋に来た時は、夜中以外、布団に潜ったりどこかに隠れる様にエミュ~には言いつけてあったのだが、しっかり解っている様子で相変わらずかしこい猫(?)である。

 ふと時計に目を向けると、先程仮眠をとってから1時間ちょっとしか経っていない事に気づき、ため息を吐いて呟いた。

 まだ夕食まで2時間半もある時刻だったので、また寝ようかと思ったがもう眠りにつけない程、レティシアは目が覚めてしまっている。

 ――はぁ~、起きるか……。

 レティシアは仕方なくベッドから出る。

 窓の外はもうすっかり暗くなっており、雨が降っていた。時折、瞬時に空が白く光っては轟音を響かせる雷まで混ざったその大雨は、簡単に止みそうもない。

「また雨かぁ~」

 ぼーっとして窓に突如当たっては線となって流れ落ちて来る雨の模様を眺めている時、ふと、先程ミグに教わったフリシールの魔法の呪文が浮かんで来た。

 そのままレティシアは頭の中だけで復習する様に、静かに唱えていた。

 ちゃんと全部覚えていた事に安堵したその時だった――目の前を空気の膜がうっすらと横切っていく様に見え、レティシアの周りを渦を巻くように取り巻き始めた。

「!?」

 困惑する中でその渦はだんだん下へ降りていき、レティシアはそれに案内されるまま視線を下に向けていくと、ついに足元まで来た時に瞬時にまとまる様に集まり、自分の身体が宙に浮いていくのを感じる。

 バランスの取り方はもう把握していたので暴れはしなかったが、ふわりと確かに自分

が浮いている事に驚愕していた。

 い、いやぁ…フリシールっていう魔法は詠唱もなしに感覚で使える魔法なのだな…。

 ――そんなことあるのは簡易魔法くらいだ。

 リュシファーが私に何か変な魔法をかけて、魔力を増幅させたなんて事は……。

 ――それもないだろう。

 じゃあ変な物食べてちょっと身体がおかしいとか…。

 ――別に変な食べ物を城下で食べた覚えはない。


 自分の心の中で自問自答をしながら、レティシアは冷静にその考察を進めているつもりだったが、確実にそれは現実逃避したかっただけという事は、よくわかっていた。


「あ~どうしよ~。うーんどうしよ~っ。嘘だぁ~っ」

と浮いたまま左右に移動しながら、独りでしばらく騒いで焦りっていた。

 ――これはやはり嘘ではない。紛れもなく現実のことである。

 最後にそう、結論を出した時だった――。

 唐突にドアを開ける音がして、レティシアはぴたっと動きを止めた。

 その方向に向くと、ドアの前には予想通りのいつもの人物――ミグが立っている。

「ミグ~ッ。エミュ~がずぶ濡れだったじゃ――ない…か?」

 レティシアは途中で口を噤む様に、その異変に気付いた――。


 ――いつもの調子とは全然違う。声だけしか聞かなかったが、先程も元気な声でエミュ~を置いていった筈だ。そういえばエミュ~を届けに来た後、急いでどこかに行ったのかミグの姿はなかった。多分、それから15分程しか経っていないと思うが、その間に何かあったのだろうか…? しかも、髪や服も濡れたまま……。

「――レティ……」

 冷静な声でそう口を開いたミグは、何やら深刻な表情をして、顔を俯かせていた。

やはり何か様子がおかしいといったその様子に、レティシアは浮いた身体を移動させてミグの元へ向かう。

「――ミグ…? ど、どうした…? お前らしくないぞ…??」

 そう声をかけているにも拘らず、ミグはこちらを見ない。

 黙って俯いたまま、聞こえないが何かをささやくように小さく呟いている様にも見えたが、ごくっと息を呑んでやっと顔を見上げると、そのままミグはレティシアを抱きしめた。

「――? な…なんだどうしたっ――お、お前何か…あったのか…?」

 しかし、質問にミグは、全然答えてはくれなかった――。ただ、先程顔を見上げた時、落ち込んでいる様な辛そうな顔をしていて、小刻みに身体も震えていた。

「さ、寒いのか……?」

 ミグを横目でちらっと見るが、首を横に振るだけ。

 その時、冷たく濡れた髪が頬に当たり、風邪を引くと思い簡易魔法をかけてミグの髪や服を乾かしてみたが、ミグの反応はない。こんな深刻な表情で部屋に来る事がめったにないミグの頭を、ただ慰める様によしよしと撫でるしかなかった。

「…何があったかは知らないが、…お姉さんがよしよししてあげるから…元気だせ…」

 慰めるつもりがからかってまでみてしまう自分に、呆れ始めていたその時だった。

「――レティ………あのさ…」


「…ん?」

 ミグが口を開いた事にレティシアは、少し安堵して穏やかにそう聞き返した。

抱きしめられたミグの腕がより強く、ぎゅっとレティシアを抱きしめて、ミグの息を吸う音が、微かに耳元で聞こえた次の瞬間――。






「…………………………ごめん。」






 そう言って自分にもたれ掛かったレティシアを、ミグはその手に抱きかかえていた――。




 ――遠のいていく意識の中で、



 微かに覚えている………



 静かに紡がれたミグの言葉は――…





 ―――謝罪の言葉だった。






つづく。

今回は少し短いエピソードでした。

というわけで、次回お楽しみに。

多分、次回は【第二章最終回】です。

いよいよ第三章へ向かえます。

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